契約葬域〈ネクロ・ドミナス〉 —血と誓いが死を招く、黄昏の幻想譚—

ナイトメア・ルア

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第一章:焔に刻まれた予言

第三話:封印扉の先、願いのない契り

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 封印扉が、深紅の魔光を吐きながら軋んだ。
 古代の言葉で刻まれた円環の文様が輝き、セリナの手元の魔石が共鳴する。

「姫……それを、扉にかざせ」

 レオンの声は静かだったが、切迫していた。
 すでに背後からは黄昏騎士団の足音が迫っていた。
 鉄と血の臭い。剣を研ぐ音。生きて帰す気など、ない。

「……本当に、いいの? この先には……」

「“答え”がある。この世界がなぜ壊れていくのか、
 王家の血がなぜ狙われるのか――全部、な」

 セリナは躊躇いながらも、魔石を扉へかざした。
 静かな閃光が広がり、扉は音もなく開く。

 中は、広大な聖堂のようだった。
 石造りの柱、崩れかけた天井、壁に浮かぶ魔法文字。
 奥には一つの《祭壇》があり、その中央にあったのは……

 “契約の碑(ひ)”。

 黒曜石でできたその碑は、脈動していた。
 生きているかのように。まるで、呼吸をしているように。

「……これが、“契約”?」

 セリナが近づこうとしたその瞬間――

「姫、下がれッ!」

 レオンが叫ぶと同時に、背後の壁が爆ぜた。
 土煙と共に現れたのは、漆黒の鎧をまとった一団。

 黄昏騎士団。
 その先頭、ヴァルド・ディザールの瞳が、冷たくレオンを射抜く。

「生きていたか、レオン。死人のくせに、よく喋る」

「ヴァルド……まだ王の犬をやっているのか?」

「王命は絶対。契約に触れた者は粛清対象。それだけだ」

 剣が抜かれる音。
 一触即発の空気の中、ヴァルドが無感情に言い放つ。

「王女セリナ・レオナール。あなたには、今ここで“処理”されていただく。
 それがこの世界の理だ。“鍵”に心が宿れば、封印は破綻する」

「勝手に決めないで……! 私は、まだ……何も選んでいない!」

 セリナが叫んだ瞬間、契約の碑が脈動を強めた。
 碑に触れた彼女の指先から、赤い紋様が腕に刻まれていく。

「これは……!」

 レオンが目を見開く。
 それは千年前、神と魔が交わした契約――“契りの刻印”。

 碑が彼女を“選んだ”のだ。

 ヴァルドが剣を振りかざした。
 レオンが飛び出す。剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。

「セリナ、逃げろ! お前をここで死なせるわけには――」

 しかしレオンの肩に、ヴァルドの剣が深く喰い込んだ。

「……ッ、が、は……!」

「騎士の名で、“死”を贈ろう。安心しろ。お前はもう、一度死んでいる」

 血が飛び散り、石床を赤く染めた。

「レオン!!」

 セリナの叫びと同時に、契約の碑が爆ぜた。

 その魔力が空間を歪ませ、黄昏騎士団の兵が後退する。

「魔力暴走……!? 扉が……閉まるぞ!」

「まずい、退け! 祭壇が崩れる!」

 混乱の中、セリナは崩れゆく床の上でレオンを抱き起こす。

「しっかりして……! お願い、死なないで!」

 レオンは血を吐きながら、微かに笑った。

「……逃げろ……“契り”は、始まった……お前は……もう、“選ばれた”……」

 その瞬間、遺跡の天井が崩落し、光と瓦礫が全てを飲み込んだ。
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