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2巻
2-1
第一章 迷宮都市
私、椎名沙良は四十八歳の時に異世界召喚され、十二歳の公爵令嬢であるリーシャの体で目覚めた。そして、その時近くに落ちていた手紙には、手違いで召喚されてしまったことや、そのお詫びとして、私が授かった能力が記されていた。
私が授かった能力は、ホームとアイテムボックスとマッピングと召喚。
それぞれの能力については、もらった手紙にこう書いてあった。
●ホーム(時空魔法)
・地球の椎名沙良様の自宅アパートを、異空間に創造しました。
・自宅アパートに自由に移転できます。
・家賃・水道光熱費は無料です。
・四階建てアパート十二部屋、全て使用可能です。
・異世界お試し期間として、部屋にある全ての食料やアイテムは、それぞ
れ三百六十五個まで増やすことができます。
・室内は可能な限り、原状回復済みです。
・ホーム内にないアイテムの追加登録が可能です。追加登録したものは、
使用したり食べたりすることができます。三〇三号室のみ、追加登録し
たものを、三百六十五個まで増やすことができます。
・10レベル上がるごとに、異空間の範囲が広がり、自由に使用できる場所
が追加できます。最大十か所。
●アイテムボックス(時空魔法)
・容量は無限です。
・入れたものの時間を停止させることができます。
●マッピング(時空魔法)
・地図を作成することができます。
・地図に表示されている範囲内であれば転移することができます。
●召喚(時空魔法)
・地球の人間を呼び出せます。
・召喚した人間は地球に送り返すことができません。
・10レベル上がるごとに、一人召喚できます。
・おまけとして、現在一人召喚可能です。
・召喚した人間には、異世界の能力をランダムに三つ与えます。
私は居心地の悪い公爵家を早々に出て行き、サラとして生きていくことを決意した。
最初は一人で心細かったけど、召喚で私の兄の賢也をこの世界に呼び出し、さらに幼馴染の旭尚人とひょんなことからダンジョンで再会して、今は二人と一緒に冒険者として活動している。
マイペースに冒険者をしながら、色んな町で暮らして、人助けをする生活は結構充実している。
ここ数年はリースナーという町にいたのだけど、もう貧しい子供たちは大体助けたし、ダンジョンも攻略してしまった。
だから私たちは、次は大きなダンジョンがあるという迷宮都市に向かうことにして、お世話になった、リースナーの町を出たのだった。
◇ ◇ ◇
迷宮都市に向かう前に、最初に私が暮らしていたミリオネの町を訪れ、それから二週間かけて、ようやくリザルト公爵領内にある迷宮都市へ到着した。
道中で聞いたところによると、迷宮都市は自治的に町を運営しているらしく、ここで一番の権力者は冒険者ギルドのギルドマスターだ。
迷宮都市内を歩いていると冒険者が非常に多い。
この町のダンジョンは階層が深く、入るのにはC級冒険者の資格が必要だ。
経験豊富で冒険者歴が長い人が多いだろうから、ダンジョンで活動する冒険者は恐らくみんな年上だろう。
旭は立派な革鎧を着ているけど、私と兄はリースナーの町の防具屋で二番目に安かったリザードマンの革鎧のままだった。そのせいか、道行く冒険者たちに怪訝な表情で見られてしまう。
防具を変えないと浮きそうなので、まずは防具屋に向かおう。
マッピングで店内を確認したあと、高級そうな店を除外して、中くらいのランクの店へ行ってみることにした。
ちなみに、マッピングはただの地図ではなく、室内の詳細や移動している人の様子まで見ることができる優れもの。
町の中を少し歩き、お目当ての店に着いた。店内はリースナーの防具屋より広くて、種類も豊富だけど、どうせ私のサイズはないから注文になるだろう。
この世界に来てから数年が経つけど、何故か十二歳からリーシャの背や顔が全く成長しないのよね。兄はしっかり経過した年数分、見た目も歳を取っているのに……
わからないことを考えても仕方がないので、気を取り直してそれぞれ革鎧を見ていくと……
あ、ありましたよっ! ワイバーンの革鎧、金貨五枚。
この世界において、銀貨は日本円で約一万円、金貨は百万円くらいの価値だ。
ミリオネの町でワイバーンの革鎧を見た時は、五百万円もする防具を一体誰が着るんだと思っていたけど、リースナーのダンジョンで魔物を狩りまくったおかげで、お金は沢山ある。
これは私が着るわ!
