9 / 14
第二章『風の街と契約の冒険者』
第8話『風の街トゥリスと新たな仲間たち』
しおりを挟む
王都から東へ三日。風車が並ぶ高原の地に、人々の喧騒が渦巻く街があった。冒険者と商人が行き交い、市場には香辛料や獣の毛皮が積まれ、空には白い鳥が舞っている。
そこは《風の街トゥリス》。リュミエールが逃亡の果てにたどり着いた、初めての“外の世界”だった。
「……ここが、トゥリス……」
街の門をくぐった瞬間、リュミエールは圧倒された。王城の外で見る初めての市民の笑顔。活気ある声、異国風の装束。すべてがまぶしかった。
隣を歩く青年――カインは、そんな彼女をちらりと見て言った。
「ここには王国の目は届かない。とりあえず身を隠すにはうってつけだ」
「でも、私……追われているのよ?」
「追われていても、隠れきれればいい。それが“冒険者”のやり方だ」
カインの言葉に、リュミエールは目を見張る。
王城での生活では、“冒険者”はただの伝説の登場人物だった。しかし彼女は、今まさにその現実の世界に足を踏み入れたのだ。
カインは街の広場を抜け、ギルドと呼ばれる建物へ彼女を案内した。
重厚な扉を開けると、中は賑やかな酒場のようだった。あちこちのテーブルで報酬の相談や武器の手入れが行われている。
「よう、カイン。久しぶりだな!」
受付カウンターの奥から現れたのは、筋骨隆々の大男と、小柄な獣人の少女だった。
「紹介する。こいつはベルガン。ギルドで腕利きの斥候だ。そっちはルゥ。魔法の扱いは天才的でな」
「よろしくね、お姫様♪」
「ひ、姫って……」
リュミエールが驚いた様子で固まると、ルゥがいたずらっぽくウィンクした。
「カインに連れてこられる子って、だいたい“訳あり”なのよ」
「お前たちには、隠し事は通じんか……」
カインが苦笑する中、ベルガンが真顔で言った。
「この娘、本当に“聖女姫”なのか?」
「……そうだ」
「じゃあ、なおさら守らないとな。俺たちは“仲間”だ」
そう言って、大男は大きな手を差し出した。リュミエールは一瞬ためらったが、意を決してその手を取った。
――その瞬間、小さくても確かな“つながり”が生まれた。
その夜、宿屋の一室でリュミエールは月明かりを見ながら、そっと呟いた。
「私にも……仲間ができたんだね、ノクス」
影の少年は今、どこにいるのだろうか。
新たな絆と、新たな冒険が、少女をさらに強くしていく。
そこは《風の街トゥリス》。リュミエールが逃亡の果てにたどり着いた、初めての“外の世界”だった。
「……ここが、トゥリス……」
街の門をくぐった瞬間、リュミエールは圧倒された。王城の外で見る初めての市民の笑顔。活気ある声、異国風の装束。すべてがまぶしかった。
隣を歩く青年――カインは、そんな彼女をちらりと見て言った。
「ここには王国の目は届かない。とりあえず身を隠すにはうってつけだ」
「でも、私……追われているのよ?」
「追われていても、隠れきれればいい。それが“冒険者”のやり方だ」
カインの言葉に、リュミエールは目を見張る。
王城での生活では、“冒険者”はただの伝説の登場人物だった。しかし彼女は、今まさにその現実の世界に足を踏み入れたのだ。
カインは街の広場を抜け、ギルドと呼ばれる建物へ彼女を案内した。
重厚な扉を開けると、中は賑やかな酒場のようだった。あちこちのテーブルで報酬の相談や武器の手入れが行われている。
「よう、カイン。久しぶりだな!」
受付カウンターの奥から現れたのは、筋骨隆々の大男と、小柄な獣人の少女だった。
「紹介する。こいつはベルガン。ギルドで腕利きの斥候だ。そっちはルゥ。魔法の扱いは天才的でな」
「よろしくね、お姫様♪」
「ひ、姫って……」
リュミエールが驚いた様子で固まると、ルゥがいたずらっぽくウィンクした。
「カインに連れてこられる子って、だいたい“訳あり”なのよ」
「お前たちには、隠し事は通じんか……」
カインが苦笑する中、ベルガンが真顔で言った。
「この娘、本当に“聖女姫”なのか?」
「……そうだ」
「じゃあ、なおさら守らないとな。俺たちは“仲間”だ」
そう言って、大男は大きな手を差し出した。リュミエールは一瞬ためらったが、意を決してその手を取った。
――その瞬間、小さくても確かな“つながり”が生まれた。
その夜、宿屋の一室でリュミエールは月明かりを見ながら、そっと呟いた。
「私にも……仲間ができたんだね、ノクス」
影の少年は今、どこにいるのだろうか。
新たな絆と、新たな冒険が、少女をさらに強くしていく。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる