自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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2巻

2-3

 木曜日、営業二日目。
 本日からは値段を変更して鉄貨七枚で販売するので、看板の金額を書き換える。
 営業終了後の集計は六十五名。


 土曜日、営業四日目。
 お客の入り具合を見ながら追加分を作ってもらい、営業終了後の集計は百一名。
 今後は百人分が売り切れたら営業は終了しよう。
 百人分の売上があれば、給料を払っても利益が確保できる。
 材料の乾麺、すき焼きのタレ、玉ねぎの経費を引いても十分な利益だ。
 私たちは冒険者なので、ファングボア肉と調理に使用する加熱用の魔石が無料なのが大きい。
 ダンジョンへ行けば苦労することなく入手可能だからね。


 日曜日、母親たちと一緒に炊き出しを行う。
 人数が増えたので、スムーズな受け渡しができる。
 彼女たちの子供は家で留守番だ。ドライアプリコットの詰め替え作業は子供たちの仕事として、昨日やっておいてもらった。
 炊き出しのあと、母親たちと一緒に露店に向かう。
 野菜屋のおじさんに配送してもらう玉ねぎの量を増やすことを伝え、肉屋のおじさんに母親たちの顔を見せて覚えてもらった。
 来週から、お店は母親たちだけで営業する。
 もしかしたら、お店で素敵な出会いがあるかもしれないよ?
 冒険者の夫が亡くなって頼るあてもなく、十分に稼げずに路上生活を余儀よぎなくされ、大変な苦労をしてきたと思う。しかも小さな子供を育てながらだ。
 何も食べさせられなかった日は、母親として胸が痛んだだろう。
 同じ境遇の心強い仲間がいるので、少しは安心できたかな?
 一緒の家に住むことで家事の分担も減るし、食事も一気に作れば節約できると思う。
 食べにきてくれるお客を見れば、やる気に繋がる。
 今までとは違う忙しい日々になるけど、働き甲斐がいはあるはず。
 あとは母親たちの頑張り次第。
 どうか子供たちのためにも、店を盛り上げてほしい。
 迷宮都市での初支援、これで第一歩は踏み出せた。




 第二章 不思議な植物の噂


 月曜日。ダンジョン地下八階の地図を購入して常設依頼を確認したら、地下八階まで駆け抜ける。
 この階は私の苦手なアンデッド系の魔物が沢山出てくる。
 でも光魔法が使える兄と旭が無双するので、私はただの回収係だ。
 アンデッド系の魔物は光魔法に弱いからね。
 倒した魔物からドロップした魔石と鎧と杖とマントを収納するだけの簡単な作業だから、散歩しているのと変わらない。楽でいいな~。


 五日後、冒険者ギルドで換金する。
 解体場のおじさんに、今後はファングボアの肉を五匹分引き取ると伝え、その分の値段は差し引いて換金してもらった。
 そのあとで肉屋にファングボアを三匹卸してから、肉うどん店に寄って状況を確認する。
 毎日百食売り切れており、問題はないそうだ。
 冒険者のリピーターが多いらしいので、常連になってくれるのを期待しよう。
 今は午後三時頃、もう営業を終了するみたいだ。
 子供たちも店の二階にいるから、母親たちも安心して働けると嬉しそう。
 肉うどんの準備は玉ねぎとお肉を切るだけなので、炊き出しのスープを作るより簡単でいいと彼女たちは笑っていた。
 五人の母親たちは境遇が同じせいか、とても仲がよく、住む家と職場があるおかげで、最初のように沈鬱ちんうつな表情をしなくなった。
 さらに彼女たちの生活をよくするために、半年くらい経ったら給料を上げようと思う。
 ファイアースライムの魔石を追加で大量に渡し、仕事以外でお湯を沸かすのを躊躇ちゅうちょしないようにする。飲食店の従業員として、体を拭くだけではなく、毎日お湯に入って清潔さを保ってほしい。
 お湯に入ることで血行がよくなり、風邪を引きにくくなる。
 一日中立ち仕事をしているから、足も浮腫むくんでいるはず。
 そうだ、あとで足湯の入り方も教えておこう!
 アロマオイルがあればリラックス効果も望めるけど……
 マッサージの方法も教えてあげなくちゃ! お店の大切な従業員だ。
 一人で子育てをしながら散々苦労してきたのだから、できる限り援助したい。
 兄と旭はこういったことにはうといと思う。私が母親たちのケアをしないとね。
 私たちは冒険者なので、ファイアースライムの魔石はいくらでもタダで調達できる。
「経費は掛からないから安心してね」と伝えたら、母親たちは納得しながら、「こんなにお湯が自由に使えるなんて」と驚いて、目をみはっていた。
 うんうん、毎日お風呂に入って、疲れた体をいやしてください。
 土曜日に行っていたパン、野菜、ドライアプリコットの買い出しは、旭が持っていたマジックバッグを渡して、母親たちにお願いすることにした。
 これで私たちは土曜日が完全に休日となったから、兄たちが金曜日に飲みすぎても大丈夫だろう。


