自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
137 / 781
<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 73 迷宮都市 地下10階 初めての治療

 月曜日。冒険者ギルドで地下10階の地図 (金貨1枚)を購入し、ダンジョンへ向かった。
 地下10階の安全地帯まで駆け抜けマジックテントを設置後、常設依頼を確認する。

【ダンジョン地下10階 常設依頼 C級】
 アウラウネ1匹 銀貨10枚(魔石)
 アラクネ1匹 銀貨10枚(魔石)
 ワイルドウルフ1匹 銀貨50枚(魔石・本体必要)
 シルバーウルフ1匹 金貨5枚(魔石・本体必要)
 ナイトメア(男性体)1体 金貨5枚(魔石)

 この階層から、迷宮都市特有の魔物が出現する。
 RPGのゲームをした経験から、魔物の名前を見れば大体どんな姿をしているか想像出来るが、ナイトメアだけは今一分からなかった。
 ゴースト系にも、浄化魔法のホーリーは効くだろうか?
 最初に沙良が索敵したアウラウネは、体長2mある上半身が女性姿の植物の魔物で、沙良が瞬殺した。
 次のアラクネは、体長2mある上半身が女性姿の蜘蛛くもの魔物だ。
 植物系のアウラウネより、肉感的なアラクネに旭が頬を染めてウブな反応を見せる。
 魔物だから、当然下着は着けていないが……。いくらなんでも、照れてる場合じゃない。
 これくらい日本にいた頃、見慣れているだろうに……。
 あぁ、こいつはダンジョンマスターだった時が長いからか。
 俺はDVDで……、なんて考えている間に沙良がサクッと倒した。
 
 ワイルドウルフは名前の通り、体長2mある狼の姿で俺がライトボールを撃つ。
 シルバーウルフは、この階層で換金額が一番高い。
 銀色の美しい毛並みを持つ体長3mの魔物を、旭が率先して倒す。
 多分この毛皮を無傷で提出すれば、常設依頼の換金額より高く買い取ってもらえるだろう。
 最後に会敵したナイトメアは、実体がなく向こう側が透けて見える。
 剣で切り付けても貫通しそうだと思い、冒険者達がどうやって倒すのか気になった。
 俺が迷わずホーリーを掛けると、アンデッドを倒した時のように魔石だけが地面に落ちる。
 これなら問題なさそうだ。
 新しい魔物を全て倒して、危険がないと判断した俺は少しだけ肩の力を抜き、沙良のあとに続く。
 魔石取りが必要な魔物は俺と旭が対処した。
 
 3時間後。休憩しようと安全地帯に戻る途中で、ついに怪我人を発見した。
 近くにシルバーウルフが倒れているから、この魔物にやられたんだろう。
 腕に大きな損傷を負った女性が、唇を噛み締めうずくまっている。
 旭が駆け寄り、助けはいるか確認するも、女性は首を横に振った。
 見た感じではエクスポーションじゃ治らないと思うが……。
 同じ事を考えたのか、沙良が心配そうにオロオロしている。
 ここは俺の出番だな。
 怪我をした女性に、

「エリクサー相当の治療が出来るぞ」

 声を掛けると、苦しそうにうなずいた。
 治療の了解をもらい、旭の背中を押してやる。
 治癒術師として初の治療だ。沙良の見ている前で失敗するなよ?
 旭は真剣な表情で女性の口に棒を噛ませてから、肩を縛り止血し傷口をウォーターボールで洗い流したあとヒールを掛けた。
 治療の手順は俺と同じだな。何もせず、いきなりヒールを掛けるのは外科医として許容できない。
 ヒールという魔法が、どんな理屈で傷を修復しているのか俺はいまだに理解不能だった。
 ならば、傷が治る過程をイメージしやすいよう処置した方がいい。
 魔法を掛ける前に、アレコレされた女性冒険者は戸惑とまどっていたようだが、旭にお礼を言うと一瞬だけ沙良へ視線を向けた。
 あぁ、例のお礼をするために旭と沙良が恋人じゃないか気になるんだろう。
 意図に気付いた俺と沙良は無言で関係を否定し、旭の対応を見守る事にする。

「治療のお礼がしたいから、安全地帯のテントまで一緒に来てほしい」

 治療した女性にそう言われた俺達は、素直に後を付いて行く。
 旭だけが、彼女に手を引かれテント内へ連れていかれた。
 これから何が起こるか分かっている俺達は、顔を見合わせ苦笑する。
 ただ、女性がテントに入る前、何度も沙良の顔色をうかがい引き留めてほしそうにしていたのが気になった。
 同じパーティーメンバーの男性冒険者達は、彼女が旭とテント内に入った瞬間、天を仰ぐ仕草しぐさをしていたし……。
 あの特殊なお礼を、こころよくしたいと思う女性はいないだろうから当然だが……。
 どこか、それとは別の意味があったんじゃないかと思った。

