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第一章:獲物と番犬~二つの純粋を穢す調律~
第三話:清廉なる治癒師の陥落
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三日が経った。その間、俺はミランダを存分に弄び、新しい獲物への欲望を、支配の快楽に変えて満たし続けていた。ミランダの絶対的な服従と、これから始まる新たな調律への期待が、俺の冷酷な心を穏やかに昂ぶらせていた。
修理を終えた治癒師のローブは、俺の作業台の上で静かに待っている。弱まった『軽量化の魔術』は完璧に修復した。そして、その横には、『狂愛の付与術』が込められた銀の指輪が、無垢な光を放ちながら鎮座している。
昼下がり、店の扉が再び開かれた。
「ヴァリスさん、修理は終わりましたか?」
リーゼが、鈴を鳴らすような声で尋ねてきた。その隣には、当然のようにイザベラが控えている。鉄板のような表情の番犬は、警戒心に満ちた視線をカウンターの俺に突き刺している。
「お待ちしておりましたよ、治癒師さん。ええ、完璧です」
俺はローブをカウンターに置いた。イザベラが鋭い目でローブを検分する。俺の付与術の腕は確かなので、魔術的な瑕疵など見つかるはずもない。
「問題ないわね。それで、代金は?」
イザベラは金貨の入った革袋を構え、即座に事を終わらせるつもりだ。しかし、そう簡単に、俺の獲物を手放すつもりはない。
「お待ちください、騎士さん。私はただの修理屋ではない。ここは魔導具店です」
俺は静かに笑い、ローブの横に指輪を置いた。
「このローブは、あなた方の命を守る重要なもの。そして、これを使うあなたの心は、もっと大切にされるべきものだ」
俺はリーゼに視線を向けた。彼女の大きな瞳が、その指輪と、俺の言葉に惹きつけられているのがわかる。
「これは、サービスです。**『心の安定』**の付与術を施した、お守りの指輪です」
俺は指輪をそっと押し出した。
「あなたはあまりにも純粋で、他人の感情に敏感すぎる。その優しさが、いずれあなた自身の心を病ませるでしょう。これは、あなたが心を乱されず、自分を愛してくれる存在を信じられるように、私が祈りを込めたお守りです」
完璧な虚偽だ。俺の口から出る「祈り」や「優しさ」といった言葉は、全て支配の毒を包む蜜。
リーゼは指輪を見つめ、瞬きを繰り返した。
「心の安定、ですか…私、最近、少し、自信がなくて…」
やはり、自己肯定感が低い。イザベラのような強靭な精神を持つ仲間がいるにも関わらず、リーゼは自分の存在価値を他者の愛情に求めている。
「リーゼ、受け取っちゃだめよ」
イザベラが静かに、しかし有無を言わせぬ強い口調で制した。
「わけのわからない魔導具なんて、信用できないわ。治癒師なら、自分の心は自分で律するものよ」
番犬の警戒心が、最も高まっている瞬間だ。だが、その友情の絆さえも、**『狂愛の付与術』**の前には無力に等しい。
俺はイザベラを一切見ず、リーゼの瞳だけを見つめた。
「お守りです。対価は求めません。ただ、信じること。それが、この指輪に込められた唯一の約束です」
俺は、リーゼの心に潜む「誰かに愛されたい」という切実な願いを、その言葉のナイフで抉り出した。
リーゼは迷った。親友であるイザベラの強い制止。そして、俺という異質な存在の、甘い囁き。その葛藤の隙間に、俺の毒が入り込む。
「イザベラ、でも…この指輪、なんだか、すごく温かい気持ちがするの」
リーゼはそう言うと、イザベラの制止を振り切り、指輪を手に取った。
そして、その瞬間。
リーゼが指輪を右手の薬指に嵌めた瞬間、魔術が発動した。
俺には見えないが、彼女の魂の核で、何かが激しく燃え上がったことを確信した。彼女の大きな丸い瞳が、一瞬、激しく見開かれ、そして、その焦点は俺という一点に、狂おしいほどの熱を込めて集中した。
その瞳に映るのは、もはや店主ヴァリスではない。彼女の心の隙間を、絶対的な光で満たした、愛の救世主だ。
リーゼの呼吸が、大きく乱れた。その可憐な胸が激しく上下する。そして、両頬は、たちまち熱に浮かされたように赤く染まり、全身が微かに震えだした。
「あ…ぁ…」
彼女は、何かを求めて言葉を探しているようだった。そして、その震える唇から漏れ出たのは、狂信的な感情だった。
「ヴァリス様…っ」
その呼びかけは、彼女の親友であるイザベラに向けてのものではなかった。それは、俺を神と崇めるミランダが、夜の帳の中で漏らす甘い吐息に似ていた。
イザベラの表情が、驚愕と怒りと恐怖で、一瞬にして凍り付いた。
「リーゼ!?どうしたの、その指輪…!」
イザベラがリーゼの腕を掴んだが、リーゼはそれを振り払った。まるで、汚いものに触れられたかのように。
「触らないで、イザベラ。この方は…私の全てを満たしてくれる方なの…!」
リーゼは、真っ直ぐに俺を見つめ、その瞳には純粋な恋慕ではなく、盲目的な狂信が宿っていた。
俺の征服欲は、頂点に達した。この清廉なる治癒師の魂は、今、完全に俺の白濁した欲望に囚われた。
「代金はいらない。この指輪こそが、私への対価だ」
俺は、イザベラの凍りついた顔を見ながら、冷酷にそう言い放った。