 日曜日。炊き出しは人数が増えたので順調だし、子供たちも美味しそうに食べてくれる。
 朝早く並ばずとも、必ず自分たちの分が用意されていると知って安心しているみたいだ。
 でも現状でできるのは、一週間のうちのたった一食分に過ぎない。
 いつかミリオネやリースナー同様、町の人々が自主的に子供たちに支援をするようになって、毎日食事ができるといいな。
 そのためにはダンジョンで治療をして、そのお礼として支援を頼むのがいいんだけど……ここの冒険者はベテランしかいないから、怪我人がなかなか見つからないんだよね~。
 もう少し深い階層じゃないと、治療する機会はないかもしれないな。


         ◇  ◇  ◇


 月曜日。ダンジョン地下九階の地図を購入し、常設依頼を確認したら、地下九階まで駆け抜ける。
 今度の新しい魔物は、イエロータートルとピンクタートルだ。
 赤・青・緑・黄・桃……だんだんカラフルになってきた。
 記念に一匹ずつ、換金せずアイテムボックスに収納しておこう。
 五匹揃った状態で見せたら、子供たちが喜ぶかもしれない。
 安全地帯はこの階層も混雑している。
 そして今回も怪我人がおらず、治療する機会はなかった。


 五日後、冒険者ギルドで換金する。
 兄たちは明日休日なので、「今夜は遅くまで飲むぞ」と言いながら二人で出掛けた。


 翌日の朝十時。忙しい日々が続いたので、久しぶりにホーム内でゆっくりしよう。
 兄の部屋へ行って寝ているところを起こすと、二日酔いではなさそうだ。
 旭はもう起きていて、リビングで紅茶を飲みながらTVを見ている。
 しばらくしてから兄が起きてきて、旭と仲良く話し始めた。
 兄も親友と一緒にいられて楽しそうだし、本当に旭が仲間になってくれてよかったと思う。
 二人に今日はスーパー銭湯せんとうへ行きたいと言うと、OKしてもらえた。
 駐車場のSUVに乗り、兄の運転でスーパー銭湯へ向かう。
 私も運転免許が欲しいなぁ。自転車だと、あまり遠くまでいけないんだよね~。
 前に一度、ホーム内で兄が車の運転を教えてくれたけど、お前には無理だと言われてしまった。
 銭湯に到着し、岩盤浴がんばんよくとセットのコースを電子メニューから選択してお金を支払うと、ロッカーの鍵と岩盤浴用の服、タオルがカウンターに出現した。
 私は女湯と書かれたほうへ入る。
 おおっ! わかっていたけど、誰もいない大浴場を独り占めだ。
 贅沢な気分で炭酸風呂たんさんぶろに浸かり、次は露天風呂へ移動する。
 もう温泉旅館に行かなくても、これで十分か。
 のぼせる前にお風呂から上がり、今度は岩盤浴のほうへ行く。
 あ~、気持ちいい。
 体が温まって汗をかいたら、休憩所に移動し、設置された漫画を読みながらのクールタイム。
 旭と兄も漫画を読みながらすずんでいた。置いてある漫画は、量も種類も豊富だ。
 しばらく休憩したらお腹が空いたので、次は店内にある飲食店で昼食にしよう!
 プールもそうだけど、水の中に入ると何故かお腹が空くんだよね~。
 私は花籠御膳はなかごごぜん、兄は豚カツ定食、旭は刺身定食を注文した。
 テーブルの上に現れた料理を食べながら、旭に私たちにこの世界で出会ってからのことを聞いてみる。

