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カフェとホットケーキ

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 突然だけどさぁ…
 買い出し行くついでに、いつも立ち寄るカフェで…
 恋人の鶫 (ツグミ) に「あーん」を、してみた。
     別にフザケタつもりも、罰ゲームでもない。
    運ばれてきたホイップたっぷりのホットケーキにシロップを、絶妙に混ざり合うように掛け。
    それらが、合わさった所を1口サイズを切り出し真面目に…
 「あーん」
  …と、してみた所だ。
 「えっ…ちょっと、ここ…外だよ…」
 「だな…でも、店内だぞ?」
 「…そうだけど…」
 「食べないのか?  ならオレが、食うけど…」
 その時の鶫の顔と言ったら。
 真っ赤と言うか、照れてると言うか…
 「相変わらず。仲が、良いんですね。羨ましいです」
 ニコニコといつも、何かと気に掛けてくれる店長さんで、接客に熱心なお姉さんが、満面な笑みを浮かべている。
 店内の席は、オレらが座るカウンター席とは、別に4席あり外のデッキにも2席ある。
 白を基調とした店内は、洋風な造りでも有るけれど、小物は和風の物もあったり。
 メニュー表には、洋菓子以外にも和のスイーツがあり。あんみつに薄い餅の皮にあんこや白あんにクリームが入れられたフルーツの大福。あんこが、苦手なオレでもリピートする程に絶品だ。
 抹茶にどら焼の渋さによく似合う。
 勿論、抹茶オレもあってテイクアウトで、家でまったりするのもありだ。
 洋風なスイーツは、ショートケーキがメインで、旬のフルーツを盛り合わせたタルトは、季節ごとに変わるから要チェックだし。
 シンプルなロールケーキも、また紅茶にあう。
 甘いもの好きのオレらにとって、こんなカフェが近くに有るとか最高過ぎる!
 「…で、あーん。しないの?」
 店内は、オレたちを含めて…
 珍しく混んでない。
 近所のおばあちゃんが、緑茶とフルーツ盛りのどら焼をたべて……スマホで写真を確認してながら。ニコニコしてる。もしかして、どら焼を撮ってSNSにでも、載せんのかなぁ?
 「オレ食べちゃうよ」
 そんな風に言い終えて口に運ぼうとした瞬間。
 オレの手首を両手で掴みフォークのホットケーキを、鶫は食べた。
 「上手い?」
 「…うん…」
 おもいっきり目を合わせてくねぇーし。
 キョドってるし。
 カワイイって…言ったら怒るよな?
 でもまぁ…
 「こう言うシチュエーションに憧れてんだろ?」
    「そうだけど…」
     このまま拒否されると、思ったけど…
 自分から食べにくるとか、少し以外な気がした。
 「…もう1口食う?」
 さっきと似た所を切り分けたホットケーキを、鶫の口元に近付ける。
 「えっと」
    どう言う訳か、マジマジとホットケーキとオレを交互に見詰め。
しばらく考えた後にオレの方に身を乗り出し。
 そのホットケーキを食べた。
 パクッて、小動物かよ…
    「で、2回目のあーんのご感想は?」
    「美味しい…です」 
    「良かった。あっ、顔真っ赤」
    「じゃなくて、こん大きいの今食べて…夕飯食べれるの?」
    「半分ずつなら。食えるだろ?」
 中ぐらいのを1つ頼んで、2人で食べてるんだから。
    「うん」
    平日の3時過ぎ。
 まだそこまで、混んでないカフェ。
 混むのは、もう少し後って店長さんから聞いたことが有るから。
 時間を合わせて寄ってみた。
    その店長のお姉さんから。
 イイネされてるし。
   思わず笑えてしまった。
  

   事の起こりは、今日の朝食時だった。

  突然。

「ホットケーキみたいな甘い恋かぁ…どんなのかなぁ…」

    ホットケーキ?

    トーストに添えた牛乳を飲もうとしていたけど、あまりもの言葉の衝撃に飲むのを止めた。

    えっ?  
 
 じゃなくて、今…
 恋って言った?

