ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける

第23話 黄金珠玉のソロライブ その一

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 白音、いつき、ちびそら、リプリン、大魔道の五人は莉美を救出すべく、カルチェジャポネの地下牢獄ダンジョンへと潜入していた。
 魔法使いを無力化するために作られた『魔法封じの結界』にほころびを生じさせ、大魔道の転移魔法で内部へと入り込む。

 白音たちが転移で出現した場所は短い通路になっており、前方には重々しい鉄の格子扉が見えている。
 今しがたすり抜けてきた魔法封じの扉と併せて二重扉になっているらしい。
 囚人たちを監視するためのスペースなのだろう。
 しかし見張り台のようなものが設けられているにも拘わらず、そこには誰も座っていない。
 無人だった。
 不審に思った白音たちが見張り台のさらにその奥、小部屋のようになった場所をそっと覗き込むと、そこに召喚英雄が五人ほど、眠っていた。
 牢番たちが全員、詰め所で居眠りをしている。

「…………」

 白音が一瞬何か言いたそうにしたが、何も言わなかった。
 眠っていてくれた方が都合はいいのだ。
 白音が壁に穴を空けたその瞬間は、こちら側へ幻覚魔法の効果はまったく及んでいなかったはずだ。
 もし優秀な見張りがいたなら、何らかの異変を察知していたことだろう。
 荒事にならずに済んで良かった。

 鉄格子の向こうに、囚人たちのいる監房が並んでいるのが分かる。
 近衛隊長当時の白音の記憶によれば、拷問部屋はさらにその奥にあるはずだ。
 囚人というものはいつの時代でもそうなのだが、自分の身に降りかかる運命に関しては非常に勘が働く。
 房から連れ出された時、出口ではなく奥の方へと歩き始めると、己が拷問を受けるのだとすぐに悟る。
 大抵の囚人はそれだけで何もかも話してくれるようになる。
 召喚英雄たちは戦っている間は威勢がいいし、実際とてつもなく強かった。
 しかしいざ捕縛に成功すると、驚くほど気弱になって泣き喚く。
 ほとんどの場合そうやって簡単に機密情報を喋ってくれるので、実際には拷問部屋を使うまでもなかった。
 白音はあまり関わることがなかったのだが、魔族と人族との戦争当時はおよそそんな風だったと聞き及んでいる。

「道士、お願い」
「承知しました」

 大魔道が転移魔法陣を出すと、同時に鉄格子の向こう側にも同じ陣が出現するのが見える。
 ほころびができたとは言え、魔法封じの結界はまだ機能している。
 しかし同じ結界内でならやはり何の問題もなく転移できるようだった。
 白音たちは鉄格子に触れることもなく、難なく侵入を果たした。
 監房の側を通ると、中から人のいる気配が伝わってくる。
 人族のいた牢屋と同じく、こちらの監房にもそれなりの人数が収監されていそうだった。
 やはりカルチェジャポネでは、召喚英雄による犯罪もかなり発生しているのだろう。
 彼らは漏れ出てくる魔力から明らかに魔核持ちであると感じられるのだが、誰ひとりとして白音たちに反応を示さなかった。
 いつきの真・幻想パーフェクトリアルの効果を実感させられる。
 拍子抜けするほどあっさりと通り抜けて、白音たちは拷問部屋へ続く随分古びた木製の扉の前に立った。
 中からはドンドンドンドンと低いリズミカルな音が聞こえてくる。
 もう誰の耳にも歌であることが判別できる。
 それも明らかに現代の日本で流行っているようなPOPs調の音楽だ。

「やっぱり莉美は拷……この先にいそうね」

 囚人を逃げないように監視しつつ魔力エーテルを提供させるなら、それなりに広い空間が必要になるだろう。
 普通は牢獄にそんな場所はない。
 だが拷問部屋には収監施設や様々な器具を置く場所も必要になるため、かなり広く造られている。
 さすがに今はもう拷問など行われていないだろうから、ここに集魔装置エーテルコレクターを設置するのは当然の成り行きと言えるだろう。

