ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

文字の大きさ
86 / 261
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第26話 魔法少女のお誕生会 その三

しおりを挟む
 若葉学園でのお誕生会。その出し物で、チーム白音の本物の魔法少女ショーが始まった。
 出たとこ勝負のアドリブで、一恵が悪墜ち魔法少女『紫頭巾』を演じる。
 白音たちは人質にされた怜奈れなを取り戻し、『紫頭巾』の捕縛に成功する。


 白音が一恵の紫頭巾ふくめんを剥ごうとすると、彼女が身もだえした。

「と、取らないで。見ないで、お願い!!」

 その迫真の演技に、白音の方が悪いことをしているような気になってきた。
 白音が「いやいや、こっちが正義の魔法少女ですから」と自分に言い聞かて頭巾を剥ぎ取ると、少し上気した一恵の顔が現れた。
 白音を潤んだ瞳で見つめている。

「あん……」

 はらりと髪の毛が一筋、一恵の端整な面立ちに垂れかかった。
 計算でやってるなら本当にすごいと思う。

「うう……。じゃなくて! ま、マジカル……スカイを返しなさい!!」
「はい……」

 悪の魔法少女が観念すると、そらが元いた場所に再び現れた。
 今度は少し上に転移ゲートが現れてそこから降ってくる。
 そらも予期していたのか綺麗に着地すると、子供たちから拍手が湧いた。


「このまま退治しようかしら?」

 白音は手に光の剣イセリアルブレードを出した。
 磔になったまま抵抗できない一恵の喉元に剣を突きつける。
 軽くいびっていると、一恵がなんだかだんだん艶めいた表情になってきた。
 白音が小声で「もう少し反省してる感じにしてよ」と言いながら子供たちの方を見る。
 紫頭巾の処遇は子供たちに仰ぐつもりだ。


「……かわいそう」

 誰かが呟くと、「紫の人を助けてあげて」という声が起こり始めた。

「ですってよ? あの子たちに感謝しなさい。チャンスを上げる。いい子になるなら助けてあげる」
「改心……目が覚めました。正義の魔法少女になります。どうかしら……マジカルチェリーちゃんの下、どれ……仲間にして下さい」

 白音が光の剣を引き、莉美が磔を解くと、一恵は白音の前に跪いた。

「チャンスをくれてありがとう。一生お仕えします」

 一恵が白音の手を取ってその甲にキスをする。
 みんなアドリブで好き勝手にやるから、趣味が丸出しになっている。
 しかしおかしなところは多々あったが、なんとか大団円にもって行くことができた。
 子供たちが拍手喝采を贈ってくれる

 最後は名残を惜しむ拍手鳴り止まず、皆で並んでHitoeの歌を唄った。
 人前で唄うのが苦手な佳奈とそらも、子供たちのためならと頑張ってくれる。
 Hitoeの歌はカラオケに行くと必ず唄うので、みんな全曲振り付きでマスターしている。
 白音は人質役にされてしまった怜奈の腕を取って、一緒に唄った。
 怜奈とは反対側の席がやや取り合いになっていたが、今日はそらが勝利した。
 そらが白音の空いた方の腕を取る。
 子供たちも巻き込んで、その場の全員で大合唱になる。
 白音は誘拐された怜奈や悠月ゆづき明理彩ありさ華音かのんの様子が心配でずっと見ていたのだが、楽しそうにしているようでほっとした。


 夕食を終えると、子供たちお待ちかねのバースデイケーキの時間だった。
 そして九月に誕生日を迎える子たちにプレゼントが手渡される。
 プレゼントは蔵間理事かららしかった。
 日本国中すべての施設にとはいかないが、関東一円の養護施設にはこのような贈り物をしているらしい。
 白音は蔵間の本気を垣間見た気がした。

 白音の分もちゃんと用意してあって、あとで蔵間にお礼を言わなければ、と思う。
 白音には桜貝をあしらった筆記具が送られた。
 顔を知っている子には、ちゃんと蔵間が自分でプレゼントを選んでいると聞いた。
 プレゼントに心が込められているのが感じられて、白音は嬉しかった。
 が、プレゼント選びの趣味が完全に女子だ。
 多分これで勉強してブルームに入って欲しい、とか思ってるんだろうなと想像できる。


 日が落ちて辺りが暗くなってくると、小さな子たちは風呂の時間になる。
 楽しいひと時、お誕生会はここでお開きとなった。
 魔法少女と離れがたい、といった雰囲気のかわいい弟妹たちが、名残惜しそうにしながら先生に連れられて行く。
 そして年長の子はお茶を愉しみながら、もう少し秋の夜長をくつろいで過ごす。
 九月生まれの夜更かし組は、白音だけだった。

「今日は中秋の名月だしね。お月見会、という名目であなたたちへの感謝の会なのよ」

 敬子がそう言った。

 お月見会に参加する年長の子とは、白音の誕生日プレゼントを買おうと企画してくれた七人のことである
 この子たちはこの前の一件では当事者でもあったし、中には肉食猫科覆面チームの活躍を目の当たりにした子もいる。
 だからおおよその事情は既に聞かされていた。

 その七人が白音の前にやって来た。少しはにかんで、怜奈が代表で白音にプレゼントを手渡す。
 桜の花をあしらった小物入れをもらった。

「ありがとっ!!」

 白音が七人を順にハグしていく。

(みんなのイメージってやっぱり桜色なのよね……。以前は白の方が好きだったんだけど)

