【異常な愛シリーズ】

色酉ウトサ

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『異常な愛~姉弟~』

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 とある家庭の少し年の離れた姉弟。

 姉の名は月夜[つくよ]と言い、物静かであまり目立たないタイプの娘で、弟の名は朧[おぼろ]と言い、姉とは正反対にいつも人の輪の中心にいるようなタイプの少年だった。

 両親はそんな子供達を小さい頃は分け隔てなく愛情をかけて育てていたが、月夜が年頃になると父親は性的な目で娘を見るようになり、その事に気付いた母親は息子の方ばかりを可愛がるように。

 そんな家庭環境で育ったからなのか、いつからか朧は月夜を見下すようになり、月夜は家に自分の居場所が無いように感じて、高校に上がった頃から家に寄り付かなくなったのだ。



「ごめん、月夜!今お母さんからメール入って、今日、家に泊められなくなった…」

「…そう、ごめんね…」

「え!?月夜のせいじゃないよ!今日の夜、父さんが会社の人達連れて来るみたいでね…。そういう時、妹があたしの部屋に泊まるんだ。それで部屋がいっぱいでさ…」

「ううん。今まで泊めてくれて、ありがとう」

「今日はどうするの…?」

「公園で野宿、かな…」

「え~!?流石に夜は寒いよ…。気持ちは分からなくないけど、一回、家に帰ったら?」

「………考えとく…」

 友人の小夜[さよ]の言葉に、今夜はどうしようかと考え始めた月夜。
ここ数日、月夜は小夜の家に世話になっていたのだ。

 家へ帰る気になれない時は、こうして何人かの友人の家に世話になっていた。

 どこも無理な時は、近所の公園に寝泊まりし、家へ帰るのは本当にひと月に数回あるかないか。

 そして今回、一応と他の友人達に訊ねてはみたものの、週末だからか皆それぞれに用事があり、泊まる場所の確保は出来ず、放課後になってしまった。

(今日は公園ね…)

「あれ、帰らないのか…?って、宿題やってんのかよ!!」

「…早めに終わらせたくて…」

「普通は家に帰ってからやるもんだろ…。俺はやらねえけど」

「………」

「無視かよ!」

「…帰らないの?」

「ん~…、ギリギリまでいようかと思ってな」

「?」

 この日の寝泊まり先を近所の公園に決め、週末に備えて宿題をしていた月夜に声を掛けてきたのは同じクラスの新[あらた]だった。

 元々、クラスメートに小夜以外の友人がおらず、まだ一度も話したことのない相手。
しかも男子が声を掛けてきたことに月夜は驚いた。

 けれど、それが表情や態度に出ることはなく、新も気にすることなく話し続けた。

 月夜の前の席に、月夜と向かい合う形で座りながら。

「なんか好きなんだよな、昼間とギャップのある放課後の教室って…」

「………私も、放課後は好き…」

「ふっ、やっぱり…」

「?」

「あ、名前で呼んでいい?俺も名前で呼んで良いからさ!」

「…どうぞ…」

「月夜さんって、あんまり人とつるまないだろ。仲良いのもこのクラスじゃ一人くらいだし、だからっていじめられてる訳でもないし。本当に一人でいるのが好きなんだなって思ってさ」

「………好きと言うか、楽だから…」

「楽か…。あ、だったら俺、邪魔だったよな?」

「…別に、気にならないけど」

「マジで!?良かった~」

「………」

 新のホッとした表情に、月夜も少しだけ表情を緩めた。

 こうして、月夜が新と他愛の無い話をしている内に学校は閉まる時間になり、二人は帰る準備を終えると門を出た。

 別れを告げた月夜が歩き出すと突然呼び止められ、振り返ると、「送ってく…」と言って駆けてきて隣に並ぶ新。

 驚きながらもやんわりと断った月夜だったが、新は「暗くなってきてるから」と言って引き下がることはなかった。

 あまりにも引かない新に、小さく息を吐いた月夜は本当の事を告げることにした。
自分は家へ帰る気はないこと、今まで友人達の世話になっていたこと、この事を人には話さないで欲しいことなど。