「あ~、もう最高! 一人でダンジョン生活してた頃は生きる気力もなかったし、このままずっと同じ生活が続くなら死ぬのも悪くないと思ってた。異世界の人間に接触しても、ダンジョンから出られないと友達も作れないしね。食事も必要ないから楽しみが全くない。沙良ちゃんが召喚してくれて本当によかったよ。賢也にも会えたし!」
「そう言ってもらえると嬉しい。一緒に冒険者パーティーを組んで、炊き出しも付き合ってくれてありがとね」
「今は楽しんで冒険者や炊き出をしているよ。しかも日本と変わらない生活を送れるなんて夢みたい。沙良ちゃんの料理は美味しいし、ビールも飲めるし、言うことなし!」
「よかった~。今は幸せそうだね」

 私は、嬉しそうな旭に微笑みながら言う。
 なごやかに食事を楽しんで、もう一度お風呂に入り、体を洗ったあと、自宅のアパートに戻った。
 三人仲良くTVで放送していた映画を見ながら、ポップコーン片手にビール(私はジュース)を飲む。
 ホラーだったのが非常に残念で仕方ない。
 怖すぎる! 夢に出そうだよ……
 日本のホラー映画は、海外より心理的に恐ろしいものが多い。
 今は兄たちが同じアパートの別の部屋に住んでいるから心強い。一人だと思ったら眠れないところだったわ。
 今度レンタルビデオ屋でアクション映画を借りてこよう。


 翌日は炊き出しを行い、時間通り順調に配り終えた。
 器を返却する際、子供たちが「美味しかったよ! また来週ね~」と言いながら、残ったパンを大事そうに持ち帰っている。
 その姿を見ると、リースナーの子供たちにしたのと同じように、家を買って、安心できる暮らしをさせてあげたいと思う。


         ◇  ◇  ◇


 月曜日。ダンジョン地下十階の地図を購入し、常設依頼を確認したら、地下十階まで駆け抜ける。
 ここから下の階層は初めて見る魔物ばかりだ。
 アルラウネは女性の姿をした、植物のような魔物だった。
 アラクネは上半身が女性で、下半身が蜘蛛くもの姿をした魔物。
 それぞれ私が瞬殺し、魔石取りは兄と旭にお願いする。
 ワイルドウルフは大きなおおかみの魔物で、兄が倒した。
 シルバーウルフはワイルドウルフと似ているけど、毛の色が銀色でワイルドウルフよりも強い。こちらは旭が瞬殺。
 ナイトメアは向こう側が透けている騎士きし幽霊ゆうれいみたいな魔物で、男性体と女性体がいるみたいだけど、この階層では男性体だけが出てくる。この魔物は兄が光魔法のホーリーで倒す。
 そして安全地帯へ向かう途中、ついに怪我人を発見!
 女性が腕をシルバーウルフに噛まれたようで、かなり怪我がひどい。
 側にいた男性メンバーの表情は硬く、治療が難しい様子が見てとれた。
 旭が助けはいるか確認すると、怪我をした女性は首を横に振る。
 エクスポーションじゃ無理そうな怪我だけど、大丈夫なの?
 心配した兄がエリクサー相当の治療ができると言ったら、女性は治療してほしいと頷いた。
 治療は旭が担当する。
 棒を女性の口へ噛ませて肩をしばって止血し、ウォーターボールで傷を執拗しつように洗い流してから、治療する。
 無事に女性の怪我は治り、安全地帯のテントへ来てほしいと言われて、私たちはあとに続く。
 安全地帯のテントに到着し、治癒したお礼として、ダンジョン価格の金貨をありがたく受け取ると、女性が自己紹介を始めたので、お互い名乗り合う。

「治療してくれてありがとう。私はアマンダだ。このパーティーのリーダーをしている」

 この世界の女性は皆、背が高いけどその例に漏れず、アマンダさんも大柄な女性だった。
 異世界の女性には珍しく、髪はショートカットで中性的な雰囲気によく似合っている。
 吸い込まれそうな青い目が印象的で素敵な人だなぁ。
 女性がリーダーで残りのメンバー五人が全員男性という構成は初めて見た。

