聖女姫リュミエールと影の騎士

プロローグ『光の檻の中で』

　城の外には、どんな世界が広がっているのだろう？

　窓辺に座るリュミエール王女は、小さな顎に指を添えて、遠くの空を見つめていた。
　季節は初春。アルセリア王国の空は青く澄み渡り、王城の庭園には白と黄色の小花が咲き誇っている。
　けれどその景色すら、彼女にはもう見慣れたものだった。

「リュミエール様、お茶のお時間です」

　そっと声をかけてきたのは、侍女のセリス。彼女は優しくも、几帳面な性格で、いつもリュミエールのわがままに少し困りながらも付き合ってくれていた。

「ねえセリス、今度こそ城の外に行けないかしら？」
「またそのお話ですか……。王様に叱られますよ」

　ふふ、とリュミエールは微笑む。
　もう何度も同じやりとりを繰り返してきた。

　兄である第一王子――今は騎士団長を務めるレオンとの会話でも、彼女はたびたび城の外への興味を語っていた。

「……なあ、リュミエール。お前はこの城の希望なんだ。外に出ることは、まだ早い」

　レオンの言葉はいつも真剣だった。その分だけ、リュミエールも納得しなければならなかった。
　けれど――

　その夜だった。

　王城の回廊を、黒い影が静かに忍び寄っていた。
　月が雲に隠れた瞬間、空気がふっと冷たく変わる。

　リュミエールの運命が、大きく動き出す夜だった――。