ザバン・オブ・ザ・デッド ~銭湯の爺さんが伝説の殺し屋でした~

hamham

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第三話: やはりあの爺なのか!?

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 朝の開店前。湯気が立ちこめ始める静かな銭湯で、レオはモップを手にしながら、ある人物の動きをじっと見つめていた。

 ――ゲン爺。

 昨日、風呂場で奇妙な言葉を投げかけてきた謎の老人。
 その爺さんが、今まさに客の背中を流していた。

 その動きが……異様に滑らかだった。

(なんだよそのフォーム……無駄がねぇ……)
(石鹸を泡立てる動きが……いや、あれは“型”だろ!?)

 桶の扱いも、まるで投擲武器のように迷いがない。角度も完璧、流すときの水流のコントロールまでしてやがる。

 レオは思わず身を乗り出した。

「どこの武術だよ、爺さん……」

 背中に目をやると、濡れた肌の上に浮かび上がる一部の刺青。
 炎と剣――その意匠に、レオの記憶がピクリと反応した。

(あれ……見たことある。確か、鬼塚ゲンゾウの背中の……!)

***

 午後、風呂場で事件が起きた。

 常連の一人が、浴槽の段差で足を滑らせたのだ。

「うわっ!?」

 次の瞬間、

 ――ゲン爺がどこからともなく現れ、片手でその男の体を支えていた。

「ゆっくり入りな、命に関わる」

「……あ、あんた……ありがとう」

(どこから湧いた!? さっきまでいなかったぞ!?)

 あまりにも自然な登場、そして撤退。

 レオは番台にいるたえこに疑問をぶつけた。

「なあ、たえこさん。あのゲンさんって……何者なんすか」

「ゲンさん? さあねぇ……ここに通い始めたのは、もう何十年も前じゃない?」

「……“鬼塚ゲンゾウ”って名前、知ってます?」

「……昔、そんな名を聞いたこともあったかもね」

 たえこはそれだけ言って、のれんの奥へと姿を消した。

(完全に知ってる顔だったな、あれ……)

***

 その日の夜。清掃当番のレオは、いつもより遅くまで残っていた。

 そして、浴場の奥から聞こえてきた――水の音。

 誰かが桶を使って……いや、打ちつけるような音。

 静かにのれんをめくると、そこには。

 ゲン爺が立っていた。

 全身から湯気を纏い、桶を両手に構えている。

 その構えは……剣。
 そして、次の瞬間――

 空気を割るような速度で、桶を斜めに振り下ろした。

 無音。なのに、確かに空気が切れる音がした。

(……武器の扱い……いや、あれは……殺気だ)

 思わず一歩引いたとき、ゲン爺がぴたりと動きを止めた。

「……見ていたな、小僧」

 その声には怒りも動揺もなかった。

 ただ、確信。

(やっぱりこの爺……ただの背中流しじゃねぇ……!
 マジで“伝説”ってやつなんじゃ――)

***

 バイト部屋に戻ったレオは、スマホで検索を始めていた。

『鬼塚ゲンゾウ』『伝説の殺し屋』『剣の刺青』……

 ぼんやりと浮かび上がる情報の断片。
 刺青の意匠、風呂場での動き、そして目線。

 全部……一致してる。

「……風呂桶の中に、戦場があったなんてな」

「次に背中流す時、覚悟しとけよ……爺さん」
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