ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

文字の大きさ
142 / 261
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第46話 異世界通廊 その二

しおりを挟む
 ちびそらから、自衛隊の船艇が予定外の行動を始めたと連絡が入った。
 マインドリンクで、火浦いつきの見ている映像が白音たちに送られてきた。
 ちびそらと共に、随行していたエレメントスケイプ、外事特課の宮内が小さな船室に軟禁されているのが見える。


[いや……、これがいつきちゃんの見てる映像なら、目の前の閉じ込められてる人は誰…………]

 白音がそらの方を見るが、そらが小首をかしげた。

[ああっ!! 混乱させて申し訳ないっす。監禁されそうになったので幻覚でごまかして隠れてるっす。今見えてるのは閉じ込められたふりしてる幻覚っす]

 いつきのその視点が下方に動くと、視点の持ち主が肩から提げたポシェットが見えた。
 その中にちびそらがこそっと収まっている。
 さらに周囲にはエレスケメンバーもいるようだ。全員囚われてなどおらず、船室の外にいる。
 さすがは隠蔽工作のプロであろう。


[指揮所と連絡を取る方法を聞き出したがってたわね。通信できないようにしたかったんでしょう。スマホとか取り上げられてから閉じ込められたわ。取り上げた、と思い込ませただけだけど]

 風見詩緒の声だ。
 何か陰謀を企てるのならば通信手段を絶つのは常套手段だろう。
 しかし魔法少女を出し抜こうとしているとなると、その想定はまったく甘いと言わざるを得ない。
 なにしろ、魔法少女の口に戸など立てられるわけないのだ。

[ガクブル]

 ちびそらは自分がスマホ機能を持っているとばれたら何をされるか分からないと思ったのだろう。
 その恐怖は人には無い感覚だ。
 しかし、その妙な言葉遣いを教えたのは誰なのだろうかと白音は思う。


[あ、宮内さんは閉じ込められてるのが本物っす]

 いつきがさらっと言う。

[ひでぇ]

 佳奈の声が割って入ってきた。
 彼女はそう言いながらしかし、笑っているのがマインドリンク越しにも分かる。
 佳奈は今、敵の激しい妨害に耐えながら戦闘の真っ最中のはずだ。
 かなりイライラしていたようだが、エレスケやちびそらのどこか間延びした会話を聞いて、少しは落ち着きを取り戻したようだった。
 正直なところ、佳奈には自衛隊など眼中に無い。


[自衛隊は初めから、異世界への転移ゲートが確認され次第確保に向かう命令を受けてたみたいね]

 土屋千咲の声だ。

[自衛隊くらいなら手の平返されても、私たちで何とかなるでしょって甘く見てたのよ。でもね……、あいつらの中に魔法少女がいたのよ]
[!!]


 さすがに白音も驚いた。
 確かに必死でリクルートをしていたのは知っている。
 防衛大臣直轄の高等工科学校に無理矢理編入者専用の特別クラスを儲けたり、いろいろやってはいたようだ。
 だからそういうのがいてもおかしくはない。
 しかし…………、

[あなたたちが逃げ出すほどの実力者がいたっていうの?]
[わたしたちが正面切って戦うわけないじゃないの。☆ア☆イ☆ド☆ル☆なのよ? 相手は戦闘向きの魔法持ってなくても、どうせ戦闘訓練受けてるんだから!!]

 風見詩緒が、何故かちょっと得意げに主張している。

[まあ、あんまり酷いことする気は無いと思うんだけどね。宮内さんが必死で説得してくれてたんだけど、やっぱり外特と自衛隊は考えもやり方もまったく違うみたい。だから宮内さんを囮にして逃げてきたの]

 水尾紗那が悪びれる様子も無くそう言った。

[なおさらひでぇ]
[うん……]

 佳奈の言葉にさすがに白音も同意する。


[あの人たちそゆとこあるよね]

 莉美は今でも結構、エレスケの面々とは交流があると聞いている。
 過去に何があろうと、興味があれば気にせずずんずん突っ込んでいく。
 白音はむしろ莉美に「あんたそゆとこあるよね」と言いたい。

 しかし拘束は免れているとは言え、海の上で転移も使えないのではどうしようもない。

[このまま行けば約十分じゅっぷんで小島付近に到着、上陸はそこからボートで五分ほどかかると予測]

 ちびそらだ。

[んー、沈める?]