「私はサラです。三人パーティーです」
「三人でダンジョン攻略とは恐れ入ったね。あんたたち、武器を持っていないようだけど全員魔法使いなのかい?」
「はい、特に問題ありませんので」
「まあ、高度な光魔法を使える者がいれば、大丈夫なんだろう。うちも前までいたんだけど、結婚して旦那と王都に行っちまってさ。治癒術師募集中なんだよ。地下十八階を攻略中だったけど、今は追加メンバーが入るまでここを拠点にしているんだ。顔が利くから、何かあったら相談しに来な」
「はい、よろしくお願いします」

 私はアマンダさんの目を見ながら答える。地下十八階を攻略していたなら、最深攻略組だ。
 そういえば冒険者ギルドのパーティーメンバーの募集に、アマンダさんの名前を見たような?
 地下十階以降を攻略する場合、治癒術師がいないと難しいのかも。
 私は兄と旭がいるから特に問題ないけど。
 そもそもレベルが上がって、体が丈夫になった気がするんだよね~。
 ミリオネで肉の配送をしていた時なんか、一つの依頼をするごとに休憩が必要だったのに……
 この世界に私たちを召喚した人のおかげか、普通の人よりも体力もあるし、魔法の威力も高い気がする。
 この階層は強い魔物がいるから、レベル上げができそうだ。
 知り合いもできたし、三か月間ほどここを拠点にしよう。

「そうだ。今後も、もし怪我をした時は私たちが治療するので、路上生活をしている子供たちへパンや串焼きをあげていただけませんか?」

 テントの外へ出てる時に、私はアマンダさんにそう伝える。
 ダンジョンで治療を受けられるならと、アマンダさんは必ず支援すると約束をしてくれた。
 私たちは安全地帯にマジックテントを設置し、自宅で休憩後、テントから出る。
 そのあと、何人か怪我人が出たので旭が治療したんだけど、その中の一人の男性からお金を受け取り忘れ、好意があると勘違いされてしまったらしい。
 怖い思いをしたのか、旭は兄に抱き付いて震えていたよ。
 身長百七十五センチメートルの旭は、この世界では背が低いほうだし顔も童顔で可愛らしいから、男性に人気なんだと思う。
 怪我を治療した時、何人かにパーティーメンバーへ誘われたそうだけど、全て断ったらしい。
 そのうち、美人局つつもたせでもされないかしら?
 治療した人たちにも、アマンダさんと同じように伝えたところ、皆、支援をすると約束してくれた。


 月曜日から木曜日までの四日間、たまにアマンダさんのパーティーと食事をして、肉うどん店の紹介も忘れずしておいた。美味しいから食べにきてくださいね~。
 そして、食事中に仲良くなったアマンダさんから、とても興味深い話を聞いた。
 ここカルドサリ王国おうこくには、ギーブという名前の不思議な植物が存在しているらしい。
 それは生き物のようで、音に反応して地面から顔を出し、気に入った音楽を聞かせると黄金の実をつけるそうだ。丸い体から双葉ふたばが生えていて、二足歩行するんだって!
 その実を食べると寿命じゅみょうびると言われていて、貴族に人気だとか……
 この情報は一般的には知られておらず、旭が治療をしたから特別に話してくれたようだ。
 魔力草まりょくそうが生えている場所で見つかることがあると教えてもらう。
 ミリオネの近くの森で魔力草を沢山採取したけど、あの辺りにいたのかな。
 子供たちへの支援やダンジョンでのレベル上げがあるので今すぐには難しいけど、色々と落ち着いたら探しに行こうと決めた。


 金曜日。アマンダさんに、一度ダンジョンを出ると伝えたら、とても驚かれた。
 毎週日曜日に教会で炊き出しをしているため戻る必要があると言うと、感心していた。
 ダンジョンを出て、冒険者ギルドに向かう。
 今週狩った魔物を換金したら、シルバーウルフは皮の状態がいいからと、通常より高値で買い取ってもらえた。これは貴族がマントにするらしい。
 こんな綺麗な状態の皮は滅多にないと、解体場のおじさんが喜んでたよ。
 王都の店へ高く売ってくださいな。


 今週の土曜日も先週と同じくホーム内でまったりと過ごし、日曜日の炊き出しも問題なく終了した。そろそろ子供たちの家を購入してもよい頃かなと思う。
 ダンジョンの地下十階で旭が受け取った治療代はかなりの値段になったからね。


