自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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<外伝> 椎名 賢也

椎名 賢也 80 迷宮都市 地下10階 不穏な影 2&シルバーウルフのマント 1

 家へ帰り席に座った途端とたん、沙良がテーブルの上に突っ伏しを上げる。

「なんかもう疲れた~」

「頑張ったな」

 俺はその姿を見て、さもありなんとねぎらいを込めて頭をでてやった。
 大勢の怪我人を治療する現場に遭遇そうぐうする機会なんて、そうそうあるものじゃない。
 心臓外科医の俺でも滅多に経験する事がないんだ。
 心肺停止していたダンクさんを助けようと、慣れない心臓マッサージを続けた妹は疲労困憊こんぱいだろう。

「長く現場を離れてたから、ちょっとあせった~。今回は魔法で対処出来たけど、これ日本だったら何人か死んでたね」

 ぐったりした沙良に水を渡しながら旭が感想を言う。

「ああ、俺もそう思う」

 治療魔法の良い点は治療が一瞬で済む事だ。
 ただし、MPがなければ使用出来ない難点もある。
 俺と旭の場合、基礎値が高くヒールLvも調整可能だから10人くらいわけはない。
 だが、この世界の人間は基礎値が低いため、Lv10のヒールを掛けるのは一度に2人くらいが限界だろう。 

「俺達2人がいたから助けられたけど、本当なら地下10階で大量の死人が出たところだよ」

「私もそんな感じがする。エクスポーション(銀貨30枚)で、治る怪我じゃなかったんでしょ?」

 沙良も傷口の具合を見て、ヒールLv10の魔法が必要だと分かったようだ。 

「ああ、エリクサー(金貨1枚)以上の重傷だ。シルバーウルフが5体同じ場所にいたのが、どうも気になる」

 そして俺は先程考えていた事を思い出し、眉間にしわを寄せる。

「誰かがトレインしたと思う?」

 沙良が冒険者がらした言葉を口にした。

「さあな、自殺行為だと思うが」

 俺は魔物寄せを使用した可能性があるとは言わず、沙良の質問を否定も肯定こうていもしなかった。

「う~ん、原因は分からずじまいか。今日はもう攻略終了! MPがなくなった事にしよ? 1ヶ月振りのダンジョンだったけど、私には刺激が強すぎたよ~」

「分かった、分かった。お前は医者じゃないからな。しかし、あの状況でよくサンダーアローを撃ったな」

 感心しながら伝えると、

「電気ショックで感電しても治療可能だと思ったんだよ。ダンクさんを絶対に助けたかったし、もう必死だった」

 心臓さえ動けば、俺達が助けられると思ったらしい。

「沙良ちゃんは、ここぞって時に強いから頼りになるなぁ~」

 旭が、すかさずめそやす。

「褒めても今日のお弁当の中身は変わりません。お腹空いたから食べよ? じゃ、いただきます!」

 沙良はしれっとスルーして、アイテムBOXから昼食の弁当を取り出した。

「「いただきます」」

 お弁当のおかずはエビフライだった。
 付け合わせには、ちゃんとナポリタンが入っている。
 くし切りにされたレモンをぎゅっとしぼり、エビフライにソースを掛けて食べた。
 タルタルソース派の沙良は、レモンの代わりにたっぷり掛けていた。

 本日の攻略は中止したので、午後から旭とジムに行き汗を流したあと、ホテル内のラウンジで優雅にコーヒーを飲む。
 喫茶店より雰囲気が良いし落ち着く。
 沙良は、コーヒー1杯に千円以上払うなんて無駄遣いだと言いそうだがな。
 日本に居た頃は金額を気にした事なんてなかった。
 今は、たまの贅沢として楽しみたい。
 甘い物が好きな旭はパフェも注文して、苺が沢山乗ったパフェを美味しそうに食べていた。

