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4巻
4-2
「沙良ちゃん、俺と結婚しない?」
あぁどうせいつもの、いいお嫁さんになるよって意味ね。
「料理を褒めてくれてありがとう。またオムライス作ってあげるね! 気分がいいから今日はモンブランも出しちゃおう。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「あっ……じゃあ、コーヒーでお願いします」
「は~い」
コーヒーを二人分淹れて、旭の皿にモンブランを載せた。
私は抹茶ケーキを食べながら食後の優雅な時間を楽しむ。
やっぱりケーキは美味しいなぁ。
旭は好物のモンブランを前にしても、すぐ食べなかった。
なんだか溜息を吐き、ベランダを見て黄昏ている。
急にアンニュイな雰囲気を醸し出した旭の横顔を見て思う。
やっぱり可愛い系の顔立ちよね~。
童顔だし、兄の少し怜悧に見える容姿とは正反対だ。
二人が一緒にいるとよく写真に撮られていた気がする。
どちらも顔は整っているから、学生時代はさぞかしモテたんじゃないかと思うんだけど、何故か二人共あんまり彼女がいなかった。
バレンタインのチョコも、もらった形跡がない。
ずっと不思議だったけど最近になって気付いた。
そっか、そういうことだったんだ――
食後のケーキを味わってから三回目の攻略に行く。
テントから出ると、またもや怪我人が待機していた。
地下十四階ともなると、魔物が強くなって怪我をする率も高くなるのだろうか?
担架に寝かされているのは女性で、キングビーに刺されてしまったらしい。
キングビーの毒針は、放っておくと刺された箇所が壊死してしまう厄介な猛毒だ。
クインビーを守るため集団でいるので、キングビーを倒さない限りクインビーを狩ることができない。
集団戦闘になれば怪我を負うリスクが増すので、リーダーは自分たちが勝てる魔物じゃないと判断したら、避けるだろう。
今回は運悪くキラープラントとの戦闘中に、近くにいたキングビーが反応して襲い掛かってきたそうだ。
右腕の刺された部分は、紫色に変色し、パンパンに腫れ上がっている。
同じパーティーメンバーが心配そうな顔で彼女を見ていた。
状況を説明してくれたリーダーは厳しい表情をしている。
これはエクスポーションでは治療できない。
エリクサーが必要になるので、通常このパーティーは地上へ帰還して、治療院で治療してもらうことになる。
それでも毒の侵食具合によっては完治するのが難しいらしい。
冒険者にこそ必要なエリクサーは貴族が独占している状態だ。
迅速な対応が必要な毒の治療に、エリクサーがないのは問題だと思う。
貴族かぁ~。今のところ接点があるのはリーシャの父親だけだけど……
いつか貴族と相対する時が来るかもしれない。
旭はヒールを使用する前にホーリーをかけたのか、一瞬女性の右腕が光った。
毒って浄化できるのかしら?
アンデッドには特大の効果があるホーリーだけど、毒の浄化に有効なのかは不明だ。
旭は念のためかけたのだろう。
せっかく治療したのに後遺症が残ってしまったら大変だ。
ダンジョン価格の治療費に見合う成果がなければ、冒険者に恨まれてしまう。
その後、通常のヒールをかけると右腕の腫れは引き、皮膚の色も元に戻った。
旭がリーダーと女性からお礼を言われて治療代を受け取る。
今後は治療する機会が増えそうだ。兄にも活躍の場があるかもしれない。
治療費だけで億を超えるかも?
地下十四階を拠点にしている冒険者たちは私たちの存在を知っているらしく、テント前で怪我人が待機しているところが凄い。
今日が初日なのに、一体どうやって知ったのかなぁ。
もしかして私たちって結構有名人なの?
治療を終えた旭と一緒に安全地帯から出てトレントの森へ向かう。
兄が収穫を終わらせる前に、こちらもキウイフルーツの収穫を済ませないとね。
果物が生っている場所がトレントの森付近なので、当然近付くとトレントが襲ってくる。
私が昏倒させて旭が瞬殺すると、周囲から次々とトレントの木がなくなった。
日本なら森林伐採で非難されそうな所業だけど、相手は木の姿をした魔物。
時間が経てばまた出現するから問題ない。
果物が生っている木の周囲からトレントを排除して、私たちは安全にキウイフルーツを採取した。
一本の木に百個ほど生っていて、周囲にある実がついている十本の木は全て収穫した。
迷宮都市にある高級店、奏屋ではいくらで売れるかな?
個数があるからできれば沢山買い取ってほしいけど……
これだけ果物の数が多いと自分たちで果物屋を経営できそう。
冒険者引退後は果物屋でも始めようかと思ってしまう。
兄が収穫する地下十一階から地下十三階の果物も増えるばかりだしね。
二人で全てのキウイフルーツを収穫したあとで、迷宮タイガーを二匹見つける。
本当に綺麗な魔物だ。皮が貴族に人気なのも頷ける。
なんかシュッとして格好いいし。この魔物は、やっぱり従魔にしたい!
