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ギフト
プレゼント
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日が傾き始めたころ、宿の「ミモザ」に入った。白壁には鉢植えの花や緑が飾られている。建物は小さいが、明るくきちんとした印象で申し分のない宿だった。リールも満足そうだ――。もちろん凛子とリールが同部屋だった。
「さて。体調を整えるために早めに宿に入ったけど、夕ごはんには早いし……。凛子は観光してみたい?」
長い尻尾を揺らし、リールは笑顔で振り返った。
「えっ!? か、観光!?」
「少しその辺のお店でも見てまわろっか。男どもはほっといて、ちょっと買い物でもしようよ」
「か、買い物、ですか?」
「お近づきの印になにかプレゼントしてあげる! 大丈夫、凛子の世界にもちゃんと持って帰れるからね」
リールに促されるまま、宿の近辺をゆっくり散策する。赤い屋根の、小さな雑貨屋らしき店があった。
陳列されているのは手作りのバッグや洋服、木のカップやかわいらしい人形、綺麗な石のアクセサリーなど。リールの趣味というより、凛子の好みを考えてこの店に入ったようだった。
「あ……」
様々なリボンが置かれた棚の前で、思わず凛子は足を止めた。
「なあに? あ、いいわね。凛子は髪が長くて綺麗だからよく似合うわよ」
美しく輝く銀のリボンが二本で一セットになっていた。シルクのような滑らかな光沢。
――きらきらして綺麗なリボン……。ミルゼの角に、結んでみたいな。
想像して思わず頬が緩む。自分に、というよりいたずらでミルゼの両角に結んでみたい、凛子はそんなことを考えていた。
「じゃあ、このリボンがいいのね、あと、なにが欲しい?」
「えっ……!? ほ、ほんとに買ってくださるんですか!?」
「遠慮しないで。この世界に来てくれたお礼、そして記念よ」
ふふふ、とリールは微笑む。凛子はリボンが欲しかったわけではなく、ただミルゼの頭につけているところ、頬を赤くし困惑するミルゼの顔をなんとなく想像してみただけだったのだが、せっかくのリールの厚意なのでありがたく受け取ることにした。リールは銀のリボンの他に、銀のネックレスまで凛子にプレゼントした。
「本当にありがとうございます。こんなにいただいてしまって――」
「そんな、改まって礼を言うことないわよ」
リールは笑いながら、凛子の頭をぽんぽんとたたく。
「そんなに高価なものでもないし。雑貨屋さんって見るだけでも楽しいわよね」
「ありがとうございます! ほんと、嬉しいです!」
凛子はぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、散歩に付き合ってくれてありがとね」
二人は夕暮れの中、街路や店先に植えられている美しい草花をゆっくりと眺めながら、宿に向かい石畳の道を歩いていった。
――リールって、外見からちょっと怖い人なのかと思ったけど、本当に優しいな。もしお姉さんがいたら、こんな感じなのかな――。
心地よい夕風が頬をなでる。まるで西洋の絵画のような街並み、古い石畳、そして変わっているけど優しい人たち――。凛子はこの不思議な世界が好きになっていた。
「おおい! 二人してどこ行ってたんだよお!?」
宿に戻ると大声のディゼムが出迎えてくれた。
「ナンパよ」
さらっと言ってのけるリール。
「ま、マジか!? こんないい男が二人もいるのに!?」
「いい男? いったいどこにいるのよ? どこに?」
リールは大げさに辺りを見回す。
「り、凛子さん……」
ミルゼがナンパと聞き、絶句した。
「ミルゼったら、なに『あわあわ』してるのよ!? そんなわけないでしょ!?」
リールは呆れながらつかつかとミルゼに近づき、耳元にそっと囁いた。
「まったく、あんたって男は、ほんとわかりやすいわね」
「えっ……!?」
顔を真っ赤にし驚くミルゼに、ふっとリールは微笑む。
「まあ、頑張んなさいよ」
「なっ……!」
ぽんっ、とミルゼの肩を叩き、リールは宿の食堂のほうに向かって歩いていった。
「なんだあ? リールのやつ? なあ、ミルゼ、今あいつなんて言ったんだ?」
「なっ、なんでもないです! なんでも!」
凛子は三人のやりとりをぽかんと見ていた。
――なんだか……、よくわかんないけど、ほんと三人とも仲がいいなあ。
「よし! とりあえず飯だ飯だ! ミルゼ、凛子、俺たちも行こうぜ!」
意味不明にぐるぐると腕を回しながら、ディゼムも食堂に向かう。
ミルゼと凛子はなんとなく立ち尽くしていた。思わず顔を見合わす。
「ディゼムはいつも元気いいね」
凛子は「元気いいね」の前に「無駄に」、と付けそうになったが、それはやめておいた。
「いつもあんな感じです」
「リールは優しくて美人で、素敵な女性だね」
「……怒らせると怖いですよ」