    どうした?
    どう言うこと?
    いや…オレって言う恋人が、居るのに何言ってのマジで、コイツ?
    あっ…これもしかして、別れ話ってやつの前振り?
    平静を装うように、焼けたパンの表面にジャムを塗り込む。
   カリカリと、音を立てるトースト。
   カリカリに焼いたパンにバターやマーガリンのどちらかを塗って、その上から薄くジャムを塗る所が、お互い似ていて、気分によってイチゴやブルーベリーにリンゴ。梅も勧められて作ったけど…
意外に旨かった。
  鶫が、友達から作り方を教わって作ったレモンとみかんのジャムも、かなり美味しかったし。
 ぶどう狩りに行った先の売店で試食したぶどうジャムが、あんまりにも衝撃的に旨すぎで、その場で即2瓶も買ってしまった。
 甘党のオレと鶫を知っている学校での友人が、実家で農家をしていて、そこで取れた杏で作ったジャムとイチジクのジャムは、またその季節が来たらとお願いしているほど、最高で……
 さすが、道の駅に加工食品を卸している農家さんだって事もあり。
 あっと言う間に、食べきった。
 
 って……オレなにジャムに対して熱く語ってんだ?
 別れ話かもな場面の現実逃避?
 相変わらずな鶫は、イチゴジャムをパンに塗って、口に運んでいる。
 ジャム系は、必ず冷蔵庫に何個か入っている常備食だ。
    無くなったら。
    最後に瓶を空にした方が、新しいモノを買いに行ったり。
 ネットでジャムと検索して出てきたのを注文したり。
 オーソドックスなイチゴやブルーベリーが無くなった時は、買い出し次いでにカゴに入れるのが、オレ達の中では、暗黙のルールだ。
    それに最近だって、パンに塗ると最高だとか旨い!  とか噂になってたミルク・クリームってやつを2人で探して、お取り寄せしている最中なはず。
    明日の午後に届く予定のずなんだが… 
    それが、楽しみだって…
 昨日のバイト休憩の時、メッセージが届いたんだけど…
 因みにオレ達は、通う大学も、学部も、何もかも違う。
 ただ同い年で、お互いに甘党って言う共通点が縁で付き合って居るのだけれど…
 確か、ミルク・クリームの件。嬉しそうに話してなかったか?
    あれから…丸1日も、経ってないよな?
    オレなんかした?
    どっちかと言うと、オレの方が…
    ポワホワ。ド天然に見られやすい鶫の面倒を見ているような…
    まぁ…そんな所も、好きなんだけど…
    仮にゴメンで、関係がなくなるのは、まぁ…2000歩譲って、仕方がないけど…
    仕方が、なくないだろ!  
    いや。2000歩の時点で納得できるかよ! 
    いや…でも恋が、どうのこうのって事は…
 オレとは、もうダメって事で… 
 オレとは、別れたいって事なんだよな?
 恋人の鶫とは、付き合うようになって今年で2年目。
 2人とも、出身地が違う。
 さっきも言ったけど、通っている大学も、入った学部も学んでいる分野しても、何1つとして接点がない。
 それこそ最初は、やたらバイトの休憩中に甘い物を食べてるヤツ居るなぁ…
 オレと味覚が、似かよってるなぁ…とか?

 “  それにアイツが、食ってんの。よく見たら今週の新発売したばっかりのチョコだよな。帰りに買って帰ろうかって、思ってたやつだ…… ”
 
 そんなオレの視線を感じたのか鶫は、振り返り。
 『…えっ…と、シギくんだよね?  同い年の?』
 『?…んっ』
 オレの手を掴むと鶫は、チョコを2個くれて屈託無く微笑んだ。
 不意に笑顔を向けられたものだから。
 動揺したと言うか、テンパったと言うか…
 ありがとうを言う前に鶫の方が、先に休憩を上がってしまった。
 残されたオレはと言うと、向けられた笑顔にどう対処していいか1人で、慌てふためいていた。
 一応、貰ったチョコの感想は、伝えないと…とか、律儀に食べたけど…
 微妙に味が、分からなくて…
 バイト帰りに同じモノを買って食べたけど…
 こんなもん?  ってなった。
 
 チョコを食べては、思い出す鶫の笑った顔。
 
 どうにも納得が、いかなくて。
 学校で、大間かにボカシて話したら。
 「それって…カワイイ子にホレちゃった事に対する惚気だろ?」
 「はぁ?」
 「…シギさぁ。食べる度に笑った顔が、ちらついて?  認めろ。惚れたことに…良いよなぁ。バイト先にカワイイ子が居てさぁ…」
 その一言から完全に鶫を、意識してしまい。
 天然っぽそうで、実は以外にしっかりしてる鶫にオレの思っている事が、即バレして…
 
 “   じゃ…付き合ってみる?   ”

