異世界おねむり代行!

石釜真岸

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眠の章

怒ったり驚いたり

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翌日、俺は早速奴隷商館へと赴くことにした。

どうでもいいのだが
昨日の夜はギルド運営の宿屋へと泊まった。
金はそんなにかからなかったのでよかった。
ちなみに、この世界での金というのは皆の想像通り硬貨である。
銅貨、銀貨、白金貨、金貨といった順でグレードが上がる。日本円換算で銅貨100円~金貨100000円である。
ここで白金貨の価値に疑問を感じてる奴!
言っておくが白金が金より美しいとするのは日本人の特性だからな!
本来はこれだ!
・・・
「すみませ~んニャ!」

奴隷商館に入り声を掛ける。

「はい、今回はどの様な…おや昨日の同…いやお客さんですかミャ」
「ニャ!ギルドカード作ってきたからまた来たのニャ」
「ミャ~。それはよかったミャ。所で予算は…?」
「金貨30枚辺りでお願いしますニャ!」

村を出ていくときに貰ったお金が金貨150枚。実は小さい村ながらもかなりの金はあったりする。
まぁ…辺境だからかな。モンスターが多いから国からの援助もあるんだよ。

「金貨30枚ですミャか…でしたら…数人ほどいますミャ。見てみますかミャ?」
「ええ!是非ニャ!」

・・・
一人目は人族の青年だった。
すごくガタイがいい。

「彼は元々冒険者だったのミャ。でも冒険者としての素質が無く、冒険者になるための借金も返せなくなったため奴隷になったのミャ」

なるほどそういう奴隷もいるのか。

「でもニャ~……そんなに力のいる仕事でもないし…一応接客業だから…」

チラッと奴隷の顔を見る。 

「ちょっと怖いか…ニャ…」
「そうですかミャ…残念だったな…」
「はい…」

残念そうにするな!罪悪感出るだろうが!
・・・
「お次は彼女ニャ!」

次の奴隷は俗に言うスレンダー美女と言った感じの女性だった。

「彼女も元冒険者だったのですミャ。でも自ら奴隷になったミャ。なんでもその方が興奮するらし」
「却下で」
「そりゃそうですミャね」
・・・
「お次はこの娘ミャ!」

3人目は犬系の獣人の少女だった。見る限りは俺より年下かな?

「むーん…悪くはないかニャ?お客さんウケする顔立ちしてるし…」
「そうですミャ。接客業には持ってこいの奴隷ですミャよ」

うーむ…どうしよう…ただ二人しかいないのだからこんな小さい娘と店を一緒に運営できるかと言われたら難しいな~。

「あ…あの!」

突然、奴隷の娘が話しかけてきた。

「私!頑張ります!ちっちゃい頃からお店を手伝うことが夢だったんです!頑張りますんで…どうか私を買ってください!」
「ニャああああ!」

どうしよう?本当にどうしよう!
可愛いなぁ…すごい可愛い!
ああ!うちに来て欲しいけど二人じゃ…

「お客様、キープもできミャすが…?」
「キープで!」

こんなもん即答だろう!

「ごめんニャ!お店ができて少ししたら迎えに来るからニャ!」
・・・
「最後は彼女ですニャ」

そう言って来たのは右腕、左足の無い、俺達と同じ猫獣人の少女だった。

「彼女は元々、隣国の王女の近衛兵…そのリーダーだったのミャ…この国は関わらなかったので詳細は私たち庶民には分かりかねミャすが、恐らく戦争奴隷になったと思われますミャ。片腕は戦争で…片足は奴隷生活中に…
私が引き取ったときには包帯が巻かれていたからミャ…」

 彼女の顔には生気が宿ってなかった。
瞳は淀んでおり、血色も良くはない。

「彼女にするニャ」
「え…?」

ほとんど無意識だよ。
同族だからって訳じゃないが、同情したって訳じゃないが…
多分腹が立ってたんだと思う。彼女をどうこうした奴らじゃなくて、彼女に。
人がいい気分で店員候補を探しに来たってのにそんな目で見ないでくれ。

…冷静になったら、よく考えなくても我が儘だ。

「どうして、この娘を?」
「…うーん直感…かニャ?それに…」

その気に食わない目に視線を向ける。

なのニャ!寝不足の人は大っ嫌いニャ!俺がどうにかしてやるニャ!」
「…」
「ミャ~。面白いお客さんだミャ。でも大丈夫ミャ?」
「義手や義足の類いはあるのかニャ?」

それさえありゃどうにかできるが

「ちょっとお高めですがマジックアイテムがございますミャ」
「それを同時購入するニャ。前払いでオーケーかニャ?」
「大丈夫ですミャ。ええと…そうしますと…」

店主が計算する。

「金貨70枚となりますミャ」
「よし!買いニャ!」

俺は金貨の入った袋から金貨40枚を取り出す。

「確かにお預かりしましたミャ。義手、義足はオーダーメイドとなりますので一週間かかりますがよろしいですかミャ?」
「構わんのニャ!」
・・・
奴隷も買うことが出来たため後は奴隷商館から出ていっても良いのだがその前に…