 月夜の告白に新は黙り込んでしまい、月夜は俯いて新の次の言葉を待った。

 しばらくすると、新は月夜の手を握りどこかへ向かって歩き始めた。
無言のまま。

 どこへ向かっているのかも、新がどんな顔をしているかも分からぬまま、不安から始めは抵抗していた月夜だったが、強く手を握り返されたこともあり解けなくなってしまった。

 黙って大人しくついていくと、新は一軒の家の前で足を止めた。
着いた先は月夜の自宅の近くで、戸惑いながらも辺りを見回していた月夜の目に飛び込んできたのは、新と同じ名字の表札だった。

 そうこうしている内に、新は月夜の手を握ったままその家の鍵を開けて中へ入る。
瞬間、月夜はここが新の住んでいる家なのだと気付き、同時に青ざめた。

「あの、私、帰る…」

「…公園に?」

「うん…」

「…今日は、父さんも母さんも仕事で帰ってこないんだ。月夜さん、俺ん家に泊まってきなよ」

「え…、だ、駄目…」

「どうして?家に帰りたく無くて、公園に行こうって思ってるならいいだろ」

「新君とは、今日初めて話したばかりだし…。それに、男の子の家は…」

「俺の部屋は綺麗だよ?」

「そう言う問題じゃ、なくて…」

「…家に帰るなら、泊まらなくてもいいけど?」

「それは…」

 まさかの事態に月夜は、思ってもないことを口にした。

「…家に帰る…」

「帰りたく無いんじゃなかったのか?」

「ここには泊まれないもん…」

「なら、送る」

 結局この日、月夜は自宅に帰ることになった。
新の申し出も断れず、家の中へ入るまで見送られてしまったから。

 久しぶりの自宅だったが、家族の顔も見ず、月夜は一目散に部屋へと向かった。
部屋には机、ベッド、タンスと最低限の物が置いてあるだけ。

 制服姿のまま、電気もつけずベッドへと横になった月夜は、先程の新の行動を思い返し眉間にシワを寄せた。

(どうして、新君はあんな事…)

 その時、誰かが二階へと上がってくる足音が聞こえて、月夜は目をギュッと閉じた。

ガチャ

「姉さん、帰ってるの?」

「………」

「…へ~、帰ってきてたんだ。今まで何してたの?」

「………」

「寝たふりしても、バレてるよ。…あそっか、父さんに会いに来たんだ」

「違っ…あ」

「ふっ、やっぱりふりだったんだ」

「………」

「でも、残念だったね。父さん、今日は同僚と飲んでくるって言ってたから、帰ってこないよ」

 月夜の部屋へとやって来たのは朧だった。

 朧は、月夜に話し掛けながらゆっくりとベッドへと近付き、そっと月夜へ手を伸ばした。

「今日、母さんも友達の家に遊びに行っててさ、僕も一緒に来ないかって言われたんだけど留守番することにしたんだ。姉さんが帰ってきた時、誰もいないと寂しいだろうなって思ってさ」

サワッ

「…!…」

「本当に帰ってくるとは思わなかったよ」

「…止めて…」

「別にいいだろ?どうせ、父さんがいたらこうやって可愛がられてたんだから…」

 自分の肩に触れてきた朧の腕を掴み引き離した月夜だったが、朧は月夜の手を振り払うと、頭を撫でたり、顔の輪郭を指先でなぞったりしてしつこく触れ続けた。
しかし、朧の指先が首筋に触れた瞬間、月夜はガバリと起き上がり、そのまま家を出ていった。

 朧が自分の名を呼ぶ声を背に聞きながら。

 真っ直ぐに月夜が向かった先は公園だった。

 公園のベンチに腰掛け、息を整えながら自分の身体を抱き締める月夜。

 父親にされていたことを朧に知られていたことや朧がそれを真似たことに、月夜は恐怖を覚えた。
同時に、母親が自分に愛情をかけてくれなくなった理由もわかり涙を流した。

(お母さんは、私がお父さんにされていたことを知って…)