店主に注文を頼むと、「金はあるのか」と聞かれ、金貨を数十枚出して見せた。
失礼な! 小さいからって子供じゃないのよ! 胸だってCカップに育ったんだから!!
旭も兄も同じワイバーンの革鎧を購入し、店内でさっさと着替えている。
私の分は金貨四枚と銀貨五十枚でいいと言われたよ。
完成までは一週間ほど掛かるらしく、料金を先払いして店を出た。私も早く着てみたい!
迷宮都市のダンジョンは地下三十階層まであり、最深攻略組が地下十八階にいると、道中の馬車で聞いていた。ここも便利な転移陣などはなく、地道に階層を下がる必要があるため、クランが乱立しているようだ。
クランは沢山のパーティーが集まってできた冒険者集団で、立場が下の者たちが、バケツリレーの要領で、ダンジョンに潜っているチームに物資が入ったマジックバッグを配送する。
この町の大きなクランの人数は、百名を超えるとか……クランリーダーは大変だ。
情報を収集しようと冒険者ギルドへ向かい、リースナーの町より大きい建物に驚く。
中へ入ると年若い私たちに視線が集まったけど、無視して二階の資料室へ進む。
常設依頼の内容を確認したところ、地下四階まではリースナーのダンジョンと変わらず、地下五階から迷宮都市のダンジョン特有の魔物が出るみたいだ。
地下五階の常設依頼を持っていた紙に書き写す。
ダンジョンの入場料は銀貨一枚で、ギルドからダンジョン前までの往復馬車は二十四時間営業だった。
必要な情報を確認し終えて一階へ下り、張り紙が壁に貼ってあるのを見つける。
【活動拠点地下十階・募集二名】
現在、剣士(男二名)・槍士(男)・盾士(男)の四人パ
ーティー
追加で槍士(男)・魔法使い(男女OK)募集中
連絡はリーダー、ゴルゴまで
【活動拠点地下十五階・募集一名】
現在、剣士(女二名)・槍士(女)・盾士(女)・魔法使い(女)の五人パ
ーティー
追加で槍士(女)募集中
連絡はリーダー、マルサまで
【活動拠点地下十八階・募集一名】
現在、剣士(男二名)・槍士(男二名)・盾士(男)・魔法使い(女)の六
人パーティー
追加で治癒術師(男女OK)募集中
連絡はリーダー、アマンダまで
へぇ~、パーティー募集の張り紙は初めて見たよ。
話を聞こうと、ギルド内にいる六人組の女性に声を掛ける。
「あのすみません。ちょっとお聞きしたいことがあるので、お時間いただけますか?」
「なんだい? 見ない顔だね、ここに来たばかりかい?」
「はい。今日、迷宮都市に着きました」
「いいよ、何が聞きたいんだ?」
「ありがとうございます。じゃあ、こちらに座って話を聞かせてください」
私は店内にある飲食スペースへ女性たちを促すと、好きな飲み物を選んでもらい、この迷宮都市のダンジョンの情報を聞き出した。
リースナーのダンジョンでは、横暴な男性冒険者が魔物を狩り尽くしてしまうということがあったが、このダンジョンではそんな人はいないらしい。
さらに女性が多く活躍していて、ダンジョンで活動しているパーティーは六名が多いんだとか。
あと、もしダンジョン内で怪我人に遭遇して治療する場合、無料で行う人はおらず、治療代は使用するポーションの数倍のダンジョン価格で払う必要があるそうだ。これはリースナーのダンジョンと同じだね。パーティーメンバーの募集は、治癒術師が一番人気で収入の割合も違うみたい。
ダンジョン攻略は泊まりが前提で、日帰りで潜る冒険者はいないとのこと。
ほぼ全ての冒険者がクランで協力して攻略しており、どこにも属していないと肩身の狭い思いをするんだとか……
