自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 69 迷宮都市 炊き出しに現れた母親達&商業ギルドでの登録

 日曜日、朝7時。
 子供達の炊き出し準備をするため、異世界の教会へ向かう。
 先週沙良が「9時に来ればいい」と伝えた通り、炊き出しに並ぶ子供達の姿はなかった。
 俺は妹に任された寸胴鍋のスープ作りを慎重にしながら、必死に灰汁あくを取る作業を続けた。
 その間、手持ち無沙汰ぶさたの旭が話かけてくるが、慣れない料理に意識を集中している俺は、おざなりに返事を返す。
 
「ちゃんと話を聞いてる?」

「あぁ……そうだな」

 会話がみあわずれた旭に文句を言われても、邪魔をしないでほしいとしか思わなかった。
 お腹を空かせている子供達に、不味まずいスープを飲ませられないだろう?
 沙良と俺が作ったスープの味に差が出るのは困る。
 炊き出し前の8時30分頃から子供達が集まり始めた。
 時間通りに来ていいと言われても、まだ心配だったんだろう。
 俺達が炊き出しの準備をしていると知って、どこかほっとした様子に見えた。
 並んで待っている子供達に、旭がドライアプリコットの入った巾着を渡し、空になったものと交換していく。
 皆、忘れず持ってきたようだな。

 俺のほうのスープを味見した沙良が水を追加して入れた。
 今日は、どうやら塩を入れすぎたらしい……。
 完成したスープとパンを配り、子供達が座って食べ始めるのを見守っていたら、またこちらに近付いてくる大人がいた。
 俺と旭は、すぐさま沙良をかばうよう前に立つ。
 女性だが先週来た男性とは違い、体のどこにも怪我がないから元冒険者というわけではなさそうだ。
 しかし、その姿はみすぼらしく痩せており精彩がなかった。

「あのぉ。子供達に炊き出しをして下さり、ありがとうございます」

 女性は俺達が子供達に炊き出しを行っていると知って、お礼に来たみたいだ。
 頭を下げるその姿勢には、感謝の念が伝わってくる。

「いいえ。日曜日しか出来ませんが、これから毎週する予定です」

 沙良が女性に対してそう答えると、彼女は大きく目をみはり嬉しそうに顔をほころばせた。

「本当ですか? とても助かります! 息子が今日は、お腹一杯食べられる事に感謝します」
 
「えっ? 息子さん? この中にいるんですか?」

「はい、主人が亡くなったものですから……」

 2人の様子から、危険はないと判断した俺と旭は警戒を解き後ろに下がった。
 夫を亡くした母親だったのか……。
 女性の言葉を聞いた沙良が、しばらく黙ってから口を開く。

「あとで少し、お話ししませんか?」

「はい。では子供が食べ終わった頃に、また寄ります」

 女性がその場を去るのを見送り、俺は妹の心中を思い図った。
 きっと自分に何か出来る事はないか考えているんだろう。
 子供達と同じように大人達の分の炊き出しをするのは、人数的に無理だと思うぞ?
 リースナーの町では冒険者の女性が手伝ってくれたが……。
 迷宮都市では、まだ怪我人の治療をしていないから恩を売る機会もない。
 一体、どうする心算つもりなのやら……あまり目立つ真似はしてくれるなよ。

 後片付けをしている頃に、先程の女性が4人の女性を連れて来た。
 4人の女性にも子供達に対する炊き出しのお礼を言われたので、もしや同じ境遇なのかと思い当たる。
 沙良が女性達から話を聞くと、全員が冒険者だった夫を亡くした母子家庭だった。
 幼い子供がいる所為せいで再婚が難しく、定職もないため日雇いの仕事をしてなんとかしのいでいるらしい。
 宿に泊まれるだけの収入が得られず、子供と一緒に路上生活をしていると知った沙良の表情がくもった。
 母親達に料理が出来るか確認を取り、炊き出しの手伝いをお願いしていたが……。
 手伝ってくれた分の金を渡すのか? それだけじゃ、根本的な解決は出来ないだろう。
 母親達と来週の約束をしたあと、沙良から話があると言われ俺は覚悟を決めた。
 妹が母親達に同情するのは充分理解出来る。
 どんな内容の話でも、それが実現可能な支援の範囲内であるなら賛成しよう。

「お兄ちゃん。母親達が子供と一緒に暮らせるように、お店の従業員として住み込みで雇っちゃ駄目かな?」

「それは、店を経営するという事か?」

 沙良から聞かされた予想外の提案に、少し驚いて答えを返す。

「うん、彼女達は料理が出来るから飲食店にしようと思ってるの」

 仕事を与えて給料を渡すなら、それ程目立った支援にはならないか?

