【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました

香坂 凛音

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27 俺の家族は俺が守る・公爵視点

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 静まり返る場内で、ゆっくりと進み出たのはステイプルドン国王だった。深紅に金糸を織り交ぜた正装に身を包み、胸元には王家の紋章が輝いていた。

 ジャネットは優雅にカーテシーをした。国王は、まっすぐジャネットを見ている。

「アベラールの一件、王妃の妹が引き起こした誘拐事件は、まことに遺憾であった。これよりは、王家としても、ジャネットをキーリー公爵家の正統なる公爵夫人と認め、支援を惜しまぬものとする」

「ありがたき御言葉、恐れ入ります。……未熟な身ではございますが、家族と民のために、誠心誠意努めてまいります」
 ジャネットは丁寧に国王の言葉に応じており、国王は満足げにうなずいたが、俺は少しばかり呆れていた。キーリー公爵家は元より王家の血筋であり、形式上は臣下の礼をとっているものの、財力や影響力においては王家と引けを取らない。

 ジャネットを王家が正統な妻と認めようが認めまいが、俺がめとった女性はキーリー公爵夫人だろう? 
 尊大な言い方にはかなりの違和感があった。もとより王家の支援など、いまだかつて受けたこともないのだが。
 嫌な予感しかしない……と思っていたら、やはりそれは的中した。国王はあろうことか、アベラールのことにまで口を挟んできたのだ。

「キーリー公爵夫人。アベラールを王家に預けよ。魔力暴走を頻繁に起こすそうではないか? 噂は女官たちからも聞いておるぞ。此度のこともある。王妃の妹、バルバラだけでなく、誘拐しようとする者はこれからも出てくるだろう。王家で守っていれば、誰も手を出せまい。強すぎる魔力量を持つ子供は、王家の庇護ひごの下で暮らした方が幸せというもの」

「はい? 恐れながら、アベラールの幸せは私たちといることですわ。あの子は“問題児”ではありませんし、支配されるべき“道具”でもありません。庇護の下、いったいあの子をどうするおつもりなんですか!」
 ジャネットは俺の言いたいことを言ってくれた。国王を前にしても少しもひるんだ様子はない。

 そうさ。俺の息子に、“庇護ひご”なんていらん。
 俺とジャネットがいればそれでいい。
 誰のものにもさせるものか。

「控えよ。誰に申しておる? 国王である余の申し出を断る気か……?」
 
 俺の妻を脅す気か? ふざけるな!

「あぁ、真っ向から断るとも。なぜ俺がそんな理不尽な申し出を受けねばならん? 二年も経つと忘れるのか? 誰がカルバリン王国の脅威を退けたと思っている? 四万の敵を俺ひとりで蹴散らしたことを、もう一度思い出させてやってもいいがな?」
 俺は国王に向かって、てのひらで炎玉をもてあそびながら低い声で言い放つ。

 王妃はさっと顔を青ざめさせ、しきりにお詫びの言葉を口にした。国王は冷や汗たらたらで、固まったように身じろぎもしない。

 俺がなおもてのひらで炎玉を少しずつ大きくしながらにじり寄った瞬間――会場の空気が張り詰めた。誰も言葉を発せず、音楽も止まり、シャンパンを飲む手さえ止まった。俺の脳裏にはただ一つ。

 アベラールを“王家の道具”として差し出すなど、あり得ない。
 そしてそんな理不尽なことを言い出す国王なら、俺はそいつを王とは呼ばん。

 次の瞬間、王妃が一歩前に出た。声には緊張がにじんでいたが、それでも毅然としていた。

「陛下、お取り消しください。……今宵は、お二人に私が謝罪するために設けた集まりでございます。これ以上は、本日出席している方々に、不安を与えることになります」

 国王が口を開きかけたが、王妃はその前に、深々と頭を下げた。

「本当に、申し訳ありませんでした。アベラール卿を王家が引き取るなど、私は少しも考えておりませんのよ」

 王妃の声で、空気がわずかに緩む。
 その時だった。

「……さすがはキーリー公爵閣下だ。国王の申し出を一刀両断、切り捨てた。我が国が誇る騎士団長の活躍を忘れるなんて陛下は正気か?」
「奥方も、なんというか……立派なお方だな。即座に反論なさった」
「アベラール卿のこと、大切にしていらっしゃるのが心底伝わってきましたわ」

 ぽつり、ぽつりと、周囲から声があがり始めた。
 最初は小さなささやきだったが、やがてそれは公然とした評価と称賛に変わっていった。そして国王への非難の声が膨れ上がる。それに焦ったのか国王が慌てて言い訳を言い出した。

「いや……ほんの冗談だったのだ。魔力量があまりにも強いと聞いたのでな、夫人が困っておられるのではと……余なりに助け舟のつもりで……それが、まさかこのように誤解されようとは。それに……皇后もな、あの子がバルバラに似ていると申していたゆえ……親しみを込めて言ったまでだ。……悪意など、断じてない。ほんの、ほんの親心だとも! それに、前妻に似た子供など邪魔かと思ってな……」
 
 俺はジャネットの手を握った。国王の無神経な言葉に、怒りで身体を震わせていたからだ。俺も、もちろん腹が立って仕方がない。
 
「ジャネット、大丈夫だ。……何があっても、俺の家族は、俺が守るさ。……親心? 陛下はいつからアベラールの親になったんだ?  あの子の父は俺だぞ。こんなことを言ってはなんだが、そろそろ王太子殿下に譲位したほうがいいだろう。でないと、俺は騎士団長をやめ、他の国に移住するかもしれん」

「……うむ、余は少々疲れた。王妃、あとは任せるぞ……」
 国王は俺が脅すと、頭痛がすると言いだし、その場からそそくさと立ち去った。都合が悪いとどこかが痛くなる、ずいぶんと便利な身体だな。いつものことながら、俺は呆れてため息をついた。
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