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ギフト
危険な仕事
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「ん!? 空間を、超え!?」
「はい。ここは凛子さんの暮らす世界とは別の空間、異世界です」
「えええ!?」
「ここは色々と、だいぶ違うでしょう?」
にっこりと微笑むミルゼ。
――ま、まさかそんな非現実的な!
しかし、すでにすべてが非現実的だった。非現実的な事柄ばかりの世界では、非現実的なことを認めることが逆に現実的なのかも――。凛子はとりあえず、ここではありえないことを受け入れるほうが自然なんだ、そう考えることにした。
「そ、そっか……。だからありえないことばかりなんだ……。そうだよね。景色も全然違うし、夢の中の人と話をしているなんてあるわけないし、角の生えた人間だっているわけないもの」
いったん認めてしまえば、案外楽だった。凛子は、これでは学校に遅刻したって仕方ないや、異世界に行ってたというのなら、先生も親も私の良心も、ついでに無遅刻無欠席だった私のプライドだって、まあそういうことならしょうがないよねって許せるだろう、とわけのわからない納得までしていた。
凛子はレモングラスの香りのするお茶を飲んでみた。すっきりとした中にほのかに感じる甘さ。ちょうど凛子の好みに合っていた。
「……それで、いったいどういう契約なの? どうして私はすっかり忘れてしまっているの? 本当に、私は契約に承諾していたの?」
「ええ。もちろん、凛子さんは承諾してくださいました。忘れているのは、契約を交わした部屋が、こちら側とあちら側の二つの空間の間の不安定な場所だったから、空間移動が初めての凛子さんには負荷がかかってしまったためでしょう」
――二つの空間の間の不安定な場所……ああ。あの大きな窓から月が見える部屋――。
「……仕事の内容は?」
ミルゼは辺りを見回す。近くに人がいないのを確認する。それから力強い瞳で凛子を見つめた。そして一呼吸置き――、ゆっくりと口を開いた。
「……ざっくばらんに申し上げますと――、キノコ採りです」
「えっ!?」
凛子はまた椅子から落ちそうになった。
「キノコ採りとは山に自生しているキノコを採取してくることです」
「キノコ採りの意味はわかるわよ!? なんで、なんで私がキノコ採り!?」
わざわざ異世界というわけのわからないところに連れてこられた理由がキノコ採り――籠をしょって山に登っておいしいキノコを採ってくる――どう考えても凛子の将来の夢ややりたいことと結び付くとは思えない。ありえないにも程がある、と凛子は思った。そして今ミルゼはなんのために周囲を気にしたのだろう、と凛子は疑問に思う。別に人に聞かれてまずい話でもあるまいに――。
「とても難しいのです」
「えっ?」
「このキノコ採りは」
「難しいって……?」
険しい山なのだろうか、それとも毒キノコと判別が困難ということなのだろうか――。凛子は首をかしげる。
「……ドラゴンがいます」
「ど、どらごん!?」
意外なミルゼの言葉に凛子は絶句した――、神話や物語に出てくる、あのドラゴン!?
「ドラゴンは、時折村や町まで来て人を襲います」
「そっ! そんな危険な……!」
「いずれは誰かが退治しなければなりません。そして月や星の運行を読み解くと、ちょうどここ一週間がドラゴンの脱皮の時期、活動が鈍っているチャンスの時期なんです。キノコ採りの、千載一遇の好機なのです」
「だからといって、どうして……」
「私たちが採取しようとしているキノコは大変貴重な薬となる高価なキノコです。ですがそのキノコが自生している場所はドラゴンの住処になっているのです――。というより、そのキノコはドラゴンの呼気を好んで養分としているので、ドラゴンがいる場所にキノコが繁殖しているのですが――。だからこれは大変困難な仕事です」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
まず、ドラゴン、というのがいただけない。いくら異世界だって、そんなものが存在するなんて! そしてなんでまたそんな恐ろしい仕事に私が抜擢されるのかも意味がわからない――、凛子はおおいに抗議したい気分だった。
「我々は、凛子さんの力を必要としているのです」
「私の力?」
凛子はとりあえずなんでもソツなく器用にこなせてしまえるほうだった。しかしとりたてて目立った特技や人より秀でた能力はないと自分では思っている。しかも、キノコ採りやドラゴン退治の適正、もしくはドラゴンの目をかすめてキノコを採る才能――そんな適正や才能が果たして世の中に存在するのだろうか――があるとは到底思えない。
――私になんの力があるというの? まさか怪力だとかすごい戦いができるとか思ってるんじゃないでしょうね!?
「凛子さんは、おそらくご自分ではわからないと思いますが、我々にはない大変優れた力をお持ちです」
「いったい私にどんな力があるっていうの? それから……、さっきから言ってる、我々って誰のこと?」
「凛子さんの優れた力――。それは冷静に本質を見極めようとする目です」
「え?」
――本質を見極めようとする目……?
「我々と申しましたのは、この仕事の仲間のことです。私と凛子さんのほかにあと二人が加わります。あとの二人はこれから待ち合わせ場所で合流することになっています」
「あと二人、ということは……四人で行くんだ」
「はい。まだ少し待ち合わせの時間には余裕があります。とりあえず、食べましょう」
言い終わる前に、すでにミルゼは色鮮やかな何種類ものフルーツが入っている、透き通ったゼリーを口にしていた。
「……とっても危険なんでしょう?」
「はい」
「『はい』って……! そんな!」
「でも大丈夫です。あとの二人に会ったらわかります。二人は大変優秀なファイターです」
「ファイターって……!」
――ゲームやファンタジーの物語のように、ドラゴンを退治する気なの? そういえば、街中で武装して歩いている人を見かけたっけ。あんな感じなのかな……。ゲームや架空の話だったら、私だってちょっぴりわくわくする。しかし、現実にそんな恐ろしいこと、とんでもないことに私が関わるはめになるなんて――。
「はい。ここは凛子さんの暮らす世界とは別の空間、異世界です」
「えええ!?」
「ここは色々と、だいぶ違うでしょう?」
にっこりと微笑むミルゼ。
――ま、まさかそんな非現実的な!
しかし、すでにすべてが非現実的だった。非現実的な事柄ばかりの世界では、非現実的なことを認めることが逆に現実的なのかも――。凛子はとりあえず、ここではありえないことを受け入れるほうが自然なんだ、そう考えることにした。
「そ、そっか……。だからありえないことばかりなんだ……。そうだよね。景色も全然違うし、夢の中の人と話をしているなんてあるわけないし、角の生えた人間だっているわけないもの」
いったん認めてしまえば、案外楽だった。凛子は、これでは学校に遅刻したって仕方ないや、異世界に行ってたというのなら、先生も親も私の良心も、ついでに無遅刻無欠席だった私のプライドだって、まあそういうことならしょうがないよねって許せるだろう、とわけのわからない納得までしていた。
凛子はレモングラスの香りのするお茶を飲んでみた。すっきりとした中にほのかに感じる甘さ。ちょうど凛子の好みに合っていた。
「……それで、いったいどういう契約なの? どうして私はすっかり忘れてしまっているの? 本当に、私は契約に承諾していたの?」
「ええ。もちろん、凛子さんは承諾してくださいました。忘れているのは、契約を交わした部屋が、こちら側とあちら側の二つの空間の間の不安定な場所だったから、空間移動が初めての凛子さんには負荷がかかってしまったためでしょう」
――二つの空間の間の不安定な場所……ああ。あの大きな窓から月が見える部屋――。
「……仕事の内容は?」
ミルゼは辺りを見回す。近くに人がいないのを確認する。それから力強い瞳で凛子を見つめた。そして一呼吸置き――、ゆっくりと口を開いた。
「……ざっくばらんに申し上げますと――、キノコ採りです」
「えっ!?」
凛子はまた椅子から落ちそうになった。
「キノコ採りとは山に自生しているキノコを採取してくることです」
「キノコ採りの意味はわかるわよ!? なんで、なんで私がキノコ採り!?」
わざわざ異世界というわけのわからないところに連れてこられた理由がキノコ採り――籠をしょって山に登っておいしいキノコを採ってくる――どう考えても凛子の将来の夢ややりたいことと結び付くとは思えない。ありえないにも程がある、と凛子は思った。そして今ミルゼはなんのために周囲を気にしたのだろう、と凛子は疑問に思う。別に人に聞かれてまずい話でもあるまいに――。
「とても難しいのです」
「えっ?」
「このキノコ採りは」
「難しいって……?」
険しい山なのだろうか、それとも毒キノコと判別が困難ということなのだろうか――。凛子は首をかしげる。
「……ドラゴンがいます」
「ど、どらごん!?」
意外なミルゼの言葉に凛子は絶句した――、神話や物語に出てくる、あのドラゴン!?
