自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第849話 シュウゲン 32 妖精の正体

 あせったように「昼食の準備をする」と言い、離れていく沙良を見て儂はやれやれと頭を振る。
 料理が出来るまで、ガーグ老達を相手に将棋でも指すかの。
 結花ゆかさんとしずくちゃんは、将棋のルールを知らぬのか入ってこない。
 手が空いているようなのに、沙良と一緒に料理をせんのは何故なぜかの?
 結婚してない雫ちゃんは邪魔になるかもしれんが、母親の結花さんは沙良より経験があるだろうに……。
 独りで黙々と料理を作る沙良に、疑問を感じる者はおらんようだ。
 ガーグ老を相手に勝ったところで昼食が出来上がった。
 料理はガーグ老の三男と紹介されたキースが運び、四男と五男の嫁2人は腰を上げようともせず座っておる。
 この光景も見慣れぬのう……儂の考えは時代錯誤なのか、嫁が動かないのは妙に感じるわ。
 
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、酢豚と肉まんです。肉まんは蒸し立てで熱いから注意して下さいね。それでは、いただきましょう」

 おっ、酢豚と肉まんか! 中華も作れるとは儂の孫は優秀じゃな。
 どれどれ、熱々の肉まんから食べてみよう。
 うむ、旨い! 1人2個ずつだと言われ、すかさず2個目を手に取る。
 肉まんを片手に持ち酢豚にはしを付けた。
 甘酢あんかけと絡んだ肉が最高だ。この黄色いものはパイナップルか?
 正直、果物は別にして食べたいが……。
 料理の中に、果物を入れるのが邪道だと思うのは儂だけかの?
 家族の前で好き嫌いをすると、また小夜さよに怒られそうなので仕方なく口にした。
 やはり合わんのう。

 この世界では珍しい料理を食べ、騎獣を運んできた男性が驚いておる。
 まぁ、こんな機会は滅多にないで沢山食べるがよかろう。
 その時、突然何かが木から落ちる音がした。
 はっとして音が聞こえた方に視線を向けると、ほんの一瞬だけ黒い恰好をした体格のいい男達の姿が見える。
 直ぐに消えて見えなくなってしまったが……。
 あれは沙良と結花さんが妖精さんにお供えをした木だ。
 もしや今見えたのが木の妖精だというのか?

 いやいや、待て待て、どう考えても先程の男達は人外の者ではない。
 儂は一度だけ火の精霊王と会った事があるが、存在感がまるで違う。
 妖精と精霊は同じでなくとも、似たようなものだろう。
 アレを妖精と呼ぶには無理がありすぎる。
 この場にいる皆が妖精と信じているのは、誰かの差し金か!?
 工房内に不審者を放置しているとは、ガーグ老の仲間ではないかと疑いの目を向ける。
 儂の視線を感じた彼は、咳払いして誤魔化すように顔を背けた。
 思いっきり怪しいではないか!
 妖精の姿を初めて見たいつき君が、口をあんぐりと開け結花さんの顔を見る。

「結花? バスケットに何を入れたんだ?」

「今日はホットドックと果物よ~」
 
「そっ、そうか今朝の朝食と同じなんだな……」

 むむっ、樹君は妖精だと信じているようじゃ。
 そして結花さんが、お供えしたものを聞いておる。
 会話を聞いていた男性に、結花さんがホットドックを勧めるのを樹君が必死に止めていた。
 話の流れから推測すると、結花さんが作ったホットドックを食べた妖精? が木から落ちたらしい。
 これは……かなり味がひどかったのだろう。
 どうやら結花さんの料理は危険なものであるようだ。
 かなでが娘の家で世話にならないのは、出される料理に問題があるからなのか……。
 儂は、どんな味がするのか一度食べてみたいがの。
 それはさておき、怪しい存在をガーグ老が把握しておらんわけがない。
 家族に害が及ばんよう、問い詰める必要がありそうじゃ。

 食後に儂と奏、響君と樹君を残して沙良達は一旦いったんホームへ返った。
 響君と樹君は、薬師ギルドに用事があると言い工房から出ていく。
 この機会にガーグ老と話をしようと思っていたが、知らぬ間にガーグ老他数人がいなくなっている。
 残っているのは5人の息子と2人の嫁だけだった。
 庭から出る入口は一つしかないのに、儂が10人も移動するのを見逃すなどありえん!
 一体、彼らはどこに消えたのだ? エルフは姿を隠す魔法でも使えるのか?