 そんな一言で、始まったけど、以外に性格とか、好みとか似ててビックリした。
 気取らなくて居心地が、良すぎた。
 …で、色々あって、今ここのはずなんだが…
 ってか、マジに別れ話だったらどうする?
 よくあの頃には、戻らないとか言うけど。
 甘党以外に共通点も合ったりして、そこそこうまく付き合ってきたつもりなんだけど……
 例えば、学校やバイトで一緒になるヤツらから面白いと、勧められたマンガ本を、ジャンル問わず読める所とか、街をブラ付くのが好きだったり。
 しょっちゅう。お菓子とか甘いモノの発売日とか、気になってネットで調べたり。
 知り合いから聞いたお菓子を、買って持ち寄ったり。
 それこそ、お取り寄せもその頃からだ。

 後は、予定を経てずにのんびりとボーッと過ごして、終わらせる休日を、密かに楽しみにしてるとか…
 そんな日常を、何げなく周りに言うと最小こそ相手の鶫に驚かれもしたけど、逆に興味を持たれ。
 たまに話を聞いてくれる様になったり?
 中にはひやかしも、多少あるかもだが…
 
 まぁ…そんな感じだ。

 で…
 何で、オレ振られんの?
 
 えっと…

 付き合い始めた当初の思い出が、走馬灯の様に…
 駆け巡っていく。

 甘いモノ好きの2人で、色々なカフェの新作ケーキを食べ行くのも、習慣化してるし。
 来月は、サツマイモのスイーツが、店頭に並ぶと教えてもらったから楽しみだって、何日か前に言ってたろ?
 そう言う店巡りは、オレの方が、誘われりで、楽しみにしてたんだけど…
 後ケーキバイキングに行って、元が取れたか?  なんって帰りに笑いながら話したの…
 おとといじゃん…

 そう言えば、1ヶ月前にお互いに好きだったマンガが、実写映画が上映されるって聞いて、休みの日を合わせ2人で観に行ったら。
 鶫が、映画の途中から号泣して、見終わった後に目が腫れて大変な事になってて。
 休憩がてら立ち寄ったカフェで、やっと落ち着いたと思ったら。ナゼか、鶫が、ケーキとシュークリームをプンプン怒って食べ始めたっけ?   
 理由を聞いたら。
 恋人を追わなかった主人公に対して、怒っていたとか…
 原作でも、納得してない風にクッキーを、ボリボリ…ムシャクシャ食っていたのは、それが原因か…
 『でも、アレってさぁ…追わなかったんじゃなくて…追えなかったんじゃねぇーの?』
 『…なんで?  好きなら追うでしょ !!』
 『追わなかったのは…相手を、自分に縛り付けたくなくて…追っても、お互いにまた傷付くって場合もあるだろ?  まぁ…擦れ違いが、元だけど…数年後には事件も、モヤモヤも解決してハッピーエンドっての?  それになるんだし。良いんじゃねぇ?』
 『…そう言うもん?』
 『その下りがあるから。また出会えたんだって…』
 『原作好きだけど、やっぱりソコだけが、納得いかない…』
 眉をひそませながら困った顔して、無理矢理シュークリームを頬張り口を尖らせた。
 『こんどは、スカッとするアクション系の映画でも、見に行くか?』
 『行く !!』 即答かよ。

 そんな色々な共通点を、繋ぎ合わせながら。お互いに側に居られるならって…
 街中で、堂々といちゃつく訳にも、いかないし何って、最初はそう言っていたけど。
 付き合う前のオレにとっては、
     鶫の存在は、バイト仲間の1人だった。
   その一方でオレの存在は、自分と同じ甘党だって知れて、友達になれたらなぁ…
 ぐらいに思っていたらしい。
 あの日、休憩室で新発売のチョコを食べている自分を、見掛けて何かを言いたそうにしているオレに友達になれるチャンス!  とか思って、にこやかに渡したら。
 オレに惚れられたって、通常なら。
 ウゲってなっても、仕方がないのに、じゃ…付き合う?  ってなる
    鶫のメンタルぜってぇーに、つぇーっに決まってる。
 それでもアイツは、付き合っていく上で、似た共通点を探しては、アレコレと距離を縮めてきたんだとか…
 なんか…愛されてる?
 そんな風に想えて、癒されて…
 会えない日は、もっぱらメッセージの遣り取りして、時間があったら電話をする。
 そんなことを、繰り返してた。
 メッセージも、話す内容も会って話す内容と何も変わらない。
 店で見掛けたお菓子の話しに、マンガ本の話し。
 学校で、あった面白い話し。た
 付き合った当初の数ヶ月は、互いの部屋に、お菓子や本や映画のDVDを持参して行き来してたり。
    それこそ雑魚寝で、寝泊まりもした。
 今、この現状が事実なら。
 その頃に戻りてぇ…
 
