聖女姫リュミエールと影の騎士

ナイトメア・ルア

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第二章『風の街と契約の冒険者』

第8話『風の街トゥリスと新たな仲間たち』

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 王都から東へ三日。風車が並ぶ高原の地に、人々の喧騒が渦巻く街があった。冒険者と商人が行き交い、市場には香辛料や獣の毛皮が積まれ、空には白い鳥が舞っている。

 そこは《風の街トゥリス》。リュミエールが逃亡の果てにたどり着いた、初めての“外の世界”だった。

「……ここが、トゥリス……」

 街の門をくぐった瞬間、リュミエールは圧倒された。王城の外で見る初めての市民の笑顔。活気ある声、異国風の装束。すべてがまぶしかった。

 隣を歩く青年――カインは、そんな彼女をちらりと見て言った。

「ここには王国の目は届かない。とりあえず身を隠すにはうってつけだ」

「でも、私……追われているのよ?」

「追われていても、隠れきれればいい。それが“冒険者”のやり方だ」

 カインの言葉に、リュミエールは目を見張る。

 王城での生活では、“冒険者”はただの伝説の登場人物だった。しかし彼女は、今まさにその現実の世界に足を踏み入れたのだ。

 カインは街の広場を抜け、ギルドと呼ばれる建物へ彼女を案内した。

 重厚な扉を開けると、中は賑やかな酒場のようだった。あちこちのテーブルで報酬の相談や武器の手入れが行われている。

「よう、カイン。久しぶりだな!」

 受付カウンターの奥から現れたのは、筋骨隆々の大男と、小柄な獣人の少女だった。

「紹介する。こいつはベルガン。ギルドで腕利きの斥候だ。そっちはルゥ。魔法の扱いは天才的でな」

「よろしくね、お姫様♪」

「ひ、姫って……」

 リュミエールが驚いた様子で固まると、ルゥがいたずらっぽくウィンクした。

「カインに連れてこられる子って、だいたい“訳あり”なのよ」

「お前たちには、隠し事は通じんか……」

 カインが苦笑する中、ベルガンが真顔で言った。

「この娘、本当に“聖女姫”なのか?」

「……そうだ」

「じゃあ、なおさら守らないとな。俺たちは“仲間”だ」

 そう言って、大男は大きな手を差し出した。リュミエールは一瞬ためらったが、意を決してその手を取った。

 ――その瞬間、小さくても確かな“つながり”が生まれた。

 

 その夜、宿屋の一室でリュミエールは月明かりを見ながら、そっと呟いた。

「私にも……仲間ができたんだね、ノクス」

 影の少年は今、どこにいるのだろうか。

 新たな絆と、新たな冒険が、少女をさらに強くしていく。
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