きっと速く走ることができると思うんだよね~。
すると突然、旭に肩を叩かれた。
「沙良ちゃん。もう何を考えてるか丸わかりなんだけど……駄目だよ勝手に従魔にしたら。賢也に相談してからって約束だったでしょ?」
「うへっ! なっ、なんでわかったの? 顔に出てた?」
迷宮タイガーを従魔にしたいと思っていたことを当てられて動揺する。
「うん、かなりね。それに従魔にしちゃったら、また殺せなくなるかもよ」
「それを言われると反論できない」
「とにかく賢也は怒らせると説教が一時間以上続くんだから、怒られないようにしたほうがいい」
「は~い。マンゴーの件もあるし大人しくしてます。じゃ、迷宮タイガーは狩っちゃいますか」
そう言って二匹の脳を石化させた。
今日は三時間ごとに二匹倒している。毎週月曜日から金曜日までダンジョンに潜っているから、一日に六匹狩れば五日で三十匹になる。
それだけで金貨千五百枚だ。冒険者は儲かるなぁ。
そして今日だけで、どれだけトレントを倒したことやら。
百本以上アイテムボックスに収納してあるのだ。
これ高級木材らしいけど、私たちが換金しすぎて値が下がりそう。
ギルドマスターの腕の見せ所だよね。
迷宮都市のギルドマスターは、シルバーウルフの皮を小出しにしているみたいだから大丈夫だと思うけど……
途中で換金額が下がるのは悲しいから、可能な限り価格を下げずに売り捌いてほしいなぁ。
どうせなので、兄が来る前にトレントの森を丸裸にしておこう!
二時間後、直径一キロメートルあった森は消失した。
これでマンゴーも収穫できるだろう。
いや~、すっきりした。我ながらいい仕事をしたわ。
まっさらな状態の地面に満足していると、旭が隣で呆れ返っていた。
「沙良ちゃん、やりすぎ。他の冒険者が見たら驚くよ!」
「大丈夫、多分明日にはまた森に戻ってるから!」
「何が大丈夫だって?」
突然、兄の声が後ろから聞こえたのでビックリして振り返る。
そこには腕を組んで、上から私を睥睨する兄がいた。
心臓に悪いわっ! いや~、怖いですお兄様。
そして顔を近付けないでください。それはキスの距離ですからっ!
「沙良、トレントの森はどこに消えた?」
兄が周囲を見渡し、犯人はお前だろうと質問してくる。
「え~っと、知らない内に歩いて移動したんじゃないかな?」
「俺はアマンダさんから、トレントが歩いて移動する情報は聞いてないんだが。本当に歩いているのを見たのか? 旭、お前はなんで消えたか知ってるか?」
「あ~っと、それは……」
旭が私のほうをちらちら見てくるので、必死に首を横に振っておいた。
私の意図が伝わったのか旭が一度頷く。
「多分、沙良ちゃんのアイテムボックスに収納されてると思います……」
何故バラすっ! 頷いてたのに~。
「沙良、こんなことをしたら目立って仕方ないだろう。なんで全部のトレントを狩った! そして嘘は吐くな!」
ううっ、怒ってるよ。夜叉に変わる一歩手前だ。
「トレントの森の中央に、マンゴーが生っている木があるからです。ほら、あそこにある大きな木を見て?」
注意を逸らすためにマンゴーが生っている木を指差すと、兄が指先につられて視線を動かす。
「どこに生ってるんだ?」
おっ? 果物ハンターの心の琴線に触れたか?
「大体十メートルくらいの高さに生ってるから、下からじゃ見えないかも……」
「ちょっと待ってろ」
兄は大木のほうに駆け出してしまった。
ふう~。これでお説教からは逃れられたか。
兄は木から少しだけ離れた場所で、ライトボールを撃ち、マンゴーを枝から切り離して収穫する。
三十個はあるはずだから、のんびりと待っていよう。
「沙良ちゃん、ごめんね。賢也に嘘は吐けないよ~」
そう言って旭が両手を合わせて謝ってきたけど、私はつんとそっぽを向く。
裏切り者め! もうしばらくオムライスは作ってあげない。
二十分ほどで兄が収穫を終え、戻ってきた。
実は兄が一番好きな果物はマンゴーだったりする。
しかも値段の高い宮崎県産マンゴーに近い見た目だ。
前世だと普通に一個三千円以上するんだよね。
フルーツ屋で購入したら五千円はするだろう。
そのためこの状況についても、実は私はあまり心配していないのだ。
現に兄は怒りを忘れ、嬉しそうな表情をしている。
「この階層はランダムに生るのがマンゴーなんだな。今日はトレントの森の中だったが、明日は場所が変わるのか?」
「そうなると思うけど、これからもトレントの森の中かもしれないよ?」
「明日、どこに生るのか探す楽しみができた」
兄は満足そうに笑う。
よし! これで追及は終わりだ。今回のお説教タイムはゼロだよ。
異世界転移して若返ったせいか、最近兄の説教が多いんだよね~。
迷宮タイガーを従魔にすることは、明日マンゴーを見つけて機嫌がいい時にお願いしてみよう。
猫好きな兄のことだから許してくれる可能性はあるだろう。
迷宮タイガーは騎獣にもなるらしいし、乗合馬車の旅は現代人には辛いものがある。
リースナーの町から迷宮都市までの二週間は、お尻が痛くて本当に大変だったんだよ。
兄が何度もヒールをかけてくれなければ、真っ赤に腫れていたと思う。
この先、拠点を移す時はぜひともシルバーに乗って移動したい。
そのためには兄と旭の移動手段が必要だ。
体長三メートルの迷宮タイガーなら二人乗っても問題なさそうだし、兄と旭も一緒のほうが嬉しいだろう。身長差があるから、兄が後ろに乗れば前も見えるしね。
私は理解ある妹なので、二人がもしそういう仲でも応援するよ! 今はそっと見守っておこう。
兄がマンゴーの収穫を終えた時点で今日の攻略は終了。
