自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 67 迷宮都市 例のアレが売っている店&教会での炊き出し

 翌日、朝9時。異世界の露店屋で追加のパンと野菜を購入し、防具屋へ寄る。
 沙良の注文したワイバーンの革鎧を受け取ると、俺達は直ぐにホームへ戻った。
 明日の教会で炊き出しに使用する分の野菜を、沙良がせっせと切っていく。
 俺と旭は160個の巾着に、ドライアプリコットを詰める作業を黙々もくもくこなした。
 野菜の量が多く沙良が大変そうなので、手伝おうかと思い声を掛けたら断られた。
 まぁ俺と旭に任せるより、自分でやった方が余分な手間は掛からないか……。
 午後から空いた時間を有効活用しようと思い、旭を誘って車に乗る。

「どこに行くの?」

 行き先を告げないまま家を出たので、旭が助手席でシートベルトを締めながら尋ねてきた。

「あぁ、異世界で必要な品が売ってる店に行く」

「それって何?」

「行けばわかる」

 今後は必ず旭も必要になるだろう。
 俺は正直、この商品がなければ大変だった。
 目的地に到着するなり車を降りて店内に入ると、

「うわ~、なるほどっ!」

 陳列された商品を見た旭が納得したように声を上げる。
 まぁ、所謂いわゆる大人のオモチャが売っている店だな。
 旭が物珍しそうに手に持ち、グロイ形をした商品に電源を入れて動かしていた。
 おいっ、それを誰に使う心算つもりだ! 俺達には必要ないだろう!
 旭から商品を奪い棚に返して、卵型の商品が並んでいる方へ進む。

「あぁ、これかぁ~」

 それを見てようやく、店に来た理由が分かったらしい。
 
「ダンジョンマスターだった頃は必要なかったかも知れないが、若返った今はあった方がいいぞ?」

「うん、不能じゃなくなったし、便利な商品だもんね」

 そう言って色々な種類の卵型が入ったセットを2個持ってきたので、俺が支払いを済ませた。
 日本円を持っていない旭が、コレをおごってもらうのは悪いと感じたのか異世界の銀貨を1枚渡そうとする。
 いや、異世界の金はいらん。ホーム内では金貨だろうと使用出来ないからな。
 俺のマンションをホームに設定すれば口座預金が使えるから、もっといいのを買ってやるよ。
 銀貨の受け取りは拒否してレンタルビデオ屋に向かう。
 男同士なら通じるので何も言わず、あるコーナーでお互い好みのパッケージを手に取った。
 同じ女優さんか……。
 旭と好みが似ているのを再確認し、レジで精算を済ませた。
 今日は早く自室で寝てやろう。

 日曜日、朝6時。
 挨拶と同時に旭が親指を立てながら感想を伝えてきた。
 俺は笑って答えてやり、沙良の部屋へ向かう。
 朝食に味噌汁とお握り2個、卵焼きときんぴらごぼうを食べて服を着替え、異世界に移転した。
 教会へ近付くと、早朝から並んでいる人達の姿が目に映る。
 シスターが全員の分はないと言っていた理由がわかる程多い。
 沙良がお願いした通り、子供達は大人と違う列に並んでいた。
 持ち込んだファングボア肉を部位別に切ってもらい、簡易テーブルを2台広げて沙良が料理を始める。
 その間に俺達は準備したドライアプリコット入りの巾着を、待っている子供1人1人に配っていった。
 渡された子供達が不思議そうな顔をして、「これは何?」と聞いてくる。

「ドライアプリコットが入っているから、お腹が空いた時に食べればいい」

 そう伝えると、びっくりした顔でお礼を言われた。
 炊き出し時に甘味が貰えるとは思ってなかったんだろう。
 今回は子供の人数が多く、沙良から俺もひとつの寸胴鍋を任された。
 作り方を教えてくれたが責任重大だ! 子供達が食べるスープだからな。
 俺は肉や野菜が焦げたりしないよう、注意深く鍋の底をきまわし水を入れた後は灰汁あく取りに専念した。
 しかしこの灰汁は、いつまで取り続ければいいんだ?
 何度すくっても出てくるんだが……。
 味見しながら塩を加えると、沙良がスープの味を確認して少し塩を追加した。
 塩味が少し足りなかったらしい。

 出来上がったスープを配り始めると旭がパンを渡す。
 全員に行き渡り食べ始めるのを見た沙良が、子供達に何時から並んでいたのか聞くと6時だと返事が返ってきた。
 3時間前から並んで待つのか……。それでも食べられない日があったんだろう。
 迷宮都市の孤児達の現状は思った以上に悪い。

「これからは9時に並べばいいからね!」

 子供達を待たせたくない沙良が、時間を念押しして伝えた。
 必ず自分達の分が貰えるなら早く来る必要はない。
 沙良の言葉を聞いた子供達は、隣同士で顔を見合い小さくうなずいた。
 俺の作ったスープを飲んだ子供達が笑顔を見せる。
 
「このスープ、お肉と野菜がいっぱいで美味しいね!」

 具沢山のスープを喜んでくれたみたいで嬉しい。
 並んでいた間は暗い表情をしていたから心配していたが、お腹が空いていたんだな。
 子供達が食べ終わるのを待ち食器を回収し始めると、誰もが旭が2つ渡したパンの残り1つを大事そうに手に持っていた。
 今ここで食べずに持ち帰るんだろう。

「おい、お前! それを俺にくれ!」

 子供達を見送ろうとしたところで、無粋ぶすいな男性の声がした。
 俺が対応する前に沙良が返事をしてしまう。

「申し訳ありません。こちらの分は教会とは別に私の自費で作った子供達の分となりますので、お渡し出来ないんです。教会の炊き出しの方へ並んで下さい」

「そんなの知るか! 寄越よこせ!」

 沙良につかみかかろうとした男を危険だと判断した俺と旭は、即座に動いて男の視線から隠すよう沙良の前に出た。
 
「うちの妹に何か文句でも? 相手なら俺がする」

 そう言って先制攻撃のファイアーボールを男の足元に撃った。
 直接攻撃するのは、まだ早い。
 これ以上何かをする心算つもりなら容赦ようしゃしないがな。
 旭も臨戦態勢に入っているのか、拳を握り身構えていた。

「ちっ、覚えてろよ!!」

何を・・、でしょうか?」 

 2対1では分が悪いと思ったのか、捨て台詞を吐く男に向かって沙良があおりを入れる。
 男は沙良をにらみつけ無言で去っていった。
 緊張を解いた旭が、ほっと息を吐き沙良の肩を叩く。

「沙良ちゃん。あれは、お約束・・・の言葉だから返す必要はないんだよ?」

「知ってるけど、そこでちゃんと答えてくれるかも知れないでしょ~」

「いや、無いから」

 あんな態度を取る男が、律義りちぎに返事をするとは思えんがな……。
 妹の思考回路は相変わらず謎だ。一体、どんな返事を期待していたのやら。

「それよりお兄ちゃん、ありがとう。ちょっと格好良かったよ!」

「ちょっとかよ!」 

 沙良からのお礼の言葉に反射的に突っ込んだ。
 そこは、もっとめてくれてもいいんだぞ?

「お兄ちゃん達、すごく格好良かったよ~」

「おっ、そうか?」 

 男の登場でおびえていた子供達が、沙良との遣り取りを聞き持ち上げてくれた。
 これが正しいお礼の伝え方だ。
 沙良、お前は子供達を見習え!

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