「あぁ、やってみろ」

「旭は、どう思う?」

「いいと思うよ~」

 俺達が賛同の意を示すと、

「ありがとう! 私、頑張ってみるね!」

 沙良は笑顔でファイトポーズを取った。
 何の料理を出す店にするかは自分で考えろよ?
 料理の出来ない俺達に質問されても役に立たないからな。

 善は急げとばかりに、沙良が冒険者ギルドへ足早に向かう。
 早速受付嬢へ店の相談をするも、家と違い店は商業ギルトの管轄かんかつだと言われショックを受けていた。
 商業ギルドがあるのは知っていたが、これまで縁のなかった俺達は入った事がない。
 行き先が商業ギルドへ変更になった途端とたん、沙良が古着ではなく新品の服を買いに行こうと言う。
 冒険者ギルドとは違い、商人が集まる場所だから見た目で判断されるのを嫌ったのだろう。
 沙良の言う通り服屋で新品の服を購入し、その場で着替えた。
 沙良は一着の値段に銀貨3枚(3万円)支払い、高いと怒っていたが……。
 上下合わせての値段なら、それ程高くないんじゃないかと思う。
 だが下手に口を出せば、藪蛇やぶへびになりそうな予感がしたので黙っておいた。
 
 商業ギルド内に入ると、冒険者ギルドとの違いが直ぐに分かる。
 店内には身綺麗にした商人達の姿が多くあり、雑多な雰囲気の冒険者ギルドにはない清潔感があった。
 ギルド内に隣接された飲食スペースも見当たらず、広々としている。
 やはり、ここは着替えて正解だったな。
 服を着替えたおかげで、周囲から注目を浴びるのを減らせたようだ。

 沙良が商人達の視線を無視して、堂々と受付嬢の前まで行き用件を伝えると、応接室に案内された。
 部屋へ通されるまでに、幾つかの扉が見えたので同様の応接室があるんだろう。
 室内に設置されたテーブル席に座り担当者を待つ間、俺は部屋内を観察していた。
 商人が商談するには、やけに豪華な内装が気になる。
 これじゃまるで貴族を相手にする部屋のようだ。初見の俺達を通す部屋で合っているのか?
 そんな疑問を抱いていると、部屋に中年の男性が入ってきた。
 
「本日、担当させて頂きますカマラと申します」

 カマラと名乗った男性が、少し緊張しているように見えるのは気の所為せいなのか……。

「沙良です。よろしくお願いします。飲食店を購入したいのですが、物件はありますか?」

「商業ギルドでの登録は、ございますでしょうか」

「いいえ、ありません」

「登録して頂くと割引がありますが、どうされますか? 登録料は銀貨10枚(10万円)となります」

「では、お願いします」

 沙良が代表して商業ギルドの担当者と遣り取りする姿を見つめたまま、旭に視線を送る。
 俺の覚えた違和感に、彼も気付いたか確認したかったが……。
 目が合った旭は何も感じてないようで、にこにこした笑顔が返ってくる。
 はぁ~、商業ギルドの担当者が子供に見える沙良に対し、敬う態度をしてるんだぞ?
 少しは疑問に感じろよ! 注意するのは悪意を持って近付く相手ばかりじゃないんだ。
 沙良が受け取った用紙に記入し、登録料を支払うと商業ギルドカードを渡される。
 血液を採取する際も、カマラさんは慎重な手付きで沙良の指先に針を押し当てていた。
 まるで身分が上の者にするかのように……。
 痛いのが嫌いな沙良へ、カマラさんに気付かれないよう注意しながらヒールを掛ける。

 血液を登録する機械にカードを通したあと、再び返却されたカードには「サラ・18歳・第1号」と記入されていた。
 冒険者等級と同じように、商業ギルドでも等級が設定されているらしい。
 第1号は冒険者のF級と意味が一緒なのか?
 俺の予想では数字が小さい程、等級が高くなると思うんだが……。
 沙良は第一号と表示されている理由を特に質問せず、再発行手数料は銀貨20枚(20万円)掛かると言われた事に気を取られていた。

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