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推しの推し活

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 推しの居るグループのライブチケットは、ファンクラブ会員でも中々、当たらない。
 仮に当たったとしても、三人いるメンバーの中で、自分の推しが必ずしも近くに来てくれるとか…
 目の前で歌ってくれるてかの保証は、ドコにもない。
 ましてやファンサとか言うのを、してもらおうと大きな団扇とかにして欲しい事を、推しの名入で描いて振っているのをよく見るけどさぁ…

 手を振って! 

 笑ってとか! 

 こっちウインク!

 あと…

 エアハグして!   だっけ?

 と…まぁ…本当に色々と訴えているけど…
 こう薄暗い会場じゃ分からないよね?
 しかも、周りの女の子達は、笑ってくれれば、自分に向けられたファンサだと思ってキャーッ。キャーッと熱量が凄まじい。
 推しへの愛?  なのかなぁ?
 なんって冷めた発言を繰り返しているけど…
 僕だって、時間を掛けても、掛けても掛けたりない。
 語り尽くせないぐらいの推しが居る。
 Rega-meのメンバーの一人でダンスを得意としているASAKA。
 高貴な顔立ちで、長い手足に高い身長。
 勿論。歌声だって文句の無い程に透き通った声で…
 優しい癒やされると応援しているファン多い。
 ただRega-meが、ダンスを売りにしているグループだけにシットリとしたASAKAの歌声は、少々合わないらしい。
 ソロ活動で、歌って欲しいとかの話しも囁かれるけど、今はRega-meとしての活動を最優先している。
 もっともASAKAは、現役の高校生だし学業の方も優先なんだろう。
 事務所の方針も、学業は疎かにしないとして有名だし。
 まぁ…何はともあれ。
 こうやってファンとして見守る事が、幸せなんじゃないかと思っている。
 それに…
 デビュー前の路上時代から男のファンって、パッと見少ないし。
 女子のファンよりも、肩身が狭いんだよ。
 目立たず。
 騒がず。
 流れに身を任せて、立ち止まらない。
 ライブの醍醐味は、遠目でもいいから。
 その姿を見る事と、ライブツアーでしか買えない限定グッズだけど、女子で溢れかえるあの中を、堂々と買いに行く勇気がない。
 取り敢えず開演数分前になると人通りは、無くなるから。
 せめてライブツアーで売っている限定の推しカラーTシャツとタオルぐらいは、欲しいなぁ…とか?
 恐る恐る。聞いてみると、まだあるとの事で手に入ったものの。
 この場で着る勇気もなくて、そそくさとバックに戦利品を仕舞う。
 そんな風に僕は、密かな推し活をしている。
 無論。気付かれたくないしからで、家族にも内緒だし。
 学校では……元々、話す相手も居ないから地味に目立たずを、貫いている。
 僕は、どっからどう見ても陰キャだ。
 根暗だし。
 眼鏡だし。(リアルな人間関係が怖くて、伊達眼鏡だけど…)
 それに話す相手も居ない見事なボッチ系だ。(ただしSNS上には、仲間と言うか、同じASAKAの推し活をしている人達のコミュニティに参加させてもらっている)
 陽キャ一軍のクラスメイト達からは、根暗って呼ばれてるのは、分かっている。
 いや…別に興味ないけど。
 僕としては、密かな楽しみ的なRega-meの推し活が、出来れば最高!  
 それに陰キャ陽キャで、頂点が決まる学校で愛想を振り撒くなんってバカげている。
 必要なのは、何が好きとか、趣味とかで、僕の場合は推しをドコまで推せるかだ!
 進学校だからバイトは、出来ない。
 (大学には行きたい)
 月のお小遣いは、決して多くはない。その中から推しグッズは、かなりの高額…
 先日のライブも、地元開催で徒歩圏内だったから行けたってだけ…
 まさにあのライブのためにとは、大袈裟かも知れないけど、お年玉を遣わずにためていた賜物だ。
 だからライブ限定の推しカラーTシャツとタオルを、ゲットできた訳だ。
 それにファンクラブ限定サイトの通販で買うことが出来るアクスタも、それなりなお値段だ。
 高校生の僕には、安易にポチることは不可能。
 あのサイト。
 やっと気に入った品を手に入れたと思ったら。
 今度は、アクスタのキーホルダーとか…
 アクスタの無限ループ沼にはまり。
 嬉し悲しいと、もがく毎日。
 しかも、Rega-meの三人をデホルメしたぬいもまた特徴を捉えていて、とても可愛い。
 でもって高い。
 見様見真似で作れないかとフェルトを漁ったけど…
 家庭科が、そこまで得意じゃないとこに気付いて思わず自分に幻滅。
 仕方がないから…
 プラ板買ってきて、それをなぞって…色を載せてオーブンで焼いたら。
 良い感じのアクスタ風キーホルダーが、完成したから良しとして家で使用中…
 それに今日発売の雑誌の特集でRega-meの三人が取り上げられているらしい。
 しかも表紙も、飾っているとか。
 今月は、その雑誌を買って残ったお金で、来月は推しのアクスタを買おう!
 で、再来月のお小遣いに足して、ぬいを買うのに回そう!
 そう。
 誰にも、気付かれずに地味に本気で推し活ぐらいが、丁度いい。
 それが、自分に合っているのが、分かるから。
 推し活の全てが、僕の生き甲斐となっている。

