ファンファーレ!

ほしのことば

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第1章:プロローグ

1.プロローグ

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いつもより風の音が大きく聞こえる気がする。

必要あるのかと疑問に思うほど大きな窓から無限に広がる海を見つめる。ここは地元から少し離れた大きな病院。ほんの数分前に告げられた、私の生命の消費期限。

「末期の癌ですね。手術での回復は見込めません。何もしなければ余命はだいたい一年程でしょうか。これから投薬や点滴で、少しでも長く生きられるように療養していきましょう。」

その言葉を聞いた時、私はほか事を考えていたのか、なんだかぼんやりとしていた。
隣にいた家族がザワついて、やっと話が聞こえてきた。なんとなく状況を理解しただけの私から咄嗟に出た言葉。

「しません」

家族もお医者さんも呆気に取られた顔をしている。

「延命とか、大丈夫です。」

追い打ちをかけるように私は繰り返した。
最初は驚いた顔をしていたお医者さんも、私がぼんやりした顔をしていたから適当なことを言っていると思ったらしく、表情を優しい笑顔に変えた。

「そうかそうか。君の気持ちは分かったよ。一度、ご家族の方と話させてくれるかな」

そう言って診察室から追い出されてしまって今に至る。

冷静になってみれば、私はまだ若いのだし、もうちょっと頑張っても良かったのかなぁと思ったりもする。だけど、癌の治療って絶対辛いし、頑張っても治るわけじゃない。それなら短い期間でも自由に過ごしたいと思った。

押したり引いたりする波が、それで大丈夫だよって言っているように感じて、私は海が見えるそこから動くことが出来なかった。

毎日なんとなく生きていて、特別嫌なこともなければ特別楽しいことも無かった。些細なことで幸せを感じることも出来たけど、そんな小さなことで幸せだと思う自分を惨めだと思う日なんかもあった。

女性らしいというよりかは中性的な容姿をしていて、異性より同性にモテた。更に面倒見のいい私は、みんなのお姉ちゃん?お兄ちゃん?みたいな扱いでよく頼られたけど、実際はそうたくましくも無い。

いつもぼんやりとした原因不明の不安に包まれている。冗談で自分を卑下して周りを盛り上げながら、そんなことでしか笑いを取れない自分に虚しさを感じていた。別に生きててもなぁと思いながら、その度に「いや、でもいつか死ぬからいいや」と思って諦めてた。

だから、その時が思いのほか早く来たってだけで悲しくもなんともなくて、むしろラッキーだとも感じる。ここで泣けるくらい、本気で人生を送ってくるべきだったのだろうか。

サーっと静かに音を立てる海の青さとか広さとかに、心をゆっくりと動かされたような時間だった。ぼんやりと海を眺めながら自分の人生を振り返ってみる。

私ってなんか頑張ったことあるのかなと、ふいに疑問に思った。すると、波の動きが段々と私を挑発しているように見えてきて、私はなんだか無性に何かをしたくなった。座ったまま、少し前のめりになって考える。

私は何がしたいだろう。

叶えられてないことをしよう。
例えば、友達と遊ぶこととか?うんうん、これはマストだ。旅行に行きたいな。家族としか行ったことないから、友達とも行ってみたいし、思い切って一人旅とかもしてみたい。あ、高校のテストで一位とかとっちゃおうかな。今まで中の中といった具合で、別に何か目標を立てて勉強するとかしてこなかったから、そういう目標を立ててみるのもいいな。あとは、恥ずかしくて出来なかった、文化祭での有志発表。歌うことが好きだから、歌を披露してみたいな。

どうせすぐ終わる人生だと思えば、なんだって出来る気がした。

無欲だと思っていた自分から、思いのほかポンポンとやりたいことが出てきたので驚いた。海がまた大きく動いた。よし、こうなったら残りの一年、人生で一番充実した一年にしてやる。
死ぬ時に後悔するような年にはしたくない。

「ユキ…」

お医者さんとの話が終わったのか、両親が私の元へ戻ってきた。顔いっぱいに不安が貼りつられている。母が、恐る恐る切り出した。

「治療、本当にいいの?」

父はとなりで、俯きがちで黙っている。
胸を締め付けられながら、私は顔を笑顔でいっぱいにして頷いた。

「うん、私決めたんだ。残りの一年、やりたいこといっぱいやるから!」

私の心の中ではファンファーレがなって、死へのカウントダウンが始まったというのに、まるでスタートダッシュをきったようだった。今までにないくらいの熱気を放つ私をみて、両親は嬉しそうで、でもとても寂しそうな顔をしていた。
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