「ふっ、うぅ…」

「月夜さん…?」

「!」

「…やっぱり、公園に来てるし…」

「あらた、君…?」

「…どうして、そんなに家に帰りたくないんだよ?」

「………」

「ただの家出だと思ってたけど、違うみたいだな…」

 飲み物を買った帰りに公園を横切ろうとして、街灯に照らされたベンチに腰掛けている月夜の存在に気付き、声を掛けた新。

 まさかと思っていた人物がいたことに肩を落とした新は一つ息を吐くと、声を掛けて月夜の側へ行き、隣に座ってもいいかと聞きながら理由を訊ねた。

 新が現れたことに驚いた月夜だったが、自分の話を聞いてくれようとしている新の姿に少しだけ落ち着きを取り戻した。
しかし、理由を告げる気にはなれなかった。

 何も話そうとしない月夜に内心(また無視か…)と息を吐いた新だったが、(話したくないことかもしれないしな…)と考え直し、持っていた飲み物を差し出した。

「ま、言いたくないなら言わなくてもいいよ。ほい」

「え、でも…」

「気にすんな」

「…ありがとう…」

「………もし、あれなら…」

「?」

「俺ん家に来ねえ…?」

「!…それは…」

「いや、今日は親いないから徹夜でゲームしようと思ってたんだ!それで一緒にどうかなって…?」

「でも…」

「嫌なら無理にとは言わねえけどよ…」

「…どうして、気に掛けてくれるの?今日、話したばかりなのに…」

「…俺は、前から月夜さんのこと見てたぜ…」

「え?」

「家、近いだろ?」

「うん…」

「…ストーカーみたいだから言えなかったけど…、中学の頃、行き帰りにずっと月夜さんのこと見てたんだ。高校に上がって学校が同じでクラスも一緒なったけど、話す機会がなくてさ…」

「…そう、なんだ…」

「ああ…」

 話している内に、月夜は新に好意を抱き始めていた。

 父親や弟のこともあり、異性にはどこか苦手意識を持っていた月夜だったが、無理に話を聞こうとしてこない所や気を使ってくれる新は、二人とは違うような気がしたのだ。

「…あの、私もゲームやってみたい…」

「え…、ええ!?」

「あ、駄目…かな?」

「駄目じゃねえよ!だけど、いいのか…?」

「…うん、家に帰りたくなくて…」

「よ、よし!じゃあ、行こうぜ」

 少しぎこちなく手を差し出した新に、月夜は小さく笑って手を握り返した。

 手を繋ぎ、公園をあとにしようと歩き始めた二人。
突然、後ろに引っ張られる感覚を覚えた新はどうしたのかと月夜を振り返った。
月夜は前を向いたまま固まっていて、その視線は新と絡むこと無く一点だけを見つめていた。

 何を見ているのかと新がそちらへ顔を向けると、何者かが自分達の方へ歩いてくる姿が目に映った。
同時に、繋いでいる手に力が込められたことに気付いて、新は無意識に身構えていた。

 自分達の方へ歩いてくる人物の正体。
それが何者なのか、月夜は気付いてしまった。

 その人物の姿が見えると月夜は目を逸らし、新は警戒を強めた。
しかし、相手はそんな二人に構うこと無く心配そうな表情を浮かべて話しかけてきた。

「姉さん、探したよ!!」

「ね、姉さん…?」

「あの、どちら様ですか?」

「え、お、俺は…って、お前こそ誰だよ?」

「僕は、月夜姉さんの弟の朧と言います」

「弟?」

「はい。さっき姉さんと喧嘩しちゃって、なかなか帰って来ないから心配になって…」

「…そうなのか?」

「………」

「姉さん、さっきはごめんなさい…。僕、言い過ぎた…」

 弟と名乗る朧の言葉に、始めこそ疑ってかかった新だったが、月夜に謝る姿は嘘を吐いているようには見えず、彼女へ視線を移した。
しかし、朧の謝罪にも繋ぐ手の力を緩めない月夜に戸惑い、再び朧へ視線を移した新は一瞬だけ寒気を覚えた。

ゾクッ

(なんだ…?)

