自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 77 迷宮都市 『ダンクの決断 1』

 20年前、迷宮都市でクラン『輝く流星』を率いていた両親は、ダンジョン攻略中に帰らぬ人となった。
 当時20歳だった俺は他の都市で冒険者をしていたが、連絡をもらいあわてて帰った。
 遺体はなく、帰還時期になっても戻らない事から死亡したと見なされたらしい。
 ダンジョンの地下19階を拠点にしていた最深攻略組の両親が、まさか魔物にやられるとは思わず、ここ数年会ってなかった事を悔んだ。
 結婚が早かった両親は、まだ35歳の若さでこの世を去ったのだ。
 俺は、いつか両親の遺体を発見出来ればと思い、迷宮都市のダンジョンを攻略する事にした。
 魔石を抜かれた魔物は時間が経てばダンジョンに吸収されるが、人間はそのまま残る。
 どんな姿でもいいから、墓を作ってやりたかったのだ。

 それから20年後。
 俺はクラン『光輪こうりんやいば』に入り、リーダーとなって迷宮都市のダンジョン地下10階を攻略していた。
 最近、冒険者達の話題になっている、魔法士3人のパーティーが地下10階に拠点を移したと知り、俺も興味を持ち見に行く。
 思った以上に若い3人は、青年2人と少女が1人。年齢的に、まだC級冒険者だろう。
 迷宮都市のダンジョンを潜るには、早すぎないかと思ったが、3人パーティーでここまで来る実力があるなら、かなり強いのだろう。
 魔法士なら3人共、貴族出身か……。
 家督かとくを継げない貴族の子供が冒険者になるのは珍しくない。
 治癒術師だった俺の母親も、元は貴族の出だった。
 父親は庶民だったが、俺は魔法学校に通った母親から色々な知識を教えてもらえた。
 魔法が使えるだけで、冒険者として大成出来るだろう。
 
 その後、直ぐに彼らの1人が優秀な治癒術師だと分かった。
 青年2人の内、可愛らしい容姿をしたほうが、安全地帯で怪我人の治療をしたからだ。
 エクスポーションで治療出来ない怪我を、瞬時に治したらしい。
 Lv10のヒールが使用可能な治癒術師は滅多におらず、大抵は最深攻略組のパーティーに入る。
 しかも治療後のお礼を断り、迷宮都市にいる孤児達の支援をしてほしいと伝えていると言う。
 実際、俺のパーティーメンバーが怪我をして治療を受けた際にも、同じ事を言われた。
 それを知った冒険者達は、治癒術師の彼を引き抜こうとして声を掛けたが、色よい返事はもらえなかったようだ。

 そもそも彼らは、安全地帯にいる時間が極端に少ない。
 朝食と昼食はテント内で済ませ、夕食は地下18階を拠点にしていたクラン『白薔薇しろばらはな』のクランリーダーである、アマンダのパーティーと一緒に取っていた。
 アマンダのパーティーメンバーだった治癒術師が抜けたあと、地下10階に移動してきたのは3人の噂を聞いたからだろうと俺は思っていた。
 どうにも、他の冒険者を牽制けんせいするような動きが見られる。
 地下10階の冒険者達は、アマンダの庇護下に置かれた3人組を遠巻きに見る事しか出来なかった。
 俺は情報を得ようと、知己であったアマンダに3人の話を聞いたが……。
 分かったのはサラという少女がリーダーで、一番年上に見えるケンヤという青年を彼女が兄と呼んでいる事や、治癒術師の彼はナオトだという名前だけだ。

