1 / 1
私オーディション
しおりを挟む私のお父さんは首だけで、お母さんは硬いまっ平。
娘の私はグニャグニャだった。
そんな中、猫の【なんでも】だけは、ふっかふかで温かかった。
だけどある日【なんでも】は死んだ。
西暦三万五千年…人類は死を超越していた。
肉体が破損しても復元できるようになっていた。
だから、人殺しが起きても、事故が起きても、被害者は怒ったりしない。
それが世界のフツーだった。
【なんでも】の死因は交通事故だった。
車にはねられたのだ。
運転手は【なんでも】の復元費用だけ払ってさっさと走り去った。
むしろ、【なんでも】の血で汚れた車のクリーニング代を払って欲しそうにしていた。
嫌な顔だった。
【なんでも】がはねられたのは、私の誕生日。
家族そろってレストランで食事をしようとしていた日だった。
お父さんは血まみれの【なんでも】を呆然と抱いていた私を見て、「毛皮を新しくしよう」と言った。
お父さんは上手いこと言ったつもりみたいで得意そうで、お母さんはとなりでニコニコしていた。
私は硬い声で「そしたら【なんでも】じゃない」と言った。
「【なんでも】と違う、だったかも知れない。
そしたらお父さんは「アレ?」という顔をして
「中身はそのまま復元されるんだから【なんでも】だろう? 同じ猫だよ」と言った。
私は「【なんでも】は死んだの」「戻ってくるのは復元した別の猫よ」と早口で言った。
お父さんとお母さんは困惑したはにかみ笑いで顔を見合わせると
「つまりそれは、新しい猫を飼いたいってコトかい?」
「それならそれでかまわないけれど・・・」と言った。
私は冷たくなった【なんでも】の体を抱きしめながら
「ちがうよ…そうじゃない…そうじゃないよぉ…!」と泣いた。
二人はまた顔を見合わせて、ただただ困惑するだけだった。
――後日。
「にゃーおぅ!」
家には復元された黒い猫がいた。
その体は温かく、私の足にすりよってくる。
だけど私はその猫が同じ【なんでも】だとは思えなかった。
「にゃーお、にゃーお、にゃおん」
私の【なんでも】はどこへ行ったんだろう?
そして、私はある決心をした。
「【私】オーディション?? なんだいそれは?」
私は困惑するお父さんには答えず、決心した計画を話した。
「文字通りだよ。誰が【私】になるかオーディションするの」
お父さんとそれからとなりにいるお母さんは、
私が何を言っているのか解らないのか、みけんにシワを寄せている。
「私はこれから死にます。
それから復元する私の中身を、同じ年ごろの女の子たちから選ぶの」
お父さんたちは首をひねる。
どうにかして娘がしゃべってるのは何なのか? 考えをめぐらせて「アッ!」と思いつく。
「そうか! お前、自分の顔を変えたいんだな? いいや、顔だけじゃない、体もだ!
なんだ、そんなまわりくどいことしないではっきり言えばいいのに――」
「ちがうよ」
と私がそうさえぎると、お父さんは笑顔のまま固まった。
「女の子たちはもう募ってあるの」
「お前…さっきから一体なにを言ってるんだい??」
父の口から、少しの苛立ち混じった問いかけも私は無視する。
「学校のね、講堂にみんなを集めて、横になって待っててもらうの。
いっしょにね、包丁とかノコギリとか刃物をいっぱい準備して
――殺し合うの」
人類が死を克服した今、殺人なんてとりたてて意味のない、本当にムダな行為そのものだった。
年に何度が小さなこともたちが『殺し合い』ごっこをしたとして退屈なニュースになる程度の事だった。
十代の、そろそろ大人に近い年ごろの女の子が大真面目にすることじゃない。
「お前…」
お父さんはお母さんもいっしょに、絶句していた。
「死んでも復元すれば元通りなんでしょう?
ちょっと中身が変わるくらい、そんな大したことじゃないじゃない」
「バカ! そんなのもうお前じゃないだろう?!
そんな事もわからないのか?!」
父はここではじめて激昂した。
私はそんな父を覚めた瞳で静かに見つめる。
「殺し合って残った一人が【私】として復元されるわ。
いいでしょ、どうせ残った人も復元して元通り!
ちょっと毛皮を替えるような事なのよ」
「お前…」
父はいよいよ何も言えなくなって、娘の肩をつかもうとした手を力なくおろした。
そのあと。
私は自殺した。
その日も父は首だけで、母は硬くて平面だった。
私にさようなら。
私にさようなら。
これから【私】をめぐって女の子たちが殺し合います。
切ったり、刺したり、殴ったりして殺し合います。
だけど復元すれば元通り。
復元すれば元通り。
次が誰だか知らないけれど元通り。
鐘が鳴る。
それは【私】が死んだ音。
眠る私は目を覚ます。
枕元に並んだ包丁を手にすると、わくわくした様子の私や寝ぼけている私、不安そうにしている私が目についた。
私は手始めにとなりで寝ていた私に向かって包丁を振りかざす。
首から噴き出す赤い液体。
だけどもこれも復元すれば元通り。
私も死んだらそうなのかしら?
復元された【私】は本当に私かしら?
【新しい私】という別の私じゃないかしら?
「きゃああああッ?!」
誰か(私)の悲鳴があがる。
私でいるのは命がけ。
私でいるのは命がけ。
だから私は包丁を振るった。
おしまい
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
よくわからないんだけど何故か全部読んでしまう!何回か読みました。こういう小説好きなので、面白かったです!