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その女神、悦楽
女神の舞踏(3)
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いよいよその時が来た。アッシュ専属の針子たちが地下牢の階段を下ってくる。
カツン……カツン……。
普段聞くことのないヒールが石階段を降りる音が、幾重にも重なって不気味に響く。
珍しくアッシュが恐怖に震えていた。
「怖いよ、やだよ父さん」
足枷をジャラジャラと鳴らしながら、長さの限り懸命に近づいてくる。その姿が幼いころにかぶって見える。
一番近くにいたアールネがその逞しい腕と胸で優しく、だが力強く抱いた。
「大丈夫、だ」
頭をそっとなでると、猫のようにすり寄ってくる。その時間をいとおしく思いながら残されたわずかな時を待った。針子たちはしずしずと、だが楽しそうにくすくす笑いながらやってきた。
「さぁテルミドネ様。お迎えに上がりましたわよ」
「将軍様、早くその忌まわしい足枷を外してくださいまし」
アールネはアッシュを抱いたまま、足枷をそっと外した。
「逃げる、なよ?」
アッシュの耳元で囁くと、彼女は観念しているのか小さく頷いた。
足枷が外れると、ゆっくりと立ち上がった。振り返ることなく、ゆっくりとした足取りで歩く。何も着衣していないため、針子が持参していたローブをかける。
まだ昼間であるため、監獄棟を出た後も人目が多くある。針子たちはアッシュの周りを固め、顔以外が見えないようにした。
夕方になり、アッシュの城の本館にある部屋には三将軍が集まっていた。目の前には着飾った、目を見張るほど美しいアッシュがいた。しかしその顔は晴れない。
「この服……」
「すげぇいいじゃねぇか!」
「そうですよ。とても美しい」
「うむ」
「動きにくいのか動きやすいのかわかんないんだ」
ひらひらと裾をさせてみせる。その際、首元に光る美しい装飾のされた金の首輪。この国の、国王の駒であることを示す首輪。
「いつでも動けるように細工されてるんだ、これ」
ドレスの裾をごそごそとたくし上げ始めた。そして、ガーターベルトについていたボタンにドレスの裾についていた切れ目をはめ込んだ。そうすることで足元がすっきりと見えるようになった。
「思ったよりも軽いし、そこまで回っても振り回される感じがないんだ」
「やりますね、あの針子」
「そうだな、でもこれがあった方がもっとアッシュは完璧さ!」
トリスタンはアッシュに近づき、耳に大きなダイヤモンドの耳飾りを付けた。
「やっぱりそれすげぇいいな」
「貴方、そんなものを用意していたのですね」
「ふふーん、どうだ」
トリスタンが得意げになっていると、クロウが動いた。
「なら、私はこれをアッシュに上げましょう」
クロウはアッシュの指に銀の豪奢な台座に鎮座する、アッシュの瞳と同じ色のブルーダイヤの指輪をはめた。
「なんだ、てめぇも準備してたのかよ」
「当たり前です。アールネ、貴方も何か準備しているのでしょ?」
クロウが部屋の隅に立っているアールネに目を向けた。
「なんだよ、早く見せろよぉ」
トリスタンが駄々をこね始める。アールネはもじもじとしながらアッシュを指さした。その指の先を二人も見る。しかし、その先を見ても何か用意されているようには見えない。
「もったいぶるんじゃねぇよ、アールネ」
「いや、もう。ついて、いる」
アールネが準備していたのは髪飾りだった。アッシュの太陽の光のように美しい金髪に朝露のように纏っている、真珠やダイヤモンド、水晶がついた髪飾り。
「素朴ですが美しい装飾ですね」
「やるじゃねぇかよ」
心なしか嬉しそうなアールネ。アッシュはにっこり笑った。
「ありがとう、父さんたち」
そういうと、いつも通り腰にソードホルダーを付け専用の剣を挿した。そして死神の面をつけ部屋を後にした。
カツン……カツン……。
普段聞くことのないヒールが石階段を降りる音が、幾重にも重なって不気味に響く。
珍しくアッシュが恐怖に震えていた。
「怖いよ、やだよ父さん」
足枷をジャラジャラと鳴らしながら、長さの限り懸命に近づいてくる。その姿が幼いころにかぶって見える。
一番近くにいたアールネがその逞しい腕と胸で優しく、だが力強く抱いた。
「大丈夫、だ」
頭をそっとなでると、猫のようにすり寄ってくる。その時間をいとおしく思いながら残されたわずかな時を待った。針子たちはしずしずと、だが楽しそうにくすくす笑いながらやってきた。
「さぁテルミドネ様。お迎えに上がりましたわよ」
「将軍様、早くその忌まわしい足枷を外してくださいまし」
アールネはアッシュを抱いたまま、足枷をそっと外した。
「逃げる、なよ?」
アッシュの耳元で囁くと、彼女は観念しているのか小さく頷いた。
足枷が外れると、ゆっくりと立ち上がった。振り返ることなく、ゆっくりとした足取りで歩く。何も着衣していないため、針子が持参していたローブをかける。
まだ昼間であるため、監獄棟を出た後も人目が多くある。針子たちはアッシュの周りを固め、顔以外が見えないようにした。
夕方になり、アッシュの城の本館にある部屋には三将軍が集まっていた。目の前には着飾った、目を見張るほど美しいアッシュがいた。しかしその顔は晴れない。
「この服……」
「すげぇいいじゃねぇか!」
「そうですよ。とても美しい」
「うむ」
「動きにくいのか動きやすいのかわかんないんだ」
ひらひらと裾をさせてみせる。その際、首元に光る美しい装飾のされた金の首輪。この国の、国王の駒であることを示す首輪。
「いつでも動けるように細工されてるんだ、これ」
ドレスの裾をごそごそとたくし上げ始めた。そして、ガーターベルトについていたボタンにドレスの裾についていた切れ目をはめ込んだ。そうすることで足元がすっきりと見えるようになった。
「思ったよりも軽いし、そこまで回っても振り回される感じがないんだ」
「やりますね、あの針子」
「そうだな、でもこれがあった方がもっとアッシュは完璧さ!」
トリスタンはアッシュに近づき、耳に大きなダイヤモンドの耳飾りを付けた。
「やっぱりそれすげぇいいな」
「貴方、そんなものを用意していたのですね」
「ふふーん、どうだ」
トリスタンが得意げになっていると、クロウが動いた。
「なら、私はこれをアッシュに上げましょう」
クロウはアッシュの指に銀の豪奢な台座に鎮座する、アッシュの瞳と同じ色のブルーダイヤの指輪をはめた。
「なんだ、てめぇも準備してたのかよ」
「当たり前です。アールネ、貴方も何か準備しているのでしょ?」
クロウが部屋の隅に立っているアールネに目を向けた。
「なんだよ、早く見せろよぉ」
トリスタンが駄々をこね始める。アールネはもじもじとしながらアッシュを指さした。その指の先を二人も見る。しかし、その先を見ても何か用意されているようには見えない。
「もったいぶるんじゃねぇよ、アールネ」
「いや、もう。ついて、いる」
アールネが準備していたのは髪飾りだった。アッシュの太陽の光のように美しい金髪に朝露のように纏っている、真珠やダイヤモンド、水晶がついた髪飾り。
「素朴ですが美しい装飾ですね」
「やるじゃねぇかよ」
心なしか嬉しそうなアールネ。アッシュはにっこり笑った。
「ありがとう、父さんたち」
そういうと、いつも通り腰にソードホルダーを付け専用の剣を挿した。そして死神の面をつけ部屋を後にした。
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