【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました

香坂 凛音

文字の大きさ
7 / 62

7 母親になる

しおりを挟む
 侍女たちは揃って声をあげ、慌てた様子で私を止めようとした。その理由に納得したものの、私は一歩も引くつもりはない。

 こんなことでひるんで手を引くなんて、私には考えられない。だって、私はもうキーリー公爵夫人で、あの子の母親になったのだもの!

「や、やめて。こないで。ぼく、だれもきずつけたくないのに……とめられないんだ。ぼく……こわいでしょう? みんな、ぼくをこわがるんだ」

 私は水魔法を使えるが、その魔力量は平均的な貴族より少し多い程度。それに比べ彼の魔力は膨大で、その差に圧倒されたけれど、なんとかしてあげたい一心で突き進む。

「アベラール様を怖いとは思わないわよ。待っててね。今、そばに行ってあげるから」

 私は火の玉を避けながら、冷静に水魔法を駆使し、アベラールに近づいていく。執事や侍女達が必死で止める声も無視を決め込んで。そして、彼を優しく抱きしめた。魔力が暴走して、壁に当たった火がカーテンや棚に燃え移っていくのを見逃すことなく、水魔法でそれらも鎮火した。

「奥様、袖口が焦げていますよ。まぁ、腕に少し火傷が……すぐに手当をいたします」
「あら、ほんとだわ。ちょっと、ヒリヒリするけどたいしたことないわ、大丈夫よ。それより、アベラール様。初めまして、私はジャネット。これから仲良くしましょうね。 」
 にっこりと微笑むと、アベラールは号泣しながら私に抱きついてきた。

 その後、キーリー公爵家のお抱え医師に腕の火傷を見てもらうと、アベラールの魔力の暴走でこれほど軽傷で済んだことに、感心していた。

「奥様には魔力耐性があるようですな。まともに坊ちゃんの火魔法の攻撃を受けて、これほどの軽傷とは……あり得ませんよ」

「魔力耐性? 自分では気がつきませんでしたわ。たしかにアベラール様の魔力は膨大ですものね。この程度の火傷で済んだのは、私だからなのでしょうか? だとしたら、この体質に感謝しなければね」

「ご、ごめん……なさい。ぼく……わざとひのたま、つくったんじゃないの……」
 私は幼子を抱きしめて、もちろんわかっている、と告げた。年齢を聞いたらまだ五才になったばかりだという。

「私が来たからにはもう大丈夫。それにね、私をお母様と呼ばなくてもいいのよ。名前で呼んで。ジャネットだからジャネとかネーネでもいいわ」
「……うん。ジャネ……ってよぶ」

 お母様という言葉にピクリと肩を震わせたアベラールの様子を見て、私は思わず胸が痛んだ。やはり、実母は相当問題ありの女性だったのだろう。執事の言う通り、ヒステリックな母親の態度が、彼に深い傷を残しているのだと感じた。

 私は、どれほど自分が愛されて育ったかを思い返し、その両親に心から感謝した。あの愛情を、今度は私がアベラールに注ぐ番かもしれない……うん、きっと、そうよね。私、この公子のいい母親になろう。

「ジャネ……そのやけど……いたい? ごめん……なさい」
「大丈夫。すぐに治るわ。それよりアベラール様は、湯浴みをして新しいお洋服に着替えて、さっぱりしましょうね。これからは私がお世話をしてあげるわ。お部屋も掃除させなくてはね」
「ほんとうに……? いっしょにいてくれるの?」
 嬉しそうに抱きつくアベラールを、私はギュッと抱きしめた。子供のぬくもりって、なんてあたたかいんだろう。

 妹や弟の面倒を見ていた頃を思い出す。エッジ男爵家の侍女は一人だけ、メイドもひとりだった。私たちはなるべく自分のことは自分でするように育てられた。けっしてお金に困っていたというわけではなくて、領民に寄り添った暮らしということを心がける、というのがエッジ男爵家の家訓だったから。

 私はアベラールの湯浴みを侍女に混じって手伝い、清潔な衣服に着替えさせると、思いっきり明るい声で声をかけた。

「さて、これからなにをしましょうか? 早速、一緒に遊びましょう!」
「だったら、あの……ぼく、おきにいりのえほんがあるの。いっしょに……えほん……よんでくれる?」
「もちろんよ!」
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

愛人令嬢のはずが、堅物宰相閣下の偽恋人になりまして

依廼 あんこ
恋愛
昔から『愛人顔』であることを理由に不名誉な噂を流され、陰口を言われてきた伯爵令嬢・イリス。実際は恋愛経験なんて皆無のイリスなのに、根も葉もない愛人の噂は大きくなって社交界に広まるばかり。 ついには女嫌いで堅物と噂の若き宰相・ブルーノから呼び出しを受け、風紀の乱れを指摘されてしまう。幸いイリスの愛人の噂と真相が異なることをすぐに見抜くブルーノだったが、なぜか『期間限定の恋人役』を提案されることに。 ブルーノの提案を受けたことで意外にも穏やかな日々を送れるようになったイリスだったが、ある日突然『イリスが王太子殿下を誘った』とのスキャンダルが立ってしまい――!? * カクヨム・小説家になろうにも投稿しています。 * 第一部完結。今後、第二部以降も執筆予定です。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

処理中です...