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その女神、奇行

戦女神(2)

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 アッシュの到着を待たずして、会議は始まっていた。国王の他、アールネ等3将軍、ホイヴィル剣騎士団の団長キース元帥、国内の治安を維持するヘルネスタ警備団団長、軍部財政官。そして、アレン王子が参加していた。

「おい。王子さんはいつ見てもアッシュそっくりだよな」

 クロウの耳元でトリスタンが囁いた。

「私語は慎みなさい」
「いやぁ。でもお前も思わねぇか?」
「思いますけど、今は大人しくしてなさい」

 アレン王子は、誰が見てもアッシュと見間違うほど瓜ふたつである。美しい金の髪に、夏の空のような青い瞳。陶磁器のように透き通る白い肌。人形の様に整った、男とも女とも取れる中性的な顔立ち。しかし、アッシュと違い王子は温室育ち。体つきは線が細く、ひ弱そうにも見える。実際剣を振るうよりも、兵法を学ぶことを好んでいた。
 そんな中、アッシュが大分遅れて入ってきた。そして遅れたことに対する謝罪もなしに席についた。

「遅れてきたのに謝罪もなしか」

 アレンはアッシュを睨みつけた。しかし、そんなことでは臆しない。何も答えず、ただ腕を組みゆったりと座っている。

「貴様。それでも一国の顔となるテルミドネか!」
「アレン様。陛下の御前ですよ」

 苛立ちを隠せないアレンを警備団長がなだめる。

「テルミドネ。会議の時だけでも面は外せないか?陛下の御前な上、ここには我らしかおらん」

 軍部財政官が面を外すように促す。だが、アッシュは従わなかった。代わりに、冷たい殺気が漂ってきた。

「面を取らなきゃいけないなら僕は帰るから」
「しかしだな、」
「ていうか。なんで僕がアンタの言う事聞かなきゃならないの?僕は国のイヌで、僕が言う事聞くのはそこにふんぞり返ってる王さんだけなんだけど」

 これに堪忍袋の緒が切れたアレン。立ち上がり、アッシュの元へと大股で向かう。

「貴様っ!黙って聞いていればぬけぬけと!」

 胸ぐらをつかみ、更に怒鳴ろうとした。できなかった。彼女の面から覗く瞳を直視してしまった。青い瞳は爛爛と輝き、それだけで喜々としていることがわかった。そのうえ、凄まじい圧を感じた。まるで戦場で、何万という兵士に囲まれたかのような錯覚。

「ねぇ、お前。僕に喧嘩売ってるよね?」

 仮面の下でニヤリと笑うのを感じた。そして、アレンの頭の中で警鐘が鳴り響く。

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