妖護屋

雛倉弥生

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紅蓮の鬼

祭り出る屋台の甘味が一番美味い説あるよね?てか、水飴が美味しい件について

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丁度甘味処で満喫していた頃だったのに。

何故かとある方の使いの鳥が文を渡しに

やって来た。何、俺なんかした? と、

不安を覚えながら女将に勘定をし、そのまま

帰り文を開け読む。

『伊吹、元気にやっているか?

わしは楽しくやっている、今日も煙草が

美味い』

冒頭の文章がふざけすぎていて伊吹は

文を持っていた片手をきつく握り、ぐしゃ

ぐしゃにしてしまった。つい、やって

しまった。

「いや、しらねぇよ、煙草美味ぇなんて。

てか、早く本題入れよ」

続きを読む為、文のしわを伸ばし、目を

動かす。

『夏に嵐山で祭りを行おうと思っている。

妖達だけだが、結構な賑わうぞ。暫く顔を

出してないようだから、祭りで妖達に

顔を見せると良い。祭りの時期に近付いたら

そちらへ徒軌を寄越すが、嫌なら無理に

来なくても良い。だが、伝言だけは

伝えて置くと妖達も喜ぶ。よく考えて置いて

おくれ。

滑瓢(ぬらりひょん)より』


伊吹は文を読むと、畳の上で飛び跳ねた。

どすどすという音が響くが、いつもの事だ。

「やっほぃー! 本当かよ、これで甘味

好きなだけ食べれる! ぬらりひょん、

様々じゃん!」

「……何してんの?」

伊吹は喜びに浸って気付かなかったが、

夜顔が来ていて、玄関の前で伊吹を呆れた

様子で見ていた。

「いや、ちょっと…ね?」

「誤魔化しても無駄だから。ちゃんと最初

から見てたから、安心して」

「安心できるか! ……で、お前が来た

のは?」

ご丁寧に茶を出してくれた。温かい。

「うん、ちょっと知らせたいことが

あってね。お兄さんが仲良くしている武士の

人達が攘夷志士とかいう奴らを倒しにある

店にいったんだけど」

そして、告げられたのは耳にしたくも

無い事実だった。またかという気持ちも

出て来た。

「沖田総司とかいう人が戦闘不能になって

今、屯所で療養してる」

伊吹が玄関へ向かい、草履を履こうとして

いると夜顔がお茶を飲みながら落ち着いた

様子で伊吹の姿を眺める。

「どこ行くの」

「決まってんだろ、沖田さんのとこへ……」

「今行ってもこんな夜だ。入れてくれない

よ。あと、あの人……ヘラヘラしてたから

大丈夫っしょ」

納得したかの様に伊吹は草履を脱ぎ、戻る。

「まぁあれのことだからそうだな。今頃

花札でもやってんだろうなぁ」

俺もやりたかったなと、呟く伊吹。

「あれ、賭博だからやめときなよ? 

…そして、料亭で寿司を食べてた」

え、と夜顔を見る。鳩が豆鉄炮を食ったかの

ような顔だ。

「なぁ、殴りに行っても良い? 

いいかな?!」

今すぐにでも殴り込みにいきそうな伊吹を

夜顔は止める。まぁ、伊吹の力が弱い

のですぐ抑えられたが。

「やめなよ、どうせならお宅の知り合いの

鬼に奢って貰えば?」

「……お前なんて賢い奴だ、よし遊郭に

投げ込んでやる」

夜顔は真顔で、棒読みで喜んだ。

「わー、ありがとう。でもあんな男と女の

性が泥泥とした場所には投げ込まないで」

「俺も態々あそこまで行くには勇気が

ねぇ……」






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