「ドラゴンは、時折村や町まで来て人を襲います」
「そっ! そんな危険な……!」
「いずれは誰かが退治しなければなりません。そして月や星の運行を読み解くと、ちょうどここ一週間がドラゴンの脱皮の時期、活動が鈍っているチャンスの時期なんです。キノコ採りの、千載一遇の好機なのです」
「だからといって、どうして……」
「私たちが採取しようとしているキノコは大変貴重な薬となる高価なキノコです。ですがそのキノコが自生している場所はドラゴンの住処になっているのです――。というより、そのキノコはドラゴンの呼気を好んで養分としているので、ドラゴンがいる場所にキノコが繁殖しているのですが――。だからこれは大変困難な仕事です」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
まず、ドラゴン、というのがいただけない。いくら異世界だって、そんなものが存在するなんて! そしてなんでまたそんな恐ろしい仕事に私が抜擢されるのかも意味がわからない――、凛子はおおいに抗議したい気分だった。
「我々は、凛子さんの力を必要としているのです」
「私の力?」
凛子はとりあえずなんでもソツなく器用にこなせてしまえるほうだった。しかしとりたてて目立った特技や人より秀でた能力はないと自分では思っている。しかも、キノコ採りやドラゴン退治の適正、もしくはドラゴンの目をかすめてキノコを採る才能――そんな適正や才能が果たして世の中に存在するのだろうか――があるとは到底思えない。
――私になんの力があるというの? まさか怪力だとかすごい戦いができるとか思ってるんじゃないでしょうね!?
「凛子さんは、おそらくご自分ではわからないと思いますが、我々にはない大変優れた力をお持ちです」
「いったい私にどんな力があるっていうの? それから……、さっきから言ってる、我々って誰のこと?」
「凛子さんの優れた力――。それは冷静に本質を見極めようとする目です」
「え?」
――本質を見極めようとする目……?
「我々と申しましたのは、この仕事の仲間のことです。私と凛子さんのほかにあと二人が加わります。あとの二人はこれから待ち合わせ場所で合流することになっています」
「あと二人、ということは……四人で行くんだ」
「はい。まだ少し待ち合わせの時間には余裕があります。とりあえず、食べましょう」
言い終わる前に、すでにミルゼは色鮮やかな何種類ものフルーツが入っている、透き通ったゼリーを口にしていた。
「……とっても危険なんでしょう?」
「はい」
「『はい』って……! そんな!」
「でも大丈夫です。あとの二人に会ったらわかります。二人は大変優秀なファイターです」
「ファイターって……!」
――ゲームやファンタジーの物語のように、ドラゴンを退治する気なの? そういえば、街中で武装して歩いている人を見かけたっけ。あんな感じなのかな……。ゲームや架空の話だったら、私だってちょっぴりわくわくする。しかし、現実にそんな恐ろしいこと、とんでもないことに私が関わるはめになるなんて――。
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