 雑魚寝して、くだらないこと言い合って、ふざけてバカ笑いして…
 あの時も、恋人ではあったけど、今程親密…って程でもなくて…
 友達の延長線上にお互いがいる感じで…
 悪くはなかった。
 寧ろ今、別れたりしたら。
 あの関係にも、戻れない。
 
 そっちの方が、切ない。


    でも、今の関係ってアイツなりに距離縮めようと必至に考えてくれていた事の結果で、

 おそらく鶫自身は心穏やかでは、なかったかもしれない…

    アイツの付き合ってみる?  は、かなり勇気のいることだったはずだ。
 それで、始まった関係だけど、それで、付き合い出したのもマジな話で…
 今に繋がるから。

 オレ的には、大事にしたいし。
 大事にされたい。
 
 最近だって…

   “  ボク。シギと付き合えて良かも ”   
 って、笑ってたんだぞ…

 続けて…  

“  ボクってさぁ。恋愛経験あんまり無いんだよね。片想いで終わったり。恋愛対象の子に逆に恋愛相談されたり?  みたいな…  ”

 確かに鶫は、話しやすくて、ニコニコしてるから。
 信頼されての誤解と言うか、相談にのってくれそうって、思われてるかもなぁ…

 まぁ…そう言うのが、あるから。オレは、鶫と付き合えて居るわけだけど…
 
 そんな風に回想を終了させたオレは、項垂れ。
 一応うまくいっていると、思っていたんだけど…と、小さく呟いた。

    もう少し詳しく言うと、オレと鶫との同棲生活は、約1年になる。

  「…あの…オレ、何かした?」
  「え?  何かってか、何が?」

   普通に付き合ってたはず…

   オレらが、傍目から見てラブラブだったかと言われれば、どうなのか…
 人前で腕を組んだり…
 手を繋ごうとしようものなら
 凄い勢いで、拒否られる。
 
 何ってことはない。

 恥ずかしいらしい。

 …とか、言いながら。

 オレの上着や袖口にリュックの紐を引っ張ってくるのは、恥ずかしくないらしい。
 なら隣を歩けば、いいのにとオレは、思いながら。
 声を、掛けられずにいる。
 
 まさか…

 そう言うことも、重なったり?
 もしかして、この間、お取り寄せした時にジャムの瓶を2つって所を、間違えて3つ頼んでしまったのを…怒ってらっしゃる?
 
 いや代金は、オレ持ちだし。

 そんなことを、いつまでも根に持つタイプじゃない。
 
 じゃなんだ?

 別れたい理由って………
 
 オレだけが、いつの間にか大好きになりすぎてて…

 引かれてた?……とか?
 
    ってか、その前に相手誰だよ ?! 
    アイツの事だからオレの時みたいに、突然告られて、断りきれなくてみたいな?

    ドコで知り合った?  