 あぁ~っ! 
 雑誌、楽しみだなぁ~!
 
 今思えば、その日の放課後、念願の雑誌を購入し自宅の部屋で、一言一句見逃さない勢いで雑誌を読破し。
 寝る前にグループチャットで、その雑誌の表紙と掲載された写真については勿論。各々が、自分の最最推しの素晴らしさを語った…
 その反動と言うのか、余韻と言うのか…
 翌日学校に行っても、神過ぎる表紙をスマホで撮影したものを眺めては、表紙を待ち受けにするか、単独で掲載されたいたASAKAの写真を、スマホの待ち受けにするか、ロックにするかと、悩んでいる姿なんって、陽キャ達一軍からすれば、陰キャの試行錯誤ってのは、眼中にすらない。
 

 無視?  上等だ!

 ボッチ最高ぉーー!!

 それにこの席は、後ろの窓際で誰も注目しないはずが…
 僕の隣には、昨日の帰りには無かった机と椅子が、朝から平然と置かれていた。

 転校生…とか?
 言ってたっけ?  

 まぁ…良いや。
 
 朝のホームルームが始まり。
 一通り担任は、教室内を眺める。
 そこまで指摘するわけでも、注意する訳でもない。
 全員揃ってるな?
 ぐらいの一通りだろうか?
 何か話してるぐらいだなぁ~って感じに聞いていると、クラス全体が大きくザワ付いた。
 軽く悲鳴みたいなどよめきも、上がったように聞こえる。
 まぁ…別に興味はない。
 担任は、転校生を紹介するとか言ってる。
 色めき立つ女子。
 珍しく男子も、動揺している。
 転校生らしき人が、名乗っているらしい。
 声からするに転校生は、男とみたが…
 この一軍が、はびこり過ぎなクラスメイト達が、騒ぐようなヤツだ。
 おそらく超絶イケメンの類いなんだろう。
 それこそ僕には、関係ない。
 担任は、後ろの席がどうとか言っている。
 この隣の席の事か?
 
 別に…

 興味無いけど、僕は、推しを推せればそれで良い。
 推しを知っている仲間と繋がり語れれば、それで良い。
 「俺。朝霞って言います。これから。よろしくね」
 落ち着いた声で、話し掛けられたが、イケメンとか元から住む世界が違う。
 無視で、いいよな?
 「………」
 
 って、今…アサカって言った?
 
 「あの…えっと…陽音くんだよね?」
 
 何が、えっと…なんだ? 
 じゃねぇーよ。

 転校生に、名前呼ばれた?

 ハッと顔を上げて、声の主を見上げる。
 「A…SA…KA……?」思わずスマホの待ち受けと、声の主を交互に見入る。
 パァァァと、自ら発光でもするかの様な笑顔で、見下ろされる圧からすると…
 「本物?」
 スッと自分の席に着きノートとペンケースだけを机に並べる推しの姿。
 ホームルームは、とっくに終わっていて…後の席には、人だかり。
 同い年とは、路上ライブ時代に少し話し掛けられたから。
 知っていたけど…
 何で?  この学校?
 しかも、ここ進学校なんですけど?
 アイドルが、進学校に行ってますは、特別珍しい話じゃないし。
 高学歴芸能人とかも、割りと結構聞く。
 それにしても、この学校…かなりレベルが高いだろ?
 高校としては、難関校なんだし。頭いいのか?  初耳だぞ。
 「陽音くん。あのさぁ…教科書揃ってないから。見せてもらえないかな?」
 クラスメイト達が、また色めき立つ。
 って、言うよりも…
 何で名前を呼ばれてんの?
 知り合い?
 みたいな視線が、怖い。
 そりゃそうだよ。
 クラスメイト達は、この人物が有名人で、Rega-meって言うグループの一人でASAKAだって事に気付いている。
 気付かない方が、無理じゃないか?
 どう切り抜ける?
 経験上こう言うときは、目立ってはダメだと分かっているのに…
 目立ちまくってる。
 陰キャは、陰キャらしく。
 モブは、よりモブらしく。
 「あの。ASAKAくん!  良かったら私の貸すよ」声の主は、陽キャ最上位の女子で…名前は、覚えていない。
 「えっ……」と、戸惑うアイドルのASAKAくん。
 いくら推しでも、陽キャは、陽キャ同士でつるんでいて欲しい。
 疲れる。
 「あの隣でも、無いのに?…」
 「その子は、あんまり喋らないし。声も、小さいし。いつも人の話とか、聞いてなさそうだし」
 こそっと、ASAKAの耳に耳打ちする。
 「存在感も、微妙だから…」

 聞こえてるっつーの!

 ってか、
 デビュー前からの推しなのに…
 なんだ?
 この気分の下がり具合は?
 遠くで見てる分が丁度、良いと思える近すぎなこの距離感。
 最初は、少し緊張したけどさぁ…
 同じ制服着て隣の席に座って、授業を受ける最推し。
 見れば、見る程に冷静になっていく自分。
 距離が近いのは、ファンとしてラッキー?
 いや…自分だけ。
 何を、ラッキーとか思っているわけ?
 平等にならないと、いやいや…
その前にRega-meの人気は、物凄いんだってライブのチケットなんって、ファンクラブ会員でもソールドアウトは、当たり前。
 推しクッズも、飛ぶように売れる。
 そんな具合に…
 悶々とした時間だけが、あっと言う間に過ぎた。
 何度か、朝霞くんから話し掛けられたようだけど…
 教科書は、陽キャ女子一軍頂点から借りれたんだし。
 僕が、教えなくても周りが教えてくれる感じにドコか、ホッとした。
 昼休みは、陽キャ一軍が、校内を案内するらしい。
 僕には、関係ないけど…
 ならば、いつものように推し活をって、考えてみたけど…
 近くに居るし。
 今更な空気感になってしまい。
 机に突っ伏して、昼寝した。
 
 チャイムで、目が覚める。
 
 隣には、推しの姿。

 ニコニコして…
 何?  ファンサ?
 頼んでないし。
 
 なんか…
 昼寝して、冷静になれたわ。

 スマホを取り出す。
 この前、張り出されたばかりだったRega-meの新曲を知らせる大型の街頭ポスターからASAKAだけズームして加工した待ち受け画面を、既存の壁紙に変えた。
 「え゛っ…」
 「何?」
 慌てたように朝霞くんは、ソッポを向いた。
 振り向くに振り向けないと、背中から伝わる戸惑いに僕も一瞬、戸惑った。
 朝霞くんは、ASAKAくんでもあるけど、クラスメイトを待ち受けにはしたくない。
 近くに居る人を、待ち受けにする意味が感じられない。
 そして、夜になった。
 どうやら。
 自分の考えに、間違えはなかったようで…
 その日は、推し活をする意味を見出だせずに勉強に集中するしかなかった。
 翌朝。
 心なしか…
 スッキリと、目が冷めた。
 いつも通りに顔を洗い。
 制服に着替えて、朝食をとる。
 いつもの朝だ。
 スマホで時間を、気にする。
 高校も、徒歩圏内だし。
 まだ時間に余裕がある。
 試験も近い事だしと早目に学校に着き教科書を読んでいると…

 「ねぇーっ。席替わりなさいよ」
 「どうして?」
 「似合わないからよ」
 
 あぁ~っ
 朝霞くんの隣になりたいと…
 そのためには、陽キャはモブの席も、分取る種族なのか?  
 「早く退きなさいよ」
 晴れやかに、スゲーこと言ってくれてるよ。
 無言のまま席から離れると…
 背中に突き刺さる様な圧と言うか、ゾッとする感覚が押し寄せてきた。
 「あっ!  ASAKAくん。今日から私が、隣ね!」
 リアクションも無いままに朝霞くんは、僕の隣に立った。
 何?  この息苦しさは?
 さすがに重すぎねぇ?
 周囲を見渡すと、僕同様に何かを感じ取ったクラスメイト達が、真っ青な顔をしている。
 「勝手に席を、変えないで欲しいんだけど…」
 「だって陰キャの吉河だよ? 話してても、面白くないし。オタクっぽいし。昨日、声掛けてたたみたいだけど…全然。会話になってなかったし。陰キャに無視されるとか…イヤでしょ?」
 「…別に誰が、隣でも良いけど、キミは、ちょっとね」
 「どう言う意味よ !!」
 「昨日、何度も先生から授業中に注意を受けていたし。貸してもらった手前、言いにくいんだけど…教科書が、蛍光ペンで見にくくて…」
 あぁ~~っと、納得するクラスメイト達。
 「それに、進学のために敢えて進学校に編入しても、授業に身が入らないとか…事務所や親に申し訳が立たないから。取り敢えず。昨日のままが、良いかなぁ」
 ワナワナと震えながら陽キャ一軍女子は、自分の席に戻って行く。
 名前を知らない陽キャ一軍女子は、真っ赤な顔で、僕を睨み付けたが、ナゼか直ぐに青くなり。
 周りの陽キャ一軍達と話し出した。
 「?っ」と首をかしげると、視界に朝霞くんの顔が写り込む。
 整った顔は、どう見ても作り込まれたみたいに繊細な造形美だと改めて感心してしまう。
 その上、頭が良いとか…
 ダンスが得意ってことは、スポーツも得意何だろうし。
 あの美声。
 このルックス…
 届きそうもない人として、見ている事ろが、いいんだよ。

 クラスメイトとか…

 隣の席とか、あり得ないんだよ。

 一般人として、近づくもんじゃない。
 よく美人は直ぐに見飽きるって言うけど、学校にいる間中、保々隣にいるし。
 今までの憧れ感やドキドキするような感覚が、無くなり掛けてる。
 そう言えば、待ち受け昨日から既存のにしてるけど…
 特に気にならないや。
 あんなにファンとして、癒されていたのに…
 特に何も、思わなくなったとか、
 まさか…
 僕。
 推しが、推せなくなった?

 「あの…教科書みせてくれると嬉しい…かな?…」
 
 じゃねぇーよ。

 やっぱり。
 推しが、クラスメイトになった時点でアウトだぁ~っ…
 
 地味な僕の推し活の場を、返せよ。
 このヤロー……
 
 なんでよりによって、クラスメイトな訳?
 しかも隣の席。
 あり得ないだろ?
 
 「やっぱり。教科書が見やすね。それにノートの取り方も上手い」
 先月のライブで、ファンサをお願いと大きな団扇を、必死に振って声援を上げていた隣の見知らぬ女子が、僕の立場だったら間違いなく。
 溶けていたかも知れないぐらいのキラキラの爽やかな笑顔。
 「そう……」
 多分。この時の僕の表情は、魂が抜け出たように気の抜けた顔だったはずだ。
 その証拠に朝霞くんの顔が一瞬、硬直しかけた。


 いや…

 何で?  
 そんな無関心な顔しかしてくれないの?
 俺のファンじゃなかったの?
 三年前グループ結成して直ぐの無名時代から。路上とかライブハウスとかに来てくれて応援してくれてなかった?
 俺とか他の三人も、陽音くんの存在知ってるよ?
 昔、少しでも皆に受け入れられるグループにって、三人してライブ終わりに来てくれた人達に話し掛けて改善策とか、こうしたらもっと良くなるとか、聞いたりしてたその中に陽音くんの姿もあったよね?
 同い年だって話したことも、あるよね?
 忘れちゃった?
 あの頃は、眼鏡なんってしてなかったし。
 目が悪いとか、聞いたことない。
 しかも、なんでこんな反応なの?
 陽音くんは、俺に取って初めて出来たファンのはずなんだけど…

