妖護屋

雛倉弥生

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大江山の深紅と薄桃の鬼篇

茨木童子はどこへ?俺、保護者でも何でもないから分かるわけねぇだろ。てか、先に手離したのお前なんだからお前が一人で探せ、この野郎。

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「早速だが、お前達に頼みたいことがある」

酒呑童子が部下達と大江山の中の拠点へと

入り、畳の上に座る。

「先程そこの小僧が仰っていた茨木童子の

ことですね」

小僧?小僧とは自分のことなのだろうか。

多分そうだ。絶対。鬼的には、自分より歳が

下だから必然的にそうなってしまう。だって、

実際500歳以上離れてるし。

「ああ、あいつに謝りたいことがある。

直接謝罪したいんだ。頼む」

酒呑童子が部下達に頭を下げた。

それをされると、困惑するのが性というものだ。

「えぇ……どうするんすか、鬼さん達。

王様のお願い断わらないですよね~?」

その姿を一瞥し、ニヤニヤと顔を緩ませながら

鬼達を煽る。絶対に断りはしないだろうが、

断れない状況を作っておく。

「この、糞餓鬼何気にウザいな」

「同感だな。もの凄く気に障る」

「いやぁ、それ程でも」

「褒めてねぇわ!」

全員が揃って否定した為、伊吹はぱちぱちと

目を瞬きした。

「凄い、全員息ぴったり」

「感心するな」

はぁ、と畳に突っ伏した。伊吹が話すと

疲れるのだ。部下の一人が咳払いをし、

「王の頼みなら断りませんから。

茨木童子でしょ? 他の奴等にも聞いて

回ります」

「俺らも出来る限り頑張ります」

良い仲間を持ったと。

そう心が温まる瞬間であった。










酒呑童子が部下達に料理を振る舞っている

間、伊吹は使いの鴉の足に文を託した。

「これを彼奴等の元へお願いな」

鴉は飛んで行った。

「まぁ、これくらいならあの野郎共も

何も言わないか」

のんびりと練り菓子を頬張った。









庭で木刀を振り、汗をかいていると鴉が

やって来た。これは伊吹の使い鴉だ。

足に括り付けてあった文を外し、中身を

読む。

「こりゃ、また無茶してるなぁ。今度は

鬼かよ。何々……?」

平安の世に酒呑童子の拠点を襲撃した

武士達を調べて欲しいと。

「こりゃまた大層なお願いで。」

遥か昔の武士達だ。情報も手に入れるのは

難しくは無い。けれど、その情報が真実か

偽りかどうかで伊吹が鬼から受けた依頼の

結末は変わってくる。徹底的に調べなければ

ならない。

「……面倒だな。」

そこまで集めるのがだ。

「あれ、どうしたそんなとこで突っ立って」

……救世主だ。上司の方が様子を見に来た

らしい。

「伊吹からまたお願い事が来たんですけど

面倒なんですよね。酒呑童子の拠点を

襲撃した武士達を調べて欲しいと……」

上司も苦笑いを浮かべる。

「そりゃまた大変だな。よし、俺も

手伝ってやるよ。情報収集は得意だからな」

「本当ですかぁ? 永倉さん」

茜色の長い髪を一つに無造作に結んだ男、

永倉新八は部下、沖田総司の背中を叩いた。

「んなこと言うなって!俺に掛かれば

お茶の子さいさいだわ」

子供のような無邪気な笑顔をする。

「やけに自信満々なのが苛つくんですが。

まぁ、収穫無かったら甘味奢って

くださいよ」

「任せとけって!」

本当、こういうところが憎めない。

「あ、ていうか近藤さんや土方さんに

内緒でやっとかないと俺達いろいろと

後で危うくなりますよ?」

勿論伊吹もだが。あの新選組の頭領達の

説教は長い。足が痺れ、立てなくなる。

食事は抜き、剣も振るってはいけない。

掃除ばかりだ。彼等は自分達を思って

くれているのは分かっているが何せ罰則が

重すぎる。数日は飯抜き、剣無しだ。

耐えられない。だから、あの大人共には

内緒にしておきたいのだ。

「あー、まぁそうだな。俺も彼奴等に

叱られるのは本気で嫌だ」

永倉も苦い顔をしている。剣は強いと

いえども人間的には彼等には勝てない

らしい。

「じゃあ悟られないようにしましょう。

後々怪しまれると視線とか鬱陶しいんで」

京を守る狗だからか観察眼が鋭い。

「だな」

永倉も頷いた。



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