アンドレイド妃

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その8

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「これまでの報告では、アンドレイド派生計画は予定どおり進展している。CAもキャバ嬢も女スパイも彼女は完璧に役柄を熟した。もう滞留許可を更新してもいいのではないかね」
「言及可能性の限界を見極めなくては、25日線周縁部に停滞するこの深い霧から脱出することはできないと思われますが」
 副部長は部長の意に添えない状況に追い込まれるといつも悲しそうな目をする。その翳りを帯びた潤いが部長の何かに火を付けるのだった。

「君、今晩の予定は?」
「いえ、特にアポは入れておりませんので」
 すこしためらいがちに口籠るその控えめさが最大の特性だとは十分に理解しているつもりだったが。
「じゃあ食事にでも行くか」
 断られるはずもないのになぜか答えを待つ僅かな時間が彼を異様に緊張させる。

「どうやら叛乱は収束期を迎えそうだね。この程度の損害は想定内ということで幹部の理解も得られ易いだろう。ご苦労だった」
 部長は副部長の肩を抱くようにそっと右手を置いた。
「この功績はすべて部長の権限によるものですわ」
 副部長は膝を崩しながらすこし上目遣いになった。
「彼らは、元来が、出アフリカ古層A型特有の片言混じりの便宜的な文法と独特の音韻体系で辺境の地にしがみつくようにして生き延びて来たのだから、そのような特性からして、これ以上のことを期待することはできないだろうね」
 最初発のディアスポラ、仮置きの楽園から追放され、迫害を受ける毎に分裂を繰り返し、十一の部族に分かれ、世界中の荒野をさまよう、不可解な孤立言語を操り、原始的な心性を保持したまま……
 副部長の時折異様に光る眼球を見ながら、彼はこの停滞する状況を何とか回避しようと努めた。書かれるべきは出アフリカ記ではなかったか。彼の脳裏を鋭く抉るものが走った、痛。

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