契約葬域〈ネクロ・ドミナス〉 —血と誓いが死を招く、黄昏の幻想譚—

ナイトメア・ルア

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プロローグ:契約の棺、開かれる

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 夜空は黒ではなく、灰色に濁っていた。
 星はなく、月は裂けたように光を失っている。
 ここは、世界の“はじまり”ではなく、“終わり”の場所。

 北の極域、《アーゼ=ヴァルム》と呼ばれる不浄の地。
 禁断の契約が結ばれたとされる、世界でもっとも古い祭壇跡だ。

「……時間が来た。目をそらすな。これが、運命だ」

 枯れ木のように痩せた男――〈血の預言者〉カリスが、
 凍土の中心に鎮座する漆黒の棺へと手を伸ばす。
 それは鉄でも石でもない、異質な材質で造られていた。
 生きているかのように脈動し、血のような蒸気を吐き出している。

 何百年も前から、この地にあったもの。
 誰も開けようとはしなかった。否――開けてはならなかった。

「“焔が空を焼き、死者が契る。契約は棺をもって果たされる”……。
 これはただの予言ではない。これは、回帰だ。繰り返す罪だ……」

 カリスの瞳はすでに正気を捨て、何かを“見て”いた。
 棺が軋む音と共に、彼の指先から血が滴る。
 その血が契約の封印を解いた。

 次の瞬間、大気が音を立てて崩れた。

 世界が、揺れたのだ。

 同時刻、遥か南方の王都リヴァンディアでは――
 第一王女セリナ・レオナールが、忌まわしい夢から飛び起きた。

「また……あの夢……」

 額には冷たい汗。胸元で、銀の魔石が微かに脈を打っていた。
 それは代々の王家にのみ継がれる“封印の鍵”。
 本来、ただの装飾品のはずだった。

 夢の中で、彼女は見たのだ。
 燃え上がる王都。惨殺された騎士たち。
 そして、焔の中で立ち尽くす仮面の男が、彼女に言った。

 ――「その命こそが、扉を開く鍵だ」

 意味は、分からない。
 だがセリナは、直感していた。
 何かが、この世界の根底から動き始めている。
 王族としての血が、そう告げている。

 翌朝、王城に届いた密書が、すべてを決定づけた。

 ――《契約の棺》が、開かれた。
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