妖護屋

雛倉弥生

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大江山の深紅と薄桃の鬼篇

百鬼夜行でレッツラゴー!え、怖いかって?怖くねぇだろ、寧ろ楽しいわ。こんなの慣れだ、慣れ。そしたら時期に楽しめる心を持てるようになる

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「んじゃ、行きますか」

よいこらしょと伊吹が情けなく老人の

ような掛け声をし、立ち上がる。それを

聞き、酒呑童子はなぜか哀れみの感情を

もった。

「お前、自分が可哀想だと思ったこと

無いのか?」

「は?え、いきなりなんなの。」

「いや、人間として情け無いと…」

「誰が」

「お前が」

数秒の静寂。伊吹は肩を震わせた。

「たとえ俺が情けないとしてもお前よりは

マシです。何故なら俺は若いから!

まだ20半ばだもん」

と、まぁ何というか…。情けないの一言しか

出ない。成人の男がだもん、だなんて。

「…半ばということはあと数年で中年に

なるということだ」

「やめろ、これ以上俺に年を重ねるという

恐怖を示すな」

男でもそれは怖いらしい。

強制的に年齢の話を終えた。

「で、どうやって行くんだ」

「え、そりゃ決まってんじゃん。

百鬼夜行で」

「百鬼夜行で?」

再び沈黙が訪れた。酒呑童子は遂に伊吹が

こいつは馬鹿だと確信した。百鬼夜行という

妖怪達の恐ろしい行列に怯むことなく逆に

嬉しそうに仲間に入って楽しんでいる。

鬼にも恐れない。恐ろしい子だとも

酒呑童子は認識した。










「うぇぇぇぇい!!」

「…」

案の定、当の本人はとても…騒いでいる。

首の無い馬に乗る一つ目の鬼…

妖の背中に乗せてもらい、嬉しそうだ。

正直言って鬱陶しい。何故か彼は夜行に

気に入られ…いや正直にいうと夜行や他の妖

に引っ付きぱなしで目を輝かせて煩いくらい

強請っていたので彼も諦めたのだろう。

断り、無視し続けると余計に疲れるので。

一つ、夜行が溜息をついた。

「大丈夫か」

「煩い。お前も分かるだろうに、あいつの

鬱陶しさが」

「…ああ。あいつといると疲れるよな。

けれど、心が楽しいと伝えてくる」

胸に手を当てる。心臓が鼓動を早めている。

興奮しているのだ、楽しいのだ、青年との

戯れが。

「それもそうだな。数百年ぶりかに

思い出せた感情だ」

夜行は楽しそうに他の妖怪達とはしゃぐ伊吹

を見つめた。その瞳はまるで子供を見守る

かの如く優しく温かい光が灯っていた。

「あいつは…あの子は純粋に私達の様な

醜い姿の妖怪達と素直に真正面から接して

くれた。私の心を…人間だったあの頃と

同じように温めてくれた。他の奴らも

同じだ。皆があの無邪気で純粋な青年に、

妖護屋に救われたのさ」

自分も救われるのだろうか。鬼であり、

長年人間を苦しめた自分が。他人のことなど

どうでも良く、自分しか見えていなかった

身勝手な鬼が。分からない。純粋な彼だから

こそ、救わないのかもしれない。むしろ

それが良いのかもしれない。それでも良い。

かつての部下に一言謝れるのならば。

それで良いのだ。酒呑童子の心中を知って

か、夜行は彼を云う。

「鬼…酒呑童子よ」

「なんだ」

「鬼も妖も元は人だ。同じように過ちを

犯すことはある。…己に全てを背負わせる

んじゃない。お前達の居場所を奪った人間

共にも何かしらの罪はある。部下にも責任は

ある。それでもまだ己の責任と言い続ける

のであれば真実から目を逸らせ。その為に

伊吹がいるのだろう」

ハッとし、伊吹に顔を向けた。その目は未だ

迷っていた。

「聞いた話によると茨木童子は摂津の

小童寺にいると風の噂で聞いた。

行ってみると良い」

思わぬ情報に酒呑童子は彼に頭を下げた。

ただ今はこれしか出来ない。

「……感謝する」

「その代わり……その部下と和解した暁には

百鬼夜行の妖怪達と共に宴を開いて欲しい」

夜行の小さきながら温かい希望に酒呑童子は

承諾した。
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