銀のリボンを結んで

吉岡果音

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ギフト

認められるということ

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 野菜料理の皿、肉料理の皿、そして四人分のグラス――凛子とミルゼだけソフトドリンクである――の脇に、ミルゼは羊皮紙に描かれた地図を広げた。


「予定通り明日早朝、このルートで向かいます」


「そ、早朝っ!?」


 凜子は思わず大声で驚いてしまった。


「どうしたの? 凛子。なにか問題でも?」


 リールが凛子の反応を見て声をかけた。


「も、問題です!」


 ミルゼも不思議そうな顔で凛子を見つめる。


「凛子さん。なにが問題なんです?」


「だ、だって、早朝って……! それじゃ、それじゃ今晩はどうするのよ!?」


 朝を迎えるためには、当然のことながらまず夜を迎えねばならない。


 ――夜を過ごすって、どこで、どうやって!? 大問題じゃない!


「宿はみんなの分ちゃんととってありますよ」


「や、宿!」


「もちろん豪華で素敵な宿よねえ?」


 すかさずリールがミルゼに顔を近づけ尋ねる。変な宿、しょぼい宿だったら容赦しない、とでも言いたげだ。


「女子はそういったとこに敏感だねえ! やれやれ、まずは今晩の宿のことから打ち合わせかよ。まあ確かに思い出作りにははずせない重要ポイントだけどねえ!」


 ディゼムが頭の後ろに両手を当てちょっと伸びをする。


「ディゼムまで……。旅行じゃないんですから。リールも知ってるでしょう? すぐそこの『ミモザ』ですよ」


「ああ! あそこは評判いいみたいよね!」


「あ! 俺泊まったことある! 飯もうまいんだぜ!」


 ディゼムが急に目を輝かせ、身を乗り出した。肉食獣の両耳をぴんっと立てている――。いかにもわくわくしているという感じ。


「部屋はリールと俺、ミルゼと凛子の組み合わせ? それとも俺と凛子?」


「なっ……!」


 凜子が顔を真っ赤にし、絶句する。


「ディゼム! なんで男女が同部屋なんですか!」


 凛子の代わりにミルゼがツッコんだ。


「うーん。やっぱ野郎同士か」


 そりゃそうだとわかってるけど改めて残念、そんなふうにディゼムが呟く。耳をしょぼんと寝かせてしまった――。思ったことがすぐ表れる、わかりやすい性格。


「当たり前でしょ」


 ごっ!


 リールがメニューの角をディゼムの頭にぶつけた。


「角はやめろや。角は!」


 リールが今度はメニューの『面』の部分をディゼムの顔に押し付けてみる。


「面はもっとやめろお! 面を面に押し付けるなあっ!」


「…………」


 ミルゼも凛子も見なかったことにした。面倒なので。


「ミルゼ……。そういう話も契約のときに、ちゃんと私に話していたの?」


 凜子がミルゼにそっと質問した。隣ではまだリールとディゼムが、わあわあとなにかやっていた。


「ええ。もちろんです。契約ですから」


「…………」


 凜子がテーブルに突っ伏した。またしてもテーブルの上は料理だらけだったのであまり隙間はなかったが。


「キノコ採りは早朝が定番ですから」


「それはそうだと思うけど……」


「うー。俺、朝早く起きんの苦手なんだよねえ」


 ディゼムが頭をかく。


「凛子。起こして」


 ごっ。


 リールが無言でメニューの角をディゼムの頭にお見舞いした。


 ドラゴンがいる、そうミルゼは説明していた。自分も含めこのメンバーで本当に大丈夫なのか、凛子はとてつもなく不安になる。


「あの……。皆さんはこういうお仕事、今までも何度かなさっていたのですか?」


 おそるおそる訊いてみた。


「ええ。そうよ」


 リールが答えた。リールの瞳孔は、猫や爬虫類のように縦長な形状になっていた。それが不思議と気持ち悪いというわけではなく、神秘的な美しさがあり思わず凛子は見つめてしまう。


「我々は基本このメンバーです」


 ミルゼが微笑む。落ち着いた口調から、他の二人を深く信頼しているのが伝わってくる。


「プラスもう一人、凛子の役割をする人、それでいつも合計四人なんだ」


 ディゼムが指を四本立てて答えた。ミルゼと違い、男らしい大きな手。


「私の役割?」


「ええ。我々の『目』となる役割です」


「目……」


 ――そういえばさっき、私の力は「冷静に本質を見極めようとする目」とミルゼが言っていたっけ――。


「私たちには見えないものを見てもらうの。さっきのカードの炎のように」


「リールさん……。私に本当にそんなことが……」


「あら。リールでいいわよ。凛子。さっき、自分でもその力がわかったんじゃないの?」


 ――本当に、そんなことが――。

 ミルゼもリールもディゼムも、穏やかに微笑む。凛子を信頼し、仲間として受け入れ、そして尊重している、そんな空気が流れていた。


 ――大人の人たちからこんなふうに見てもらえるの、初めて――。


 自分の能力という実感はないが、それでも自分を一人前として見てもらえることは嬉しいと思った。認められることの喜びと清々しい緊張感があった。自然と背筋が伸びていた。
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