私たちは誰も武器を持っていないから、魔法使い三人と思われ、パーティーを組んでもらうのは難しいと言われた。パーティーを組むと、私たちが他の世界から来たことがバレる恐れがあるので、むしろ誰も組みたがらないと言われたほうが安心する。
リースナーのダンジョンは兄と二人で攻略して問題なかったし、旭が増えた今、迷宮都市のダンジョンでも無双できるだろう。
なんといっても兄と旭は光魔法を使える。治療ができる人間が二人いるのだから、安全は確保されたも同然だ。その前に魔法で遠距離から先制攻撃をするから、怪我を負うことはなさそうだけどね。
兄たちがライトボールを眉間に一発撃てば、全ての魔物は瞬殺できる。
この方法だと皮に傷がつかないから、リースナーの解体場のサムおじさんは、通常の値段より高く買い取ってくれた。この町でもそうだといいなぁ~。
時間的に夕方近くだったから、話を聞き終わったあと、「これで夕食でも」と銀貨二枚をそっと女性たちに渡す。
お礼を言って席を立ち、ギルドを出ると、ホームを使って自宅アパートに帰ってきた。
「明日ダンジョンへ入って活動時間を決めよう。人が多い時間帯だと討伐できる数も減るしな。まずは、地下五階まで一気に行こう」
兄は、迷宮都市のダンジョン特有の魔物がいる地下五階から、本格的に攻略するつもりらしい。
私もそれには賛成だ。
「了解。明日、五階までの地図をギルドで購入してから、ダンジョンに向かおう」
二人からの夕食のリクエストはお寿司だったので、アイテムボックスから取り出し、ちょっと贅沢に蛤のお吸い物も作って、美味しくいただいた。
あさりやしじみと違い、この上品な味は蛤じゃないと出ないんだよね~。
◇ ◇ ◇
翌日。ギルドでダンジョンの地図を購入したあと、マジックバッグを買いに魔道具屋へ寄る。
おおっ! 流石迷宮都市、種類が多い。
私は迷わず、容量が多く、使用者登録できるマジックバッグを二個購入したけど、かなり高額でなかなか痛い出費だ。
旭も同じものを購入して、高額商品が三個も売れたからか、店主がマジック寝袋を三つサービスでくれた。マジック寝袋は普通の寝袋より、かなり保温性が高い魔道具らしい。
うん、ダミー用に持っておこう。
準備ができたので、冒険者ギルドの前から乗合馬車に乗り、三十分でダンジョン前へ到着した。
入場料を支払って中に入ると、リースナーのダンジョン同様、中は迷路になっている。
私たちは昨日立てた作戦通り、一気に地下一階から地下五階まで駆け抜ける。
あっ、宝箱があるか、確認し忘れた!
宝箱のことは残念だけど、無事に地下五階に到着することができた。
安全地帯でマジックテントを設置するため、周囲を見渡すが、テントの数が多くて迷う。
三十個くらい? 密集している。
今回も、リースナーにいた時みたいに、月曜日から金曜日までの五日間はダンジョンに潜って、土曜日と日曜日の二日間は町で過ごすというルーティンで活動するつもりだ。
今日は日曜日なので、五日潜ると木曜日になるけど、そしたら三日間お休みして、また月曜日からダンジョンに潜ればいいだろう。
ホームで自宅アパートに戻るところを誰かに見られたらまずいので、テントを張って、そこに入ってから移動したいんだけど……
しばらく安全地帯を歩く間に、無事テントを張ることができたので、自宅へ戻り、ギルドで書き写した紙を見る。この階層で出てくる初めての魔物を確認してから、安全地帯を出た。
地下五階で、私たちが初めて出会う魔物は、アルマジロと迷宮ドッグの二種類だけ。
安全地帯を出て、しばらくダンジョン内を散策すると、初のアルマジロを発見!