安全地帯に戻ると、またテント前に担架で運ばれた怪我人が待機していた。
怪我人、多すぎでしょ! 旭が対応して素早く処置を施す。
今回はトレントから、ウィンドニードルを受けて脇腹に怪我をした男性だった。
ウィンド系の魔法は見えないからやっぱり対処が難しいみたいだ。
そういえば、今週末に編み物教室で知り合ったサヨさんと会う約束をしているから、色々聞いてみよう。
サヨさんは恐らく私たちと同じ、転生か転移してこの世界にやってきた人間だ。
私たちはこの世界では異端なので、今まで身に危険が及ぶような情報収集はしてこなかった。
知っていて当然の内容は聞けないままきてしまったので、異世界の情報に偏りがあるのだ。
魔法に関することも不明点が多い。
アマンダさんは魔法使いだけど、どうやって魔法を覚えたか聞けずにいる。
私たちも魔法を使用するとアマンダさんは知っているのに、そんなことを聞いたら不審に思われてしまう。
まだ他の人の従魔も見たことがない。
乗合馬車は普通の馬で、異世界で従魔が引く馬車に乗れると思っていた私は、馬だったことにがっかりした。まぁケンタウロスとかだったら、ドン引きだけど……
八本足の馬の魔物、スレイプニルは見てみたい! 八本足なら凄く速く走れそう。
下半身が魚で上半身が馬の魔物、ケルピーは水上で役に立ちそうだしね~。
ユニコーンとバイコーンは、もう見たからいいや。
一応、ここカルドサリ王国は流通している簡易な地図があるので、なんとなくこの国の大きさが把握できるんだけど……
正直、地上の地図の精度はダンジョンの地図よりかなり落ちる。
王領、公爵領、侯爵領、伯爵領が、どの辺りにあるかくらいのものだ。
きっと自分でマッピングして描いた地図のほうが精度は高いと思う。
でも、そんな時間はないので今のところは簡易版で十分。
ミリオネの町とリースナーの町があるハンフリー公爵領、迷宮都市のあるリザルト公爵領、王都がある王領がわかればいい。
情報収集をするなら人が多い王都が一番だけど、サリナ――リーシャの継母の連れ子がいる時点で却下だ。
王都のダンジョンも攻略したいのに残念。
迷宮都市のダンジョンみたいに、果物以外のキノコとか野菜とかも採取できるかも。もしかしたらお米とかも……
宝箱や隠し部屋なんかがあるダンジョンも、あるかもしれないなぁ~。
私のマッピングを使用したら、お宝取り放題だよ!
隠し部屋だって、マッピングなら見つけることも簡単だ。
え? それじゃあ冒険する意味がない? 探す楽しみより実利を取るわよ当然!
私が夢のあるダンジョンに思いを馳せていたら、旭が治療代を受け取り、戻ってきた。
自宅で休憩後は、テントから出てダンクさんアマンダさんパーティーと一緒に夕食だ。
ダンクさんのパーティーは、フレンチトースト、チーズフォンデュ、トマトスープ。
アマンダさんのパーティーは、ハンバーガー、フライドポテト、トマトスープ。
私たちの本日のメニューは、ミートパスタ、チーズオムレツ、シチュー、デザートのキウイフルーツ。
ミートパスタ用のミノタウロスの肉を挽肉にするために二本の包丁で叩いていると、見かねたアマンダさんが代わってくれた。
「サラちゃん。どうせ地下十四階の果物も見つけたんだろう? 新しい果物を食べさせてもらうお礼に、私がやっといてあげるよ」
果物大好きなアマンダさんが、男前な発言をしてくれて嬉しい。
そして私たちが果物を収穫してきた前提なんですね。
挽肉作りはアマンダさんにお任せして、シチューを作っていこう。
玉ねぎ、人参、じゃが芋、コカトリスの肉を刻んでオリーブオイルで炒めたら、水を入れて火を通し、最後にシチュールウを加える。
ミートソースを作り、パスタを茹でればミートパスタは完成。
パスタを茹でる間にチーズオムレツを三人分作っておいた。
ミートパスタにはたっぷり粉チーズをかけて、スプーンとフォークを使い、クルクル巻いて食べる。
ミノタウロスのお肉は本当に品質がよく、和牛のようでとても美味しい。
日本では合挽肉を使用していたので、かなり贅沢なパスタだ。
お店で食べたら二千円以上はするだろう。
自分たちで狩った魔物は無料なのが助かる。
あぁ迷宮ウナギを食べるのがとても楽しみになってきた。
旭が今日は二十匹も狩ってきたらしい。
水中の魔物は旭に、果物は兄に任せておけば大丈夫だ。
私はハニーと明日から薬草採取に励むとしよう。
そういえば、気になっていたことを聞いてみる。
「私たち地下十四階は今日が初めてなんですけど、冒険者の皆さんが私たちのテント前で治療を待ってたんです。今日だけで三人治療しました。どうして私たちが治療できることを知っていたんですかね?」
「サラちゃん。自分たちが、かなり有名だってわかんないのか? 全員が魔法使いで、その内の二人が凄腕の光魔法使いなんだぞ? そもそもダンジョンで単独行動できる強い冒険者なんていないから!」
「そうそう。あんたたちは、ダンジョンで薬草採取したり果物を収穫したりと目立ちすぎさ」
ダンクさんとアマンダさんからそう言われ、なるほどと思ってしまった。
三人パーティーだけでも目立つのに、兄と旭が治療したおかげで有名になったのね~。
「目立つのは避けたいんですけど、もう無理でしょうか?」
「あのなぁ、迷宮都市で孤児たちに家を買って、肉うどん店と製麺店を経営している時点でそりゃあ無理だろう」
「う~ん、じゃあなるべく大人しくしてます」
そうは言ったけど、今日はもうトレントの森を丸裸にしてしまったあとだった。
マンゴーがどうしても食べたくて、気付いたら一本もなくなっていたのよね。
私たちが持っているマジックバッグには、トレントは全部入らないかしら?
