あそこにいる公爵令嬢は、実は脱走してきたゴブリンです

1章ゴブミ脱走

1章8話スマホと現金を奪って逃走

　おじさんは険しい顔で、煙草を吸いながら、ゴブリンと妻がなかなか戻って来ないことに、苛立つ。

「ふぅ……あの化け物遅いな」

　その時、ああああという妻の悲鳴が聞こえた。

「何だ今の声は？」

　すぐさま、立ち上がり、廊下の方へ進むが、鋭い爪に血を流したゴブリンに塞がれた。
　おじさんは恐怖で顔が強張り、

「何をした……」

「あんたらが悪いのよ」

　次の瞬間、私はおじさんを襲い殺し、家の中にあったスマホと大量の現金が入ったボストンバックを奪って、逃げ出した。　
　あいつらが悪いのよ。

「ふふふふ。警察に通報なんてするから」

　赤いランプとサイレンの音が暗闇の街に鳴り響く。　
　全力で走っていると、誰かにぶつかってしまう。

「ああああ！」

　街灯の光に照らされ、あまり良くは見えないが金髪の好青年だった。
　意外にも笑みを浮かべ、優しげな声で、温かな手を差し伸べてくれた。
　こんな優しい人と結婚できたら良いとふと思った。

「大丈夫かい？」

「すいません」

　手を取り、立ち上がり、深く頭を下げ、立ち去った。
　相手はどうやらこの暗闇で私のことを見えてはいないらしい。
　でも、早く逃げなくちゃ。
　ボストンバックとスマホをすぐさま、取って立ち去る。

「待って？　忘れ物？」

「すいません」

「あっ」

　青年は忘れ物と呼び掛けたが、わたしは混乱していたのか、行ってしまった。
　その忘れ物はゴブミの母が人間から盗んで、大切に愛用していた、いわば形見のネックレスだ。
　けれど、その大切な物を置き忘れていたことを彼女は気づくことすら出来ず、闇の中に消えて行った。