「旭。シルバーウルフの件だが、俺は魔物寄せを使用したんじゃないかと思っている」

「魔物寄せ? 小説とかに出てくる、魔物を呼び寄せる薬の事?」

「あぁ、そうだ。沙良には言わなかったが、それを使用した犯人がまだダンジョン内にいる可能性がある。注意しておいてくれ」

 話を聞いた旭が、驚いた様子で食べていたパフェのスプーンを落とした。

「それ本当!? だったら犯人が捕まるまで、ダンジョンの攻略を中止したほうがいいんじゃない?」

「いや、それだと沙良に理由を話す必要がある。それに、俺達は攻略を再開したばかりだ。またダンジョンから居なくなれば、冒険者達が騒ぐだろう。きっと、犯人は他領から来た人間だ。見知らぬ冒険者がいれば、迷宮都市で活動している冒険者達が直ぐに気付くはずだ」

「だけど、このままダンジョンを攻略するのは危険だと思う」

「だから俺達が目を光らせるんだ。最悪の場合は犯人を行動不能にする」

 俺の言葉に旭は息をみ、肩をビクッと震わせた。
 
「……分かった」

 しばらくして口を開く。
 以前俺に人を害する覚悟をしてくれと言われたのを、覚えていたんだろう。
 それからは、お互い無言で時を過ごす。

 沙良の家に帰ると夕食の準備が出来ていた。
 今夜は餃子ぎょうざらしい。
 キンキンに冷えた生ビールで喉をうるおし、カリッと香ばしくてジューシーな餃子を頬張る。
 この組み合わせはたまらなく美味うまいな。
 ついつい飲み過ぎてしまうのをセーブしながら、明日の攻略に備えた。

 翌日、火曜日。
 テントから出ると、冒険者達の間に張り詰めた空気が流れている。
 昨日の件が伝わっているのか、各リーダーが念入りに注意していた。
 皆、武器や防具を確認するのに余念がない。
 俺達は武器を使用せず、魔物から攻撃を受ける事がないので特に準備する必要はないが、沙良はどこか緊張している様子だ。
 シルバーウルフが5匹同時に出現した原因が分からないため、警戒しているんだろう。
 どのパーティーよりも早く安全地帯を出て攻略に向かい、問題のシルバーウルフを見付けたが1匹だけだった。
 他の魔物も出現数に異変はない。
 至って普段通り1回目の攻略を終え、昼食を食べに戻った。
 その後3日間、特にダンジョン内は変わらず冒険者ギルドで換金する。
 魔物寄せを使用した犯人はあきらめたんだろうか?

 日曜日。
 炊き出しの帰りに、沙良がシルバーウルフのマントを注文したいと言う。
 異世界は雪が降らず、そこまで寒くはないが別にあって困る物でもないし、欲しいなら購入すればいい。
 しかし沙良は、シルバーウルフの皮を持ち込み安く仕上げたいようだ。
 節約好きの妹に反対する理由もなく、冒険者が入るには場違いな高級そうな服屋へ行く事にする。
 商業ギルド用に購入した服に着替え店内に入ると、貴族が着るような服がディスプレイされていた。
 これは多分見本で客はオーダーメイドするんだろう。
 沙良は物珍しいのか、店内をキョロキョロしていた。
 俺達が入ってきたのを知り、店長らしき老紳士が出てくる。
 他に女性の店員も居るようだが……、何故か本人が対応してくれるらしい。

「お客様。本日は、どのような品物をお探しですか?」

「え~っと、今日はシルバーウルフのマントを3人分注文したくてきました。あっ、皮は持参したので、それを使用してほしいのですけど大丈夫ですか?」

 老紳士に声を掛けられた沙良が、動揺しながら答えを返す。

「では皮の状態を拝見致します。こちらの部屋で、お待ち頂いてよろしいでしょうか?」
 
 女性店員に部屋まで案内されると、陶器のティーカップに入った紅茶が出てきた。
 普段冒険者が飲んでいる物よりかおり高く味もいい。
 一口飲んだ沙良も気に入ったようで、少し落ち着いたみたいだな。
 俺達が紅茶を飲み終わる頃、老紳士が部屋に入ってきた。

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