全員が食事を終えたら初披露の、ゴールデンキウイとグリーンキウイの両方を二パーティーに三個ずつ配った。
「地下十四階で収穫したキウイフルーツです。どちらの色も美味しいので食べ比べてみてください」
皮を剥いて横に輪切りにしたら綺麗な模様が美しく見えると、それぞれのパーティーで料理を担当しているリリーさんとケンさんに教える。
「珍しい果物だね。うん、私はグリーンのほうが好きな味だよ」
アマンダさんがキウイフルーツを食べてニコニコしている。
「私は甘い黄色のほうがいいわ」
甘い物好きなリリーさんは、ゴールデンのほうが好みらしい。
男性たちは黙々と食べている。
私も両方食べたいので二個ずつカットした。
酸味の強いグリーンも、甘みの強いゴールデンも完熟して美味しい。
マンゴーは奏屋で売れば高値がつくと予想されるため出すのは控えた。
兄はマンゴーを食べたいだろうけど我慢してもらおう。
家に戻ったら剥いてあげるので待ってください。
「サラちゃん。披露した人形劇を子供たちが喜んでくれたから、また別の話をしたいんだ。他に何か聞かせてくれないかい?」
アマンダさんにそう言われて即答できなかった。
えっ、また勝手にアレンジした童話を披露するつもりなんですか!?
ううっ、原作者の方に申し訳ないほどの改変はしないでほしいんですが……
夢と希望が詰まった物語は別物になりそうな予感がしたので、恩返し系の話にした。
鶴の恩返しがいいかなと思ったけど、鶴が人間に変身するのが、この世界の人たちには受け入れられないかもしれない。
そして悩んだ挙句、浦島太郎に決めた。
浦島太郎は虐められていた亀を助けたお礼に竜宮城でもてはやされるが、開けてはいけないと言われた玉手箱を開けて、老人になってしまう。この話なら、皆も理解できるだろうか?
前回、ホーム内で購入した紙芝居の中にあったので、一旦取りに行って話し始める。
亀に乗って竜宮城に入ると、女性たちが舞を踊り、贅沢な料理が出てくる場面で、男性陣が反応した。
綺麗な女性が集団で舞を踊る姿には見惚れちゃうよね。
浦島太郎が時間を忘れて時を過ごしたあと、住んでいた村に戻ると知り合いは誰もいなくなっており、絶望した主人公が玉手箱を開け、お爺さんになって終了。
色々な教訓が入っている物語だけど皆理解できたかしら?
「最後がなんだか、さっぱりしない終わり方だねぇ」
「俺は乙姫様と結婚して幸せになるほうがいいな~」
アマンダさんとダンクさんの感想を聞いて、物語のチョイスを誤ったかと、私は頭を悩ませる。
そりゃそうだけど、肝心なのはそこじゃないのよ!
その後は、いつものように役を決め始めた。何故か亀役に人気が集中している。
最後はお爺さんになる主人公は誰もやりたがらない。
リリーさんは乙姫に決定したようだ。これは無難な配役で安心する。
ダンクさんが乙姫役だったら断固抗議するところだ!
そんな歓待は誰も喜ばないから、主人公が早く竜宮城から帰ってしまい、村に知り合いが全員いる状態で玉手箱の出番がなくなる。
アマンダさんは、リーダーの特権を使って亀役をするみたいだ。
はぁ……亀が主人公の浦島太郎って、どんな話になるんだろうか。
主役はちゃんと出てくるのか?
そしてダンクさんが主人公の話も恐ろしいよ!
今日も長い夜になりそうだった。
地下十四階のダンジョン攻略初日なのに、どうやら寝かせてくれないらしい。
兄がマンゴーを食べたがっているんだけどなぁ~。
翌日、朝九時。二日目の攻略を開始する。
兄を地下十一階に送り届けたら、私は地下十三階にいるハニーを迎えに行く。
ハニーを連れて地下十四階で薬草採取と果物の収穫だ。
旭は迷宮ウナギを狩ってくると言っていた。
ここのキングビーはハニーがいたら襲ってこないのかな?
ハニーはハニービーからクインビーに進化中なので、キングビーは従うかもしれない。
キウイフルーツの収穫をしにトレントの森に行く途中、ハニーが早速魔力草を見つけて教えてくれた。
冒険者たちは薬草採取をしないので全て私がいただきます。
昨日、丸裸にした森は一晩経ち、元に戻っていた。助かった~。
突然消失したトレントの森に地下十四階の冒険者たちが騒めいたけど、幸い犯人捜しはされず、朝になったら騒ぎは鎮火していた。
きっとトレントの森が復活していたからだろう。
今後は丸裸にしないようにしよう。
アイテムボックス内に山ほどある在庫を換金するのは時間がかかりそうだしね。
またマジックバッグを購入するか……
トレントの森付近にはフォレストウサギが二匹いた。
一匹はハニーが上空から針で刺して麻痺状態にし、もう一匹は私が昏倒させ槍で刺し、収納しておく。
ハニーとの連携も上々だ。
体長一メートルあるフォレストウサギの肉が、ファングボアより高いと聞いて少し味が気になった。
魔物に旬はないだろうから、常に脂が乗っている状態なんだろうか?
それに緑色の毛皮もちょっと欲しい。
ラビットファーは肌の当たりが優しいのでマフラーとして最適だし、普段使いのマントの端を縁取るようにつけたら可愛いと思う。
マントには何故かフードがなかったので、この仕様も度々私が洋服を仕立ててもらっている華蘭に伝えて注文してみようかな?