 えっ…と…

 ヤバ。混乱してきた。
 同じ高校に編入すれば、仲良くなれるかなぁ~って、安易に考え過ぎた?
 もしかして…
 「線引きとかする方?」
 「はぁ?」
 「あっ…いえ…別に…」
 何を、どうやっても授業の内容が入ってこなくて…
 初めてのテレビ出演よりも、動揺してしまった。

 「オマケにさぁ…陽音くんのスマホの待ち受けが、急に俺やRega-meですらなくて…スマホの入っている既存の壁紙みたいな?……」
 ジットリとした視線。
 「だから。ボク言ったじゃん。近すぎると関係が、ぶっ壊れるよって」
 白秋は、ツリ目がち。
 名前に見合った赤茶色に髪を染めていて、小柄な印象を受けるけど、その声量と音域は到底マネできるものではなく。
 マイクを通さずとも、歌声をライブ会場に響き渡らせてしまう程だ。
 勿論、Rega-meのリード・ボーカル。
 因みに俺が、それをライブ会場で、やったら一発で声が潰れる。

 「…っんだよ。白秋の言う通りだ。 相手は、オレらを手に届かなそうな人って、感じに思っている訳だ。そんなヤツが目の前に現れても、戸惑うだけだろ?」
 ズカッとした物言いをするのは、三人の中で一番高い長身を誇る灯夜だ。
 そのルックスは、モデル並みでよく個人活動としてモデル業も率先して活動している。
 「ねぇ…もしかしたら。陽音くんさぁ…本当に冷めちゃったんじゃないの?」

 冷めた?

 「確か陽音くんって、初期から応援してくれた古参の男の子だよね? ボクも何度か話したことあるし。初期のファンは、あの子だけじゃないのに何で、そこまで固執してるわけ?」
 「えっ…」
 「えっ…じゃねぇーわ。お前が、進学したいからって、編入試験受けるって聞いたきは、スゲーなぁって思ったけど…編入目的が、ファンに近づくためだとか…有り得ねぇーからな…」
 灯夜にギロリと、睨まれる。
 さすが、モデルで鍛え上げられた眼力だ。
 今、俺達が居る場所は、事務所内のレッスン場で、陽音くんの反応が、冷たいなんって口走った事に、端を発した会話が始まりだった。
 「何目的なの?」
 目的…
 「初期からのファンだったし。俺のファンだって、初めて言ってくれたし。同い年だし……」
 それ以上のことなんって…
 「お前さぁ…なんつー顔してやがる?」
 「へぇっ?」なんつー顔って?
 「そんな朝霞の顔を激写!」
 撮られた写真は、直ぐ様、俺のスマホに送られてきた。
 「何…この顔…」
 「瞳をウルッとさせて…」
 「顔だけじゃなく。耳まで真っ赤とか…」
 「それしかねぇーじゃん」と、二人は、示し会わせたかのように見事にハモった。
 「…そのつまり。どう言う事?」
 二人は、スッと立ち上がる。

 「いや…だからさぁ!」
 
 「取り敢えず…嫌われないようにね…」
 「だな…じゃ休憩終わるぞぉ~っ、最初から通しで…曲流して、いつもみたいに気付いたところを、言い合うって感じで」
 「ハ~イ!」

 どう言うこと?
 