 エルフの王女であったヒルダちゃんの護衛なら、ガーグ老達は影から守る立場であったかもしれん。
 初対面でエロじじい呼ばわりされたのは、武器を注文する時にそばにいて、会話を聞いていたと考えれば得心がいく。
 であるなら、やはり妖精といつわっている事になろう。
 考えられるのは、ヒルダちゃんにそっくりな沙良を、王族の血筋だと思い警護しているくらいか……。
 今のところ孫を守っているだけで害はなさそうだと判断し、儂はガーグ老の息子相手に将棋を指した。
 2時間後。響君と樹君が戻ってから数分後に、姿を消したガーグ老達が工房内から出てきた。
 ふむ、沙良の父親である響君の後を追っていたのだろう。律義りちぎなことじゃ。

 迎えにきた沙良が王都の店へ送ってくれたので、簡単に荷物をまとめバールに「儂は放浪の旅に出る」と伝え、美佐子みさこの家に引っ越した。
 長期間不在にする事が多かったからか、バールが何も言わず見送ってくれたのは助かった。
 夕食が定番の引っ越しそばではなく餃子なのは、どうしてなのか……。
 餃子も好きだが、久し振りに天ざるを食べたかったぞ!

 翌日月曜日。
 ダンジョンを攻略しに行く家族を見送り、美佐子の運転で買い物に出掛けた。 
 何でも売っているホーム内は便利だな。
 大きなサイズを扱っている店で洋服や下着を購入する。
 異世界の物とは比較にならんくらい肌触りが良く品質が高い。
 小夜に今度会った時渡せるよう、日持ちのする甘い物も大量に買っておいた。
 娘にも何かプレゼントしようと欲しい物を聞いたが、一緒にいられるだけで充分だと笑顔が返ってきた。
 胸に熱いものが込み上げ、感動冷めやらぬというのに、

「あっ、食費は毎月5万円入れてね」

 食費をしっかり請求されて反射的に口を開く。

「そんなに食べたりせんわ!」

「50年前と物価は同じじゃないのよ?」

 本当にそうなのか? なんだかだまされておるような気がするが……。
 まぁ5万円くらい、毎日美味しい料理が食べられるなら高くはない。
 財布から5万円を出して娘に渡すと、

「お父さん、まだ現役でしょ? 家でゴロゴロしてないで、稼いできたら? 私は、ボブがいるから1人でも大丈夫よ」

 なんだか邪魔者扱いされた。
 あれか、『亭主元気で留守がいい』と同じなのか!
 先程は一緒にいられるだけでいいと言ってくれたのに、金を渡した途端とたん、邪険にされるとは切ないのう。
 皆が昼食を食べに戻ってくるようで、娘との外出は短時間で終わった。
 沙良のパーティーは昼食をダンジョンの安全地帯で取らず、毎回美佐子が用意しているらしい。
 なんとまぁ、冒険者の常識がくつがえされるな。
 家族そろって昼食を食べている時、沙良が午後から摩天楼まてんろうのダンジョンを攻略しに行く話をする。
 美佐子から言われた事を気にして、儂も同行すると願い出た。

「父さん。ヒヒイロカネを発見したのは、摩天楼のダンジョンだ」

 そう奏が情報を教えてくれたので俄然がぜんやる気になった。
 幻の鉱物といわれるヒヒイロカネを是非ぜひとも手に入れたい!

「シュウゲンさん、冒険者の資格はあるんですか?」

 沙良に今更な質問をされ、只の鍛冶職人だと思っていたのかと肩を落とす。

「儂は特級・・じゃよ」

「特級?」 

 沙良は聞いた事がないのか、不思議そうに首をかしげておる。

「SS級の更に上だ。国内にいる特級冒険者は、極僅ごくわずかだろう」

 儂が口を開く前に、奏が自慢げに説明した。
 その通りじゃ、儂を冒険者として尊敬せよ!
 しかし話を聞いた孫達は特に感心した様子も見せず、さらっと流されてしまった。
 せん! 冒険者をしておるのに、等級を上げようとする意志はないのか!?
 ここはキラキラした目で「すごい!」とめる場面であろうに……。

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