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ギフト
果物を内包したゼリー
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「……私、帰ってもいい?」
「契約を――、解除したいのですか?」
「うん!」
「と、いうことは、私のもとで一週間補助的な仕事をしていただくことになりますが?」
「なにそれ!?」
「お忘れのようですが、口頭でもご説明致しましたし、契約書にも記載してあります。『尚、一方的な理由で契約の解除を希望する場合は、そのかわりとして一週間補助的な仕事を行うことに同意する』」
「なっ……! そんな無茶苦茶な話! そんなの絶対違法、そんな契約無効よ!」
「こちらの世界では合法、正当な契約です」
――そうだった。ここはヘンテコな世界だった――。
「そうなりますと、今回の件は非常に残念ですが……。でも凛子さんと一週間も一緒に働けるのでしたら、私としては、それはそれでとても嬉しいですね」
ミルゼは満面の笑みで、土のぬくもりの感じられるような風合いのカップを手にした。
「あ、悪魔……!」
そうは言ったものの、凛子の心の中はなぜかほんの少しだけ――、弾んでいた。
――私と一緒がとても嬉しいって……? しかもあんなに笑顔で――。
「どちらにします? 契約続行します? それとも一週間頑張ってみます?」
「う……。やるわよ。その……、キノコ採り……、とやら……」
「よかった! 凛子さんが参加してくださるのならとても心強いです! 残りの二人も喜びますよ!」
なにやらとんでもないことになってしまった。しかし、こうなった以上もう腹をくくるしかない――。凛子は、かくなる上はこのヘンテコな世界を私なりに楽しんでやる、とまで思い始めていた。
「……二人って、どんな人なの?」
「二人とも、肉食系です」
「えっ。そ、そうなんだ」
――ええと。肉食系の人は頭に耳、もしくは尻尾付き、そして明るく活発、って言ってたっけ。
「……肉食っていうと、やっぱり攻撃的な感じなの?」
「はい。まあそうですね」
「そ、そうなんだ……」
「二人は――、リールという女性とディゼムという男性です。リールはサラマンダー系で特徴は尻尾です。ディゼムは、ジャガー系の耳を持ちます」
「へ……、へええ……」
もういちいち「ありえない」とは思わないようにしよう、と凛子は心の中でそう決めた。いちいち驚いていたらただ疲れるだけだ、と思った。
「どうして……」
「なんでしょう?」
「どうして三種類の人間がいるの?」
「ギフトです」
「ギフト?」
「妖精から授かる『ギフト』です」
「よ、妖精!?」
驚いていられないと思ったのに、予想外の言葉に早速驚いてしまった。
「その三種類の差は、誕生した瞬間、妖精が現れるかどうか、それから授けられるギフトの性質によって決まります。生まれたときに妖精が来なければ雑食系――まあ普通の人々といっていいでしょうか――そして妖精が現れると赤子に角、または耳か尻尾を授けていくのです。それが『ギフト』です」
「ありえない」
もう「ありえない」とは思うまい、と思ったそばから言葉にしていた。
「ギフトを受けると、外見上の変化、性格の方向性と食性の決定、そして実は一番の大きな特徴としては――、魔力がつきます」
「ま、魔力!」
「草食系は、『同調』と呼ばれる、他者と感覚を共有させる力と、大まかな探知能力を持ちます。肉食系は、驚異的な身体能力と攻撃系の特殊能力を授かっています」
「…………」
凛子は頭を抱えていた。よくわからないけれど、まるでファンタジーゲームみたいだ、と思った。
「じゃ、じゃあミルゼは妖精からギフトをもらったんだ。すごいね」
「妖精が現れるかどうかはまったくの気まぐれといわれています。ギフトと呼ばれていますが、妖精が現れたから強運とか優れているとかいうわけでもありません。また、望んでいたから授けられるというわけでもありません。まあ進んでわが子にギフトを授けてもらいたいと祈る親もいますが、祈ったからといって妖精が現れるというわけでもありません。ただ人間はそういうものだと受け入れるしかないのです」
「ミルゼは――。嬉しくないの?」
特別な能力を授けられる、それはとても素晴らしいことなのではないかと凛子は思う。しかしミルゼの口調はまるで人ごとのように淡々としていた。
「私としては――」
ミルゼは少し窓の外を見た。みずみずしい緑の葉がそよぐ。
「普通、といっては語弊があるかもしれませんが――。普通が一番、そう思います」
「ギフトがないほうが良かった……?」
「はい。例えば凛子さんのように、なにも縛られることなく可能性が無限に広がりますから」
「私に可能性がある……?」
「はい。凛子さんには隠された宝物のようにひっそりと輝き、見つけて欲しがっている才能がたくさんあります」
――そう……なのかなあ? 私に才能なんて――。
「それに、いろんなおいしい物が食べられる、それってすごいじゃないですか!」
結局食いもんかい! と凛子はツッコミたくなった。ミルゼの銀の瞳の奥には悲しみとあきらめの色が宿っていたが、明るく言い切るミルゼの様子に、そのときの凛子にはミルゼの絶望ともいえる感情を感じ取ることはできなかった。
カラフルな果物を内包した透明なゼリー。それはまるで、未来に向けたくさんの可能性を胸に秘めた凛子のようであり、また赤子のときにすでに方向性を運命づけられてしまい自分で選択できる自由を閉じ込められてしまったミルゼのようでもあった。