 数分後、顔を真っ赤にしてプリプリ怒った旭がテントから出てくる。
 ついに旭が洗礼を受けた。次は男性冒険者の治療を経験してみるんだな。
 お礼を断られた女性はあわてて追いかけてきたが、その表情はどこかほっとしているように感じる。
 沙良が不安そうな女性に対して声を掛けた。

「彼にサービス・・・・は不要です。お金は受け取りますが治療に感謝して頂けるなら、その気持ち分だけ路上生活の子供達にパンや串焼きをあげて下さい」
 
 言われた内容に目をぱちくりさせながら、女性は胸に拳を当て「必ず支援する!」と約束した。
 少しばかり大袈裟おおげさな気もするが、余程お礼を回避出来たのが嬉しかったんだろう。
 そう納得して、俺達もテントに入りホームへ戻った。
 
「ちょっと、2人共! さっきのアレは何!? 彼女が突然服を脱ぎ出して、俺は迫られたんだけど!」

 部屋に着くなり、開口一番で旭が大声を上げる。
 
「あぁ、言うのを忘れていた。ダンジョンで治療した場合、特別なサービスをされる事があるんだ。治癒術師の使用する魔力は消費量が多いからな。別に断れば問題ないだろ?」

 俺はしれっと、彼の疑問に答えてやった。
 
「そういう事は事前に教えてよ!! はぁ~、ビックリした~」

 相当驚いたのか、旭は玄関でしゃがみ込んでしまう。
 悪いな、何でも経験しておくべきだ。
 内緒にしていた事を黙ったまま、沙良が旭の肩をポンポンと軽く叩きなだめている。
 俺が手を差し出すと、旭は恨めし気な顔でその手をつかみ、起き上がった。

「それにしても、ダンジョンでの治療行為は高く付き過ぎるね。そこまでしないと駄目なの?」

「治癒術師だって、同じパーティーメンバーが怪我をした時に魔力がないと困るだろう。優先順位を考えれば、メンバー以外の冒険者を治療するのはリスクが高い。俺達は魔力が多いから困らないが、普通の冒険者は大抵基礎値が冒険者登録をした年齢だからな。そう考えれば、ダンジョンで治療する行為に付加価値を付けるしかないんだろう」

 俺が理由を説明すると、旭はう~んと考え込み首を横に振る。

「なんか、その考え方はやだなぁ~。もっと自分の体を大切にしてほしい」

「それには俺も同意見だ」
 
 だが実際、俺達にヒールの能力がなく命の危険にさらされた場合は、倫理観がどうこう言えないだろうがな。助けてもらえるなら、俺は妹を守るためその条件を呑むだろう。勿論もちろん、他にも提案をしたあとで……金で解決出来るなら幾らでも払う。
 
 休憩後テントから出ると、先程の女性がパーティーメンバーを連れて治療代を払いに来た。
 今回はエリクサー(金貨1枚)相当の治療をしたので、地下10階のダンジョン価格は金貨12枚。
 沙良が受け取り、マジックバッグに入れる。

「治療してくれてありがとう。私はアマンダだ。このパーティーのリーダーをしている」
  
 名前に聞き覚えがあるな。確かパーティーを募集していたんじゃないか?
 男性冒険者が4人いるのに、女性がリーダーのパーティーは珍しい。

「私はサラです。3人パーティーとなります」

 名乗りを受けた沙良が自己紹介すると、3人パーティーと聞いたアマンダさんは軽く目をみはる。

「3人でダンジョン攻略とは恐れいったね。あんた達、武器を持っていないようだけど全員魔法使いなのかい?」

「はい、特に問題ありませんので」

「まあ優秀な治癒術師がいれば、大丈夫なんだろう。うちも前までいたんだが結婚して旦那と王都にいっちまってさ、治癒術師を募集中なんだよ。地下18階の攻略を止めて、今は追加メンバーが入るまでここを拠点にしてるんだ。顔が利くから、何かあったら相談しにきな」

「はい、よろしくお願いします」

 年上の女性に対し、にこやかに挨拶する沙良を見て、俺は真似出来そうにないと感想を抱きながら、リーダーは沙良に任せようと決めた。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、いいねやエールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
感想 2,669

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 2024年5月 書籍一巻発売 2025年7月 書籍二巻発売 2025年10月 コミカライズ連載開始

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろうでも同時連載中です◇