聖女姫リュミエールと影の騎士

第一章『囚われの姫と影の少年』

第4話『闇の少年ノクス』

　ノクスは無口で、無愛想で、何より謎が多かった。

　食事の時間になると彼が鉄格子の外からパンと水を差し出す。
　それ以外の時間はほとんど無言で、リュミエールを見張っていた。

「ノクスって、本当に“あの人たち”の仲間なの？」

「……それがどうかした？」

「なんだか、あなたは“優しすぎる”気がするの」

　その言葉に、ノクスの眉がわずかに動いた。

「……俺は、命令で動いている。それだけだ」

　リュミエールは観察を続けていた。
　ノクスの仕草、表情、目の奥の光――そのどれもが、完全な悪意ではないと告げていた。

　そして数日後、ノクスはぽつりと、信じられない言葉を口にした。

「……お前を、逃がす」

　リュミエールの心臓が跳ねた。

「え……？　どうして……？」

　ノクスは目を逸らし、ただ小さく呟いた。

「“彼ら”の目的は……王国の滅びだ。お前がここにいれば、それが加速する」

　闇の奥で育った少年の中に、小さな“光”が揺らぎ始めていた――。