フードの端に紐を通してすぼめられるようにすれば、寒さを大分防げると思う。
襲ってきたキラープラントを昏倒させたら、ハニーが止めを刺してくれた。
今のところキングビーの集団は周囲に見当たらない。
これはハニーがいるおかげかな? でもクインビーの蜜袋が欲しいので少し残念だ。
キウイフルーツの生っている木を発見し、まずは収穫しやすいようにトレントを瞬殺する。
五日間でトレントの山ができそうだ。
あぁどうせいつもの、いいお嫁さんになるよって意味ね。
「料理を褒めてくれてありがとう。またオムライス作ってあげるね! 気分がいいから今日はモンブランも出しちゃおう。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「あっ……じゃあ、コーヒーでお願いします」
「は~い」
コーヒーを二人分淹れて、旭の皿にモンブランを載せた。
私は抹茶ケーキを食べながら食後の優雅な時間を楽しむ。
やっぱりケーキは美味しいなぁ。
旭は好物のモンブランを前にしても、すぐ食べなかった。
なんだか溜息を吐き、ベランダを見て黄昏ている。
急にアンニュイな雰囲気を醸し出した旭の横顔を見て思う。
やっぱり可愛い系の顔立ちよね~。
童顔だし、兄の少し怜悧に見える容姿とは正反対だ。
二人が一緒にいるとよく写真に撮られていた気がする。
どちらも顔は整っているから、学生時代はさぞかしモテたんじゃないかと思うんだけど、何故か二人共あんまり彼女がいなかった。
バレンタインのチョコも、もらった形跡がない。
ずっと不思議だったけど最近になって気付いた。
そっか、そういうことだったんだ――
食後のケーキを味わってから三回目の攻略に行く。
テントから出ると、またもや怪我人が待機していた。
地下十四階ともなると、魔物が強くなって怪我をする率も高くなるのだろうか?
担架に寝かされているのは女性で、キングビーに刺されてしまったらしい。
キングビーの毒針は、放っておくと刺された箇所が壊死してしまう厄介な猛毒だ。
クインビーを守るため集団でいるので、キングビーを倒さない限りクインビーを狩ることができない。
集団戦闘になれば怪我を負うリスクが増すので、リーダーは自分たちが勝てる魔物じゃないと判断したら、避けるだろう。
今回は運悪くキラープラントとの戦闘中に、近くにいたキングビーが反応して襲い掛かってきたそうだ。
右腕の刺された部分は、紫色に変色し、パンパンに腫れ上がっている。
同じパーティーメンバーが心配そうな顔で彼女を見ていた。
状況を説明してくれたリーダーは厳しい表情をしている。
これはエクスポーションでは治療できない。
エリクサーが必要になるので、通常このパーティーは地上へ帰還して、治療院で治療してもらうことになる。
それでも毒の侵食具合によっては完治するのが難しいらしい。
冒険者にこそ必要なエリクサーは貴族が独占している状態だ。
迅速な対応が必要な毒の治療に、エリクサーがないのは問題だと思う。
貴族かぁ~。今のところ接点があるのはリーシャの父親だけだけど……
いつか貴族と相対する時が来るかもしれない。
旭はヒールを使用する前にホーリーをかけたのか、一瞬女性の右腕が光った。
毒って浄化できるのかしら?
アンデッドには特大の効果があるホーリーだけど、毒の浄化に有効なのかは不明だ。
旭は念のためかけたのだろう。
せっかく治療したのに後遺症が残ってしまったら大変だ。
ダンジョン価格の治療費に見合う成果がなければ、冒険者に恨まれてしまう。
その後、通常のヒールをかけると右腕の腫れは引き、皮膚の色も元に戻った。
旭がリーダーと女性からお礼を言われて治療代を受け取る。
今後は治療する機会が増えそうだ。兄にも活躍の場があるかもしれない。
治療費だけで億を超えるかも?
地下十四階を拠点にしている冒険者たちは私たちの存在を知っているらしく、テント前で怪我人が待機しているところが凄い。
今日が初日なのに、一体どうやって知ったのかなぁ。
もしかして私たちって結構有名人なの?
治療を終えた旭と一緒に安全地帯から出てトレントの森へ向かう。
兄が収穫を終わらせる前に、こちらもキウイフルーツの収穫を済ませないとね。
果物が生っている場所がトレントの森付近なので、当然近付くとトレントが襲ってくる。
私が昏倒させて旭が瞬殺すると、周囲から次々とトレントの木がなくなった。
日本なら森林伐採で非難されそうな所業だけど、相手は木の姿をした魔物。
時間が経てばまた出現するから問題ない。
果物が生っている木の周囲からトレントを排除して、私たちは安全にキウイフルーツを採取した。
一本の木に百個ほど生っていて、周囲にある実がついている十本の木は全て収穫した。
迷宮都市にある高級店、奏屋ではいくらで売れるかな?
個数があるからできれば沢山買い取ってほしいけど……
これだけ果物の数が多いと自分たちで果物屋を経営できそう。
冒険者引退後は果物屋でも始めようかと思ってしまう。
兄が収穫する地下十一階から地下十三階の果物も増えるばかりだしね。
二人で全てのキウイフルーツを収穫したあとで、迷宮タイガーを二匹見つける。
本当に綺麗な魔物だ。皮が貴族に人気なのも頷ける。
なんかシュッとして格好いいし。この魔物は、やっぱり従魔にしたい!
きっと速く走ることができると思うんだよね~。
すると突然、旭に肩を叩かれた。
「沙良ちゃん。もう何を考えてるか丸わかりなんだけど……駄目だよ勝手に従魔にしたら。賢也に相談してからって約束だったでしょ?」
「うへっ! なっ、なんでわかったの? 顔に出てた?」
迷宮タイガーを従魔にしたいと思っていたことを当てられて動揺する。
「うん、かなりね。それに従魔にしちゃったら、また殺せなくなるかもよ」
「それを言われると反論できない」
「とにかく賢也は怒らせると説教が一時間以上続くんだから、怒られないようにしたほうがいい」
「は~い。マンゴーの件もあるし大人しくしてます。じゃ、迷宮タイガーは狩っちゃいますか」
そう言って二匹の脳を石化させた。
今日は三時間ごとに二匹倒している。毎週月曜日から金曜日までダンジョンに潜っているから、一日に六匹狩れば五日で三十匹になる。
それだけで金貨千五百枚だ。冒険者は儲かるなぁ。
そして今日だけで、どれだけトレントを倒したことやら。
百本以上アイテムボックスに収納してあるのだ。
これ高級木材らしいけど、私たちが換金しすぎて値が下がりそう。
ギルドマスターの腕の見せ所だよね。
迷宮都市のギルドマスターは、シルバーウルフの皮を小出しにしているみたいだから大丈夫だと思うけど……
途中で換金額が下がるのは悲しいから、可能な限り価格を下げずに売り捌いてほしいなぁ。
どうせなので、兄が来る前にトレントの森を丸裸にしておこう!
