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その女神、悦楽

女神の舞踏(5)

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 カーライルはディランのかぶっている兜を頭からすっぽりと取り去った。

「おう、坊主。どうしたんだこの派手な甲冑はよ」

 にやにやしながらディランの頭をくしゃくしゃにする。その手を払いながらディランは答えた。

「これは戦士の礼装甲冑なんですよ、カーライルさん」
「ほほぉ、こんな動きにくそうなのが礼装ねぇ」

 兜をこつこつと叩いたのち、スポッとディランの頭に戻した。
 それをしっかりとかぶりなおすと、大男を見上げた。エルビスたちもそれを見上げる。

「こんな動きにくそうな甲冑着せて、警備しろだなんて陛下も無茶なこと言うもんだぜ。なぁアッシュ」

 カーライルは無言のアッシュを見下げた。

「僕には関係ないよ。ただ、暴れるのみ」

 冷ややかな声。

「暴走はしたらダメだからな?」

 ディランがアッシュの面を覗き込んだ。それをエルビスが止める。

「おい、ご婦人に向かって何たる無礼。いきなり近づいて覗き込むなど下賤な」
「そうだよ、失礼だよ」

 クリスも控えめに注意する。
 しかし、その二人の脇をかいくぐりアッシュはディランの横に立った。肩に腕を回し豪快に笑った。

「あっはは!僕が暴走?じゃあ、そうならないように頑張ってよ?その動きにくそうな甲冑で」
「あっ!今バカにしただろ!」

 ディランが反撃しようとすると、ひらりと蝶の様に離れて行った。

「おーい、どこ行くんだわんぱく小僧ぉ」

 カーライルの呼びかけに、振り返ってくすくす笑う。

「散歩だよー」
「この辺から離れんなよ?」
「わかってるよー」

 それだけいうと、一瞬の間に消えてしまった。まるで初めからそこにいなかったかのように。
 慣れていないエルビスやクリスがきょろきょろしていると、カーライルが頭をぼりぼりと掻いた。

「まーなんだ?とりあえず、俺はテルミドネじゃねぇ。代行だ。残念だったな」
「えっ。それではテルミドネ様は」
「まっ、それはおいおいな。警備頑張れよ。一応俺らの仲間もこの辺にいるが、俺らが最初に動いちまったら大変な騒ぎになっちまうからな」
「わかりました」

 少し残念そうな二人に、なんとい言えばいいかわからないディランは愛想笑いがこぼれた。
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