ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける

第25話 やっぱり一緒がいいね その一

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 白音たち魔法少女には、斉木の固有魔法ユニークや懐柔策が通用しなかった。
 為す術を失った斉木は仲間の議員たちをかき分けて、議事室の奥に引きこもる。
 二十一人の議員を全員盾に取るような格好になった。
 ようやく酔夢から覚め始めたらしい議員たちの間に、動揺が広がる。


「おいっ、アルロルロ! 寝てないでさっさと起きろ。我々を守るのがお前の仕事らろっ!! お前の大事な家族がどうなっても知らんろ!! 魔族を拾ってやった恩を忘れたとは言わせん」

 斉木が奥に引っ込んだまま、顔は見せずに喚いている。
 名前すらまともに発音できていなかったが、しかしその声を聞いて屈強な護衛は目を覚ました。
 佳奈に手酷く叩きのめされて、とても動けるような状態ではないのだろうに、立ち上がって戦う意思を見せる。
 再び、青白い電光がぱりぱりと音を立ててアルトルドの体を包み込んでいく。

「まだ立てるのか……。あの電光の魔法のせいか?」

 佳奈はアルトルドに相対あいたいして身構えた。
 しかしその表情は曇り、むしろ彼のことを心配しているように見える。

[あれは固有魔法ユニークじゃないみたいなの]

 そらが精神連携マインドリンクで教えてくれた。

[おそらくは電気系統の基礎魔法プライマルの応用。神経の電気信号を体の外にも走らせて、筋肉を制御してるの。電気刺激で体を活性化させて潜在能力を引き出してる。体に負担がかかるけど、頑強な魔族ならそれに耐えられると推測]

 体に負担をかけて力を引き出すというのは、能力強化リーパーの重ね掛けに少し似ているなと白音は思った。

基礎魔法プライマルで、擬似的な神経信号を発生させてるのね……」

 白音の部下だった近衛隊員の時代には、そんな技は使っていなかった。
 たゆまぬ研鑽の結果編み出したものなのだろう。しかしふと白音は、
 魔族である自分になら同じことができるのではないだろうかと考えついてしまった。
 角も生えてるしね、と思う。

[体への負担が大きいから、白音ちゃんは真似しちゃダメなの]

 そらは、白音がそう考えるだろうことを完全に読んでいたらしい。
 計ったようなタイミングで釘を刺した。

[りょ、了解。そらちゃん……]


 アルトルドが立ち上がったのを見て、斉木が少し白音たちの見えるところへ出てきた。

「よし、よし、それれいい。さっさとこいつらを始末しろ」

 偉そうに言っているが、結局斉木はアルトルドのことを頼りにしているらしい。

[……なあ、そら。そんなに負担があるんなら、こんな状態で使ってるこのおっさんも、まずいんじゃないの?]

 佳奈は油断なくアルトルドと対峙しながら、けれどそんなことを聞いてきた。

[良くはないと思うの。使いこなせるように鍛えてるとは思うけど、かなりの重傷を負ってるから]
[う……]

 その重傷を負わせた張本人である佳奈は、少しすまなそうにした。
 清き一票ドミネートによる強制力もあるのだろうが、斉木は人質に危害を加えるようなことをほのめかしていた。
 おそらくは家族を守らなければならないという強い想いが、アルトルドを再び立ち上がらせたのだ。

 アルトルドが、雄叫びを上げて佳奈に襲いかかった。
 力任せに振り下ろされた拳には、先程までとは段違いの破壊力がこもっている。
 最後の力を振り絞って魔力を込め、肉体を強化しているのだ。
 だが佳奈も、一歩も引かずにそれらをすべて受け止める。
 仲間を決して傷つけさせはしない。
 こちらもそういう覚悟だった。

「やめとけって、もう動ける状態じゃないだろ……」

 アルトルドの耳には届いていないようだったが、佳奈は言わずにはおられなかった。
 このまま行けば、この大男は文字通り燃え尽きてしまうかもしれない。佳奈はそう感じていた。
 魂を燃やしている、まさしくそんな戦い方だった。

 アルトルドが二の腕をひときわ怒張させて振り上げた。
 そして両手をハンマーのように組んで、猛烈な勢いで振り下ろす。
 唸るような風切り音を伴って、ひと息に佳奈を挽き潰そうとしている。
 その巨大なハンマーに致命的な威力があるのは分かっていた。
 ただし隙だらけの大振りだったので、先にがら空きの腹部を痛打して止めることはできたと思う。
 しかしこれ以上アルトルドを傷つけるのを嫌った佳奈は、真っ向から受け止めることを選んだ。
 佳奈、アルトルド、ふたりの気合いの声が交錯する。