二時間後、直径一キロメートルあった森は消失した。
これでマンゴーも収穫できるだろう。
いや~、すっきりした。我ながらいい仕事をしたわ。
まっさらな状態の地面に満足していると、旭が隣で呆れ返っていた。
「沙良ちゃん、やりすぎ。他の冒険者が見たら驚くよ!」
「大丈夫、多分明日にはまた森に戻ってるから!」
「何が大丈夫だって?」
突然、兄の声が後ろから聞こえたのでビックリして振り返る。
そこには腕を組んで、上から私を睥睨する兄がいた。
心臓に悪いわっ! いや~、怖いですお兄様。
そして顔を近付けないでください。それはキスの距離ですからっ!
「沙良、トレントの森はどこに消えた?」
兄が周囲を見渡し、犯人はお前だろうと質問してくる。
「え~っと、知らない内に歩いて移動したんじゃないかな?」
「俺はアマンダさんから、トレントが歩いて移動する情報は聞いてないんだが。本当に歩いているのを見たのか? 旭、お前はなんで消えたか知ってるか?」
「あ~っと、それは……」
旭が私のほうをちらちら見てくるので、必死に首を横に振っておいた。
私の意図が伝わったのか旭が一度頷く。
「多分、沙良ちゃんのアイテムボックスに収納されてると思います……」
何故バラすっ! 頷いてたのに~。
「沙良、こんなことをしたら目立って仕方ないだろう。なんで全部のトレントを狩った! そして嘘は吐くな!」
ううっ、怒ってるよ。夜叉に変わる一歩手前だ。
「トレントの森の中央に、マンゴーが生っている木があるからです。ほら、あそこにある大きな木を見て?」
注意を逸らすためにマンゴーが生っている木を指差すと、兄が指先につられて視線を動かす。
「どこに生ってるんだ?」
おっ? 果物ハンターの心の琴線に触れたか?
「大体十メートルくらいの高さに生ってるから、下からじゃ見えないかも……」
「ちょっと待ってろ」
兄は大木のほうに駆け出してしまった。
ふう~。これでお説教からは逃れられたか。
兄は木から少しだけ離れた場所で、ライトボールを撃ち、マンゴーを枝から切り離して収穫する。
三十個はあるはずだから、のんびりと待っていよう。
「沙良ちゃん、ごめんね。賢也に嘘は吐けないよ~」
そう言って旭が両手を合わせて謝ってきたけど、私はつんとそっぽを向く。
裏切り者め! もうしばらくオムライスは作ってあげない。
二十分ほどで兄が収穫を終え、戻ってきた。
実は兄が一番好きな果物はマンゴーだったりする。
しかも値段の高い宮崎県産マンゴーに近い見た目だ。
前世だと普通に一個三千円以上するんだよね。
フルーツ屋で購入したら五千円はするだろう。
そのためこの状況についても、実は私はあまり心配していないのだ。
現に兄は怒りを忘れ、嬉しそうな表情をしている。
「この階層はランダムに生るのがマンゴーなんだな。今日はトレントの森の中だったが、明日は場所が変わるのか?」
「そうなると思うけど、これからもトレントの森の中かもしれないよ?」
「明日、どこに生るのか探す楽しみができた」
兄は満足そうに笑う。
よし! これで追及は終わりだ。今回のお説教タイムはゼロだよ。
異世界転移して若返ったせいか、最近兄の説教が多いんだよね~。
迷宮タイガーを従魔にすることは、明日マンゴーを見つけて機嫌がいい時にお願いしてみよう。
猫好きな兄のことだから許してくれる可能性はあるだろう。
迷宮タイガーは騎獣にもなるらしいし、乗合馬車の旅は現代人には辛いものがある。
リースナーの町から迷宮都市までの二週間は、お尻が痛くて本当に大変だったんだよ。
兄が何度もヒールをかけてくれなければ、真っ赤に腫れていたと思う。
この先、拠点を移す時はぜひともシルバーに乗って移動したい。
そのためには兄と旭の移動手段が必要だ。
体長三メートルの迷宮タイガーなら二人乗っても問題なさそうだし、兄と旭も一緒のほうが嬉しいだろう。身長差があるから、兄が後ろに乗れば前も見えるしね。
私は理解ある妹なので、二人がもしそういう仲でも応援するよ! 今はそっと見守っておこう。
兄がマンゴーの収穫を終えた時点で今日の攻略は終了。
安全地帯に戻ると、またテント前に担架で運ばれた怪我人が待機していた。
怪我人、多すぎでしょ! 旭が対応して素早く処置を施す。
今回はトレントから、ウィンドニードルを受けて脇腹に怪我をした男性だった。
ウィンド系の魔法は見えないからやっぱり対処が難しいみたいだ。
そういえば、今週末に編み物教室で知り合ったサヨさんと会う約束をしているから、色々聞いてみよう。
サヨさんは恐らく私たちと同じ、転生か転移してこの世界にやってきた人間だ。
私たちはこの世界では異端なので、今まで身に危険が及ぶような情報収集はしてこなかった。
知っていて当然の内容は聞けないままきてしまったので、異世界の情報に偏りがあるのだ。
魔法に関することも不明点が多い。