「あの…」

「ん?」

「お兄さんは、姉さんのお友達ですか?」

「あ、俺は新。友達って言うか何て言うか…、今日話したばかりだからなんとも言えねえな…」

「そうですか…。それにしては、仲良いですね」

「え?…あ、これは、えっと…」

「…私、帰らないから…」

「「え?」」

「…家には、もう帰らない…」

「お、おい…、何も兄弟喧嘩ぐらいで…」

「…へ~、それでこれからどこに行くの?そのお兄さんの家?」

「あなたには関係無いでしょ…」

 言い切るか切らないかの内に、月夜は新の手を引いて歩き始めた。

 月夜のそんな行動に目を見開いた新だったが、何故か声を掛ける気にも引き止める気にもなれず、手を引かれながら、なんとも言えない顔で自分達を見つめている弟を見ていた。

 公園から出ると、月夜はピタリと足を止め、新へと向き直った。

「…新君、弟のことは気にしないでね…」

「え?」

「あと…、家を出るって決めたのは、弟との、喧嘩だけが理由じゃない、から…」

「………ゲーム、しにくるんだろ?」

「え…?」

「さっき、言ってただろ?」

「………ありがとう…」

 話しながら、今にも泣きそうになっている月夜の表情や声に、新はそれ以上聞く気になれず、話を逸らした。

 あまりにも唐突な誘いに、始めは呆けていた月夜だったが、新が気を使ってくれていることに気付いて、礼を述べたのだった。

 結局その日から翌朝まで、月夜は新と徹夜でゲームをし続け、朝早くに礼を言って新の家を後にした。
家を出る直前、新はこれからどうするのか月夜に訊ねてはみたものの、「大丈夫」とだけ返されただけで、それ以上なにも聞くことは出来なかった。



 朝早く新と別れた月夜は、公園に舞い戻っていた。

 鞄を自宅に置いてきてしまったことに気付いたのはその時で、ベンチに腰掛けてどうやって鞄を取ってくるかを考え始めた。
家に帰らないと言った手前、戻る気にはなれず、こっそり侵入しようにも鍵は鞄の中。

 何か良い方法をと考えている内に、月夜は寝不足のせいもあって睡魔に襲われ、ベンチに腰掛けたまま意識を手放した。

 次に月夜が目を覚ますと辺りは薄暗くなっていて、寝過ぎたかと目を見開くとそこは公園ではなかった。

ギシッ

(え…、私、公園のベンチにいた筈…。ここって…)

 上体を起こして辺りを見回すと、そこは自分の部屋で、月夜はベッドへと横になっていたのだ。
丁寧に、衣服は制服からパジャマへと着替えさせられた状態で。

 自分の身に何が起こったのか分からず、呆けていた月夜。
その時、部屋のドアのぶが動く音がして、驚きながら顔をドアへと向けた。

ガチャ

(!)

「…あ、起きたんだね、姉さん」

「………」

「驚いたよ。公園の前を通りかかったら姉さん、ベンチで寝てるんだもん」

「…あんたが、連れて来たの?」

「うん。あのお兄さんにも手伝って貰ったけど…」

「!…新君に?」

「お兄さんも驚いてたよ」

 淡々とあったことを話す朧。

 話を聞きながら、月夜は新が出てきた事が気になった。
しかし、近付いてきた朧がそっと手を伸ばしてきた為、考えるのを一時中断し、朧の手を払うと睨み付けた。

「…痛いよ、姉さん」

「…私に、触らないで…」

「…ふっ、父さんには好きに触らせてる癖に…」

「っ違う。抵抗しても、全部抑えられるだけで…」

「抑えられたら、触らせてくれるんだ…」

「!?」

 言いながら、朧は月夜をベッドへと押し倒し、首筋へと手を伸ばした。

 触れるか触れないかの内に、月夜は朧の腕を掴み抵抗を続けたが、あっさりと力負けし、朧の指先は月夜の首筋に触れた。
瞬間、慌てて月夜は首筋を両手で覆って隠した。

 そんな月夜の態度に朧は眉間にしわを寄せると、その手すらも引き剥がし、顔を近づけて軽く噛み付いた。

 突然のことに驚いた月夜は叫び声をあげかけたが、口を朧の手によって塞がれてしまい、再び抵抗のすべを失ってしまった。

「ふっ、う…」

「…抵抗、するからだよ…」

「うぅ…」

「父さんに好きに触らせたり、男の家に泊まったり…。姉さん、本当は男が好きで好きで仕方ないんでしょ?」

「う゛~っ…」

「だったら、僕にも好きにさせてよ」

「はっ…んぅ!?」

 言いながら、月夜の口から手を離した朧は、今度は自らの口で月夜の口を塞いだ。
必死に朧の顔を押し返そうとする月夜。
しかし、抵抗虚しく月夜の口内には朧の舌が入り込んできた。

