あそこにいる公爵令嬢は、実は脱走してきたゴブリンです

3章最悪な旅行

2章8話いない子供達

　私は恐る恐る、一階へ降りる。
　壁に備えつけのランプの一部が壊れ、明かりが消えている。
　クロムはどの部屋に行ったのかしら。
　すると、扉が開放された、明かりが漏れた寝室を見つけ、中を覗く。
　そこには、血が床中に蔓延していた。
　私は短い悲鳴を上げ、思わず口を押さえ嗚咽を漏らす。

「うぅ」

　すると、廊下の奥から物音がして、悲鳴がして、壁を鈍器な物で殴る音がした。

「クロムいるの！」

　すると、明かりが漏れた部屋から人影が闇の方へ去って行くのが見えた。
　私は急いで、その部屋へ行き、中を覗くと、クロムが額に血を流して、横たわっていた。

「クロム！」

　駆け寄り、息や脈があるかどうか確認する。
　どうやら、死に至ってる訳ではないようだ。
　クロムは意識朦朧としながら、

「……君を狙ってる」

「え？」

　クロムはそう意味深なことを言い残し、気絶した。

「しっかり！　しっかり！　しっかり！」

　その時、背後に足音と影を感じた。
　振り返ると、そこには黒い装束を纏った白い仮面の二人がナイフを向けて、立っていた。
　ナイフを振り回し、低い、脅す声を発した。

「ミアだな？」

「誰？」

「ふふふ……悪いがお前にはここで死んでもらう。あらぁぁぁぁぁぁぁぁ！」

　ナイフは勢い良い余って私の肩を掠める。
　私の肩に血傷が帯びた。
　ギロリと黒い眼光が振り返り、再度襲いいかる。
　しかし、

「ううっ」

　突如、その仮面の男は気を失い、崩れ落ちた。
　すると、もう一人の仮面の男が私を襲ってきたが、顔面に分厚い木の棒が直撃して、倒れた。
　私は茫然自失で、見上げるとそこには銀色のマッシュルーム髪の男がいた。
　鼻の下にほくろがある彼は間違いなく、スルガ。

「ミア怪我は大丈夫？」

「ええ。大丈夫よ」

「どれ、思ったよりも深いな」

「それよりも、この仮面の人達は誰なの？」

　スルガはそいつらから仮面を取り、険しい表情をした。

「こいつらは家のものだ。しかも、執事支配人ギルバートの従者だ」

「なんで……」

「話を聞く必要がある」

　その時、火災警報機が奥の廊下で鳴り響く。
　そして、微かな黒い煙が迫ってくる。

「火事だ。早く出ろ！」

　そして、私達はクロムを抱えて、外へ出た。
　別荘は炎が無いものの、黒色の煙が窓からどんどん出ていて、燃え上がるのも時間の問題だ。
　すると、私はあることに気づいてしまう。
　レイカ、オリビア、キルギスがまだ家から出てきてないことに。

「レイカがいない。行かなくちゃ」

「何だって？」

　苛立ちと困惑するスルガ。

「君はここで、待ってるんだ。レイカは僕が連れ戻す」
　
「駄目よ。おそらく、オリビアとキルギスは火事があった一階にいる。レイカは二階。二手に別れないと助けられない」

「……そうか。分かった。その二人は僕が助けに行く。だから、レイカを頼めるかい？」　　

「いいわ」