アルマジロは体長三メートルで、兄が光魔法を眉間に一発放って瞬殺した。
いやもう、硬さとか関係ない感じ。
そのあと迷宮ドッグ(迷宮キャットもいるんだろうか?)も出てきて、私が魔法で瞬殺。
この二種類の魔物以外にも、リースナーのダンジョンにいたハイオークやファングボアなんかも出てきた。
自宅から持ち出した腕時計を確認して、三時間ごとに少し休憩し、夕方六時に自宅へ戻る。
旭と兄に感想を聞いてみたところ、早く次へ行きたいそうなので、五日間の探索が終わったら、階層を移動することにした。
◇ ◇ ◇
五日後。ダンジョンから町に戻り、冒険者ギルドへ換金に行く。
素材の状態がいいからと、ハイオークとアルマジロの素材は、通常よりも高値で買い取ってもらえた。兄と旭の光魔物で倒すと、傷がほとんどつかないんだよね。
リースナーのサムおじさん同様、また解体場のおじさんと仲良くなれそうだ。
またこの町でも、ファングボア一匹は換金せず引き取りたいと、解体場のおじさんに伝えたら、枝肉にした状態で渡してもらえた。
このファングボアの肉は教会に持って行き、貧しい子供たちへの炊き出しに使う予定だ。
そういえば、今回のダンジョン探索では、怪我人がおらず治療する機会はなかった。
ここの冒険者たちはレベルも高いから、低い階層では怪我人が出ないのかもしれない。
それとも、かなり効果が高い回復薬のエクスポーションを皆常備しているのかな?
用事が終わったので、ギルドを出る。
今日は教会や町の子供たちの様子を確認して、金曜日は三人で迷宮都市を観光するつもりだ。
しばらく町を歩いてみると、路上生活をしている子供たちの姿を沢山見かける。
冒険者が多い町なので治療院は十軒くらいあり、露店の数も多かった。
迷宮都市の近くには森がないせいか、リースナーで売っていた角ウサギの串焼きが、ここにはなかった。代わりにファングボアの串焼き一本が鉄貨五枚、オークの串焼き一本が銅貨一枚で売られていた。ちなみに鉄貨は日本円で百円、銅貨は千円くらい。
リースナーの町に比べると値段が高く、これは迷宮都市価格のような気がする。
オークの串焼きを一本購入し、食べてみよう。
おやっ? ジューシーで美味しいお肉だ! 臭みもない。
オークは日本の豚肉の味に似ていたから、ハイオークの味はもっと期待できそう。
迷宮都市はC級かB級の冒険者ばかりだから、多少強気の値段でも売れるのかしら?
B級冒険者ともなれば月収はかなり多いだろう。
でもパーティーメンバーで換金したお金を分配して、ポーションや水、食料も必要と考えると、そんなに残らないのかもしれないな。
私たちはホームがあるから、必要経費がほぼゼロだけどね~。
買うのはアイテムボックスの能力を隠すために購入する、マジックバッグくらいかな?
武器も使用しないし、防具も傷が付かない限り新しくする必要がない。
しばらく散策して町の様子は大体わかったので、次は教会へ炊き出しの状況を調べに行こう。
教会に到着し、シスターに炊き出しの量は足りているか確認する。
炊き出しは早い物勝ちで、朝早くから多くの人が並んで待っているようだ。
週一回行われていて、子供たちの人数は百六十人ほどらしい。
次回の炊き出しは日曜日の朝九時と聞き、子供たちには私が作ってもいいかと尋ねたら、「助かります」とお礼を言われた。
ファングボアを一匹持参したら部位別に解体してもらえるかを確認し、炊き出し用の食事を作る場所の確保もできた。さらに「子供たちの列は別にしてください」とお願いする。
教会を出たあと魔道具屋、乾物屋、服屋で必要なものを揃えた。
この町でも、糖分補給用のドライアプリコットを子供たちに渡そうと思ったのだけど、ドライアプリコットを入れ替える用の巾着が、お店にある分では足りなかったので追加で依頼しておく。
そのあと露店に行き、野菜とパンを購入した。う~ん、これじゃ少し量が足りないかな?
野菜屋のおじさんとパン屋のおばさんに、「明日朝九時に行くから、多めに用意しておいてくれませんか?」と言って、代金を先払いした。毎週土曜日、朝九時に購入することもあわせて伝える。
「そんなに沢山買って、店でも開くのかい?」
野菜屋のおじさんに、首を傾げながら聞かれた。
教会の炊き出し分だと話すと、「それじゃあちょっと安くするよ」と気前よく言ってくれる。
よし、準備完了だ!