「リーゼは、もう二度とあなたには戻らない。彼女の愛は、永遠に俺のものだ」
番犬の牙は、既に毒によって無力化された。次は、この番犬の誇りを、快楽と絶望で打ち砕く番だ。
(続く)
修理を終えた治癒師のローブは、俺の作業台の上で静かに待っている。弱まった『軽量化の魔術』は完璧に修復した。そして、その横には、『狂愛の付与術』が込められた銀の指輪が、無垢な光を放ちながら鎮座している。
昼下がり、店の扉が再び開かれた。
「ヴァリスさん、修理は終わりましたか?」
リーゼが、鈴を鳴らすような声で尋ねてきた。その隣には、当然のようにイザベラが控えている。鉄板のような表情の番犬は、警戒心に満ちた視線をカウンターの俺に突き刺している。
「お待ちしておりましたよ、治癒師さん。ええ、完璧です」
俺はローブをカウンターに置いた。イザベラが鋭い目でローブを検分する。俺の付与術の腕は確かなので、魔術的な瑕疵など見つかるはずもない。
「問題ないわね。それで、代金は?」
イザベラは金貨の入った革袋を構え、即座に事を終わらせるつもりだ。しかし、そう簡単に、俺の獲物を手放すつもりはない。
「お待ちください、騎士さん。私はただの修理屋ではない。ここは魔導具店です」
俺は静かに笑い、ローブの横に指輪を置いた。
「このローブは、あなた方の命を守る重要なもの。そして、これを使うあなたの心は、もっと大切にされるべきものだ」
俺はリーゼに視線を向けた。彼女の大きな瞳が、その指輪と、俺の言葉に惹きつけられているのがわかる。
「これは、サービスです。**『心の安定』**の付与術を施した、お守りの指輪です」
俺は指輪をそっと押し出した。
「あなたはあまりにも純粋で、他人の感情に敏感すぎる。その優しさが、いずれあなた自身の心を病ませるでしょう。これは、あなたが心を乱されず、自分を愛してくれる存在を信じられるように、私が祈りを込めたお守りです」
完璧な虚偽だ。俺の口から出る「祈り」や「優しさ」といった言葉は、全て支配の毒を包む蜜。
リーゼは指輪を見つめ、瞬きを繰り返した。
「心の安定、ですか…私、最近、少し、自信がなくて…」
やはり、自己肯定感が低い。イザベラのような強靭な精神を持つ仲間がいるにも関わらず、リーゼは自分の存在価値を他者の愛情に求めている。
「リーゼ、受け取っちゃだめよ」
イザベラが静かに、しかし有無を言わせぬ強い口調で制した。
「わけのわからない魔導具なんて、信用できないわ。治癒師なら、自分の心は自分で律するものよ」
番犬の警戒心が、最も高まっている瞬間だ。だが、その友情の絆さえも、**『狂愛の付与術』**の前には無力に等しい。
俺はイザベラを一切見ず、リーゼの瞳だけを見つめた。
「お守りです。対価は求めません。ただ、信じること。それが、この指輪に込められた唯一の約束です」
俺は、リーゼの心に潜む「誰かに愛されたい」という切実な願いを、その言葉のナイフで抉り出した。
リーゼは迷った。親友であるイザベラの強い制止。そして、俺という異質な存在の、甘い囁き。その葛藤の隙間に、俺の毒が入り込む。
「イザベラ、でも…この指輪、なんだか、すごく温かい気持ちがするの」
リーゼはそう言うと、イザベラの制止を振り切り、指輪を手に取った。
そして、その瞬間。
リーゼが指輪を右手の薬指に嵌めた瞬間、魔術が発動した。
俺には見えないが、彼女の魂の核で、何かが激しく燃え上がったことを確信した。彼女の大きな丸い瞳が、一瞬、激しく見開かれ、そして、その焦点は俺という一点に、狂おしいほどの熱を込めて集中した。
その瞳に映るのは、もはや店主ヴァリスではない。彼女の心の隙間を、絶対的な光で満たした、愛の救世主だ。
リーゼの呼吸が、大きく乱れた。その可憐な胸が激しく上下する。そして、両頬は、たちまち熱に浮かされたように赤く染まり、全身が微かに震えだした。
「あ…ぁ…」
彼女は、何かを求めて言葉を探しているようだった。そして、その震える唇から漏れ出たのは、狂信的な感情だった。
「ヴァリス様…っ」
その呼びかけは、彼女の親友であるイザベラに向けてのものではなかった。それは、俺を神と崇めるミランダが、夜の帳の中で漏らす甘い吐息に似ていた。
イザベラの表情が、驚愕と怒りと恐怖で、一瞬にして凍り付いた。
「リーゼ!?どうしたの、その指輪…!」
イザベラがリーゼの腕を掴んだが、リーゼはそれを振り払った。まるで、汚いものに触れられたかのように。
「触らないで、イザベラ。この方は…私の全てを満たしてくれる方なの…!」
リーゼは、真っ直ぐに俺を見つめ、その瞳には純粋な恋慕ではなく、盲目的な狂信が宿っていた。
俺の征服欲は、頂点に達した。この清廉なる治癒師の魂は、今、完全に俺の白濁した欲望に囚われた。
「代金はいらない。この指輪こそが、私への対価だ」
俺は、イザベラの凍りついた顔を見ながら、冷酷にそう言い放った。
「リーゼは、もう二度とあなたには戻らない。彼女の愛は、永遠に俺のものだ」
番犬の牙は、既に毒によって無力化された。次は、この番犬の誇りを、快楽と絶望で打ち砕く番だ。
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