「あ! そんなこと言っていいの? 告げ口しちゃうよ?」
いたずらっぽく凛子は笑う。
「それは勘弁してください、困ります」
特に困ったふうでもなくミルゼも笑う。
「さて。体調を整えるために早めに宿に入ったけど、夕ごはんには早いし……。凛子は観光してみたい?」
長い尻尾を揺らし、リールは笑顔で振り返った。
「えっ!? か、観光!?」
「少しその辺のお店でも見てまわろっか。男どもはほっといて、ちょっと買い物でもしようよ」
「か、買い物、ですか?」
「お近づきの印になにかプレゼントしてあげる! 大丈夫、凛子の世界にもちゃんと持って帰れるからね」
リールに促されるまま、宿の近辺をゆっくり散策する。赤い屋根の、小さな雑貨屋らしき店があった。
陳列されているのは手作りのバッグや洋服、木のカップやかわいらしい人形、綺麗な石のアクセサリーなど。リールの趣味というより、凛子の好みを考えてこの店に入ったようだった。
「あ……」
様々なリボンが置かれた棚の前で、思わず凛子は足を止めた。
「なあに? あ、いいわね。凛子は髪が長くて綺麗だからよく似合うわよ」
美しく輝く銀のリボンが二本で一セットになっていた。シルクのような滑らかな光沢。
――きらきらして綺麗なリボン……。ミルゼの角に、結んでみたいな。
想像して思わず頬が緩む。自分に、というよりいたずらでミルゼの両角に結んでみたい、凛子はそんなことを考えていた。
「じゃあ、このリボンがいいのね、あと、なにが欲しい?」
「えっ……!? ほ、ほんとに買ってくださるんですか!?」
「遠慮しないで。この世界に来てくれたお礼、そして記念よ」
ふふふ、とリールは微笑む。凛子はリボンが欲しかったわけではなく、ただミルゼの頭につけているところ、頬を赤くし困惑するミルゼの顔をなんとなく想像してみただけだったのだが、せっかくのリールの厚意なのでありがたく受け取ることにした。リールは銀のリボンの他に、銀のネックレスまで凛子にプレゼントした。
「本当にありがとうございます。こんなにいただいてしまって――」
「そんな、改まって礼を言うことないわよ」
リールは笑いながら、凛子の頭をぽんぽんとたたく。
「そんなに高価なものでもないし。雑貨屋さんって見るだけでも楽しいわよね」
「ありがとうございます! ほんと、嬉しいです!」
凛子はぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、散歩に付き合ってくれてありがとね」
二人は夕暮れの中、街路や店先に植えられている美しい草花をゆっくりと眺めながら、宿に向かい石畳の道を歩いていった。
――リールって、外見からちょっと怖い人なのかと思ったけど、本当に優しいな。もしお姉さんがいたら、こんな感じなのかな――。
心地よい夕風が頬をなでる。まるで西洋の絵画のような街並み、古い石畳、そして変わっているけど優しい人たち――。凛子はこの不思議な世界が好きになっていた。
「おおい! 二人してどこ行ってたんだよお!?」
宿に戻ると大声のディゼムが出迎えてくれた。
「ナンパよ」
さらっと言ってのけるリール。
「ま、マジか!? こんないい男が二人もいるのに!?」
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ミルゼがナンパと聞き、絶句した。
「ミルゼったら、なに『あわあわ』してるのよ!? そんなわけないでしょ!?」
リールは呆れながらつかつかとミルゼに近づき、耳元にそっと囁いた。
「まったく、あんたって男は、ほんとわかりやすいわね」
「えっ……!?」
顔を真っ赤にし驚くミルゼに、ふっとリールは微笑む。
「まあ、頑張んなさいよ」
「なっ……!」
ぽんっ、とミルゼの肩を叩き、リールは宿の食堂のほうに向かって歩いていった。
「なんだあ? リールのやつ? なあ、ミルゼ、今あいつなんて言ったんだ?」
「なっ、なんでもないです! なんでも!」
凛子は三人のやりとりをぽかんと見ていた。
――なんだか……、よくわかんないけど、ほんと三人とも仲がいいなあ。
「よし! とりあえず飯だ飯だ! ミルゼ、凛子、俺たちも行こうぜ!」
意味不明にぐるぐると腕を回しながら、ディゼムも食堂に向かう。
ミルゼと凛子はなんとなく立ち尽くしていた。思わず顔を見合わす。
「ディゼムはいつも元気いいね」
凛子は「元気いいね」の前に「無駄に」、と付けそうになったが、それはやめておいた。
「いつもあんな感じです」
「リールは優しくて美人で、素敵な女性だね」
「……怒らせると怖いですよ」
「あ! そんなこと言っていいの? 告げ口しちゃうよ?」
いたずらっぽく凛子は笑う。
「それは勘弁してください、困ります」
特に困ったふうでもなくミルゼも笑う。
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