     学校とか?
     それは、元々オレの許容できる範囲越えてるし。
     そこまで、ガチガチにするつもりねぇーけど…
    
     習慣化した2人で、向かい合って食べるいつも朝食…のはずなんだけど…

  「…鶫。何で…ホットケーキなの?」
 「へぇ?」
 鶫は、不思議そうな顔をした。
  「今日は、トーストで…いちごジャムだよ?   珍しくホットケーキの方が良かった?」
  「オレじゃなくて鶫が、ホットケーキみたいな甘い恋が…どうとか言い出したんだろう。言った自覚なかった?」 
    そんなオレの言葉に鶫は、目を丸してトーストを持ったまま動きを止めた。
    何って、反応だよ?
 「何で…知ってるの?」
 「何でって、お前が言ったって、言ったろ?  で?   誰だよ。その相手…」
 「ぇ?  相手って? 」
  パニックになってる鶫は、固まったままだ。
  多分。
  オレの剣幕も、酷かったのかもしれない。
 「あの…ボク。浮気はしてないから。ずっと、シギくん一筋だよ…」
   わざわざ鶫は、オレの方に駆け寄り首に抱き付いてきた。
  「ホットケーキの話しは、昔見たマンガの本に出てくるやつで、先週…同じ学校の友達との話してて、その本なら実家にまだあるなぁって懐かしくなって、実家に頼んで、それ送ってもらったんだよ」
 ダイニングの本棚から。その本を取ってきて、そのマンガのページを見開いてくれた。
 「…それで、恋人同士がデートで……」 ゴニョゴニョ…と、言葉を濁し始める。
    何…言ってるのか、聞き取れなくて鶫のマンガを貸してと手をヒラ付かせた。
 ペラペラとページを捲る。
    「だから。カフェに立ち寄って…相手の子が、頼んだホットケーキが、美味しそうに描かれてて…普通に食べたりして、 “ あーん ”  して食べさせてもらったりする場面があって…そのセリフにホットケーキみたいな甘い恋が…って出てくるでしょ?」
 「羨ましいの?」
 「…うん…」
 小さく頷いた。
 「…っなの。言ってくれないと、分かんねぇよ。オレが、人一倍察しが悪いのと、自分から伝えるの苦手ってて、知ってるだろ?」
 「うん。ゴメン…」
   それで、うだうだと掘り下げて考え込んでしまう。
 オレって、かなりカッコワル…
 「その…ボクが、シギくんを嫌いになるとかは、あり得ない。それだけ好きだから」
   溜め息が、出た。
 「知ってる。だからさぁ…羨ましいなら。羨ましいって言えばいいし。そんな風にしたいって言うなら。そう言えって……まぁ…オレも、気付けるように努力する…」
     鶫は、プッと吹き出した。
  「努力って、なにぃ~っ」クスクスッ。
  「色々あるだろ?」
   でも、コイツの笑った顔は、付き合う前から。嫌いでは無かった。
    そのフワッとした表情にタレ気味の目元が、気になった。
     周りにそんな風に笑うヤツが、居なかった。
 いつも、屈託無くて笑ってて、微妙に天然な所もあるけど、話しは面白いし。
 一緒に居るのが、当然だって思えるし。
 色々な事、引っくるめてそれも、切っ掛けだから。
 場の空気が、いい感じに和んだ。
      
    で、冒頭に戻る事になる

 「所でさぁ…」と、オレが      に問い掛ける。
 「ホットケーキとパンケーキの違いって…何? 」
  「えっ…と…確か、生地が薄いのと甘くなくて、フライパンで焼くのが、パンケーキで…生地が厚めでナベで焼いて食べるのが、ホットケーキ…?」
 カウンターの奥で、店長達が…イイネと手でジェスチャーしたり頭の上で○を作ったりしている。
 「じゃ…市販のは、ホットケーキって言わなくないか?」
 「箱にホットケーキって、書いてあるんだから。ホットケーキでしょ!」
 2人分用意されていたホークとナイフで、ホットケーキを切り分け食べる鶫にオレは、おもむろに…
 「明日。日曜だから。お昼ホットケーキとかにするか?」
 「フルーツ盛りが、いいかなぁ…イチゴは、時期がズレるから。ジャムで…キウイとか好きなフルーツの缶詰め使って」
 「じゃ…生地は、あんまり甘くなく仕上げて、ホイップやバニラとか?  チョコソースも良いかもな。あっそう言えば、メイプルシロップ切れそうだから。買ってくかぁ?」
 「ならさぁ…食べ終わったら。ホットケーキの材料買いに行こうよ」
 「そうだなぁ」
    
    あの。

    “  あーん ”

    …から数分経ったけど、相変わらず顔を赤くして、ホットケーキに付いているホイップを盛ったホットケーキを、食べる仕草とか、普通にカワイすぎなんだけど。
 「また。あーんしてやろうか?」
 口一杯に頬張って、ゴクンと飲み込み。
 「…ボクが、してあげる!」
 「はぁいっ ?!…」
 さっきオレがした様に、一口大に切り分けたホットケーキにホイップを乗せたモノを、口元に運んでくる。
  
 食べろ! と言わんばかりな鶫は、フワリと笑い。

 「ハイ。あーん。………どう? 美味しい?」
 
 またニッコリと、微笑む。
 オレは、照れくさくて味が分かってないらしい。 
 
 「お…美味しい…」
 「良かった」

 コイツ。

 よくオレの手を、取って食えたなぁ…
 ドヤる鶫の顔見ながら。
 「カッケー」って、口に出してた。
 「えっ…何が?」
 
 そう言う天然な所がだよ。

 「自己完結しないでよ」
 「いいじゃん。早くホットケーキ。食べよう」
 
 買い出しにも行かなきゃだし。
 
 「で、隣を歩いて欲しい」
 ハッとした顔の鶫が、隣に居る。
 「うん。分かった。頑張る」
 ったく、何で棒読みなんだよ。
 「照れてる?」
 「! 照れ…てないよ!」
 
 甘い香りのする店内にホットケーキの柔らかさ。
 照れてるのにナゼか、ドヤるアイツの姿に、笑みが溢れる。
 
    

     
     
                                          おわり   

    
                              






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