 彼らとの接点を持たないまま、3人のメンバーが治療をしてもらった頃、迷宮都市に俺の名前が付いた表札の家が3軒あると聞き、見に行った。
 買った覚えのない家は、サラという少女が受け取った治療代をて孤児達に与えた物らしい。
 そんな事をする冒険者がいるとは思わず、俺は絶句ぜっくした。
 1ヶ月間ダンジョンに潜る俺達は、帰還時に目にする孤児達を景色のように素通りするだけだ。
 命を張った仕事を終えて、他人を構っている余裕などない。
 そう思っていたのが恥ずかしくなる。
 メンバーも同じように感じたのか、料理担当のリリーが食材を購入し、子供達に食べさせてあげたいと言ってきた。
 俺も彼女の意見に賛成して、子供達の支援をする事に決めた。
 しかし、自分の名前が付いた家が3軒あるのは俺だけだった。
 パーティーメンバーが何人も怪我をしたと分かるのは、恥ずかしいんだが……。

 3軒の家を回り、10歳以上の子供達に自分達で稼げるよう冒険者登録に必要な金を渡した。
 すると直ぐに冒険者ギルドへ向かった子供達が、笑顔でF級の冒険者カードを見せに来る。
 たったこれだけで、嬉しそうに笑う子供達を見て泣きたくなった。
 支援している子供が無邪気になついてくれるのは、親の気分を味わうようで少し面映おもはゆい。
 初めて冒険者の依頼を受けた時の事を、目をキラキラさせながら話してくれるのだ。
 休日になると、子供達の様子を見に行くのが楽しい。
 それは思いも寄らず俺達の気分を向上させた。
 ただ坦々たんたんとダンジョンを攻略していた俺達に、子供達の成長を見届ける決意が生まれたからだ。
 この家の子供達が全員巣立つまで、俺達は死ぬわけにはいかない。
 今迄より安全に注意してダンジョンを攻略しよう。

 そう思っていた矢先、リリーが普段しないようなミスをして怪我を負った。
 傷口の範囲が広く、持っているエクスポーションでは治せない。
 幸い3人のパーティーは、いつも時間通り安全地帯に戻るので、今の時間ならそう待たずに済みそうだ。
 怪我をしたリリーを安全地帯にメンバーと運び、治癒術師が帰ってくるのを待つ。
 それほど時間を置かず、戻ってきた治癒術師に怪我の治療をお願いする事が出来た。
 治療の邪魔をしないよう少し離れた場所で待機していた俺が、戻ってこないリリーを不審に思い呼びに行くと、リリーはその場で真っ青になりガタガタと震えていた。
 傷口があった場所は治療され、既に痛みは消えているはずだが?

「リリー、どうした」

 尋常じんじょうじゃない様子の彼女に声を掛けると、

「ダンクさん、どうしよう!!」

 いきなり泣き出してしまう。
 俺は落ち着かせて話を聞こうと思い、彼女を自分達のテントに連れて行った。
 ずっと泣いているリリーを見たメンバーが、困惑こんわくして俺に視線を寄越よこす。
 いや、俺も何があったか知らないんだ。本人が話すまで待つしかないだろう。
 紅茶をれてリリーに差し出すと、彼女は一口飲んで黙り込む。
 しばらく経ってから、ようやく口を開いた。

「実は……、クランリーダーから治癒術師の彼に会わせろと命令されていたんです。他のパーティーには入らないと分かっていたので断ったんですが、一度だけだと言われて引き受けました。怪我の治療をしてくれた彼にその事を伝え、会ってくれるよう頼んでいた時、リーダーのサラさんが来て会う心算つもりはないと怒られたんです」

 俺の知らない話を聞かされ驚いたが、それだけでリリーがこんな状態になるとは思えない。
 もしかして、怪我をしたのはわざとか?
 その理由に思い当たり俺は頭を悩ませた。
 リリーがした事に気付いたなら、メンバーの治癒術師に治療を許可したリーダーが怒るのも無理はない。
 それは、ダンジョンで絶対にしてはいけない行為だ。
 クランリーダーの指示だとは思うが、リリーが逆らえないようにおどしたんだろう。
 これはまずいな……下手したら、冒険者全員の反感を買うかも知れない。

「分かった。俺が謝罪に行く」

「リーダー……ごめんなさい」

 消え入りそうな声でびるリリーの声を背に、俺は3人パーティーのテントへ向かった。
 休憩を終え出て来るのを待ったが、その日、彼らがテントから出てくる事はなかった。

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