転生したらダンジョン雲になった訳

2章英雄と龍魔王

招集礼状

「50000ゴールドか、全然貯まらない」

「お金貸してあげようか？」

「いや、それ悪いから駄目だ。居候の身で金までせびるろくでなしにはなりたくはない」

　まあ、以前のニート時代の俺だったら親にせびっていたの間違いないが。
　イリスの邸宅にあるリビングの一室で、アタマカラは彼女に対して、頑なに首を振った。
　すると、右側のソファーで、テーブルに足を乗せながら、何の遠慮も無しに高級茶菓子のスティックビスケットをボリボリ食べながら、口を挟む。

「貧乏人の癖に変なプライド持ってるね……アタマは」

「それでな……イリス」

「借りて、逃げちゃえば。アタマはそんくらいの度胸あると思ったけどな」


「んっ……イリスちょっと待ってくれ。フレッド……あの……アタマって呼ぶの止めてくれ、馬鹿にして聞こえるから」

「えー？　じゃアタマカラ？　長いから面倒くさいね。それにアタマもアタマカラも変な名前なのは変わりないじゃないか」

「確かにな」

　アタマカラの落胆した様子に、イリスもクスッと笑う。
　フレッドもその細い両眼で、その一瞬を見逃さない。

「ほら、イリスちゃんだって、変な名前だと思ってるらしい」

「いや、私は……」

「ハハハ……もういいって、そういうのは正直に言っちゃいな」

　アタマカラはフレッドが今度は瞬きを多めになるイリスを虐め始めたので、フレッド追及の話題に転換する。

「フレッド。ところで、お前の方はどうなんだ？」
　
「どうって？」

「なんでイリスの家にいるんだ？」

「あの豚全部燃やしたからさ、親父怒っちゃって、家追い出されたんだ。そして、幸運にも家が見つかった訳さ」

　呆れるしかないだろう。

「イリスに承諾取ってないじゃないか？」

「あれ？　そうだっけ？」

　惚けた表情をするフレッド。
　そこで、イリスが神妙な面持ちで、声を発する。

「私が全部豚燃やしてしまったから……フレッドさんに迷惑が掛かった……ごめんなさい。だから、償いとして部屋を貸し、豚の代金弁償します」

　やはり、責任を感じていたのか。
　いや、イリスは悪くはない。
　それを感じ取ったのはフレッドも同様なようだ。

「イリスちゃん気にすることないよ。部屋は泊まらせるだけで良いからさ。そして、豚の弁償はアタマがやるからさ」

　フレッドはアタマカラの肩を寄せ、陽気に笑う。