時空魔術操縦士の冒険記

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2章ダンジョンへ向かおう

ヤマアラシ2

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   だが、異様な状態だ。警戒する皆。
 真っ赤になったヤマアラシが叫ぶ、絶叫なのか咆哮なのか分からない。

「ゲゲゲゲゲゲギャァァァァァァァァ!!!!」

 誰かが叫ぶ。

「紅葉《コウヨウ》だぁぁぁぁぁぁ!!!! 一旦ひけぇぇぇぇぇ!!!! ひけ! ひけ! ひけー!!!!!」

 全ての魔戦、負傷操縦士に退却が命じられる。
 皆に緊張が走る。
 デオデオさんが恐ろしい顔で、目を見開く。
 一瞬、時が止まったような錯覚に陥った。
 それは、ヤマアラシの全身から暴れる爆風が発生し、更に恐ろしい数の落ち葉が上空で乱舞、赤や緑や黄色の彩りの良き葉が楕円形の球体となる。

「あれを食らえば……我々は死ぬでしょう……あれは普通の落ち葉ではない。あの驚異の回転数、高密度になった魔力の落ち葉、瀑布と共に降り注げば、魔戦ごと破壊し、我々の皮膚、細胞すらも切り刻んでしまう」


「嘘だろう」

「元上層の異世界神……古帝《マモノス》と並ぶ強さを持つ異世界神……わたくしは覇山嵐ヤマアラシの方が強いと思っています」

 デオデオさんは真剣に言葉を発した。
 その時、デイトナ王国の方角から何本の鎖が放たれ、ヤマアラシに突き刺さる。
 更に200階層の方角からも何本の鎖が放ち、ヤマアラシに突き刺さり、肉まで食い込む。
 まるで意志を持って動いているかのように深く食い込む。
 更なる増援で完全にヤマアラシの自由を奪う。

「ゲゲゲゲゲゲギャァァァァァァァァ!!!!」

 だが、紅葉の球体が抑まる気配はない。
 更に大きくなり、放たれようした瞬間。
 直後、一斉に白騎士《シュナイゼル》の集団が剣と盾を持ち、山嵐を全方位を包囲。
 いつのまにかシルバディウスの後ろにも待機していた白騎士。

 そして、ヤマアラシに剣を突き刺し、「攻撃制止《キャンセラー》!!!!」

 瞬間、紅葉の球体がだんだんと小さくなり、収束していく。
 安堵の声や歓喜の声が辺りに漏れる。
 デオデオもほっと胸をなで下ろした。
 この白騎士達、はデイトナ王国の騎士団だろう。
 右胸にデイトナのエンブレムである十字架が描かれている。
 さすがだ。
 攻撃制止は対異世界神用の技。
 攻撃を一瞬で止める技。こんな最強技を扱えるなんて凄い。
 しかし、安堵したのも束の間、ヤマアラシはまたしても攻撃の合図とも取れる咆哮をする。
 さすがに、このしぶとさに、なんなんだよこいつはと全員が苛立ちを吐く。
 真っ赤になった山は全身で駒のように回転し始める、繋がれた鎖がねじ曲がる。
 白騎士達はしっかりと鎖を掴み、それを抑える。

「ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!」

 が、鎖がミシミシと、複雑に絡まり合った鎖が、歪な圧力で、引きちぎれる兆候が現れる。
 次の瞬間、鎖を掴んでいた白騎士達が上空へ舞い上がり、綺麗に空中で浮かぶ。
 圧倒的な力によって。
 そして、一気にギアを上げるように、ヤマアラシは頭部を地面にねじ込み、本格的に高速回転をする。
 山針で鎖で繋がれた白騎士達をぶっ刺していく。   
 悲痛な叫び声が聞こえる。

「あぁぁ!! きゃぁぁあ!! ぎゃぁぁぁぁ!!」

 すると、あらぬ方向へ白騎士達は吹き飛び、針を何本か刺された白騎士らは地面に叩きつけられた。
 バタバダバダバダと鳴り響き、立ち上がっていく者はいなかった。
 鎖で攻撃した事自体が悪手となった白騎士達。
 まさか、自らの命を奪うことになるとは誰が想像したか。
 ロペスが叫ぶ。

「クソガァァァァァァァ!!!!」

 デオデオは絶望の表情で、声を漏らす。

「我々は間違っていた。絶対に自然に刃向かってはいけない」

 そのまま、ヤマアラシは前方へ大きく跳び、その行き先はデイトナ王国だった。
 これはまずいぞ。
 その合間に砲弾戦車が砲弾を直撃させたが、ヤマアラシは針金の尻尾で弾き、全く効かなかった。
 絶望の表情をする皆。
 嘆きや悲しみ。

「無理だ!! これは無理だ!! 死にたくない!!」

 そして、デオデオは絶望を殺し、意を決して、即座に叫ぶ。

「デイトナ王国の民に最大級緊急避難命令を出す!! 即時にデイトナ王、シャルマン様に連絡を入れろ!!!!」
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