ザバン・オブ・ザ・デッド ~銭湯の爺さんが伝説の殺し屋でした~

hamham

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第一話: 任務開始!湯けむりの銭湯に消えた殺し屋

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 深夜の路地裏にある、古びたバー。その一角で、レオは煙草の煙が立ちこめる空気の中にいた。

「……鬼塚ゲンゾウ、だと?」

 目の前に座るマフィア幹部は、黙ってウイスキーを傾けていた。

「伝説の殺し屋。十数年前に姿を消したが、今になって情報が入った。場所は――『湯乃花大浴場』」

「……は?」

 レオは思わず聞き返した。

「町の銭湯、だ。どうやらそこに潜伏しているらしい。お前に任せる。殺れ」

 任務を受けたレオは、その夜のうちに銭湯へ向かった。


***


 「履歴書? そんなのいらないわよ、男手が足りてないの」

 レオが番台に立つ派手なパーマ頭のオバサン――たえこと名乗った女性に言われたのは、面接というよりも勧誘だった。

「腰、大丈夫? 風呂掃除、結構重労働よ」

「余裕っす。掃除とか、得意なんで」

 本音は全く逆だったが、顔には出さない。

「じゃあ、今日からよろしく。あ、桶の位置とか、間違えるとババアに怒鳴られるから気をつけて」

(なんだこの職場……)


***


 初日の仕事は、想像を絶していた。

「ちょっとアンタ、桶の使い方わかってんの?」

 開口一番、腰の曲がったババアに怒鳴られる。

「え、いや、これでいいんじゃ……」

「いいわけないでしょ! そこは“返却ゾーン”! 使うなら“使用前エリア”から取って、使い終わったら“洗ってから返却”! わかった!?」

「……っす」

 汗だくで風呂掃除を終えたレオは、へとへとになりながら番台に戻った。


***


 「はい、麦茶。ぬるいけど」

 たえこが手渡してくれた麦茶は、妙に優しい味がした。

「ここさ、変わった客が多いのよ。みんな、背中にいろんなもん背負ってる」

「はあ……」

「背中、見ればだいたいわかるのよ」

「じゃあ、俺の背中はどうっすか」

「アンタ? まだ、洗い立てのガキの背中ね。これから色々とこびりつくんじゃない?」

「……ありがとよ」


***


 その日の夕方、湯気の中でレオは視線を感じた。

 掃除をしていた彼の前を、ひとりの老人が静かに歩いていく。

 タオルを頭にのせ、腰には手ぬぐい。

 その背中には、見間違えようのない――

 **昇り龍の刺青**。

(まさか……いや、まさかな……)

 伝説ってのは、もっと派手に登場するもんだろ?

 でも――

「……あの爺さん、まさか……」

 そう呟いた瞬間、老人が振り返り、ほんの一瞬だけ目が合った。

 その瞳は、湯気の向こうからすべてを見透かすように、静かに光っていた。

 その夜、レオは眠れなかった。

「伝説ってのは、意外と普通の顔して、そこに座ってたりするもんさ」

 心のどこかで、そう思い始めていた。
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