         ◇  ◇  ◇


 翌週の土曜日。無理を言って兄と旭に、物件探しの同行をお願いした。
 まずは冒険者ギルドへ行き、受付の女性に家を購入したい旨を告げて値段の確認をする。
 一番安いもので、値段は一軒金貨十枚。それが何軒あるか尋ねると、現在十軒残っているらしい。
 他は一軒金貨十五枚だった。
 六軒購入したいと伝え、残りの四軒も他の人に売らないようにお願いすると、大丈夫だと言われて安心する。
 家の契約を済ませて、子供たちに必要なものを購入した。
 今回の購入で六十名家に住めるようになるけど、まだ半分以上の子供が路上にいる。
 それぞれ家の表札には、旭が治療した人が所属するパーティーのリーダーの名前を入れた。
『アマンダの家』『ケリーの家』『シーナの家』『リットの家』『ハンナの家』『フリードの家』。
 彼らはまだダンジョン攻略中だから、しばらく気付かないだろう。


 日曜日。炊き出しの際、母親たちに年齢の小さい子から並ぶように声掛けをしてもらう。
 さらに、先頭から六十人の子供たちはご飯を食べても帰らないように伝えてもらう。
 家を購入したことを、母親たちには教えてあるのだ。
 九時になってスープを配ると、子供たちは今日も美味しそうに食べてくれた。
 炊き出しが終わり、残っている子供たちに「大事な話がある」と言うと、皆が急に不安そうな顔をする。

「大切な話だから、よく聞いてね。皆の家を購入したの。今から皆が住む家へ行くけれど、その前にお姉ちゃんと色々約束してほしいことがあるの。できるかな?」
「え? 僕たち今日から、おうちに住めるの!?」

 一番先頭にいた五歳くらいの男の子が、ビックリした顔で聞いてきた。
 私からの予想外な提案に、他の子供たちも、信じられないという表情や困惑した表情をしている。

「そうだよ。でも、お姉ちゃんと約束しないと住めないよ」
「僕、約束ちゃんと守れるよ!」
「本当に大丈夫かな? 大変だよ~」
「大丈夫だよ。僕、交換する巾着忘れたことないもん!」
「そっか~、偉いね! 今から沢山の約束事を話すけど、もし忘れちゃったら、大きいお兄ちゃんやお姉ちゃんに聞くんだよ」
「うん、わかった!」
「じゃあ、一つ目はね……」

 五歳くらいの男の子は、真剣な表情で話を聞いてくれる。
 六十人全員の注目を浴びながら、約束事を話し終えたあとで肉うどん店へ向かった。
 まずは全員を丸洗いだ!
 店の裏庭に盥を十個並べてお湯を作り、母親たちに手伝ってもらいながら、頭と体を石鹸で洗う。
 初めて温かいお湯を使用して体を洗われた子供たちは、気持ちよさそうに笑顔を浮かべている。
 随分と汚れていたので、頭も体も念入りに洗った。
 子供たちを綺麗にしたあとは、新しい服と下着に着替えさせる。
 六十人全員の丸洗いが済むと、今度は服の洗い方を教え、家に着いたら着ていた服の洗濯をするようにお願いしておいた。
 母親たちに、子供たちを家に案内してくれるように頼む。
 私も十人の子供を引き連れ、新しい家に向かう。
 家に到着して室内を紹介すると、子供たちは満面の笑みを浮かべて元気よくお礼を言ってくれた。

「お姉ちゃん。お家を買ってくれてありがとう! 僕たち約束事を守って、毎日綺麗に掃除するね!」

 八歳くらいの男の子が言う。
 自分の住む家ができたので、子供たちは本当に嬉しそうだ。
 きっと、自分たちの家の掃除も大変だとは思わないだろう。
 同じ家に住む子たちは、年上の子が下の子の面倒を見られるよう、年齢をバラバラにしてある。
 私は十人の子供たちに、改めて約束事を覚えているか確認し、お店に戻った。
 少し経ってから、母親たちも店に戻ってくる。
 子供たちの様子を聞くと、年上の子がちゃんと年下の子の靴を脱がせて、足を拭いていたようだ。
 今頃は着ていた服の洗濯をしている頃だろう。
 夜は子供たちの家へ夕食を作りにいく予定で、母親たちにも各家に作りに行ってほしいと頼んである。その際に料理の仕方も、子供たちに教えておこうと思う。
 これでようやく、町をよくする第二歩目を踏み出せた。

         
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