妖護屋

雛倉弥生

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紅蓮の鬼

どうしても地図は読めません。てか、どうやって見るんだよ。訳わかんない、もうちょっと科学が発展した世界での地図をみたいな。

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翌日、伊吹は知り合い兼店員の烏天狗と

共に餓者髑髏が多々出現していると噂されて

いる地区へとやって来ていた。

「なぁ、烏天狗……俺迷ったかも」

地図を上下左右に回しながら見ている。

「は、嘘だろお前。地図をちゃんと読めよ」

信じられないとでもいう顔をする。伊吹は

地図を烏天狗に渡した。

「読もうとしてるけど訳分かんないじゃん。

第一、あー、ここを北に進めば良いとか

思っていざ進んだらいつになっても辿り

着かなくて本当は南だったとか嫌だろ

そんなの!」

烏天狗は伊吹の頭を拳で殴った。

「どんな例えだ! まさか経験したって

いうのかよ、お前本当の馬鹿かよ」

「……そこまで言わなくたって良い

じゃんか、どっかのお偉いさんも馬鹿だって

出世してたじゃんか!」

拗ねた伊吹が反発して対抗するように言う。

「おい、失礼だろ。たとえ馬鹿だと

しても!」

「お前も失礼だろうが!」

「これじゃ埓があかん。俺の背中に乗れ、

目的地まで飛んでいく」

すると、パァっと伊吹の表情が一気に

明るくなり、背後が輝き出した。







「ねぇ、なんでここだけ空気暗いわけ、

なんで目的地墓場なわけ?」

遠い目で目の前の光景を見て即座に

突っ込む。

「知らん、俺は何も知らん」

「しらばっくれるんじゃねぇよ! てめぇが

情報集めて来たんだろうが、自分が調べた

情報に自信持て!」

「うるせぇ、元はといえばお前が俺に頼んで

来たからだろうが!」

烏天狗は伊吹に言葉を返し、墓場の中を

歩く。そして、墓場の中心で足を止め、

自身の武器である錫杖を地面に叩きつけた。

瞬間、錫杖の頭部にある遊環が音を鳴らし、

墓場の周りを歪んだものが包んだ。

「何これ」

「結界だ。当然今から墓を調べるんだ。

姿を見られ怪しまれ、そばに来られ攻撃でも

されたら何も出来ん。それ故に結界を

貼った」

これで思う存分調べられるということ

だろう。

「ありがと、″千華″」 

嬉しそうに伊吹が烏天狗に述べた。

「そこでさらりと俺の真名を言うな、

面倒くさい」

鬱陶しそうにしている。そんな彼を伊吹は

肘で突いた。

「良いじゃん、この天邪鬼男」

「何だその愛称は。もっと良い愛称にしろ」

「えぇ、面倒いからやだ」

ふざけていても気分が軽くなる会話だ。

伊吹は自然と周りを和ませる。本人が

無自覚でもそれで助けられた者は大勢いる。

「いやぁ、千の美しい華で千華って良い名前

だよな。俺もそういう綺麗な名前が

良かったんですけど」

「お前の名も十分綺麗だろう」

「いや、綺麗じゃねぇし。てかさ、お前の

そういうところが無自覚に女の人を惚れ

させるって分かってる?」

嫉妬心を含めた目線を烏天狗にぶつける。

「……ざっと数十人か」

頭の隅に置いていた記憶を引き出し、

ボソッと呟く。それに対し、伊吹は

烏天狗を睨み、歯軋りをする。

「うぜぇ、こいつめっちゃ、うぜぇ。

こうなったら俺も何がなんでも女の人

惚れさせてやる!」

「頑張れ、応援しているぞ」

対して心の篭っていない声を投げた。









「兄の墓に何か御用で?」

結界を解き、墓の前に佇んでいると少女の

声がどこからか聞こえた。目を向ける。

少女の姿は10代半ば、少し幼さが残り、

あどけないがそれでも凛としており、

聡かった。

「兄?」

「はい、兄の夜藺魑(よいち)です。

私は妹の郝吏夜濟(かくりよな)です」

少女、夜濟はその艶のある黒髪に

留められている髪飾りを揺らした。

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