60 / 177
1章魔獣になりましょう
60話羊の呪われた運命
しおりを挟む
弱い者が強くあろうと必死で足掻こうとしているのに、なぜいつまで経っても報われない。
置き場のないそんな悔しさをどうすれば良いか分からず、咄嗟に掴んだ草を放り投げることで解消しようとする。
だが、それは些細な解消に過ぎず、そんな物に当たるしかない自分に余計に惨めさを感じるだけだった。
けれども、ここで後悔しながら、立ち止まっている暇はない。
なぜなら、失った仲間の仇を、道半ばの野望を、カエラの優しい心をここで砕け散って終わらせてはいけない。
その間に、炎の村からまた一体誰かがやってきた。
それはクリーム色の髪をした少女、顔面から血を流し、死にそうな絶望の表情。
カエラの娘であるシエラに違いない。
すぐさまアタマカラの元へ視線を向けた。
そこに人間の憎しみ、魔獣の憎しみ、憎しみの殺意はない。
ただあるのは、家族を必死で探す少女。
か細く、消え入りそうな声で話す。
最初に出会った時の表情と声が鮮明に蘇る。
「お母さん……ミエはどこ……」
「ミエは連れて行かれた……カエラさんは追いかけて行ったそうだ」
「うっ…………どうして……どうして……どうしてなの」
彼女は絶望の表情で、崩れ落ち、凍った青色の瞳からすっと流れる一筋の涙。
そして、胸が苦しくて、嗚咽を漏らす、涙はとめどなく流れ、泣き叫ぶ。
その間にも消えない炎は村を全て焼き尽くし、その波は全てを呑み込もうと、二段上な丘や傾斜の緩やかな草原に侵入し、あちらでは起伏のある山ですらも完封なきまでに埋め尽くす。
逃げ遅れ、行き場を失い、絶叫する子を抱えた母を一瞬で引きずり込み、やがて、怪物の如し炎が創造され、天にうねりを上げ、下がると同時に飛沫を上げる、炎の海と化した。
涙に疲れたシエラは独り言のように、声を漏らした。
「もう終わりね……私は……もう疲れた。きっと羊族の呪われた運命は変わることはない。これからも、永遠に」
すなわち羊族の決められた運命は家畜として最期を遂げること。
家畜?
いや、そんな生易しいものではないだろう。
蹂躙され続ける奴隷として扱われ、使えなければ、捨てられ、食われる存在。
アタマカラは何か言葉を掛けようとするが、思い浮かばず、黙るしかない。
呪縛を背負った羊族に人間のような感情を持て、いずれその呪縛を取り払うことができる、だから希望を捨てるなと果たして言えるのか。
無力な、仲間も救えず、恐熊にすら勝てない自身にそんな身勝手なことを言える訳がない。
なら自身に何が出来るというのか?
その羊の呪縛を一緒に背負って、一緒に立ち向かってやることしか出来ない。
結局、あれこれ考えても仕方がないのではないか。
ただ、自身に幻滅し、挑戦への意欲を失うだけだ。
弱いだの、出来ないだの、仲間をすくえないだの、ぐだぐだ言ってても無駄なこと。
またしても以前の自身に戻ってしまうところだった。
結局は何かしたいなら行動しろだ。
「シエラ! 今すぐカエラさん、ミエを助けに行こう」
「無理よ」
「カエラさんとミエはお前の家族だろ?」
「……」
「ああ、そうか。行きたくないなら来るな。俺だけで充分だ。お前みたいな薄情なしがいても邪魔だからな」
アタマカラの人間じみた、芝居じみた叱責はさもおかしかっただろう。
しかし、優しさだけは感じたに違いない。
シエラは黙り、ただ視線を背けた。
憎しみしかない自身は優しさから逃げるようにして。
置き場のないそんな悔しさをどうすれば良いか分からず、咄嗟に掴んだ草を放り投げることで解消しようとする。
だが、それは些細な解消に過ぎず、そんな物に当たるしかない自分に余計に惨めさを感じるだけだった。
けれども、ここで後悔しながら、立ち止まっている暇はない。
なぜなら、失った仲間の仇を、道半ばの野望を、カエラの優しい心をここで砕け散って終わらせてはいけない。
その間に、炎の村からまた一体誰かがやってきた。
それはクリーム色の髪をした少女、顔面から血を流し、死にそうな絶望の表情。
カエラの娘であるシエラに違いない。
すぐさまアタマカラの元へ視線を向けた。
そこに人間の憎しみ、魔獣の憎しみ、憎しみの殺意はない。
ただあるのは、家族を必死で探す少女。
か細く、消え入りそうな声で話す。
最初に出会った時の表情と声が鮮明に蘇る。
「お母さん……ミエはどこ……」
「ミエは連れて行かれた……カエラさんは追いかけて行ったそうだ」
「うっ…………どうして……どうして……どうしてなの」
彼女は絶望の表情で、崩れ落ち、凍った青色の瞳からすっと流れる一筋の涙。
そして、胸が苦しくて、嗚咽を漏らす、涙はとめどなく流れ、泣き叫ぶ。
その間にも消えない炎は村を全て焼き尽くし、その波は全てを呑み込もうと、二段上な丘や傾斜の緩やかな草原に侵入し、あちらでは起伏のある山ですらも完封なきまでに埋め尽くす。
逃げ遅れ、行き場を失い、絶叫する子を抱えた母を一瞬で引きずり込み、やがて、怪物の如し炎が創造され、天にうねりを上げ、下がると同時に飛沫を上げる、炎の海と化した。
涙に疲れたシエラは独り言のように、声を漏らした。
「もう終わりね……私は……もう疲れた。きっと羊族の呪われた運命は変わることはない。これからも、永遠に」
すなわち羊族の決められた運命は家畜として最期を遂げること。
家畜?
いや、そんな生易しいものではないだろう。
蹂躙され続ける奴隷として扱われ、使えなければ、捨てられ、食われる存在。
アタマカラは何か言葉を掛けようとするが、思い浮かばず、黙るしかない。
呪縛を背負った羊族に人間のような感情を持て、いずれその呪縛を取り払うことができる、だから希望を捨てるなと果たして言えるのか。
無力な、仲間も救えず、恐熊にすら勝てない自身にそんな身勝手なことを言える訳がない。
なら自身に何が出来るというのか?
その羊の呪縛を一緒に背負って、一緒に立ち向かってやることしか出来ない。
結局、あれこれ考えても仕方がないのではないか。
ただ、自身に幻滅し、挑戦への意欲を失うだけだ。
弱いだの、出来ないだの、仲間をすくえないだの、ぐだぐだ言ってても無駄なこと。
またしても以前の自身に戻ってしまうところだった。
結局は何かしたいなら行動しろだ。
「シエラ! 今すぐカエラさん、ミエを助けに行こう」
「無理よ」
「カエラさんとミエはお前の家族だろ?」
「……」
「ああ、そうか。行きたくないなら来るな。俺だけで充分だ。お前みたいな薄情なしがいても邪魔だからな」
アタマカラの人間じみた、芝居じみた叱責はさもおかしかっただろう。
しかし、優しさだけは感じたに違いない。
シエラは黙り、ただ視線を背けた。
憎しみしかない自身は優しさから逃げるようにして。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる