戦場の女神は剣舞を舞う

少女遊 夏野

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その女神、奇行

戦女神(3)

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 アッシュは王子の首に腕を回した。咄嗟に離れようとする。しかし、それより早くアッシュは頭突きをくらわせた。衝撃で後ろへよろける。椅子から立ち上がり、ゆったりとした足取りでアレンへ近づく。

「ねぇ、喧嘩。売ったでしょ?」

 クスクスと笑う。止めに入ろうとするその場の人間たち。それを静止する国王。その顔はその場を楽しんでいるようだった。

「やろうよ、喧嘩」
「貴様、何を言ってんだ!」

 心は立ち向かおうとしているが、体が言うことを聞かない。アッシュが一歩、また一歩と近づけば、アレンは少し、また少しと後ろへ後ずさる。2人の距離は縮まらない。手を伸ばせば、相手の体に手が触れるか触れないかの距離。
 そんな二人の間に何かが投げ入れられた。それをアッシュは掴んだ。宝飾の施された剣だった。
 それを投げ入れた相手を一瞥する。そこには軽く口角を釣り上げた国王がいた。

「アレン、それでテルミドネを斬ってみろ」
「しかし……」
「ほら、あげる」

 アッシュは手に掴んだ剣をアレンに投げつけた。それを咄嗟に胸に抱く。戸惑いを隠せないアレンは、剣を抱いたままアッシュを見つめる。

「何してるんだい?ほら、斬ってみなよ!」

 挑発するように、両手を広げ斬ってくれと言う。その声はとても愉快である。異様な空間の異常な空気に、正常な判断のつかない思考回路は剣を抜くようにアレンの体を動かした。そして、震える体で剣を構える。
 その姿に仮面の下で口角を釣り上げる。

「さぁ!来てよ!」

 アッシュの掛け声で王子は突進するように剣を突き出した。ひらりとかわされる。そのまま、腹に膝蹴りをくらい背中を殴打され床に倒れ込む。

「つまんないの」

 席に戻ろうとしたところ、フラフラと起き上がったアレンが力なく最後に後ろから一突きをいれてきた。アッシュはそれをわかっていたがあえて避けなかった。そのために脇腹を剣がかすめ、黒いシルクのシャツがしっとりと濡れた。
 アッシュは仮面をとった。そしてクスクスと笑う。ふらふらのアレンに近づいて行く。いよいよ止めようと、席を立つ将軍らを国王は手振りで止める。
 腕を思い切り払い、アレンから剣を薙ぎ払う。普段ならそんな大きな隙を作るような真似をしない。しかし今は楽しむために暴力を振るう。

「ガウッ!」

 獣のように一回吼える。吠えながら彼女は鳩尾に一発、力いっぱい拳を叩き込んだ。衝撃で胃液を吐く王子。それがアッシュの靴を汚す。その場にうずくまる王子の服で、彼女は汚れた靴を拭いた。拭き終わると、しゃがんで王子を見下ろした。

「最後はちょっとだけ楽しかったよ。またヤろうね」

 そういうと、会議が終わっていないが部屋を出ていってしまった。
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