 舌が絡められた瞬間、月夜は驚いて舌に噛み付き、口内には血の味が広がった。

「っ~…、姉はん…」

「ふー…、ふー…」

「血が出ちゃった…。痛いじゃないか、姉さん」

「っあんたが…、あんなことするからでしょ…」

「姉さん、キスするの初めてじゃないでしょ?昨日だって、男の家に泊まって…」

「………よ…」

「え?」

「…初めてよ…」

 月夜の頬を涙が伝った。

 口元を覆ったまま、朧はそんな月夜の言葉と姿に黙り込み、何かを考え始めた。

 しばらくの沈黙のあと、朧は自らの口元から手を離すと、月夜を見下ろしながらニイッと笑った。
それからゆっくりと月夜の胸元へ手を伸ばし、強く胸を揉んだ。

「痛っ!?」

「…嬉しいよ。姉さんの初めてを奪えて」

「なに、言って…」

「姉さんが父さんに好き放題されてるのを初めて見た時、なんだか胸が苦しくなったんだ。理由は分からなかったけどね…」

「………」

「それから何度も見掛ける内に、僕は姉さんが好きなんだって気付いた」

「!…好きって…」

「同じくらいに、父さんは母さんが見てない時を狙って姉さんに触れていることも、母さんに知られてはいけないことをしているってことにも気付いたんだ…」

 ジッと目を見つめたまま自分が見てきたことや気付いたことを話す朧に、月夜は戸惑い始めた。

 弟に好かれていると知れたことは素直に嬉しかったものの、それで何故、このような状態になってるのか、今までとられてきた態度の意味はなんだったのかが分からなくなったのだ。

「…どうして、あんな態度…」

「嫌だった。姉さんが父さんに触られてるのが…、そして、抵抗しない姉さんが…」

「………」

「他の男に、姉さんを取られたくないんだ…」

「…朧」

「姉さん、僕は姉さんが好きなんだ…。家族だとか姉弟だとか関係ない…、月夜…」

スッ

「っダメ!!」

「………どうして?」

「私たちは姉弟なの…。姉弟はこんなこと、しちゃダメ…」

「………父さんには…」

「え…?」

「父さんにはこうやって、触らせてたじゃないか…」

ビリッ

「いやあっ!!」

 再び唇を奪おうと顔を近付けた瞬間、朧は月夜から拒否されてしまった。

 月夜からの拒絶に、朧は目を見開くと、再び月夜の胸元へ伸ばした手でパジャマの前部分を引き裂いた。
まさかの事態に月夜は叫び声をあげながらも、必死で破かれた部分を掻き集め、胸元を隠しにかかる。

 けれど、朧はそんな月夜の抵抗に更に腹を立て、胸元を隠している手を引き剥がし、今度は下着の上から胸を揉み始めた。

 あまりに強く揉まれ、月夜は痛みから朧の頬を叩いてしまった。

パンッ

「っ…」

「はぁ、はぁ、止めて、朧…」

「姉さんに…、叩かれた…」

「ごめん、なさい…」

「………そんなに…」

「え?」

「そんなに、嫌なんだ…。僕のこと…」

「!そういう訳じゃ…」

「…分かったよ」

「朧?」

パタン

 がっくりと肩を落とした朧は、ふらふらと月夜の上からどけて、そのまま部屋を後にした。

 出ていった朧の姿に、月夜は罪悪感を覚えたものの、自分の今の姿を思い出して着替えることに。
そして、このままこの家にはいられないと考えて鞄を手に取ると、月夜はそっと廊下に人はいないかを確認し、部屋を後にした。

 階段を下り、玄関へ向かうと、既に夜になっていた為か居間には明かりが点いていて、そこからは話し声が聞こえた。

 声の主は父親と母親のもので、いくら家庭に居場所が無かったとは言っても、そうなる前の記憶がある月夜はなんだか懐かしさから足を止め、思わず二人の会話に耳を傾けていた。
会話の内容は他愛の無いものであったけれどどこか穏やかで、今なら顔を出しても大丈夫なのではと思わせる程だった。

 しかし、そこに自分が入っていけば父親が変な目で見てくることも、母親が嫌な顔をすることもわかっていた月夜は、唇を噛み締めると玄関へと歩き出した。

 暗い中、月夜は自分の靴を探してしゃがみ込んだ。

(私の靴は…)

ガバッ

「んぅ!?」

「………もう、行かせないよ…」

 突然、月夜は口元を何かに塞がれて、思わず声を上げた。
それに答えるかのように耳元で囁かれ、自分の口を塞いだ人物が何者なのかを知り、一瞬で血の気が引いた。

 けれど、このままでは不味いと考え、慌てて口を塞いでいる物をはずそうと藻掻く月夜。
その時、少しだけ口元の物が力を緩めたのを感じ、それを掴むと、力を込めて引き剥がした。

