銀のリボンを結んで

吉岡果音

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ギフト

ミルゼの抗議

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「よろしく。凛子」


「よ、よろしくお願いします……」


 突然、リールは一枚のカードを胸のあたりから取り出し、素早く凛子に向けた。カードには一匹のトカゲが描かれていた。


「なにか見える?」


「えっ……?」


 ぼうっ!


「きゃあっ!」


 カードに描いてあったトカゲの絵が、炎を吐いた。炎は渦を巻き、凛子の目前まで迫った。


「リール!」


 ミルゼが立ち上がり、かばうように凛子の肩を抱き引き寄せた。


「ふふ。大丈夫よ。ちょっと凛子の目を試しただけ」


「私の目を……、試す?」


「今の炎は私と凛子にしか見えなかったのよ。ミルゼにもディゼムにも、これはただのカードにしか見えない」


「え!?」


 ――今の炎が、他の人たちには見えていないの!?


「あなたはあちらの世界の住人の中でも、特に見えるほうみたいね」


「ええっ!?」


 ――私が見えるほう!? そんなまさか!


「そんな、私そんな不思議な力なんてありませんっ! 霊感とかぜんぜんないし、そういうの別に信じてるわけでもないし……」


「違うのよ。凛子の世界ではそうじゃないのかもしれないけれど、こちらの世界では現実的な感覚が強い人ほど、隠れているもの、見えないものが見えるの」


「えっ!?」


「ちなみに、私もミルゼとディゼム同様、見る力はあまりないわ。今のは私の術式だから私にも見えるの」


 ――現実的な感覚が強い人ほど見えないものが見える……?


 まるであべこべだ、と凛子は思った。霊感とか特殊な能力を持つ人こそ他の人が見えないものが見えるというもの


 ――やっぱりここはヘンテコな世界なんだ――。


 こちらのことはこちらの人の言うことに従うほかない、こちらのルールを理解するしかないんだ、凛子は改めてそう思った。無秩序に感じるけれど、こちらなりの秩序に乗っ取って世界が構築されているんだろう、そう凛子は考える。ほわわんと「へえ。不思議な世界なんだなあ」と受け入れるのではなく、いったん立ち止まり、自分の中である程度租借し納得しないと気が済まない凛子らしい思考だった。逆に、自分で納得さえできれば素直にそのルールに従うという柔軟性があった。


「凛子! すごいな! 頼もしいじゃないか!」


 ディゼムが酒の入ったグラスを掲げ、白い歯を見せて笑う。


「リール! 危険じゃないとしても、いきなりひどいじゃないですか!」


 ミルゼが抗議した。


「なあに? 仕事仲間の実力を知っておくのは大切なことでしょう? お互いのためにも」


 ――ミルゼ……私のことを心配して……?


 真剣な表情でリールに食ってかかるミルゼの姿に、凛子は密かに胸が高鳴るのを感じた。でもすぐに、ミルゼだって色々いきなりでひどかったと思い返し、心の中でちょっと減点してやった。


「そんなことをしなくたって、私にはわかりましたよ、凛子さんの才能が! リールだってちゃんと感じたはずです!」


 ミルゼの強い口調にディゼムが割って入った。


「まあまあ! いいじゃないか! 別に危なくないわけだし、凛子の力がわかったわけだし、そんなに怖い顔すんなよ! ミルゼ!」


 ミルゼの拳が固く握られているのを凛子は見た。それは暴力をふるおうというわけではなく、ただ自分の感情を抑え込むため――、そんなふうに見えた。


「……珍しいわね。ミルゼ。あんたがそんなに――」


「…………」


 ミルゼが黙り込んだ。自分でも少々戸惑っている――、ようだった。


 ――え……? 珍しい……、の……?


 ミルゼを見つめるリールの瞳が、ふっと緩んだ。そしてリールは凛子のほうに向きなおった。意外にも優しい微笑みを浮かべていた。


「凛子。ごめんなさいね。怖かったかしら?」


「い、いえ! そんな、大丈夫です!」


 即座に非を認め謝ってくれたリールに、凛子は大慌てで返答する。


 ――よかった……。リールさんも怖い人じゃなかった――。


「ミルゼもごめんなさいね。確かに私が悪かったわ」


 肩をすくめ、素直にミルゼに謝る。


「いえ……。私こそつい……」


 リールに頭を下げた後、ミルゼはちらりと凛子を見た。なぜかちょっぴりすねた子供のような表情だった。そしてぷいっと凛子から顔を逸らした。ミルゼの頬が少しだけ赤くなっているように見えた。


 ――あれ……? ミルゼ……?


 初めて見るミルゼの表情だった。


 ――今のは……?


 どきん、どきん。


 ――どうして? ミルゼ……?


 ミルゼの言葉が、ミルゼの表情が、心に鮮烈に焼き付いたようだった。


 ――あれ。どうしよう……。私……。頬が……。


 凛子は自分の頬が真っ赤になっているのを感じた。頬に手を当てて隠したかったけれど、皆に、ミルゼに気付かれてしまいたくなくて、凛子はぎゅっと手のひらを握りしめ大急ぎでうつむいた。


「まあみんな! 座って座って! せっかくメンツが揃ったんだから、早く打ち合わせ始めようぜ!」


「そうね。でもとりあえず、私もお酒! まずはおいしい物がないとね! 凛子はなにを飲む? 強いやつ?」


「だ、だから私は飲めませんっ!」


 凛子は両手を振り、大慌てで断った。


「ははは。やっぱ凛子がなに飲むか気になるよねえ!」


「……私はなにを食べようかな」


 ――だから、また食うんかい! そしてどいつもこいつも……!


 凛子はおおいに先行き不安になっていた。
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