隣人の向居さんと最後の晩餐を…

315 サイコ

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 シュトラへの出張を明日に控えた日の午後。
 俺と向居さんは、繁華街を歩き回り一軒のアウトドア系の店に入っていた。

 「あの…向居さん? なんで俺らアウトドア系の店に入ってるんですか?」
 「…服を買うためでしょ?」
 「ナゼ?」
 「明日からシュトラに行くんでしょ? まさかだと思うけど…そのコートで行くつもりしてるの?」 
 「ダメですか?」
 「ダメーッ…」と、お隣に住む向居さんから睨まれる。
 
 シュトラへの直航便が無いために行くとなると、別の国を経由して行かなければならない。
 事実上5日間と言っているが、正確に言えば、シュトラ滞在が5日間。
 行きに約1日。
 帰りに約1日が、正しい。

 そして…
 約1週間。
 向居さんとは、会えなくなる。

 「あのね。日本は、春先だけど…シュトラは、まだ真冬だよ…」
 「そうなんですか?」

 なんか、やけに詳しいなぁ…
 俺が行くって話したから調べてくれたのか?

 確か以前、向居さんは、その地域の食を調べる時に、その郷土を徹底的に調べて、そこに根付いた地域の文化や伝統な風土を参考に、その場に出向いて料理を食べ自分が疑問に感じたことやその地域の歴史と食文化を、知るのが仕事をしている上での醍醐味で1番好きなん瞬間なんだって言っていた。
 その人からの情報は、かなり有力な情報なのかも知れない。

 「…で…何を買えば良いんでしょうか?」
 
 俺的に言えば、コートで十分だって思っていたからまさか…
 本格的な防寒着を買いに行かされるとは、思っても見なかった。
 今着ているコートは、会社や近所のコンビニやスーパーに行くのに使っているいるものだし。
 スーツケースとは別に用意したバッグに今年買ったばかりのニット帽が、既に準備してある。

 「十分じゃないよ…シュトラの真冬を、舐めてもらっちゃ困る!!」

 そう息巻くのは、いいとして…
 やたら元気なのが、正直な所。
 空元気にも、見えなくもない。

 「そうだなぁ…この登山用の防寒着とか良いと思うよ」

 指を差したのは、ダークグリーンの防寒着で、太ももくらいまで覆う事が出来るものだった…

 「ダサいとか思ってるでしょ?」
 「いえ…」
 「これは、現地に着いたら速攻で着る事になるはずだから必ず手に持って移動すること!」
 「はい…」

 店の中でまた向居さんからキッと睨まれ俺は、タジタジになる。

 明るい店内は、アウトドアや本格的な登山で使う靴や小物から大型のテントまで取り揃えられている。
 
 「取り敢えず。コレを買って持っていけば、大丈夫!!」
 「ってか、そんなに寒いんですか? えっ…靴は…」
 「普通のブーツとかでもいいけど…中敷きは厚目で、中ボア推奨らしいよ!」

 向居さんは、不思議な顔して俺を見上げる。

 「…冬のシュトラ行った事ないの? 本社あるんでしょ?」
 「そうですけど…冬は、まだ行ったことないです…」
 「マジカ…ってか上司さん達も、粋なことするね…」
 
 粋なの使い方間違えてるよとは、言えないから何とも言えない。

 アウトドアショップを出て、また繁華街を歩き出す俺達は、どんな風に見えているのだろう。
 友達ってよりは、距離が近いから見る人が見れば、恋人みたいに見えていたりするんだろうか…
 
 「……………」

 …なぁ…訳ないか…

 「あのさぁ…志野くん…」
 
 隣を歩く向居さんが、何か言いたげにジッと見上げてくる。

 瞳の深い緑色とそれを包み込む深い茶色は、森の奥で空を見上げた時のような錯覚に思えた。

 「ハンバーガー食べない?」
 「ハンバーガー?」

 ヘルシー思考な人だから。
 あんまりジャンクフードを好まない向居さんからの提案は、意外な感じがした。

 「この間、ブログのフォロワーさんの1人が、この辺りで新しくできたハンバーガーショップを紹介していたんだ。レタスとかトマトとか…他にも、新鮮な野菜たっぷりで…」

 美味しそうな食事の前で頬が緩んでいるのか、幸せそうな顔でご機嫌だ。



 
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