アマンダさんは魔法使いだけど、どうやって魔法を覚えたか聞けずにいる。
私たちも魔法を使用するとアマンダさんは知っているのに、そんなことを聞いたら不審に思われてしまう。
まだ他の人の従魔も見たことがない。
乗合馬車は普通の馬で、異世界で従魔が引く馬車に乗れると思っていた私は、馬だったことにがっかりした。まぁケンタウロスとかだったら、ドン引きだけど……
八本足の馬の魔物、スレイプニルは見てみたい! 八本足なら凄く速く走れそう。
下半身が魚で上半身が馬の魔物、ケルピーは水上で役に立ちそうだしね~。
ユニコーンとバイコーンは、もう見たからいいや。
一応、ここカルドサリ王国は流通している簡易な地図があるので、なんとなくこの国の大きさが把握できるんだけど……
正直、地上の地図の精度はダンジョンの地図よりかなり落ちる。
王領、公爵領、侯爵領、伯爵領が、どの辺りにあるかくらいのものだ。
きっと自分でマッピングして描いた地図のほうが精度は高いと思う。
でも、そんな時間はないので今のところは簡易版で十分。
ミリオネの町とリースナーの町があるハンフリー公爵領、迷宮都市のあるリザルト公爵領、王都がある王領がわかればいい。
情報収集をするなら人が多い王都が一番だけど、サリナ――リーシャの継母の連れ子がいる時点で却下だ。
王都のダンジョンも攻略したいのに残念。
迷宮都市のダンジョンみたいに、果物以外のキノコとか野菜とかも採取できるかも。もしかしたらお米とかも……
宝箱や隠し部屋なんかがあるダンジョンも、あるかもしれないなぁ~。
私のマッピングを使用したら、お宝取り放題だよ!
隠し部屋だって、マッピングなら見つけることも簡単だ。
え? それじゃあ冒険する意味がない? 探す楽しみより実利を取るわよ当然!
私が夢のあるダンジョンに思いを馳せていたら、旭が治療代を受け取り、戻ってきた。
自宅で休憩後は、テントから出てダンクさんアマンダさんパーティーと一緒に夕食だ。
ダンクさんのパーティーは、フレンチトースト、チーズフォンデュ、トマトスープ。
アマンダさんのパーティーは、ハンバーガー、フライドポテト、トマトスープ。
私たちの本日のメニューは、ミートパスタ、チーズオムレツ、シチュー、デザートのキウイフルーツ。
ミートパスタ用のミノタウロスの肉を挽肉にするために二本の包丁で叩いていると、見かねたアマンダさんが代わってくれた。
「サラちゃん。どうせ地下十四階の果物も見つけたんだろう? 新しい果物を食べさせてもらうお礼に、私がやっといてあげるよ」
果物大好きなアマンダさんが、男前な発言をしてくれて嬉しい。
そして私たちが果物を収穫してきた前提なんですね。
挽肉作りはアマンダさんにお任せして、シチューを作っていこう。
玉ねぎ、人参、じゃが芋、コカトリスの肉を刻んでオリーブオイルで炒めたら、水を入れて火を通し、最後にシチュールウを加える。
ミートソースを作り、パスタを茹でればミートパスタは完成。
パスタを茹でる間にチーズオムレツを三人分作っておいた。
ミートパスタにはたっぷり粉チーズをかけて、スプーンとフォークを使い、クルクル巻いて食べる。
ミノタウロスのお肉は本当に品質がよく、和牛のようでとても美味しい。
日本では合挽肉を使用していたので、かなり贅沢なパスタだ。
お店で食べたら二千円以上はするだろう。
自分たちで狩った魔物は無料なのが助かる。
あぁ迷宮ウナギを食べるのがとても楽しみになってきた。
旭が今日は二十匹も狩ってきたらしい。
水中の魔物は旭に、果物は兄に任せておけば大丈夫だ。
私はハニーと明日から薬草採取に励むとしよう。
そういえば、気になっていたことを聞いてみる。
「私たち地下十四階は今日が初めてなんですけど、冒険者の皆さんが私たちのテント前で治療を待ってたんです。今日だけで三人治療しました。どうして私たちが治療できることを知っていたんですかね?」
「サラちゃん。自分たちが、かなり有名だってわかんないのか? 全員が魔法使いで、その内の二人が凄腕の光魔法使いなんだぞ? そもそもダンジョンで単独行動できる強い冒険者なんていないから!」
「そうそう。あんたたちは、ダンジョンで薬草採取したり果物を収穫したりと目立ちすぎさ」
ダンクさんとアマンダさんからそう言われ、なるほどと思ってしまった。
三人パーティーだけでも目立つのに、兄と旭が治療したおかげで有名になったのね~。
「目立つのは避けたいんですけど、もう無理でしょうか?」
「あのなぁ、迷宮都市で孤児たちに家を買って、肉うどん店と製麺店を経営している時点でそりゃあ無理だろう」
「う~ん、じゃあなるべく大人しくしてます」
そうは言ったけど、今日はもうトレントの森を丸裸にしてしまったあとだった。
マンゴーがどうしても食べたくて、気付いたら一本もなくなっていたのよね。
私たちが持っているマジックバッグには、トレントは全部入らないかしら?