 莉美なら多分、やろうと思えば簡単にできるだろう。

[おいこらー!!]

 間髪を入れず詩緒の突っ込みの声が上がった。
 まあそりゃあ、もろともに蒸発したくはないだろう、普通。


[冗談だよ。ちびそらちゃんがいるのにそんなことするわけないじゃない]
[ちびそらかよ!!]

 莉美とエレスケたちの仲が良さそうで、何よりだと思う白音であった。


「白音ちゃん、白音ちゃん」

 今度はマインドリンクは使わずに、白音と共に小屋への侵入方法を検討していた一恵が声をかけてきた。
 こちらはこれで内緒話オフレコということなのだろう。
 白音は確実に戦局が動き始めているのを感じる。

「わたしの転移ゲートが使えるようになった」



 ということは、異世界転移ゲートが完成したと言うことだろう。
 もう一刻の猶予もならない。
 親通がいつでも逃げられるよう準備が整ったということだ。


「親通はまだ、数的有利を信じてるはず。まずはこの場にいる魔法少女たちを排除して、残存兵力すべてで転移しようとすると思う。それが困難だと感じたら作戦を切り替えて、さっきそらちゃんが言ってた優先順で一緒に転移しようとすると思う。035ミコ、千尋ちゃん、妨害系の順かな。さすがにミコは転移必須だろうとは思うけど、逆に言えばミコさえいればあちらで立て直しができるわ。親通が追い詰められたと感じる前に封じてしまわないと」

「さて、そろそろおいとまさせていただこうか」

 異世界ゲートの完成に合わせるようなタイミングで、声が聞こえてきた。
 音源の方向などの特定は困難だった。
 幻覚、幻聴系の魔法で伝えているのだと思われる。
 声質は先ほど倒した親通のコピーと同じだろう。

 これは勝利を確信しての余裕の演説だと感じた。
 ならば少しそのお話に付き合ってやろうと、白音は考えた。
 その間に効果的な対抗策を、そらや一恵が必ず考えてくれる。


「できれば手駒はすべて連れて行きたかったが問題は無い」
[ワンマン社長に多いタイプなの。部下を物扱い。気がついたらみんな辞めていく]
[やめてそらちゃん、吹き出しちゃうから……]

 そらがわざわざマインドリンクで、白音にだけ変な副音声解説を付け始めた。
 まじめな顔で聞いてるふりをして時間を稼がなければならないのに、笑ってはいけない。
 こういう手合いは適当に驚いたり納得したりしていると、悦に入って話が延びていくのだ。


「どどっ、どうしてこんな酷いことするの。異世界なんか目指して、何をしようっていうの?」

 そらのせいで声が震えて上ずってしまった。だがかえって、いい感じに焦っているように聞こえただろう。

「あちらは人族、魔族入り乱れての乱世なのだろう? 文明レベルも中世程度らしいな? そして破壊的な魔法がある。おあつらえ向きじゃないか。戦国の世に身を立てた祖先に倣って儂もあちらで新しい根来衆ねくるしゅうを組織する。異世界は儂に吃驚、刮目するだろう。何せこちらは異世界で救国の英雄と呼ばれる魔法少女をいくらでも使えるのだからな」

 確かにコピー能力も勘定に入れると、それが戯れ言とは言い切れなくなりそうだ。


[ブラック企業確定なの]
「そ、そ、それじゃあなた、まるで異世界を侵略するブラ……魔王じゃないの!!」
「魔王、魔王か、それも悪くはないかもな。うはははは!!」

 親通にウケたようで何よりである。

 白音はこの親通という男とまともな話ができるとは、元より思っていない。
 部下を使い捨てのおもちゃのように扱っているのは、巫女たちがネクロマンシーによって操作されている死体だから、ということだけではあるまい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...