「~っ、はぁっ、はぁっ…。朧、あんた…」

「姉さんはどこにも行かせない…」

ガスッ

「うあっ…」

「さ、部屋へ戻ろう、姉さん。」

ガシッ

「お…ぼ、ろ…」

 強く頭を殴られた月夜は、倒れ込んだところを朧に抱きかかえられたところで意識を失った。

 次に月夜が目を覚ますとそこは自分の部屋で、カーテンで遮られてはいるものの、外からは光が入り込んできていた。

 既に夜が明けていることに気付き、しばらくの間はぼんやりとしていた月夜だったが、学校へ行かなくてはと思い身体を起こそうと身みじろいだ。

 しかし、身体を起き上がらせることは出来ず、ふと自らの身体へ視線を移す。
すると、月夜は衣服を身に付けておらず、後ろ手に手首を、足は揃えるようにして足首を紐のような物で縛られていたのだ。

 状況を理解するまでに時間は掛かったものの、ゆっくりと昨夜からの記憶を辿り、こんなことをした犯人が朧であることを悟った。
同時に、早くこの場から逃げなくてはと考えた月夜は、手首や足首を懸命に動かし始めた。

ギシッ

ギッ

グッ

(ほどけて…)

ガチャ

(!)

「あ、姉さん。目を覚ましたんだね」

「朧…」

「おはよう、姉さん」

スッ

「っ!来ないで…」

「………そう言えば、さっき新さん?だっけ。迎えに来てたよ」

「新君が…?」

「だけど、姉さんは具合悪いから今日は休むって伝えといたから」

「なっ、勝手なこと言わないで!!」

「だけど、そんな格好じゃ学校行けないよね?」

「あ、制服…。私の制服はどこ!?」

「汚れちゃったから、洗濯してるよ」

「汚れた…?」

 月夜が呟くと、朧はベッドの上に横たわる月夜へと近付き、顎へ手を伸ばすと、顔をクイッと自分の方へ向かせた。

 驚いて目を見開く月夜に視線を絡ませると、なんの前触れもなく唇を奪った朧。
すぐに離れると、ジッと月夜の目を見つめてニヤリと口角を上げた。

 そして昨夜、月夜を部屋へ運んだ後のことを話し始めたのだ。

「分からない?」

「え…?」

「ほら、ここ…」

クチュッ

「あっ…!?」

「昨日は姉さんの初めて、全部貰っちゃった」

「…う…、そ…」

「嘘じゃないよ。だからココ、こんな風になってるんだよ?」

 話しながら月夜の下半身へと手を伸ばした朧は、躊躇することなく割れめへと指を滑り込ませる。

 朧から告げられた内容に月夜は言葉を振り絞ったが、そんな月夜の心情など気にも留めず、朧は滑り込ませた指で月夜の下半身を弄り始めた。

 自分の知らないところでいつの間にか弟と関係をもってしまったこと。
今なお、弟に大切な部分を弄られていること。
そして何より、自分の身体が弟の朧を受け入れてしまったことに、月夜は絶望していた。

「…ふっ…ぅぅ…」

「泣いてるの、姉さん?」

「駄目っ、て…、言ったのに…」

「…姉さん、僕、言ったよね?」

ギシッ

シュル

「………」

「姉さんを誰にも、取られたくないって…うっ」

クチュ

クチュ

グチュウ

「っ!!?」

「取られないようにするには、姉さんの身体に僕の身体の感覚を覚えさせれば良いってことを知ったんだ」

ヌチュ

クチュ

「や…めて…、お、ぼろ…あうっ!?」

「夜のうちに、姉さんの身体のことを全て覚えたんだよ」

 話しながら、朧はベッドの上に乗り、月夜の足首を縛った紐のような物を解いて股間を開かせ、指を使って大切な部分を弄り始めた。
恥ずかしさと快感から、月夜は足をバタつかせたが全く効いた様子は無く、尚も朧は月夜の大切な部分へと刺激を与え続ける。