全員が食事を終えたら初披露の、ゴールデンキウイとグリーンキウイの両方を二パーティーに三個ずつ配った。
「地下十四階で収穫したキウイフルーツです。どちらの色も美味しいので食べ比べてみてください」
皮を剥いて横に輪切りにしたら綺麗な模様が美しく見えると、それぞれのパーティーで料理を担当しているリリーさんとケンさんに教える。
「珍しい果物だね。うん、私はグリーンのほうが好きな味だよ」
アマンダさんがキウイフルーツを食べてニコニコしている。
「私は甘い黄色のほうがいいわ」
甘い物好きなリリーさんは、ゴールデンのほうが好みらしい。
男性たちは黙々と食べている。
私も両方食べたいので二個ずつカットした。
酸味の強いグリーンも、甘みの強いゴールデンも完熟して美味しい。
マンゴーは奏屋で売れば高値がつくと予想されるため出すのは控えた。
兄はマンゴーを食べたいだろうけど我慢してもらおう。
家に戻ったら剥いてあげるので待ってください。
「サラちゃん。披露した人形劇を子供たちが喜んでくれたから、また別の話をしたいんだ。他に何か聞かせてくれないかい?」
アマンダさんにそう言われて即答できなかった。
えっ、また勝手にアレンジした童話を披露するつもりなんですか!?
ううっ、原作者の方に申し訳ないほどの改変はしないでほしいんですが……
夢と希望が詰まった物語は別物になりそうな予感がしたので、恩返し系の話にした。
鶴の恩返しがいいかなと思ったけど、鶴が人間に変身するのが、この世界の人たちには受け入れられないかもしれない。
そして悩んだ挙句、浦島太郎に決めた。
浦島太郎は虐められていた亀を助けたお礼に竜宮城でもてはやされるが、開けてはいけないと言われた玉手箱を開けて、老人になってしまう。この話なら、皆も理解できるだろうか?
前回、ホーム内で購入した紙芝居の中にあったので、一旦取りに行って話し始める。
亀に乗って竜宮城に入ると、女性たちが舞を踊り、贅沢な料理が出てくる場面で、男性陣が反応した。
綺麗な女性が集団で舞を踊る姿には見惚れちゃうよね。
浦島太郎が時間を忘れて時を過ごしたあと、住んでいた村に戻ると知り合いは誰もいなくなっており、絶望した主人公が玉手箱を開け、お爺さんになって終了。
色々な教訓が入っている物語だけど皆理解できたかしら?
「最後がなんだか、さっぱりしない終わり方だねぇ」
「俺は乙姫様と結婚して幸せになるほうがいいな~」
アマンダさんとダンクさんの感想を聞いて、物語のチョイスを誤ったかと、私は頭を悩ませる。
そりゃそうだけど、肝心なのはそこじゃないのよ!
その後は、いつものように役を決め始めた。何故か亀役に人気が集中している。
最後はお爺さんになる主人公は誰もやりたがらない。
リリーさんは乙姫に決定したようだ。これは無難な配役で安心する。
ダンクさんが乙姫役だったら断固抗議するところだ!
そんな歓待は誰も喜ばないから、主人公が早く竜宮城から帰ってしまい、村に知り合いが全員いる状態で玉手箱の出番がなくなる。
アマンダさんは、リーダーの特権を使って亀役をするみたいだ。
はぁ……亀が主人公の浦島太郎って、どんな話になるんだろうか。
主役はちゃんと出てくるのか?
そしてダンクさんが主人公の話も恐ろしいよ!
今日も長い夜になりそうだった。
地下十四階のダンジョン攻略初日なのに、どうやら寝かせてくれないらしい。
兄がマンゴーを食べたがっているんだけどなぁ~。
翌日、朝九時。二日目の攻略を開始する。
兄を地下十一階に送り届けたら、私は地下十三階にいるハニーを迎えに行く。
ハニーを連れて地下十四階で薬草採取と果物の収穫だ。
旭は迷宮ウナギを狩ってくると言っていた。
ここのキングビーはハニーがいたら襲ってこないのかな?
ハニーはハニービーからクインビーに進化中なので、キングビーは従うかもしれない。
キウイフルーツの収穫をしにトレントの森に行く途中、ハニーが早速魔力草を見つけて教えてくれた。
冒険者たちは薬草採取をしないので全て私がいただきます。
昨日、丸裸にした森は一晩経ち、元に戻っていた。助かった~。
突然消失したトレントの森に地下十四階の冒険者たちが騒めいたけど、幸い犯人捜しはされず、朝になったら騒ぎは鎮火していた。
きっとトレントの森が復活していたからだろう。
今後は丸裸にしないようにしよう。
アイテムボックス内に山ほどある在庫を換金するのは時間がかかりそうだしね。
またマジックバッグを購入するか……
トレントの森付近にはフォレストウサギが二匹いた。
一匹はハニーが上空から針で刺して麻痺状態にし、もう一匹は私が昏倒させ槍で刺し、収納しておく。
ハニーとの連携も上々だ。
体長一メートルあるフォレストウサギの肉が、ファングボアより高いと聞いて少し味が気になった。
魔物に旬はないだろうから、常に脂が乗っている状態なんだろうか?
それに緑色の毛皮もちょっと欲しい。
ラビットファーは肌の当たりが優しいのでマフラーとして最適だし、普段使いのマントの端を縁取るようにつけたら可愛いと思う。
マントには何故かフードがなかったので、この仕様も度々私が洋服を仕立ててもらっている華蘭に伝えて注文してみようかな?
フードの端に紐を通してすぼめられるようにすれば、寒さを大分防げると思う。
襲ってきたキラープラントを昏倒させたら、ハニーが止めを刺してくれた。
今のところキングビーの集団は周囲に見当たらない。
これはハニーがいるおかげかな? でもクインビーの蜜袋が欲しいので少し残念だ。
キウイフルーツの生っている木を発見し、まずは収穫しやすいようにトレントを瞬殺する。
五日間でトレントの山ができそうだ。
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◇小説家になろうでも同時連載中です◇