正反対の異質な運命――。限りなく透き通ったゼリーは陽光を浴び、テーブルの上で静かにきらめいていた。
「契約を――、解除したいのですか?」
「うん!」
「と、いうことは、私のもとで一週間補助的な仕事をしていただくことになりますが?」
「なにそれ!?」
「お忘れのようですが、口頭でもご説明致しましたし、契約書にも記載してあります。『尚、一方的な理由で契約の解除を希望する場合は、そのかわりとして一週間補助的な仕事を行うことに同意する』」
「なっ……! そんな無茶苦茶な話! そんなの絶対違法、そんな契約無効よ!」
「こちらの世界では合法、正当な契約です」
――そうだった。ここはヘンテコな世界だった――。
「そうなりますと、今回の件は非常に残念ですが……。でも凛子さんと一週間も一緒に働けるのでしたら、私としては、それはそれでとても嬉しいですね」
ミルゼは満面の笑みで、土のぬくもりの感じられるような風合いのカップを手にした。
「あ、悪魔……!」
そうは言ったものの、凛子の心の中はなぜかほんの少しだけ――、弾んでいた。
――私と一緒がとても嬉しいって……? しかもあんなに笑顔で――。
「どちらにします? 契約続行します? それとも一週間頑張ってみます?」
「う……。やるわよ。その……、キノコ採り……、とやら……」
「よかった! 凛子さんが参加してくださるのならとても心強いです! 残りの二人も喜びますよ!」
なにやらとんでもないことになってしまった。しかし、こうなった以上もう腹をくくるしかない――。凛子は、かくなる上はこのヘンテコな世界を私なりに楽しんでやる、とまで思い始めていた。
「……二人って、どんな人なの?」
「二人とも、肉食系です」
「えっ。そ、そうなんだ」
――ええと。肉食系の人は頭に耳、もしくは尻尾付き、そして明るく活発、って言ってたっけ。
「……肉食っていうと、やっぱり攻撃的な感じなの?」
「はい。まあそうですね」
「そ、そうなんだ……」
「二人は――、リールという女性とディゼムという男性です。リールはサラマンダー系で特徴は尻尾です。ディゼムは、ジャガー系の耳を持ちます」
「へ……、へええ……」
もういちいち「ありえない」とは思わないようにしよう、と凛子は心の中でそう決めた。いちいち驚いていたらただ疲れるだけだ、と思った。
「どうして……」
「なんでしょう?」
「どうして三種類の人間がいるの?」
「ギフトです」
「ギフト?」
「妖精から授かる『ギフト』です」
「よ、妖精!?」
驚いていられないと思ったのに、予想外の言葉に早速驚いてしまった。
「その三種類の差は、誕生した瞬間、妖精が現れるかどうか、それから授けられるギフトの性質によって決まります。生まれたときに妖精が来なければ雑食系――まあ普通の人々といっていいでしょうか――そして妖精が現れると赤子に角、または耳か尻尾を授けていくのです。それが『ギフト』です」
「ありえない」
もう「ありえない」とは思うまい、と思ったそばから言葉にしていた。
「ギフトを受けると、外見上の変化、性格の方向性と食性の決定、そして実は一番の大きな特徴としては――、魔力がつきます」
「ま、魔力!」
「草食系は、『同調』と呼ばれる、他者と感覚を共有させる力と、大まかな探知能力を持ちます。肉食系は、驚異的な身体能力と攻撃系の特殊能力を授かっています」
「…………」
凛子は頭を抱えていた。よくわからないけれど、まるでファンタジーゲームみたいだ、と思った。
「じゃ、じゃあミルゼは妖精からギフトをもらったんだ。すごいね」
「妖精が現れるかどうかはまったくの気まぐれといわれています。ギフトと呼ばれていますが、妖精が現れたから強運とか優れているとかいうわけでもありません。また、望んでいたから授けられるというわけでもありません。まあ進んでわが子にギフトを授けてもらいたいと祈る親もいますが、祈ったからといって妖精が現れるというわけでもありません。ただ人間はそういうものだと受け入れるしかないのです」
「ミルゼは――。嬉しくないの?」
特別な能力を授けられる、それはとても素晴らしいことなのではないかと凛子は思う。しかしミルゼの口調はまるで人ごとのように淡々としていた。
「私としては――」
ミルゼは少し窓の外を見た。みずみずしい緑の葉がそよぐ。
「普通、といっては語弊があるかもしれませんが――。普通が一番、そう思います」
「ギフトがないほうが良かった……?」
「はい。例えば凛子さんのように、なにも縛られることなく可能性が無限に広がりますから」
「私に可能性がある……?」
「はい。凛子さんには隠された宝物のようにひっそりと輝き、見つけて欲しがっている才能がたくさんあります」
――そう……なのかなあ? 私に才能なんて――。
「それに、いろんなおいしい物が食べられる、それってすごいじゃないですか!」
結局食いもんかい! と凛子はツッコミたくなった。ミルゼの銀の瞳の奥には悲しみとあきらめの色が宿っていたが、明るく言い切るミルゼの様子に、そのときの凛子にはミルゼの絶望ともいえる感情を感じ取ることはできなかった。
カラフルな果物を内包した透明なゼリー。それはまるで、未来に向けたくさんの可能性を胸に秘めた凛子のようであり、また赤子のときにすでに方向性を運命づけられてしまい自分で選択できる自由を閉じ込められてしまったミルゼのようでもあった。
正反対の異質な運命――。限りなく透き通ったゼリーは陽光を浴び、テーブルの上で静かにきらめいていた。
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