「ぬおあぁぁぁっ!!」
「くうぅっ!!」

 佳奈は十字に組んだ両腕を上げて、アルトルドの巨大な拳槌を受け止めようとした。
 しかしアルトルドは、それを力任せに突き崩してしまった。
 頭頂部にハンマーが直撃して、佳奈は叩き伏せられる。

「かはっ!!」

 佳奈の顔面が石床を粉々に砕き、体が半ば以上めり込んでしまった。

「佳奈っ!!」

 白音が悲鳴に近い叫び声を上げる。

「うはは、よくやったアルロルロ。他の奴らも排除しろ。カルチェジャポネが国となった暁には軍務大臣にしてやるろ」

 斉木が耳障りな声で高笑いしている。
 それを聞いた白音は心の底からの嫌悪を覚えた。
 まるでできの悪いよくある中小企業の社長のようだ。
 そんな薄っぺらなリップサービスで部下がやる気になると、本気で思っているのだろうか。
 まともな人間ならかえって不信感が募るというものだ。
 そして白音は理解した。
 今酒盛りをしている議員たちには、そういう見え透いた餌が通用するのだろう。
 彼らは、そうやって集まった烏合なのだ。

 白音は佳奈の傍へ駆け寄ろうとした。
 平気だとは思うが、倒れたまま動かないでいるのが気がかりだった。
 しかしその眼前にアルトルドが立ちはだかる。
 彼の体は戦闘による重篤なダメージを負い、さらに負担の大きな魔法でどんどん蝕まれていっている。
 それでも彼はまだ、斉木の命令に従おうとしていた。
 白音は、愛弟子であるこの大男に向かって魔力剣イセリアルブレードを構える。
 怪力無双のアルを相手にして、その体調を気遣いながら取り押さえることは難しいと思えた。
 しかし迷っているような猶予はない。
 高笑いを続ける酔っ払いのノイズが、とても耳障りだった。

(せめて一撃で決める)

 そう決意して、白音は光り輝く刀身に深く意識を集中させ始めた。
 すると、それに待ったをかけるように佳奈が殺気を放った。
 伏したままアルトルドに向けて放たれた危険な闘気エーテルに、彼の方もぴくりと動きを止める。

「認めるよ……あんたは強い。相手にとって不足なし、だよ」

 アルトルドに向けて静かに人族語を話しながら、佳奈がゆっくりと立ち上がった。

「は? お前あれだけやられといてまだ立ち上がれるのか?」

 ようやく酔いが覚めてきたらしい斉木が、横から口を挟んだ。
 やはり不愉快な響きのする声で喚いている。

「うるさい、黙れっ!!」

 佳奈が大きな声で一喝すると、斉木は何も言わなくなった。
 いや、言えなくなった。
 佳奈にとっては、斉木のことなどどうでもよかった。

「けどさ、あんたその力、長続きしないんだろ? まるで命を燃やしてるみたいだよ。命を懸けて、家族を守ろうとしてるんだね」

 佳奈は斉木を無視して、アルトルドに話しかけ続ける。

「アタシにとってはさ、あんたみたいな相手と戦う時は、全力でやり合って、勝とうが負けようが、次またやろうぜって言うところまでがセットなんだ。けど今のあんたじゃ、次はないだろ? せっかく大事な人を守れたって、もう顔見れなくなるだろ?」

 アルトルドが野獣のような咆哮を上げ、佳奈に襲いかかる。
 だが一手一手が致命的なその攻撃を、佳奈は黒豹の如くしなやかに、すべて捌ききってしまった。
 いつもは力での真っ向勝負を好む佳奈だが、こういう戦い方も決して不得手ではない。
 その動体視力と俊敏な動きで守りに徹してしまえば、そう簡単に切り崩すことはできなくなる。
 白音はよく知っていた。
 むしろこういう時の佳奈は、相当に手強いのだ。

「あんたは強い。だから止めるためにはアタシは全力でやんないといけない。でもそうしたら、手加減できないんだよ。最後の力を振り絞ってる今のあんたを、殺してしまうかもしんない。だから……、だからアタシは降りる。あんたとは勝負しない!!」

 アルトルドが雄叫びを上げて、再び両腕をハンマーのようにして振り上げた。

「白音っ! リーパー頼む!!」

 佳奈がちらりと白音の方を見た。
 白音は佳奈に力強く頷きを返す。

「分かった。任せて!! 四重増幅強化クアドラプルハウリングリーパー!!」
「え?」

 あまりの強烈なリーパーの増幅効果に、佳奈が目をむいた。

「ちょ! ちょ、白音? 強すぎ!!」
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