「名前は何ニャ?」
「テリア…テリア・エンシア」
「ほーう!テリアか!なかなか良い名前ニャ!」

ちなみにこの世界では苗字持ちというのはレアケース。
貴族や王族などそっち系の人間しか持ってなかったりする。
つー訳でテリアは貴族決定だろう。
近衛騎士ってことは王族って可能性も少ないだろうしね。
関係ないけど。

「さっきも言ったが俺はその顔が嫌いニャ!寝不足で、生きてることに絶望してるようなその顔が!これからは1日12時間は寝てろ!いいニャ!?」
「でも…眠ることができなくて」
「ニャァァァアアア!何なのニャ!?どんだけだよお前!」
「申し訳ございませ…」
「ああ、いいニャ。謝んなくて。俺のスキル使うから」
「え?」

そう、俺は人の代わりに睡眠を取ることが出来る「眠り屋」を持っているからね。それも出来る。

「じゃ早速、宿に帰ったら使うから…あ」
「どうしました?」

そうだ…
イルスから食事に誘われてたんだった。

「すいませんニャ…後でまた来るのでそれまで待っててもらっても…」
「いいですミャ」 
「ありがたいのニャ」
・・・
待ち合わせ場所はギルドの前だが…

「どこにいるのかニャ?」

見当たらないな~。
さすがに昨日の今日で顔を忘れるわけないから顔が分からないって訳でもあるまいし。 

「すいませ~ん!」

お、この声は!イル…

「ちょっと遅れちゃいました!」

じゃない!?
昨日のギルド職員じゃなくてドレス姿の美少女がいる!

「えっと…どちら様かニャ?」
「ひどい!イルスですよ!」
「いや、俺の知ってるイルスは男のはずだニャ」
「えぇ~…僕は男じゃなくてですよ…」

なかなかの美少年だと思ってたら、超美少女だったとは…

「これは失礼したニャ」
「いえ、良いんですよ。きっとそれほど僕に女性の魅力がないって事ですか…ら…」

そんな自分に絶望した目で俺を見るな!

「そ、そんな事ないニャ!き、きっとギルド制服が悪いのニャ!うん、きっと」
「そうですか?…うんきっとそうですよね!ありがとうございます!」

良かった~。なんとか上手くフォロー出来た。
・・・
ギルドから少し歩いた、城寄りの場所にその酒場はあった。
だが酒場と言うには盛り上がりが少ないし、かといってレストランと言うには華やかさが足りない感じだ。

「ここのステーキ美味しいんですよ!」
「それは…楽しみニャね~」

こっちの世界に来てからは「贅沢」をしたことなかったな、と思い出す。
自分の村が辺境にあったことが大元の原因だろう。
それにリィカと特訓してたしな~。単にそんな事まで頭が回らなかったってのもあるかもだ。

出されたステーキは肉厚で、それでいてナイフを入れると簡単にナイフが沈むほど柔らかかった。

「んじゃあ…頂きましょうかニャ」

一口、肉を運ぶ。
すると口の中に肉汁が溢れ出た。
塩コショウだけのシンプルな味付けだがそれが肉を肉らしく旨くしている。

「…美味い…ニャ」
「ですよねですよね!スロウさんをここに連れてきて良かった~」
「ニャハハ。これ食っちまったら他の肉食えニャいかも」

それから俺たちは下らない話で盛り上がっていた。家族の事、故郷の事、趣味の事とか。

「いや~でもスロウさんには冒険者になって欲しかったですよ~」
「や、でも俺はやりたいことがあってだニャ…」
「ええ~。でもあれだけ強かったら紅の刃姫と組めるかもしれませんし~」
「紅の刃姫?」

知らない単語が出て来たぞ?なんだ?冒険者の二つ名か何かか?

「知らないんですか?あ、でもそっか。ここに来たばっかりですもんね」
「もったいぶらずに教えてくれニャ~」
「わかってますよ~。
紅の刃姫はその名の通りの赤い髪が美しい冒険者の方なんです。様々な伝説を作っている事で有名で、冒険者登録の時のオークを初心者用のナイフで真っ二つにしたとか、冒険者成り立てでドラゴンを倒しているとか…他にも色々あるんですよ!しかも年は僕らとそう変わらないらしいんですよ!」
「ふ~ん…そんな奴がいるとはニャ~」

まぁ正直そんなに驚いていない。
小さいときから冒険者を目指して鍛えていればそんな戦果も出せるだろうしな。
リィカだってそんな凄い人の影で十分…いや十二分以上に活躍できるはずだ。

「で、名前は?」
「リィカって名前らしいです」



は?え?

「ごめん、もう一回聞くけど…名前は?」
「ですから、リィカ、だそうです」

うっそ。マジで? 

「マジで?」
「ええ…マジですけど…知り合い…ですね?その反応は」

知り合いどころか

「俺の幼馴染みだぞそいつ…」

思わず、ニャ、と言えなくなるほどビックリした。
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