 そうしている内に、突然、中に入れたままの朧の指の動きが止まり、どうしたのかとそっと顔を持ち上げた月夜は、顔を上げたことを後悔した。

 月夜が顔を上げると同時に朧は指を引き抜き、ニヤリと笑みを浮かべながら自らの指に絡み付いた体液を月夜の眼前に差し出したのだ。
「ほら、僕の精液」と言いながら。

「なっ!?いやっ…、どうして…」

「あ、これ今出したばかりのだよ。姉さんのを弄りながら、自分のも弄ってたら出ちゃってさ」

「どうして、指に…?」

「姉さんが僕のを欲しがるまで挿れるつもりはないんだけど、先に姉さんのナカに僕の匂いを染み込ませとこうかなって」

「い、や…。もう、止めて朧…」

「…まだ、拒否するんだ…。でも、もう遅いよ?昨日の夜、姉さんの初めてを貰ったのは本当だし、その時にナカにも出しちゃったからね」

「そ…んな…」

「僕、次は姉さんが欲しがるまで挿れる気はないけど、それまでは好きに弄らせてもらうよ」

「やっ!…いや、止めて…」

 宣言通り、朧は一旦止めていた行為を再開し始めた。

 胸を弄られ、下半身を玩ばれ、月夜は段々と頭が回らなくなり始めていた。

 朧の責めは勢いが衰えることはなく、月夜の言葉にも「欲しい」以外を聞く耳を持たなかった。
それでも頑なに「止めて」と言い続けた月夜は、与えられ続ける快感と疲れからそのまま意識を手放した。

 しばらくして、月夜から声が聞こえてこないことに気付いた朧は、責めるのを止め、そっと月夜の顔を覗き込んだ。
二、三度声を掛けてみた朧だったが月夜は目を覚ます気配をみせず、そのことに小さく鼻を鳴らした。

「…起きないか…。なら、起こすだけだな」

ギュッ

 呟きながら月夜の鼻を摘まんだ朧は、そのまま自分の唇を月夜の唇に重ねて、舌を差し込んだ。
自分の唇が月夜の唇から離れないようにとしっかりとくっつけ、舌同士を絡めながら口内を舐め回し、とどめに胸を強く揉みしだいた。

 それからすぐに月夜に変化が見られた。

 息が苦しくなったのか、手を無造作に動かし始め、絡められた舌も引っ込もうとうねり始めたのだ。

 しばらくそうしていると、月夜はうっすらと目を開き、眼前にある朧の顔をぼんやりと見つめていた。
その事に気付いた朧は、月夜の胸の突起を摘まみ、強めに引っ張った。

 痛みで漸く自分の置かれている状況を思い出した月夜は、顔を左右に振って朧の唇を引き剥がそうと試みた。
けれど朧は、鼻を摘まんでいた手を離しはしたものの月夜の唇はなかなか離そうとせず、しまいには月夜の舌を引き出して噛みつき、抵抗し始めたのだ。

「んんん~…!!」

「ふっ、れえはん…」

クチュッ

「ふんん~!!?」

 いつまでも抵抗を見せる月夜に、朧は目を細めるとそっと月夜の股間へ手を伸ばして割れめをなぞりあげた。

 急な下半身への刺激に月夜は仰け反り、そのタイミングで朧は漸く月夜の唇を解放した。

「はぁ…、はぁ…、朧…、もう、止めて…」

「………はあ…。分かったよ、もう止める」

「あり…がとう…」

「最後に姉さん…、これ、飲んでね」

ヌボッ

「んむぅぅぅ~…」

「歯…、当てないでね…」

 これで終わるとホッとしたのも束の間、月夜は口内に朧のモノを捩じ込まれ、再び息苦しさを味わうことになってしまった。
朧は月夜の頭をがっしりと掴むと、激しくモノを口内に出し入れし始めたのだ。

 一方の月夜は、口内を圧迫する朧のモノに息苦しさを感じ、涙を流しながら吐き気をもよおしていた。

「うぐっ、むぅ…」

「はっ、姉さん…、姉さんの口の中、きもち、い…」

「ふっむぅ~…」

「も…、出そう…」

グッ

「んぐぅっっ!!」

 限界を迎えた朧は月夜の喉の奥までモノを差し込み、後頭部を抑え込みながら精を吐き出した。

 全て出し終え、月夜の口内をからモノを抜き取った朧は、むせて苦しんでいる月夜をジッと見つめて優しく微笑むと、「また一つ、姉さんの初めて貰っちゃった」と言って呆然としている月夜の頭を抱き締めたのだった。



 その頃、月夜は具合悪くしたから休ませると朧に言われて、学校に着いてからも心配していた新は、ふと、月夜にメールをしてみようと思い立ち携帯を取り出した。

 けれど、月夜とメールアドレスを交換してなかったことを思い出し、溜め息を吐いて頭を抱えた新。

(あの日、アド交換しとくんだった…)

