アンドレイド妃

その９

　　　　６　逆流性地下街

「さて、諸君、諸子、諸男、諸女の皆さん」

　アンドレイドの妻が見る夢は一体何者かしら。
　独居する老親の呪いを解除する夢枕、断片的な夢に宿る貝のふたみか。
　それともアンドレイドの妻の卵か。アンドレイドの卵の妻だったか。
　否、共生収容所に連行された難民のなけなしのいたましい朝食の準備、こつこつと骨を煮ころがす音がして。

　見えない断片がぽろぽろと交錯し、やがて否応もなく古びた地階の断層となる。

　千余り二夜目の問わず語りは、胸の熱くなるもの、所謂逆流性、炎症系のそれだった。


 
「ドレイドとは」
　かく自問自答するは俺の特殊管理する奴婢君である。彼らは自らをドレイドと称する。
　このＱ＆Ａ、宇宙の終わりまで続くものと観念されよ。

「身分でも階級でもない。それは「シンキュウ」です」
「幻想の対話式です。離宮鼠から、天竺まで遡る」
「恩寵である。否、ほつほつたる発情器である」
「召命である。然り、ほうほうほーの咆哮の態である」

　呼びかけと言葉にならない応答が、これからしばらく続きます。なにとぞご容赦の程を。
　召される命と命ずるメイド≒めしうどとめのととのさ迷う命の手綱と香りたつ祈りが華やかなフレーバーに包まれた浦の苫屋に御一名様ご案内。
「これはアポリア、無理難題ですから」
「あるひは、あぶじぇくしぉんのたぐひ」
「げぼげぴ」

　年端もいかぬ若きドレイドたちを下着同然に踊らせ、投票券がわりに歌唱記録音源盤何十枚と買わせ、使用価値を換骨奪胎し、選挙と称し演説の類い真似事などさせ、泣く、喚く、おめく、どつく、ゆする、たかる、どやす。

「健康のため生きてきましただけですわいの」長者型プロデュサーの白毛翁（わしのことか）は、平然と宣う。わははは。
　アンドレイド、常なる未知との接遇、乖離性ドレイドの苦悶は続く。