「白音様、この先エーテルコレクターがあるのなら、魔力が吸収されるかもしれません。転移で飛ぶにはいささか不安定かと」
「了解よ」

 大魔道の助言に従い、白音が魔力の剣イセリアルブレードを手にした。
 音もなく素早く、扉の蝶番ヒンジ部分だけを切り取る。

「そっち側切るんすね……」

 いつきはてっきり鍵の方を壊すものだと思っていた。

「んー、鍵壊すよりは修理が楽かなと思って?」
「なはは、エコ姐さんっすね」
「扉外すと、歌が大きくなりそう。いつきちゃんよろしくね」
「はいっす!!」

 支えを失った扉が倒れないようにそっと外すと、中から音楽と魔力エーテルの洪水が一気に溢れ出した。
 実は白音は、少し不安だった。
 莉美が大量の魔力を供給しているはずなのに、こんなに近づいてもその波動が少しも感じられないのはおかしい。
 仲間たちを心配させたくなくて口には出さなかったが、莉美の身に何か良からぬことが起こっているのではないかと危惧していた。
 しかし扉を開いた途端、その不安は強大な魔力の奔流によって吹き飛ばされた。
 全身が包み込まれるようなその感覚を、白音たちはよく知っている。
 莉美の魔力エーテルで間違いないだろう。
 いや、「莉美の味」と言うべきだろうか。

 拷問部屋は取り払える壁をすべて取り払ってかなり広い空間が確保されており、その奥に巨大な魔動装置が設置されていた。
 低い唸り音を上げているそれが、集魔装置エーテルコレクターと呼ばれているものだろう。
 この部屋に満たされた魔力を、すべてその装置が吸収しているらしい。
 それで莉美の魔力がこちらへ漏れ出てきていなかったのだ。

 そしてその巨大な装置の前で、大空莉美おおぞらりみがマイク片手に歌を唄っていた。
 眩しい黄金色こがねいろの魔法少女コスチュームに身を包み、一段高いステージのようなところに立って軽快なダンスと共に唄っている。
 莉美は白音たちが部屋に入ってきたことに気づいたらしい。
 満面の笑顔になると、エレメントスケイプのテーマ曲の最後の部分をひときわ大きな声でシャウトした

「Do You wanna bet on me?」
(わたしを選ばないとか、アリエナイから!!)

 叫びながら、白音の方へと手を差し伸べる。



「いや………は?」

 いきなり選べと迫られても、白音としては困る。
 莉美の周囲には大勢の観衆がいて、手拍子をしたり、莉美の名を叫んだりコールしていた。
 おそらくは同じように魔力を提供させられている囚人なのだろう。
 莉美が手を伸ばしたので、自然と彼らの視線がそれを追った。
 観衆が皆振り返り、その熱い視線が一斉に白音へと注がれる。

「だから………は?」

 白音は言葉が出てこなかった。
 ついに莉美の念願だったアイドルになる夢が叶ったらしい。
 こんなところで何をやっているのか。

「白音ちゃーん!! 来てくれたんだー!!」

 莉美が、手にしたマイク(?)のようなものに向かって大きな声で叫んだ。
 それは何故か、紛う事なき綺麗な発音の人族語だった。
 莉美は白音の名を呼びながら走り出し、そのままステージ上からダイブした。
 ダイブするタイプのアイドルは珍しいかもしれない。
 白音が莉美をしっかりと抱き留めると、観客たちから拍手喝采が湧き起こった。

「や、莉美。ちょっと、もう…………」

 相変わらず莉美の抱き心地が良くて少し安心したが、扉が開け放たれたままになっている。
 このままでは他の囚人や牢番たちに気づかれてしまうのではないだろうか。

「大丈夫っす、音は全部消せてるっすよ」

 白音の杞憂をよそに、いつきがリプリンの助力も得てしっかりとサポートを続けてくれているようだった。

「そう……、ありがとう。なら、もうちょっと……」

 白音と莉美、お互いの体温がお互いの心へと届くのに、ほんの少しの時間があれば十分だった。

「それで? どうしてこんなことになってるの?」

 満足して少し落ち着いた白音は、莉美から事情を聞き出すことにした。
 いったい何があってこんなことに――莉美の独擅場ソロライブ――に、なったのだろうか。

「えっとね、ここにいる人たちはセージハン? とかいう人たちらしいのね」

 莉美が自分の歌に手拍子をしてくれていた人たちを、投獄されている罪状で紹介した。
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