 しかし今聞かれれば、白音自身も好きな色は桜色だと答えるだろう。
 なんだか星石にしてやられた気がする。

 八人目に随分背の高い子が並んで待っていた。
 一恵だった。
 白音は一恵にも腕をしっかりと回してきゅっとハグをした。
 多分一恵はツッコミ待ちのつもりだったのだろう。
 本当に抱きしめられるとはちょっと予想外だったようで、「ふあっ?!」と変な声を出した。
 けれど今日は『頭巾さん』も頑張ってくれていたと思う。
 感謝のハグだ。

 そうすると今度は、一恵からプレゼントの包みを差し出された。
 チーム白音からのプレゼントで、いつの間に行ったのやら、四人で一緒に選んできたものだと言って白音に手渡す。
 かわいらしいリボンのついたラッピングをほどいてみると、中には淡いピンク色の下着が入っていた。
 白音も「ふあっ?!」と思わず変な声が出た。
 上下のセットアップだ。
 レースのフリルの着いたフェミニンなデザインは女心をくすぐる。
 四人によると勝負下着ということらしい。

(これを着けろって言うの? かわい過ぎるんですけど……)

というのが白音の感想だった。
 男心をくすぐるのかどうか、そんなのは知らない。

 その時、テーブルに置いてあった白音のスマホのバイブ音がした。
 メッセージの通知だ。

「おや、早速勝負下着の出番ですね?」

 莉美が茶化す。

「何言ってんのよ、もう……」

 言いながら白音はさっとスマホをカバンに入れてしまった。
 ちらっと見たところ、確かに送り主はリンクスだった。
 やはり莉美は変なところでさとい。



 賑やかなお誕生会が終わり、その帰り道は満月がとても大きくて明るい夜だった。

 少し名残惜しい気持ちがあるのだが、白音は黎鳳れいほう学院の寮に帰る。
 いつも有り難いことに、一恵がひとりずつ家まで送ってくれる。
 しかし魔法少女であることを知られているとは言え、さすがに学園の皆が見ている前で堂々と転移して帰るのはまずい。
 しばしの間、月夜の散歩を五人で楽しんだ。

 白音がこっそりスマホを確認すると、リンクスからの誕生祝いのメッセージが入っていた。
 若葉学園にいることは知っていたようで、みんなで楽しく過ごして欲しい、とあった。
 お礼の返事を書こうとするのだが、なんだかどんどん季節のご挨拶のような堅くて無味乾燥な文章になっていく。

「ふむふむ」

 気がつけば莉美が覗いている。

「ちょっと!!」
「これは翻訳すると、俺とも楽しく過ごして欲しい、ということですな?」
「いやいや、そんなことないでしょ」

 白音は別段隠し立てすることもなく、みんながスマホを覗き見るに任せている。
 やましいことなど何も無いと、ことさらに強調したいのだ。

「ハートマークいっぱい付けよ? 白音ちゃんならハート一個でひとり撃破可能と推測」

 そらが作戦提案をしてきた。

「ゲームみたいに言わないでよ…………そんなことしないわよ」
「誕生日に自分より友達を選んだから、嫉妬入ってるのかもね」
「えっ……?」

 佳奈が何の気なしにぽろっとこぼした言葉に、白音がフリーズしてしまった。

「まあ、そんな束縛する人じゃないわよ。ちょっと拗ねてるだけじゃないかな?」

 大丈夫、大丈夫、と一恵が慰めてくれる。
 何か違う。

「いや、あんたたち、そんなのまるで恋人みたいじゃないのよ」
「…………」

 無言で四人が白音を見つめる。

「何か言ってよ……」



 一恵が順番に皆を家に送り届けて、最後に黎鳳の寮へと転移ゲートを開く。
 わざわざゲートを一緒にくぐって白音を見送ってくれた。
 去り際に、少し心配したような表情で一恵は白音の手を取る。

「急がないで、ゆっくりね。今更ほんのちょっとの時間、待てなくなんてないんだから、白音ちゃんの思うペースで慎重にね」
「う、うん? 分かった」

 先輩は語ると言う奴だろうか?
 リンクスのことを言っているのだろうなとは思ったが、白音には一恵の言わんとすることがちゃんと理解出来たのか、正直自信は無かった。
 一恵はきっと、そういう経験が豊富なんだろうなと思う。
 でもなんかちょっと言い方おかしいよね、とも思った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

荷車尼僧の回顧録

石田空
大衆娯楽
戦国時代。 密偵と疑われて牢屋に閉じ込められた尼僧を気の毒に思った百合姫。 座敷牢に食事を持っていったら、尼僧に体を入れ替えられた挙句、尼僧になってしまった百合姫は処刑されてしまう。 しかし。 尼僧になった百合姫は何故か生きていた。 生きていることがばれたらまた処刑されてしまうかもしれないと逃げるしかなかった百合姫は、尼寺に辿り着き、僧に泣きつく。 「あなたはおそらく、八百比丘尼に体を奪われてしまったのでしょう。不死の体を持っていては、いずれ心も人からかけ離れていきます。人に戻るには人魚を探しなさい」 僧の連れてきてくれた人形職人に義体をつくってもらい、日頃は人形の姿で人らしく生き、有事の際には八百比丘尼の体で人助けをする。 旅の道連れを伴い、彼女は戦国時代を生きていく。 和風ファンタジー。 カクヨム、エブリスタにて先行掲載中です。

処理中です...