◇ ◇ ◇
翌日。朝九時に野菜とパンを購入したあと、防具屋へ行き、ワイバーンの革鎧を受け取り、すぐにホームで自宅へ戻る。
私が炊き出し用の野菜のカットをしている間、兄と旭にはドライアプリコットを巾着に詰める作業をお願いした。
百六十人は流石に多い! 給食のおばちゃんになったみたいだ。
◇ ◇ ◇
日曜日、朝七時。
教会へ三人で向かうと、既に列に並んで、炊き出しを待っている人たちがいた。
怪我をした大人の冒険者も多い。
子供たちはお願いした通り、少し離れた場所に並んで待っていた。
教会へファングボア一匹を渡し、部位ごとに切ってもらう。
そのあと簡易テーブルを二つ出して料理の準備を始め、待っている子供たちへ、兄と旭がドライアプリコット入りの巾着を配る。
巾着を配り終えた兄に、もう一つの業務用寸胴鍋を任せ、灰汁取りをしてもらった。
兄が作ったほうのスープの味見をして、少し塩を追加する。
料理開始から一時間ほどでスープが出来上がった。
具沢山のスープを私と兄が次々によそって手渡している間、パン係の旭は子供の人数が多いので大変そうだ。これは人手が足りないなぁ。
リースナーではダンジョンで治療した女性冒険者に、炊き出しを手伝ってくれないかと呼び掛け、人員を確保していた。
お手伝いさん確保のため、二人には冒険者の治療を頑張ってもらわないと。
スープを渡す時に、子供たちに「いつも何時から並んでいるの?」と尋ねると、朝六時頃だそうだ。食べられるかどうかわからない食事を、三時間も待つのか……
小さな子供が冬の寒空の下で三時間も待っている姿を想像し、胸が痛む。
リースナーよりさらに状況が悪そうだ。
「来週の日曜日は九時に並べばいいよ」と子供たちに伝え、渡した巾着も忘れずに持ってくるようお願いした。
具沢山スープは好評で、座って食べている子供が大きな肉の塊を見つけて興奮している。
いつも炊き出しで出てくるスープは、こんなに沢山の野菜や肉が入っていないんだろう。
痩せて元気がなかった子供たちに笑顔が浮かび、今日は食べられない子供は誰一人いない。
旭が渡したパン二個のうち一個を、大事そうに両手で持ち帰ろうとしている子がいる。
その時、大人用の炊き出しの列に並んでいた男性がこちらへ近付いてくるのが見えた。
「おい、お前! それを俺にくれ!」
「申し訳ありません。こちらは教会とは別に、私の自費で作った子供用の食事となりますので、お渡しできないんです。教会の炊き出しのほうへ並んでください」
「そんなの知るか! 寄越せ!」
男性は私の手を掴もうとしたけど、兄と旭が背に庇ってくれた。
「うちの妹に何か文句でも? 相手なら俺がするよ」
そう言って、兄がファイアーボールを男性の足元に撃つ。おおっ、好戦的な態度だな。
「ちっ、覚えてろよ!!」
「何をでしょうか?」
捨て台詞を吐く男性へ、いつか言ってみたいと思っていた言葉を反射的に答える。
すると、男性は私を睨みつけて無言で去っていった。
「沙良ちゃん。あんな言葉に言い返す必要はないんだよ?」
「知ってるけど、ちゃんと答えてくれるかもしれないでしょ~」
旭に言われて、そう返答する。
「いや、ないから」
兄がやれやれと首を振っていた。
「それよりお兄ちゃん、ありがとう。ちょっと格好よかったよ!」
「ちょっとかよ!」
私たちのやり取りを聞き、男性の大声に怯えていた子供が笑い出す。
「お兄ちゃんたち、凄く格好よかったよ~」
「おっ、そうか?」
子供が持ち上げるのを、兄は満更でもない顔で聞いている。旭は隣で苦笑しているけど……
まっ、一人でも大人に配ると、じゃあ自分も、となるから渡すわけにはいかないし、何事も最初が肝心だ。
兄がファイアーボールを撃った地面が焦げちゃったから、あとで掘り返して証拠隠滅しておこう。
こうして迷宮都市で初の炊き出しは、無事完了したのだった。
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