 後悔しつつも、月夜のことが心配で仕方がなくなった新は、小夜が月夜と仲が良かったことを思い出し声を掛けてみることに。

「…なあ」

「え、私?」

「ああ。お前、月夜さんと仲、いいんだろ?」

「月夜?うん…。それがどうかした?」

「メールしてみてくれねえか?」

「月夜に?う~ん、したいのはやまやまだけど…」

「メアド、知らねえのか?」

「知らないんじゃなくて、月夜が携帯持ってないの。家庭の事情でね…」

「あ、そうなんだ…」

「ところで、どうして月夜にメールしたいの?」

「い、いや!ちょっと、な…」

 ジッと見つめられて思わず目を泳がせた新だったが、そのあとに呟いた小夜の言葉に疑問を抱いた。

「だけど月夜、どうして今日休むって電話くれなかったんだろ…」

「え…」

「何?」

「月夜さん、電話してくるのか?」

「うん、公衆電話からね。前に誕生日プレゼントにテレフォンカードあげたの、学校休んだときに連絡くれるようにって。なのに今日は連絡くれなかったんだよね、なんかあったのかな…」

「そ、そっか…」

『姉さん、なんだか具合が悪いみたいで…。せっかく来てくれたのにすみません…』

 小夜の言葉を聞きながら、今朝家を訪ねた際に月夜のことを教えてくれた朧の様子を思い出し、新は何故か嫌な予感を覚えた。
しかし、小夜に休むと連絡を入れなかったことや、月夜の弟の様子がおかしかったというだけなので、気のせいだと思うことにした。

(あの日、一度は俺の家に泊まったとは言え、あのあとまた公園で寝てたからな…)

「ねえ…」

「ん?」

「いつから月夜のこと名前呼びになったの?」

「え?…あ!」

「月夜となにかあったの?」

「いや~…。た、たまたま、家が近いことを知って、少し話しただけなんだけど…」

「ふ~ん、家近いんだ。それだけ?」

「………」

「…ま、良いけどね」

「そ、そう言えば、月夜さん公園で寝てたけど、なんで家に帰らないんだ…?」

「…それは聞いてないんだ…」

「え?」

「あたしは言えない。月夜のプライベートなことだから」

「あ…」

「でも本当、どうして連絡くれないんだろ…」

「もしかしたら、家にいるからじゃないか?」

「え…、月夜、家に帰ったの!?」

「あ、ああ。公園で寝てたところを弟が運んでて、大変そうだったから俺も手伝ったんだ、昨日…」

「そっか、帰ってたんだ…。だけど、家か…」

 突然なにか考えごとを始めた小夜に、新は(一体、どうしたんだ…?)と思いながらも声を掛けることは出来なかった。

 放課後、月夜の見舞いに行こうか悩んでいた新の元へ小夜がやって来て、一緒に見舞いへ行かないかと誘ってきた。
二つ返事で、新は小夜と月夜の見舞いへ向かった。

 道中、特に話すこともなく互いに無言だったが、新はそのことにホッとしていた。

 月夜の自宅へ着くと、小夜はすぐさまインターフォンを鳴らし、応答を待った。
しかし、なかなか応答はなく、小夜とともに応答を待っていた新は、朝に会った朧の存在を思い出しながら、まだ帰って来ていないのかと考えて辺りを見回した。

 その時、小夜が二度目のインターフォンを押し、もう一度応答を待った。

 結局、二度目も中からの応答が無かったため、二人は月夜の見舞いを断念せざるをえなかった。

「月夜、大丈夫かな…」

「公園じゃなくて家にいるんだから、大丈夫だろ」

「だといいけど…」

 月夜の家を後にした新と小夜は帰り道を無言で歩いていたが、不意に小夜が呟いた月夜を心配する言葉に、思わず言葉を返した新。
新の言葉に頷いた小夜ではあったが、それでも心配そうに振り返り、今来た道を見つめていた。



 新と小夜が去ったのを窓から見つめていた朧は、口角を上げると、再び月夜の部屋へと戻っていったのだった。

(姉さんには、もう誰も近付けさせない。姉さんに触れて良いのは僕だけだから…)

「そうだよね、月夜…」

「スー…、スー…」





終わり
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