 俺は、陽音くんに会いたくて…
 元々、進学もしてみたいって思っていたから。
 どうせなら一緒の高校に行きたい。
 クラスが違っても、同じ学年で同じ校舎なら偶然に出会えるかもって…
 そしたら。
 同じクラスで、隣同士の席とか…
 内心どれだけ喜んだか…
 ツワー中で大変だったけど…
 会いたい一心で、編入試験を受けるべく時間も寝る暇も割いて、命がけってぐらい一時は、過労と寝不足でボロボロになっけど…
 そこに陽音くんが、居るって分かっていたから…
 「…………」
 気持ちが入りすぎて、かいた汗以上の涙が、流れ落ちてきた。
 止まらない。
 「あの…ゴメン。ちょっとトイレに行ってくる!」
 「あぁ?」
 「分かった……」
 ドアを閉じる時に唖然とした二人の顔が見えたけど、泣いた事をイジルよう奴らじゃない。
 おそらく普通に待っててくれてるはずだ。
 それからレッスン場を後にして、隣の非常口から外に出た。
 こんな溢れ出る涙とか、初めてだ。
 ヒヤリとしていて、妙に風が心地良くて少し安心した。
 一方的な会いたいは、ダメだった?
 明日から。どうやって接しよう…
 だって、まだ教科書が揃ってないから。
 見せてもらわないと…
 でも。なぁ…
 
 『ASAKAくん。頑張って、応援してるから !!』

 初めてファンの子から。
 そう言われた。
 キラキラな目で、
 凄く真剣な陽音くんの顔を、間近で見てハッとなった。
 この時の顔が、励みっていうか…
 あの顔に、応援されてると思ったら。
 嬉しくて、もっと頑張ろうってなった。
 あの頃は、まだ全然、売れてもなくて…
 やっと小さなライブ会場が埋る程度。
 それでも、毎回ライブに駆け付けてくれる陽音くんを見掛ける度に、ありがとうって気持ちが、あるのに上手く表現できなくて…
 知名度が上がる度に、陽音くんの姿が遠くなっていって…
 思わず。
 来てるはずもない県外の遠くのライブ会場でも、気付いたらその姿を探していたりする。
 だから。
 先月の地元開催のライブで、陽音くんを見つけた時は、飛び上がる程に嬉しかった。

 その時に気付いた。
 俺達を見に来てくれてる子達は、今の俺みたいな気持ちで、見に来てくれてるのかなって…
 きっと推しから元気をもらえるって、こう言う気持ちなんだと思ったら。
 どうしようもなく俺の好きな…
 陽音くんのあの顔が、
 見た………くぅ?

 「?! んっ…」

 えっ…俺の好きな?

 俺…
 陽音くんの顔が、好き…なの?
 今の回想中に…
 何回か、好きって言ったよな?
 非常階段でヘタリ込む俺は、爆発しそうなぐらいにドクドクする心臓の音に初めて、好きを実感してしまった。
 
 ちょっと、待って!
 か…顔が、熱すぎる !!
 
 俺…陽音くんが、好きなの?
 顔じゃなくて…
 陽音くん自身が、好き……

 マジ?
 
 俺は、混乱しながら頭を抱えた。
 先ずは、冷静になろう。
 
 深呼吸をして息を整えて…

 ダメだ。
 ドキドキが、収まらない。
 収集が、付かなくなってる!

 「よし!」
 気合いを入れて、非常口から通路に戻りレッスン場に戻ると…
 その中で白秋と灯夜の二人が、新曲の手の振りの流れの動作を確認しながら。
 超絶な笑顔で、笑っているのが扉のガラス窓越しに見えた。



 事務所のレッスン場にて…
 
 「ねぇ…いつ気付くかって、思っていたけど…今気付くって…朝霞って、絶対に鈍感だよねぇ~」
 「さぁ…なぁ…でも、アイツ…あそこまでバカ丸出しの鈍感だったか?」
 「えぇ~っ、分かりやすいぐらいの鈍感じゃん。この間の地元開催のライブで、ファンクラブ会員席に居る陽音くんを見つけた時の朝霞の顔、今思い出しただけで、笑いが……ww」
 「やたら。そっちの方にファンサしてるって思ったら。そう言う訳なんだもんなぁ…」
 「だから。ライブのMCの時に必要以上に朝霞を、小突いてたんでしょ? w」
 「いや…だって、アイツ隠してるつもりの前に気付いてねぇーし…あのまま…暴走されたら。他のファンにバレるっての…w」

 アハハ……
 えっ…マジ?

 俺の居ない所で、散々、言われまくってねぇ?…
 ってか、この後どう言う顔してレッスン場に入ればいいんだよ!
 
 明日の学校。
 どうしよう…
 俺、平常心で陽音くんの隣に座れる自信がない!
 
 「ライブよりも、緊張してきた…」

 


          続く?……
 

 
 
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